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第1章 弟子入り
13 志望動機
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新藤がふと思い出したように言う。
「人類といえば、お前の履歴書にびっしり書いてあった作文だが」
「あ、志望動機……」
かろうじて受け取ってもらえたことすら忘れかけていた。
「読んでくださったんですか? ありがとうございます!」
「人類の罪を償う?」
「あ、あれはですね……」
補助士になりたい理由を正直に述べたものだ。「人類が殺し合いのための恐ろしい道具を生み出し、それがこんなにも長い間この世にあり続けていることに対して、人類の一員として罪の意識を感じます。その根絶を目指すことが償いになると思えば、自分一人の命は決して惜しくありません」。
何度も書き直し、読み直してすっかり暗記してしまっている。養成学校の入試で書いたほぼ同じ内容の作文は、随分大きく出たなと職員室に笑いを提供したことを後で聞かされた。埜岩基地の軍員たちには一体何様のつもりかと眉をひそめられた文面でもあった。
いざ、憧れの一流処理士を前に、慎重に言葉を選んで説明を試みる。
「つまり……殺戮兵器を作った人たちを恨むばかりじゃ生産性がないと思うんです。同じ人類の誰かが犯した間違いを、その一員として直していきたいっていうか……それに、もしかしたら……どこかでどうにか間違えれば、私自身だったかも、って」
「ん?」
「爆弾やミサイルを生み出したのが、です。私だって、何か許せないことがあって人を強く憎んで、条件がいろいろ揃ってしまったら、作る側の人間にならないとも言い切れないなって……。そういう意味では、私も含めて人類みんなの罪だっていう気がするんです。だからその処理に携わることは、善行というよりは……スタートラインがゼロじゃなくてマイナスで、そこからちょっとずつちょっとずつゼロに戻していく過程だと思うんです。すみません、なんかわけわかんないですよね。私、話が遠いってよく言われるんで」
顎を撫でながら聞いていた新藤はその手を止め、わずかに目を細めて言った。
「そのスタートがマイナスなのが、まるで自分のせいのような気がする、と?」
一希は返答に詰まった。この展開はまずい。一希自身が隠れスム族なのかと疑われかねない。
「いえ、私のせい、ではないかもしれませんけど、彼らにもそれなりの理由があったと思うんです。戦争が全部両成敗だとは言いませんけど、そもそもの本当のきっかけはきっと、誰でもうっかり取りかねないような行動とか、抱いてしまいがちな感情だったりして、決して当事者だけを責めて済む問題じゃないんじゃないかって。だから、私自身の後始末っていうか……」
取りとめのない一希節に陥り、口をつぐむ。代わりに新藤が口を開いた。
「一つ言っておくが、家族がいないから死んでも構わんと思うのは大間違いだぞ」
「あ、まあ確かに……」
「絶対に死ねないと思ってる人間ほど安全に気を配るものだ。違うか?」
「そう……ですね。はい。すみません」
一希は素直に頭を下げる。
「冴島」
「はいっ!」
唐突に名を呼ばれて一希は身を固くしたが、新藤の声色は思いがけず穏やかだった。
「一日も早く、死ねない理由を作れ。処理士の道を行く上で、決して無駄にはならん」
(死ねない理由……)
「はい。そのように努めます。ありがとうございます」
現時点で目指しているのはあくまで「補助士」なのだが、敢えて訂正するのも気が引けた。
その日、新藤は事前の予告通り一希に書類の作成や整理を手伝わせた。一希は胸を躍らせ、夢中でこの事務作業に取り組んだ。どんな些細な雑用でも、不発弾処理に関係があるというだけで魅力的であり、大きな意義が感じられる。しかも相手は業界の最高峰。歯がゆい思いで授業を聞かされているのとは充実感が桁違いだ。
「人類といえば、お前の履歴書にびっしり書いてあった作文だが」
「あ、志望動機……」
かろうじて受け取ってもらえたことすら忘れかけていた。
「読んでくださったんですか? ありがとうございます!」
「人類の罪を償う?」
「あ、あれはですね……」
補助士になりたい理由を正直に述べたものだ。「人類が殺し合いのための恐ろしい道具を生み出し、それがこんなにも長い間この世にあり続けていることに対して、人類の一員として罪の意識を感じます。その根絶を目指すことが償いになると思えば、自分一人の命は決して惜しくありません」。
何度も書き直し、読み直してすっかり暗記してしまっている。養成学校の入試で書いたほぼ同じ内容の作文は、随分大きく出たなと職員室に笑いを提供したことを後で聞かされた。埜岩基地の軍員たちには一体何様のつもりかと眉をひそめられた文面でもあった。
いざ、憧れの一流処理士を前に、慎重に言葉を選んで説明を試みる。
「つまり……殺戮兵器を作った人たちを恨むばかりじゃ生産性がないと思うんです。同じ人類の誰かが犯した間違いを、その一員として直していきたいっていうか……それに、もしかしたら……どこかでどうにか間違えれば、私自身だったかも、って」
「ん?」
「爆弾やミサイルを生み出したのが、です。私だって、何か許せないことがあって人を強く憎んで、条件がいろいろ揃ってしまったら、作る側の人間にならないとも言い切れないなって……。そういう意味では、私も含めて人類みんなの罪だっていう気がするんです。だからその処理に携わることは、善行というよりは……スタートラインがゼロじゃなくてマイナスで、そこからちょっとずつちょっとずつゼロに戻していく過程だと思うんです。すみません、なんかわけわかんないですよね。私、話が遠いってよく言われるんで」
顎を撫でながら聞いていた新藤はその手を止め、わずかに目を細めて言った。
「そのスタートがマイナスなのが、まるで自分のせいのような気がする、と?」
一希は返答に詰まった。この展開はまずい。一希自身が隠れスム族なのかと疑われかねない。
「いえ、私のせい、ではないかもしれませんけど、彼らにもそれなりの理由があったと思うんです。戦争が全部両成敗だとは言いませんけど、そもそもの本当のきっかけはきっと、誰でもうっかり取りかねないような行動とか、抱いてしまいがちな感情だったりして、決して当事者だけを責めて済む問題じゃないんじゃないかって。だから、私自身の後始末っていうか……」
取りとめのない一希節に陥り、口をつぐむ。代わりに新藤が口を開いた。
「一つ言っておくが、家族がいないから死んでも構わんと思うのは大間違いだぞ」
「あ、まあ確かに……」
「絶対に死ねないと思ってる人間ほど安全に気を配るものだ。違うか?」
「そう……ですね。はい。すみません」
一希は素直に頭を下げる。
「冴島」
「はいっ!」
唐突に名を呼ばれて一希は身を固くしたが、新藤の声色は思いがけず穏やかだった。
「一日も早く、死ねない理由を作れ。処理士の道を行く上で、決して無駄にはならん」
(死ねない理由……)
「はい。そのように努めます。ありがとうございます」
現時点で目指しているのはあくまで「補助士」なのだが、敢えて訂正するのも気が引けた。
その日、新藤は事前の予告通り一希に書類の作成や整理を手伝わせた。一希は胸を躍らせ、夢中でこの事務作業に取り組んだ。どんな些細な雑用でも、不発弾処理に関係があるというだけで魅力的であり、大きな意義が感じられる。しかも相手は業界の最高峰。歯がゆい思いで授業を聞かされているのとは充実感が桁違いだ。
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