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第1章 弟子入り
14 テスト
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それから何度か、一希は指定された日時に新藤宅を訪れ、言われるまま勤勉に雑用をこなし、その合間に隙を見ては新藤を質問攻めにした。
新藤が忙しい時は、彼が道具をいじり書類に向かう姿を見るだけでも「処理士の仕事」のイメージが湧いて心が浮き立った。
そんなある日。
「お前、生活はどうしてる?」
「生活……」
「親はいないんだろ。どうやって食ってんだ? アルバイトでもしてんのか?」
「あ、はい、平日の朝に公民館のお掃除を手伝ってまして、週三回は授業が終わってから工場の食堂でお給仕を……と言ってもお給料は微々たるものですけど」
「そんなんで早川の学費が出せるもんなのか?」
「あ、学費はですね、奨学金と、親の遺した貯金で何とか」
「家は?」
「学校の寮です」
「なるほど。明日は暇か?」
「はい」
「朝十時にまた来い」
「はい! ありがとうございます!」
ブザーを鳴らしはするが、一希が来る時間には玄関の鉄扉が開け放たれているのが常となっていた。が、今日は入った瞬間、目の前の光景に目を見張った。
ソファーが脇へよけられ、空いた空間に、直径五十センチ、長さ二メートルほどの鉄の塊のようなものが鎮座していた。古峨江では幼稚園児でもこれが何だか答えられるし、その危険性を教え込まれている。
「あの、これ……」
「心配いらん。模型だ」
「一トン、ですか?」
「一応そういうつもりではある」
スム族が投下したデトンの模型。確かに目が慣れればはりぼてであることは見て取れた。これなら重さも大したことはない。
しかし、信管などの可動部はなかなかリアルに再現されているようで、学校で使われているちゃちな模型とは似ても似つかなかった。
この実物大の模型を中心とし、綿か何かが詰まった枕ほどの大きさの白い布袋が円状に配置されている。土嚢に見立てているのだろう。
「土嚢の高さは実際には三メートル。このデトンは信管に問題があって遠隔抜きになるという設定だ」
(遠隔抜き……)
安全化のためには信管を抜く必要があるが、信管が特別長くて重い場合などは途中で少しでも傾くと中で引っかかって抜けなくなる。その場合は危険回避のため、直接手で行う代わりに仕掛けを使って離れた場所からこれを行うことがある。そのことは一希も知っていた。
「遠隔設定をやってみろ」
「え? あ、私が、ですか?」
「他に誰がいるんだ」
「あ、すみません……」
やってみろと簡単に言うが、そういう手法が存在するという知識がかろうじてあるだけで、まだ学校では具体的に計算法や設定法を習ったわけではない。いつもの雑用のつもりで来た一希は、思いがけぬ展開にごくりと唾を飲む。
(これ、テストなんだ。新藤さんの……)
助手になりたいならまずこれをやってみろと、チャンスを与えてくれているのだ。
「見ての通り、危険性はない。ただし、全てが本物で活性状態だという前提で作業しろ」
「はい」
つまり、ちょっとした衝撃で爆発しうると想定しなければならない。
新藤が忙しい時は、彼が道具をいじり書類に向かう姿を見るだけでも「処理士の仕事」のイメージが湧いて心が浮き立った。
そんなある日。
「お前、生活はどうしてる?」
「生活……」
「親はいないんだろ。どうやって食ってんだ? アルバイトでもしてんのか?」
「あ、はい、平日の朝に公民館のお掃除を手伝ってまして、週三回は授業が終わってから工場の食堂でお給仕を……と言ってもお給料は微々たるものですけど」
「そんなんで早川の学費が出せるもんなのか?」
「あ、学費はですね、奨学金と、親の遺した貯金で何とか」
「家は?」
「学校の寮です」
「なるほど。明日は暇か?」
「はい」
「朝十時にまた来い」
「はい! ありがとうございます!」
ブザーを鳴らしはするが、一希が来る時間には玄関の鉄扉が開け放たれているのが常となっていた。が、今日は入った瞬間、目の前の光景に目を見張った。
ソファーが脇へよけられ、空いた空間に、直径五十センチ、長さ二メートルほどの鉄の塊のようなものが鎮座していた。古峨江では幼稚園児でもこれが何だか答えられるし、その危険性を教え込まれている。
「あの、これ……」
「心配いらん。模型だ」
「一トン、ですか?」
「一応そういうつもりではある」
スム族が投下したデトンの模型。確かに目が慣れればはりぼてであることは見て取れた。これなら重さも大したことはない。
しかし、信管などの可動部はなかなかリアルに再現されているようで、学校で使われているちゃちな模型とは似ても似つかなかった。
この実物大の模型を中心とし、綿か何かが詰まった枕ほどの大きさの白い布袋が円状に配置されている。土嚢に見立てているのだろう。
「土嚢の高さは実際には三メートル。このデトンは信管に問題があって遠隔抜きになるという設定だ」
(遠隔抜き……)
安全化のためには信管を抜く必要があるが、信管が特別長くて重い場合などは途中で少しでも傾くと中で引っかかって抜けなくなる。その場合は危険回避のため、直接手で行う代わりに仕掛けを使って離れた場所からこれを行うことがある。そのことは一希も知っていた。
「遠隔設定をやってみろ」
「え? あ、私が、ですか?」
「他に誰がいるんだ」
「あ、すみません……」
やってみろと簡単に言うが、そういう手法が存在するという知識がかろうじてあるだけで、まだ学校では具体的に計算法や設定法を習ったわけではない。いつもの雑用のつもりで来た一希は、思いがけぬ展開にごくりと唾を飲む。
(これ、テストなんだ。新藤さんの……)
助手になりたいならまずこれをやってみろと、チャンスを与えてくれているのだ。
「見ての通り、危険性はない。ただし、全てが本物で活性状態だという前提で作業しろ」
「はい」
つまり、ちょっとした衝撃で爆発しうると想定しなければならない。
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