君の思い出

生津直

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第1章 護衛

12 危機

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 車二台に分かれ、時間差を付けて別ルートで現場に向かう。早坂はやさか小谷こたにが一足先に出たところだ。浅葉・長尾組には、もともと四名体制だったところに急遽加った新米の重松しげまつ巡査が同乗する。場数を踏ませるのにちょうどいい現場だと、昨日浅葉が電話で要請したのだ。

 長尾と行動する時は浅葉がハンドルを握るのが常だが、今日の浅葉はさっさと助手席に回っていた。

「その程度で怪我人ぶってんじゃねえよ」

とぶつくさ言いながらも、長尾は運転席に乗り込んだ。後ろに重松を乗せて出発する。

 走り出してしばらくすると、浅葉が声をかけた。

「長尾」

「おう」

「今日の相手は大した数じゃない。去年の宝劉会ほうりゅうかいの時と似たようなもんだ」

「そうだな」

「銃器類もそこまで充実してないし、まあ楽勝だろ」

「珍しいな、お前がそんなこと言うの」

「後はお前が仕切れ」

「は?」

「停めてくれ」

と言いながら、浅葉はもうシートベルトを外している。

「何だ、急に」

 長尾は車を脇に寄せた。

「じゃ、後は頼んだ」

「え? どこ行くんだよ?」

「すまん、トイレ」

「あ?」

 長尾はあっけに取られ、時計を気にしながら走り去る浅葉の後ろ姿を見送った。

「また何か裏でコソコソしやがって……」

 長尾は、後部座席で目をパチクリさせている重松を怒鳴りつける。

「馬鹿野郎、真に受けんな!」

 先日、トイレに行っていて集合に二分遅刻した重松が、垂れ流してでも任務を優先しろと浅葉から説教を食らったのは長尾も知っている。サイドミラーの端には、大通りでタクシーを停める浅葉が映っていた。



 千尋は、池田いけだという巡査の運転で自宅へと向かっていた。

 長いようで短い一週間。退屈だったのは確かだが、もう少し浅葉の姿を眺めていたかったという思いが残る。

(私のためにあんな怪我までして、それこそ一歩間違えれば……ほんと無事でよかった)

 もう会うこともないのだと思うと、まるで夢でも見ていたような気がしてくる。そうなのだ。この一週間は夢だったと割り切って、明日からまた普通の生活に戻るのが正解なのは自分でもわかっていた。

 千尋のアパートの前で、池田が車を停めた。

「お疲れ様でした」

「どうもありがとうございました」

 車を降りると、池田も外に出てきていた。

「あ、わざわざすみません。あの、皆さんによろしくお伝えください」

「ええ」

「じゃあ、失礼します」

と頭を下げ、二階の自宅へと続く階段に向かいかけたその時、ブロック塀の陰から黒ずくめの男が飛び出した。

 千尋が息を呑んだ瞬間、男のこぶしが池田のあごにヒットする。不意を突かれてよろけた池田は、直後に二発目をこめかみに食らって地面に倒れ、動かなくなった。
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