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第2章 修練の時
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しかし、実技試験の制限時間の壁を果たして超えられるのだろうか。
「何だ?」
不安が顔に出ていたらしい。
「制限時間が心配で……もともとテキパキやるってこと自体が苦手なんですよね」
「料理があれだけできるのに、か?」
「あ、お料理は……間違えてもどうにでもなるっていうか、後から直しも利くじゃないですか。でも、爆弾はちょっとしたはずみで爆発するかもしれないと思ったら緊張もしますし、あれ、これでいいんだっけ、って思ってしまうと、そこからぐるぐるいろいろと考えてしまって……あ、でも、いわゆる呑み込みも悪いので、緊張とは関係ないかもしれないですね」
「なるほどな。呑み込みは悪いとは言わんが、人より時間がかかるのは確かだろう。しかし遠回りしてでも一度呑み込んだら忘れないってのは一つの価値だ。入ってこないものを入ったことにして先を急げばそれこそ何も身にならん。そこはお前流で地道にやればいい」
(私流で地道に……)
思い起こせば、納得がいくまで突き詰める一希流を初めて認めてくれたのが新藤だった。この根源的な一希らしさを否定されなかったことは、実際、複雑な技能のスムーズな習得に大きく寄与していた。
「ただし、すでに呑み込んだものを実践する時のスピードは鍛える必要がある。実技試験での制限時間が一つの理由だが、実際の現場でも時間が永久に与えられてるわけじゃないからな。通行止めや住民避難の時間が決まってたり、天気が変わらんうちに済ませなきゃならんとか、やたら数の多いオルダを短い納期でやっつけないと金にならんとか」
「なるほど……」
実務に付随するこういった雑多な情報が得られるのも、師匠が現役のベテラン処理士だからこそだ。
「といっても、手先だけ速くなればいいってもんじゃない。条件反射で体が動くのはいいことのように思えるかもしれんが、下手をすれば命取りにもなる。作業中に何らかの事情でスローダウンを強いられたり、何か突発的な事態が発生してペースが崩れた時、普段の行動を反射に頼ってる奴は立ち往生する。だから理屈をよくよく理解して、頭の中で確認しながら速やかに進めていくのが一番強い」
「はい」
「そのためにはしっかり呑み込んだ確実な知識の分量を今の何百倍にも増やす必要がある。それと同時に、現時点で納得できてる部分の瞬発力を高める努力をしろ」
(納得できている部分の瞬発力……)
一希は言われていることを理解しようと、早速いつもの噛み砕きモードに入っていた。
「説明するよりやってみた方が早いな」
新藤は壁の棚からプラスチックの箱を持ってきた。
「まずは基本からだ」
大机に上げられた箱には、解体済みを再度組み立てた不活性のストロッカと工具が入っている。新藤は処理室に入り、防爆衣を引きずりながら戻ってきた。
「解体をやってみろ。とりあえず時間制限はなしだ。その代わり失敗は一切許さん。自分のペースでいいから、いつも通り確実に仕上げろ」
オルダの解体に限らず、練習は何でも本番だと思ってやれと新藤に言われ続けてきた。新藤自身も、模擬的な作業を一希に見せる時には、触っているものが不活性だろうと模型だろうと本物の爆弾として扱っていた。
一希は、いつも通り新藤の助けを借りて防爆衣を身に着ける。上衣、靴と一体になった下衣、そしてヘルメットの三点セット。オルダ専用に作られたものなので、犯罪に使われるような殺傷能力の高い爆弾を想定した防爆衣よりは大幅に軽いが、それでも合計重量は十キロを超える。
この重さと分厚さのため、一人で着るのは一希には難しいが、処理室内では壁に吊るしたまま袖を通せば十分一人で着られる作りになっているという。
これを着ていたからといって、爆発が起きても平気というわけではない。両手首から先は薄手の作業用手袋のみだから手指を失う可能性は非常に高いし、防爆衣の中とて無傷で済むことはまずないだろう。実際、オルダの破片が防爆衣を貫通した例は決して珍しくない。
