119 / 120
大洗港奪還作戦
110体目 港宴の中の少女達3
しおりを挟む
「ふぅ……」
傘を持ち夜の港に立つ彼女は潮の香りで満たされた空気を吸い、物憂げな表情で息を吐いた。
潮風を受けて長い白銀髪がフワリと流れる。整えられ、これ以上ないほどに手入れがされた髪は月の光を受けて宝石のように輝く。
彼女は星々を輝きを反射して静かに煌めく海の一部になっていた。
「まるでセレナイトの模様みたいな髪だね。羨ましいな」
男でなくとも目を奪われてしまうだろう鈴谷の髪を白と透明が混ざって模様のできる宝石「セレナイト」だと評し、だが直接的な賞賛は「羨ましい」に止めたのは楽であった。
声をかけられた鈴谷は、振り向くことなく海だけを見て答える。
「あら、いつもはレモンさんを見守っているのに珍しいですわね」
「あれだけ人に囲まれてちゃ見守るも何も無いよ」
楽は鈴谷の横に来て、船を停めるための係船柱に腰を下ろした。
「君こそこんな所に来てどうしたんだい?」
「ただ海の綺麗さに見とれてただけですわ。ほら、とても大きくてくっきりと見える月。それを反射して光り輝く海。どちらもこの世に一つしかないものですのよ。皇都にいてはこうもいきませんから、今のうちに目に焼き付けておこうと思って」
挑発は無し。かといってそう難しい話でもない。単におしゃべりしてくれていると気づいた鈴谷は嬉しくなって傘…………50kgほどにもなる仕込み傘、ポリトスを指先でクルクルと回した。
「なるほど……いい趣味だね。僕もこういうのは嫌いじゃない」
「ありがとう……でも嫌いじゃない、なんて言い方をするのはなぜ?」
どこか引っかかる言い方に素直な疑問をぶつける。楽は正直に言っただけであり気づかれなければ何も言わないつもりだったのだが。
しかし鈴谷に言われて、確かにもっと好きな海があることを思い出した。
「個人的には、夏の、騒がしくてエネルギーで満たされてて透き通ってる、入道雲を映したような海が好きなんだ。一言で言うと楽しい海、かな」
夏の楽しい海という表現が、遊び人で褐色肌の楽のイメージにぴったり当てはまったのか鈴谷は思わず笑ってしまう。
「ん……ふふ。ごめんなさい、でも予想通りの答えで少し面白かったの」
「構わないよ」
笑われはしたが悪意のない、むしろ褒めるような口調に楽は微笑みを返す。
鈴谷もまた微笑みで返し、少しばかり思い回した後に軽口を叩いた。
「ふふ……私も夏の海は、『嫌いじゃありません』わ」
「……ふ、はは!」
「ふふっ!」
鈴谷が楽の言葉を借りて返し、楽は面白くなって笑う。
だがそれもすぐに収まり、少しばかり神妙な顔になって鈴谷が嬉しそうに話し始めた瞬間から思っていたことを聞く。
「……で、本当に見てただけ?」
口説くように一つ声のトーンを落とした楽を一瞥した鈴谷は、再度海を見ながら打ち明け始めた。
「内心、どなたか来てくれないかとお待ちしておりましたの。その方と何でもいいのでお話できればと」
「僕でいいなら」
「ええ、ありがたいですわ。だけど、私、楽さんとのお話よりも興味のある事を思いついてしまいましたの……」
「……ん、んん?」
今まで楽しげに話していた鈴谷が、淫美な笑みを浮かべてくるりと身体を回して踊るように移動する。
メイド服のスカート部分が遠心力で大きく広がり、一瞬だけ彼女を楽の視界から隠した。
何かと驚いて身動きの取れなかった楽の背中をその身で覆う。
するりと細長い手腕が楽の胸をなぞった。
鈴谷は後ろから抱きつく形で楽の体温を楽しむ。
楽はその意味を即座に理解しびくりと身体を震わせた。
「ちょっ……人が来たらどうするつもりだい?」
「さてどうしましょうか」
「鈴谷さん……やめてくれないか」
楽が強めの口調で拒否したにも関わらず、鈴谷は離れようとしない。
それどころかより強く密着し……身体を小刻みに震わせ始めた。
「私、悔しいんですの」
「鈴谷さん……?」
僅かに震える声。ハッとした楽が鈴谷の顔を仰ぎ見る。
そうして目が合うと、楽は逃れようとすることを止めて青い瞳を見つめた。
「今まで自分では完璧にこなしてきているつもりでした。けど、実戦ではそれが全く通用しない……私、一体何をしてきたのか分からなくなってしまったの。これまでの努力は無駄だと……」
