爆弾拾いがついた嘘

生津直

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第2章 修練の時

29 教本

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「ところで、学校の教本はまだ持ってるか?」

「はい」

「ちょっと持ってこい」

 教本を持ってきて渡すと、新藤はそれをぱらぱらとめくった。一希は何を言われるのかと気が気でない。なぜなら、どのページにも一希のごく素朴な疑問が素朴なるままに書き込んであるからだ。

 新藤がふと、ページをる手を止めた。

「ん? お前が中退前に習ったのは第三章の途中までじゃなかったか?」

 なぜそれを、と尋ねかけて気付く。担当教官だった土橋に電話した時に聞いたのだろう。

「はい、そうです」

「その後のページにも延々と書き込みがあるようだが」

 その通り。書き込みは最後までほぼ全ページにあるはずだ。入学したばかりの訓練学生から見て、不可解な点や不十分な点は尽きなかった。

 当然ながら、人様に見せるつもりで書いたものではない。「○ページと矛盾」、「○○とは違うの?」、といった具合の、何一つよそ行きでないメモ。ときには筆跡に苛立ちが表れていることもあるかもしれない。

「自分で読んでみて……感じたことを一応書き留めておいたんです」

 再びページをめくり始めた新藤を上目遣いに見やり、反応を窺う。

「その心がけは立派だな」

(え? 今、褒められた?)

「ただし、これを全部質問されたんじゃ、二十人から相手にしてる教官にはこくだ」

「はい……」

「これちょっと借りていいか?」

「えっ?」

「お前の思考回路が知りたい。嫌なら無理にとは言わん。俺もプライバシーは尊重したいからな」

「い、いえ……あの、はい、どうぞお持ちください。よろしくお願いします」

「これを奪われたら暇が潰れなくて困るというなら、代わりにこれを読んでおけ」

 渡されたのは、どっしりとした装丁の専門書らしき本。

「過去の事故例と、現場が取った対応、本来どうすべきだったかの考察だ」

 表紙には「不発弾処理にかかる事故筆録」とある。下の方に、執筆者、編集者一人ずつと、監修者三人の名。普段この手の個人名を気にすることはあまりないが、何かが一希の目に留まった。よく見ると、監修者欄に新藤の名がある。

「あ、これ、先生が……?」

「ひと通り書き上がったものを見てあれこれケチを付けただけだがな。それでも小遣こづかい程度にはなった」

 なるほど。新藤ほどのレベルになれば、そういう仕事もあるのだ。

「ありがとうございます。読ませていただきます」

「それから、資料だとか参考書、技術書とか、勉強のために欲しいものがある時は勝手に買うな。まず俺に言え。金は出してやる」

「ありがとうございます。あの、早速なんですけど、実は教本の他に副読本というのがあって、私が辞めた後に配られたはずなので近々買おうかと思ってたんです」

「副読本?」

「『よくわかる安全化』っていう……」

「ああ、聞いたことあるな。探しといてやる」

「ありがとうございます!」

 本当はクラスメイトがどこまで学習を進めているのかと気になって仕方がない。教本も一希が持っているのは今新藤に預けた一冊だけだが、皆はもう二冊目に入っている頃だ。
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