爆弾拾いがついた嘘

生津直

文字の大きさ
上 下
54 / 118
第2章 修練の時

52 実務見学

しおりを挟む
 一希の中級受験を前に、新藤は約束通り一希サイズの作業服を三着特注した。一希はもちろん自分でサイズを詰めた最初の一着には特別愛着があるが、いざ補助士になったらさすがに一着では足りなくなる。

 制限時間との闘いは当初難航した。しかし、一希の作業時間は徐々にではなく、ある時から一気に縮まった。

 動作のステップを減らしてみろという新藤のアドバイスに従い、全てを一発で決められるようになりつつあった頃のことだ。無駄が減ったお陰で全体を見渡せるようになったせいかコツがつかめたらしい。終始緊張しっぱなしだったのが、肝心なところを慎重に進め、それ以外の部分では力を抜けるようになった。

 初めて十五分を切ってからは、二度と制限時間をオーバーすることはなかった。



 古峨江こがえの桜が満開に咲き誇る頃、新藤の留守中に簡易書留で届いた合格通知を、一希はしみじみと何度も読み返した。

 市内の大学で行われた中級補助士試験で、一希のオルダ解体は試験官たちの称賛を浴びた。「さすがに手際がいいな」、「なんせ新藤君の直伝じきでんですからねえ」と彼らがしきりにうなずき合う様は、一希にちょっとした優越感を味わわせた。

 ところが、一希から合格通知を見せられた当の新藤は、おめでとうでもなければお疲れ様でもなく、「よし」の一言。褒めてもらえるかと思っていた一希は少しがっかりした。

 ただし、世間からはそれなりに注目を浴び、女性初の補助士、しかも飛び級ということで、一希は地元紙の取材を受けた。

 その記事を見たのだろう。一希から連絡する前に、平岡がおめでとうと電話してきた。その電話でふと思い当たり、一希は技術訓練校の土橋にも報告を入れた。埜岩のいわ基地にも一応挨拶を、と思ったところで、作業服姿の新藤が通りかかった。

「ロプタが来てる。今からやっつけるところだが、見るか?」

「えっ、いいんですか?」

「法的にはもう何も問題ないだろ。何のために中級補助士になったんだ?」

「あ、ありがとうございます。すぐ着替えてきます!」

 一希が作業服姿で処理室に入ると、新藤はまず一希に防爆衣を着せ、自分は壁に吊られた防爆衣の中に入っていく。一希もいずれはこの着用法を習得しなければならない。

「どこにいても構わんぞ」

「あ、はい」

 それぞれヘルメットを着け、うなずき合う。防爆ヘルメットは防音設計のため、話し声や小さな物音はほとんど聞こえなくなる。

 新藤は何の躊躇ちゅうちょもない様子で、解体の実演を始めた。

(は、速っ……)

 決して急いでいるようには見えないのに、その動きには見事に無駄がない。工具の持ち換えも最小限。一希に教えた手順はあくまで基本形であり、新藤には自己流が存在するらしい。経験と勘の賜物たまものだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...