ちなみに、屋外で安全化するような大型爆弾の場合は、こんなものを着ていたところで大した役には立たないため、作業服のみだ。
「何だ?」
不安が顔に出ていたらしい。
「制限時間が心配で……もともとテキパキやるってこと自体が苦手なんですよね」
「料理があれだけできるのに、か?」
「あ、お料理は……間違えてもどうにでもなるっていうか、後から直しも利くじゃないですか。でも、爆弾はちょっとしたはずみで爆発するかもしれないと思ったら緊張もしますし、あれ、これでいいんだっけ、って思ってしまうと、そこからぐるぐるいろいろと考えてしまって……あ、でも、いわゆる呑み込みも悪いので、緊張とは関係ないかもしれないですね」
「なるほどな。呑み込みは悪いとは言わんが、人より時間がかかるのは確かだろう。しかし遠回りしてでも一度呑み込んだら忘れないってのは一つの価値だ。入ってこないものを入ったことにして先を急げばそれこそ何も身にならん。そこはお前流で地道にやればいい」
(私流で地道に……)
思い起こせば、納得がいくまで突き詰める一希流を初めて認めてくれたのが新藤だった。この根源的な一希らしさを否定されなかったことは、実際、複雑な技能のスムーズな習得に大きく寄与していた。
「ただし、すでに呑み込んだものを実践する時のスピードは鍛える必要がある。実技試験での制限時間が一つの理由だが、実際の現場でも時間が永久に与えられてるわけじゃないからな。通行止めや住民避難の時間が決まってたり、天気が変わらんうちに済ませなきゃならんとか、やたら数の多いオルダを短い納期でやっつけないと金にならんとか」
「なるほど……」
実務に付随するこういった雑多な情報が得られるのも、師匠が現役のベテラン処理士だからこそだ。
「といっても、手先だけ速くなればいいってもんじゃない。条件反射で体が動くのはいいことのように思えるかもしれんが、下手をすれば命取りにもなる。作業中に何らかの事情でスローダウンを強いられたり、何か突発的な事態が発生してペースが崩れた時、普段の行動を反射に頼ってる奴は立ち往生する。だから理屈をよくよく理解して、頭の中で確認しながら速やかに進めていくのが一番強い」
「はい」
「そのためにはしっかり呑み込んだ確実な知識の分量を今の何百倍にも増やす必要がある。それと同時に、現時点で納得できてる部分の瞬発力を高める努力をしろ」
(納得できている部分の瞬発力……)
一希は言われていることを理解しようと、早速いつもの噛み砕きモードに入っていた。
「説明するよりやってみた方が早いな」
新藤は壁の棚からプラスチックの箱を持ってきた。
「まずは基本からだ」
大机に上げられた箱には、解体済みを再度組み立てた不活性のストロッカと工具が入っている。新藤は処理室に入り、防爆衣を引きずりながら戻ってきた。
「解体をやってみろ。とりあえず時間制限はなしだ。その代わり失敗は一切許さん。自分のペースでいいから、いつも通り確実に仕上げろ」
オルダの解体に限らず、練習は何でも本番だと思ってやれと新藤に言われ続けてきた。新藤自身も、模擬的な作業を一希に見せる時には、触っているものが不活性だろうと模型だろうと本物の爆弾として扱っていた。
一希は、いつも通り新藤の助けを借りて防爆衣を身に着ける。上衣、靴と一体になった下衣、そしてヘルメットの三点セット。オルダ専用に作られたものなので、犯罪に使われるような殺傷能力の高い爆弾を想定した防爆衣よりは大幅に軽いが、それでも合計重量は十キロを超える。
この重さと分厚さのため、一人で着るのは一希には難しいが、処理室内では壁に吊るしたまま袖を通せば十分一人で着られる作りになっているという。
これを着ていたからといって、爆発が起きても平気というわけではない。両手首から先は薄手の作業用手袋のみだから手指を失う可能性は非常に高いし、防爆衣の中とて無傷で済むことはまずないだろう。実際、オルダの破片が防爆衣を貫通した例は決して珍しくない。
ちなみに、屋外で安全化するような大型爆弾の場合は、こんなものを着ていたところで大した役には立たないため、作業服のみだ。
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