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第3章 蜜月
55 欲情
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五月十二日。ピンポーン、という呼び鈴に千尋ははっと目を覚ました。手を伸ばしてテーブルの上の携帯を開くと、午前二時。こんな時間に一体……。
千尋は電気を点けると、すぐさま番号をダイヤルして一一〇を表示させた。通話ボタンを押せばよいだけの状態にしておいて、足音を忍ばせ玄関に向かう。
息を潜めて覗き穴に片目を寄せると、向こう側ではひどく疲れた様子の浅葉が廊下の柵にもたれていた。慌ててドアを開ける。
「ちょっと、どしたの!?」
思わず裸足のまま駆け寄ろうとすると、浅葉は半ばもたれかかるようにして千尋を抱き締めた。その弾みでなだれ込むように部屋の中に押し戻される。どうも様子がおかしい。
「ねえ、大丈夫?」
浅葉は何も言わずにキスを求めた。千尋も拒絶するつもりなどなかったが、その勢いに負けて後ろに倒れそうになる。きゃっと声を上げた瞬間、浅葉の手が千尋の背中に追い付き、そのままゆっくりと、しかしどこか急いた様子で横たえた。
浅葉はフローリングの床に仰向けになった千尋を膝で跨ぎ、パジャマをめくり上げたかと思うと、いきなり乳首を吸った。千尋はただただ絶句していたが、体は既に熱く反応を返していた。
床に手をついて身を起こした浅葉の影の中で、呼吸を整えながらその顔を見上げる。一体何があったというのか。ろくに寝ていないように見えるが、盛りがついたような振る舞いはそれでは説明がつかない。事前に千尋の意思をきっちり確かめるいつもの浅葉とは明らかに違っていた。
ふとこちらを見てきゅっと目を閉じたその顔には、激しい罪悪感と、踏みとどまろうとする最後の葛藤が見て取れた。千尋はゴーサインのつもりで自ら上を脱ぎ捨て、浅葉の体を抱き寄せた。二人はあっという間に裸体を重ねていた。
浅葉は、そばに脱ぎ捨てたジーパンのポケットから取り出したそれを、自分で着けずに千尋の手に委ねた。千尋は荒くれたキスを交わしながら潜り込むように手を伸ばし、何とか使命を全うする。
浅葉は指を入れなかった。こんなことは初めてだが、幸い千尋は十分潤っていた。先端が押し付けられて滑り、次の瞬間には体の中心に浅葉を迎え入れていた。
千尋はいつもとはどこか違う汗を身にまといながら、浅葉の熱い肌を掌と唇で誠心誠意愛した。いつになく身悶える我が恋人がたまらなく愛しい。
背骨が少し痛くなって、わずかに腰を浮かせた瞬間、中に囚われたままの浅葉がはっと身を震わせた。低く甘い呻きが続く。それに気付いた千尋が戯れに奥の方をきゅっと締め付けてやると、腹上の男はこらえるようにいよいよ身をよじった。
「イッちゃっていいかな……」
観念したように浅葉が囁いてくる。本望だと千尋は思った。いつも千尋のことばかり愛でている浅葉が己のためにこそ千尋を抱き、早くも耐え切れなくなっているのを目の当たりにすることは、むしろ新しい幸福の形だった。
「うん。どうぞ」
浅葉の歯の隙間から漏れる息がのたうち、喉の奥が絞り出す無声音の雄叫びが丑三つ時の静けさを渡っていく。お前の気持ちいい顔が好きなんだ、と言った浅葉の心理が、今やっとわかった気がした。
浅葉は呼吸すら収まらないうちにゆらりと半身を起こしたが、目は既にとろんとしていた。千尋は、朦朧としつつある浅葉がかろうじて手渡したゴムの口を慣れない手付きで結び、とりあえず床に放置する。
「待って。こんなとこで寝ないで」
千尋がペチペチと尻を叩いてやると、浅葉は腹を満たし終えて眠りにつこうとする獣のように地を這い、辿り着いたベッドに潜り込んだ。
千尋は行為の産物をごみ箱に捨て、玄関の鍵を掛け、電気を消した。隣に寄り添うと、浅葉は千尋の胸に鼻を擦り付けて甘え、じきに動かなくなった。
千尋は、胸元に寄せては返す寝息を聞きながら、朝シャワーを浴びる時間を見越して、携帯のアラームの設定時刻を三十分早めた。
千尋は電気を点けると、すぐさま番号をダイヤルして一一〇を表示させた。通話ボタンを押せばよいだけの状態にしておいて、足音を忍ばせ玄関に向かう。
息を潜めて覗き穴に片目を寄せると、向こう側ではひどく疲れた様子の浅葉が廊下の柵にもたれていた。慌ててドアを開ける。
「ちょっと、どしたの!?」
思わず裸足のまま駆け寄ろうとすると、浅葉は半ばもたれかかるようにして千尋を抱き締めた。その弾みでなだれ込むように部屋の中に押し戻される。どうも様子がおかしい。
「ねえ、大丈夫?」
浅葉は何も言わずにキスを求めた。千尋も拒絶するつもりなどなかったが、その勢いに負けて後ろに倒れそうになる。きゃっと声を上げた瞬間、浅葉の手が千尋の背中に追い付き、そのままゆっくりと、しかしどこか急いた様子で横たえた。
浅葉はフローリングの床に仰向けになった千尋を膝で跨ぎ、パジャマをめくり上げたかと思うと、いきなり乳首を吸った。千尋はただただ絶句していたが、体は既に熱く反応を返していた。
床に手をついて身を起こした浅葉の影の中で、呼吸を整えながらその顔を見上げる。一体何があったというのか。ろくに寝ていないように見えるが、盛りがついたような振る舞いはそれでは説明がつかない。事前に千尋の意思をきっちり確かめるいつもの浅葉とは明らかに違っていた。
ふとこちらを見てきゅっと目を閉じたその顔には、激しい罪悪感と、踏みとどまろうとする最後の葛藤が見て取れた。千尋はゴーサインのつもりで自ら上を脱ぎ捨て、浅葉の体を抱き寄せた。二人はあっという間に裸体を重ねていた。
浅葉は、そばに脱ぎ捨てたジーパンのポケットから取り出したそれを、自分で着けずに千尋の手に委ねた。千尋は荒くれたキスを交わしながら潜り込むように手を伸ばし、何とか使命を全うする。
浅葉は指を入れなかった。こんなことは初めてだが、幸い千尋は十分潤っていた。先端が押し付けられて滑り、次の瞬間には体の中心に浅葉を迎え入れていた。
千尋はいつもとはどこか違う汗を身にまといながら、浅葉の熱い肌を掌と唇で誠心誠意愛した。いつになく身悶える我が恋人がたまらなく愛しい。
背骨が少し痛くなって、わずかに腰を浮かせた瞬間、中に囚われたままの浅葉がはっと身を震わせた。低く甘い呻きが続く。それに気付いた千尋が戯れに奥の方をきゅっと締め付けてやると、腹上の男はこらえるようにいよいよ身をよじった。
「イッちゃっていいかな……」
観念したように浅葉が囁いてくる。本望だと千尋は思った。いつも千尋のことばかり愛でている浅葉が己のためにこそ千尋を抱き、早くも耐え切れなくなっているのを目の当たりにすることは、むしろ新しい幸福の形だった。
「うん。どうぞ」
浅葉の歯の隙間から漏れる息がのたうち、喉の奥が絞り出す無声音の雄叫びが丑三つ時の静けさを渡っていく。お前の気持ちいい顔が好きなんだ、と言った浅葉の心理が、今やっとわかった気がした。
浅葉は呼吸すら収まらないうちにゆらりと半身を起こしたが、目は既にとろんとしていた。千尋は、朦朧としつつある浅葉がかろうじて手渡したゴムの口を慣れない手付きで結び、とりあえず床に放置する。
「待って。こんなとこで寝ないで」
千尋がペチペチと尻を叩いてやると、浅葉は腹を満たし終えて眠りにつこうとする獣のように地を這い、辿り着いたベッドに潜り込んだ。
千尋は行為の産物をごみ箱に捨て、玄関の鍵を掛け、電気を消した。隣に寄り添うと、浅葉は千尋の胸に鼻を擦り付けて甘え、じきに動かなくなった。
千尋は、胸元に寄せては返す寝息を聞きながら、朝シャワーを浴びる時間を見越して、携帯のアラームの設定時刻を三十分早めた。
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