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第3章 蜜月
53 逢瀬
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そうこうしているうちに、ボーダーのカットソーが浅葉の手でめくり上げられた。
その手が千尋の肌に触れ、ゆっくりと上半身の全てを巡ってゆく。それに対して、まだ触れられてもいない陰部が反応するのを感じ、千尋は既にその声を発してしまっていた。
千尋の上半分が剥き出しになると、浅葉は下を脱がせる前に、もう一度千尋に断るチャンスを与えた。
「いいの。もうどうでもいい」
と千尋は意思を明確にし、露骨に興奮した体を浅葉に擦り付けて急かした。
相変わらずたっぷり寄り道しながらスカートを脱がせる浅葉特有のペースに翻弄される。ようやくそれが足元に辿り着くと、千尋は靴下を蹴り捨て、念のためのナプキンが付いた下着を布団の中でこっそり脱ぎ、丸めてベッドの下に押しやった。
浅葉が物干しの方を指差して尋ねる。
「あれ、いい?」
千尋は頬を赤らめながら身を乗り出してそのバスタオルを取り、位置を見計らって広げた。
ふと見ると、浅葉の太腿には例の傷がざっくりと残っている。これでも当初よりは薄くなった方なのだろう。
「まだ痛い?」
「うーん、どうかな? 触ってみ」
千尋はその直線の両サイドに恐る恐る指を滑らせ、労わるように掌で全体をそっと覆った。その傍らで操り人形のようにぴょこんぴょこんとお辞儀をし、千尋の気を引こうとしている者がいる。
「ちょっと、何やってんの」
とたしなめつつも、千尋はあっさりそちらへと乗り換え、優しく指を絡めた。
「とりあえず、元気そうね」
顔を見合わせて微笑むと、どちらからともなく再び唇が触れ合った。
時間が経つのも忘れ、あまりに懐かしい互いの体をいつまでも慈しみ合っていると、不意にアラームが鳴った。浅葉が呻きとも叫びともつかぬ声を漏らす。千尋の中に入ったまま枕元の携帯に手を伸ばし、その非情な音を止めた。
一瞬のキスと共に、未練を振り切るかのように後退しかけたその腰を、千尋は両のかかとでぎゅっと引き留める。
「時間でしょ? ね、早く」
名残惜しい気持ちはどうにもできないが、せめて浅葉には最後まで終えてほしかった。
「お前はほんっとにいい女だな」
と耳元で囁くと、浅葉はやや遠慮がちに腰を揺すった。
間もなく、精悍な喉仏が微かに上下したかと思うと、獅子のごとく盛り上がった肩がねじれ、全体がスローダウンした。汗ばんだ筋肉の重みが千尋の胸に預けられ、湿った荒い息が耳元をくすぐる。
浅葉は甘えるようなキスと共にそそくさと退場し、素早くシャワーを浴びた。
三割方濡れたままの体に服を着てたちまちスーツ姿になる。見送ろうと立ち上がりかけた千尋は、優しく押し留められた。
「ここでいいよ」
ベッドの端に座ると、浅葉は何か言いたげな瞳でしばらく千尋を見つめ、ぎゅっと抱き締めた。千尋は目を閉じてそれを受け止める。言葉にならなかった浅葉の思いが染み込んでくるような気がした。
浅葉は千尋の頭を抱き寄せ、ぽんぽん、と手で挨拶すると、さっと立ち上がり、そのまま振り返ることなく部屋を出ていった。外から鍵が掛かる。
遠ざかる足音は、既に業務用の響きを帯びていた。それを千尋は心だけで追いかけた。何だろう、まるで禁断の逢瀬のようなこの儚さは……。
浅葉を責めたくなってしまう気持ちをねじ伏せ、あなたのせいじゃない、と何度も繰り返した。しかし、浅葉の温かい言葉や優しい眼差しを思い出そうとすればするほど、やり過ごそうとした胸の痛みは増すばかりだった。
その手が千尋の肌に触れ、ゆっくりと上半身の全てを巡ってゆく。それに対して、まだ触れられてもいない陰部が反応するのを感じ、千尋は既にその声を発してしまっていた。
千尋の上半分が剥き出しになると、浅葉は下を脱がせる前に、もう一度千尋に断るチャンスを与えた。
「いいの。もうどうでもいい」
と千尋は意思を明確にし、露骨に興奮した体を浅葉に擦り付けて急かした。
相変わらずたっぷり寄り道しながらスカートを脱がせる浅葉特有のペースに翻弄される。ようやくそれが足元に辿り着くと、千尋は靴下を蹴り捨て、念のためのナプキンが付いた下着を布団の中でこっそり脱ぎ、丸めてベッドの下に押しやった。
浅葉が物干しの方を指差して尋ねる。
「あれ、いい?」
千尋は頬を赤らめながら身を乗り出してそのバスタオルを取り、位置を見計らって広げた。
ふと見ると、浅葉の太腿には例の傷がざっくりと残っている。これでも当初よりは薄くなった方なのだろう。
「まだ痛い?」
「うーん、どうかな? 触ってみ」
千尋はその直線の両サイドに恐る恐る指を滑らせ、労わるように掌で全体をそっと覆った。その傍らで操り人形のようにぴょこんぴょこんとお辞儀をし、千尋の気を引こうとしている者がいる。
「ちょっと、何やってんの」
とたしなめつつも、千尋はあっさりそちらへと乗り換え、優しく指を絡めた。
「とりあえず、元気そうね」
顔を見合わせて微笑むと、どちらからともなく再び唇が触れ合った。
時間が経つのも忘れ、あまりに懐かしい互いの体をいつまでも慈しみ合っていると、不意にアラームが鳴った。浅葉が呻きとも叫びともつかぬ声を漏らす。千尋の中に入ったまま枕元の携帯に手を伸ばし、その非情な音を止めた。
一瞬のキスと共に、未練を振り切るかのように後退しかけたその腰を、千尋は両のかかとでぎゅっと引き留める。
「時間でしょ? ね、早く」
名残惜しい気持ちはどうにもできないが、せめて浅葉には最後まで終えてほしかった。
「お前はほんっとにいい女だな」
と耳元で囁くと、浅葉はやや遠慮がちに腰を揺すった。
間もなく、精悍な喉仏が微かに上下したかと思うと、獅子のごとく盛り上がった肩がねじれ、全体がスローダウンした。汗ばんだ筋肉の重みが千尋の胸に預けられ、湿った荒い息が耳元をくすぐる。
浅葉は甘えるようなキスと共にそそくさと退場し、素早くシャワーを浴びた。
三割方濡れたままの体に服を着てたちまちスーツ姿になる。見送ろうと立ち上がりかけた千尋は、優しく押し留められた。
「ここでいいよ」
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浅葉は千尋の頭を抱き寄せ、ぽんぽん、と手で挨拶すると、さっと立ち上がり、そのまま振り返ることなく部屋を出ていった。外から鍵が掛かる。
遠ざかる足音は、既に業務用の響きを帯びていた。それを千尋は心だけで追いかけた。何だろう、まるで禁断の逢瀬のようなこの儚さは……。
浅葉を責めたくなってしまう気持ちをねじ伏せ、あなたのせいじゃない、と何度も繰り返した。しかし、浅葉の温かい言葉や優しい眼差しを思い出そうとすればするほど、やり過ごそうとした胸の痛みは増すばかりだった。
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