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大洗港奪還作戦

102体目 大洗港奪還戦4

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「撃て」

『ファイア』

 乾ききった轟音が衝撃波を伴い周囲を震わせる。人どころか車さえ飲み込みそうな爆発が、そこにあった空気を強烈に押し退け巨大な円錐を超音速で打ち出した。
 オレンジ一色の花火が霧をバックに散りばめられ、黒い金属塊が霧を引き裂く。

 MCVの105mm砲が火を吹いたのだ。飛んで行った砲弾は定められた距離を飛ぶと炸裂した。

 内部で火薬がその威力を発揮すると金属の受け皿が圧力に吸い込まれ、灼熱の蒸気となって先端から噴出する。
 同時に外殻が破裂し金属のワイヤーを周囲に飛び散らせた。

「うああ……」

「うっさあ……」

「いい音ですわあ」

 音はどこまでも広がっていき、背の低い建物の向こうへ消えていく。

 全員が耳をつんざく破裂音に耳を塞いでいる中、鈴谷だけは澄ました顔をして音圧に酔っていた。

 レモンがよく気持ちよさそうに聞けるものだと思わず呆れてそちらの方を見た時、丁度白色の粒が空の向こうで動いているのが目に入った。かなりの高速で飛んでいるのか、みるみるうちに粒は大きさを増す。

「……あ、何か来ました!」

「え?レモンなんて言ったの?耳がキンキンしてよく……」

「菜々、あの飛行機だ」

 海岸線を、木にぶつかるのではないかと心配になるほどの高度で輸送機が近づいてくる。
 地面を掠め、甲高い音をかき鳴らしその巨体に見合わぬ速度で陽炎を尾のように引きながら。シロナガスクジラが時速900kmで距離を詰める。

 C-2は霧の上空で上昇体勢に入る。反り立った尾部が上方に曲がり、翼が翻る。機体は斜めに反り上がり、しかし慣性が直線を維持する。
 翼が揚力を十分に孕むと、白けたアスファルトに擦りかけた尾翼がようやく地上を離れた。機体が霧の一部を千切る。

 殴りつけるようなギリギリの機動で排気口を地に向け、熱い暴風で霧を吹き飛ばしてしまった。

「ポリトス展開」

 鈴谷がロケットの如き角度で急上昇していく輸送機を見て、すかさず仕込み傘を展開した。
 他の少女達は一瞬何をしているのか分からなかったが、飛ばされた霧の奥から排気まみれの空気が押し寄せてくると行動の意味を理解し一斉に背を向けてその場に縮こまる。

「熱い熱い!」

「あっづ!焼ける!上手に焼けましたー!……あづっ!」

「痛い痛い痛いです!熱いより痛い!」

 地面に叩きつけられた炎風が横殴りに吹き付けてきたのだ。見えない蛇の舌が全身をチロチロと焼く。
 ただ、鈴谷とは別に察しの良さで盾を作ったのが一人。

「あつ……」

「熱い!髪が縮れる!って菜々!お前ちゃっかり私を盾に……」

「ごちゃごちