爆弾拾いがついた嘘

生津直

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第2章 修練の時

52 実務見学

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 一希の中級受験を前に、新藤は約束通り一希サイズの作業服を三着特注した。一希はもちろん自分でサイズを詰めた最初の一着には特別愛着があるが、いざ補助士になったらさすがに一着では足りなくなる。

 制限時間との闘いは当初難航した。しかし、一希の作業時間は徐々にではなく、ある時から一気に縮まった。

 動作のステップを減らしてみろという新藤のアドバイスに従い、全てを一発で決められるようになりつつあった頃のことだ。無駄が減ったお陰で全体を見渡せるようになったせいかコツがつかめたらしい。終始緊張しっぱなしだったのが、肝心なところを慎重に進め、それ以外の部分では力を抜けるようになった。

 初めて十五分を切ってからは、二度と制限時間をオーバーすることはなかった。



 古峨江こがえの桜が満開に咲き誇る頃、新藤の留守中に簡易書留で届いた合格通知を、一希はしみじみと何度も読み返した。

 市内の大学で行われた中級補助士試験で、一希のオルダ解体は試験官たちの称賛を浴びた。「さすがに手際がいいな」、「なんせ新藤君の直伝じきでんですからねえ」と彼らがしきりにうなずき合う様は、一希にちょっとした優越感を味わわせた。

 ところが、一希から合格通知を見せられた当の新藤は、おめでとうでもなければお疲れ様でもなく、「よし」の一言。褒めてもらえるかと思っていた一希は少しがっかりした。

 ただし、世間からはそれなりに注目を浴び、女性初の補助士、しかも飛び級ということで、一希は地元紙の取材を受けた。

 その記事を見たのだろう。一希から連絡する前に、平岡がおめでとうと電話してきた。その電話でふと思い当たり、一希は技術訓練校の土橋にも報告を入れた。埜岩のいわ基地にも一応挨拶を、と思ったところで、作業服姿の新藤が通りかかった。

「ロプタが来てる。今からやっつけるところだが、見るか?」

「えっ、いいんですか?」

「法的にはもう何も問題ないだろ。何のために中級補助士になったんだ?」

「あ、ありがとうございます。すぐ着替えてきます!」

 一希が作業服姿で処理室に入ると、新藤はまず一希に防爆衣を着せ、自分は壁に吊られた防爆衣の中に入っていく。一希もいずれはこの着用法を習得しなければならない。

「どこにいても構わんぞ」

「あ、はい」

 それぞれヘルメットを着け、うなずき合う。防爆ヘルメットは防音設計のため、話し声や小さな物音はほとんど聞こえなくなる。

 新藤は何の躊躇ちゅうちょもない様子で、解体の実演を始めた。

(は、速っ……)

 決して急いでいるようには見えないのに、その動きには見事に無駄がない。工具の持ち換えも最小限。一希に教えた手順はあくまで基本形であり、新藤には自己流が存在するらしい。経験と勘の賜物たまものだろう。
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