しな垂れかかり奥歯を噛み締めて涙を堪えている鈴谷を見て、楽は彼女の両手を自分の手で包み込む。
「気持ちは分かるな。大変だよね……色々と」
「……でも、別に私、焦ってはおりませんのよ。これから学んでいけば良いのですもの」
強気な言葉はさらに震え、途切れ途切れに。
自分の言葉で自分を笑わせようとしている。即戦力として認められるという目標を諦める事で、自分を追い込みすぎないようにしている。
鈴谷は今、彼女の人生で初めてプライドをかなぐり捨て、自分を冷静に見ていた。
お嬢様である彼女にとって深い傷になるだろう経験。それを悟った楽は姿勢をぐるりと変えて鈴谷の正面を向くと、少しでも癒してあげようと手を広げた。
「分かった。ほら、僕の膝に座って。慰めてあげる」
「……はい」
鈴谷はスカートを取り外してその場に置くと、膝の上にゆっくりと腰を下ろしていく。股を開いているにも関わらず、動作自体は粛々としたものだった。
「……」
「……なん、ですの?」
何も言わずに頬をわずかな赤みで染め、見つめてくる楽に一体何を見ているのかと尋ねる。
すると、楽は瞳をじっと見返してニッと白い歯を見せてこう言った。
「綺麗だよ。もっと自分に自信を持って」
「……」
頬を触られながら褒められた鈴谷は、恥ずかしくなり目を逸らす。
そして、やや困ったような顔で見つめ返すとキスをした。
傘を持ち夜の港に立つ彼女は潮の香りで満たされた空気を吸い、物憂げな表情で息を吐いた。
潮風を受けて長い白銀髪がフワリと流れる。整えられ、これ以上ないほどに手入れがされた髪は月の光を受けて宝石のように輝く。
彼女は星々を輝きを反射して静かに煌めく海の一部になっていた。
「まるでセレナイトの模様みたいな髪だね。羨ましいな」
男でなくとも目を奪われてしまうだろう鈴谷の髪を白と透明が混ざって模様のできる宝石「セレナイト」だと評し、だが直接的な賞賛は「羨ましい」に止めたのは楽であった。
声をかけられた鈴谷は、振り向くことなく海だけを見て答える。
「あら、いつもはレモンさんを見守っているのに珍しいですわね」
「あれだけ人に囲まれてちゃ見守るも何も無いよ」
楽は鈴谷の横に来て、船を停めるための係船柱に腰を下ろした。
「君こそこんな所に来てどうしたんだい?」
「ただ海の綺麗さに見とれてただけですわ。ほら、とても大きくてくっきりと見える月。それを反射して光り輝く海。どちらもこの世に一つしかないものですのよ。皇都にいてはこうもいきませんから、今のうちに目に焼き付けておこうと思って」
挑発は無し。かといってそう難しい話でもない。単におしゃべりしてくれていると気づいた鈴谷は嬉しくなって傘…………50kgほどにもなる仕込み傘、ポリトスを指先でクルクルと回した。
「なるほど……いい趣味だね。僕もこういうのは嫌いじゃない」
「ありがとう……でも嫌いじゃない、なんて言い方をするのはなぜ?」
どこか引っかかる言い方に素直な疑問をぶつける。楽は正直に言っただけであり気づかれなければ何も言わないつもりだったのだが。
しかし鈴谷に言われて、確かにもっと好きな海があることを思い出した。
「個人的には、夏の、騒がしくてエネルギーで満たされてて透き通ってる、入道雲を映したような海が好きなんだ。一言で言うと楽しい海、かな」
夏の楽しい海という表現が、遊び人で褐色肌の楽のイメージにぴったり当てはまったのか鈴谷は思わず笑ってしまう。
「ん……ふふ。ごめんなさい、でも予想通りの答えで少し面白かったの」
「構わないよ」
笑われはしたが悪意のない、むしろ褒めるような口調に楽は微笑みを返す。
鈴谷もまた微笑みで返し、少しばかり思い回した後に軽口を叩いた。
「ふふ……私も夏の海は、『嫌いじゃありません』わ」
「……ふ、はは!」
「ふふっ!」
鈴谷が楽の言葉を借りて返し、楽は面白くなって笑う。
だがそれもすぐに収まり、少しばかり神妙な顔になって鈴谷が嬉しそうに話し始めた瞬間から思っていたことを聞く。
「……で、本当に見てただけ?」
口説くように一つ声のトーンを落とした楽を一瞥した鈴谷は、再度海を見ながら打ち明け始めた。
「内心、どなたか来てくれないかとお待ちしておりましたの。その方と何でもいいのでお話できればと」
「僕でいいなら」
「ええ、ありがたいですわ。だけど、私、楽さんとのお話よりも興味のある事を思いついてしまいましたの……」
「……ん、んん?」
今まで楽しげに話していた鈴谷が、淫美な笑みを浮かべてくるりと身体を回して踊るように移動する。
メイド服のスカート部分が遠心力で大きく広がり、一瞬だけ彼女を楽の視界から隠した。
何かと驚いて身動きの取れなかった楽の背中をその身で覆う。
するりと細長い手腕が楽の胸をなぞった。
鈴谷は後ろから抱きつく形で楽の体温を楽しむ。
楽はその意味を即座に理解しびくりと身体を震わせた。
「ちょっ……人が来たらどうするつもりだい?」
「さてどうしましょうか」
「鈴谷さん……やめてくれないか」
楽が強めの口調で拒否したにも関わらず、鈴谷は離れようとしない。
それどころかより強く密着し……身体を小刻みに震わせ始めた。
「私、悔しいんですの」
「鈴谷さん……?」
僅かに震える声。ハッとした楽が鈴谷の顔を仰ぎ見る。
そうして目が合うと、楽は逃れようとすることを止めて青い瞳を見つめた。
「今まで自分では完璧にこなしてきているつもりでした。けど、実戦ではそれが全く通用しない……私、一体何をしてきたのか分からなくなってしまったの。これまでの努力は無駄だと……」
しな垂れかかり奥歯を噛み締めて涙を堪えている鈴谷を見て、楽は彼女の両手を自分の手で包み込む。
「気持ちは分かるな。大変だよね……色々と」
「……でも、別に私、焦ってはおりませんのよ。これから学んでいけば良いのですもの」
強気な言葉はさらに震え、途切れ途切れに。
自分の言葉で自分を笑わせようとしている。即戦力として認められるという目標を諦める事で、自分を追い込みすぎないようにしている。
鈴谷は今、彼女の人生で初めてプライドをかなぐり捨て、自分を冷静に見ていた。
お嬢様である彼女にとって深い傷になるだろう経験。それを悟った楽は姿勢をぐるりと変えて鈴谷の正面を向くと、少しでも癒してあげようと手を広げた。
「分かった。ほら、僕の膝に座って。慰めてあげる」
「……はい」
鈴谷はスカートを取り外してその場に置くと、膝の上にゆっくりと腰を下ろしていく。股を開いているにも関わらず、動作自体は粛々としたものだった。
「……」
「……なん、ですの?」
何も言わずに頬をわずかな赤みで染め、見つめてくる楽に一体何を見ているのかと尋ねる。
すると、楽は瞳をじっと見返してニッと白い歯を見せてこう言った。
「綺麗だよ。もっと自分に自信を持って」
「……」
頬を触られながら褒められた鈴谷は、恥ずかしくなり目を逸らす。
そして、やや困ったような顔で見つめ返すとキスをした。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】アリスエロパロシリーズ
茉莉花
ファンタジー
家族旅行で訪れたロッジにて、深夜にウサギを追いかけて暖炉の中に落ちてしまう。
そこは不思議の国のアリスをモチーフにしているような、そうでもないような不思議の国。
その国で玩具だったり、道具だったり、男の人だったりと色んな相手にひたすらに喘がされ犯されちゃうエロはファンタジー!なお話。
ストーリー性は殆どありません。ひたすらえっちなことしてるだけです。
(メインで活動しているのはピクシブになります。こちらは同時投稿になります)
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界
レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。
毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、
お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。
そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。
お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。
でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。
でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる