君の思い出

生津直

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第3章 蜜月

69 職務

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 そのうちふと、千尋の頬を手の甲で擦りながら覗き込んできた。どこまで回復したかをはかろうとしている顔だ。

 浅葉は千尋に時間を許しながらも間近に寄り添ってその身を包み込み、冷める隙を与えなかった。千尋の髪を撫でていた手が首筋を這って鎖骨を覆うと、この上なく官能的なキスがそれに続いた。

 千尋が吸い寄せられるように浅葉の分身にそっと手を触れると、ぴくんと反応が返った。浅葉は、深く吸い込んだ息を千尋の耳元で吐き出しながら、太腿をゆっくりと手でしごき、瞬く間にその気を起こさせた。

 千尋は、自分の肉体的な限界を考えれば、ここから先は浅葉のための時間だとばかり思っていたが、内側は意外にもまだ手付かずの感度を保っていた。

 浅葉はいささか荒々しく突き上げながらも外を刺激せぬよう気を配り、きっちりとツボを押さえて千尋を再び登頂させた。しかも巧みにタイミングを合わせ、時同じくして自らもそつなく全うしていた。

 浅葉は夜通しでも求め続けてきそうな勢いだったが、千尋の「満腹感」を見て取り、ここらで手を打つことにしたようだ。千尋の隣にごろりと横になって伸びをする。

 千尋はそのまま眠りにつきかけたが、ふと思い出して言った。

「そういえば……」

「ん?」

「長尾さんは、気付いたのかな? 私たちのこと」

「ああ、あっちが先に気付いた」

「そっか。大丈夫?」

「まあ、いずれはわかることだし、誰かが知っててくれた方が何かと都合がいいこともあるからな。長尾でよかった。あいつは数少ない融通が利く人間だ」

「そう?」

 護衛の仕事はとっくに終わっているのだし、何も悪いことをしているわけではない。だが、仲良くホテル街を歩く意外な男女の組み合わせを長尾はどう受け取っただろうか。

 そこへ先ほどの光景を思い出し、ちょっとからかってやりたい気持ちが生まれた。

「まあ、長尾さんこそ、二人も連れ込んじゃって。なかなかイジりがいありますね」

 しかし浅葉の顔は笑っていなかった。少し伸びた顎の髭をしばらく撫で、やがて迷いを断ち切るように言った。

「あいつのは、仕事だ」

「えっ?」

 仕事で、一体どうして化粧の濃いミニスカートの女性を二人も連れてホテルに入り、今頃何が起きているというのだろう。

 以前浅葉が口にした、内偵ないてい捜査という言葉を思い出す。知らないふりをしてくれというのは、仮の姿でまさに捜査中の可能性があるからということか……。

 それっきり黙り込んでしまった千尋をそのまま放っておくような浅葉ではない。くるんと寝返りを打って向き直り、まっすぐに千尋の目を見つめた。

「大丈夫。あいつはそう簡単に取って食われやしないよ。このことはもう忘れろ」

 千尋はふうっと息をついた。その拍子にかしいだ頬を浅葉の掌がそっと受け止める。

「心配か? 俺もああいうことしてんじゃないかって」

 千尋はそんなことを問いただすつもりなど毛頭なかった。心配という感情とは違っていた。もし仕事でそういうことをしているとすれば、それは千尋ごときがどうこうできる問題ではない。だから考えたくなかった。黙って首を横に振った。

「何もセックスまでするわけじゃないよ。いろいろと規定もあるし、基本的には情報が欲しいだけだからさ」

 じゃあ、その手前まではするのね、とは聞けなかった。頭の中では、先ほど見た長尾の顔が浅葉の顔にすり替わっていた。
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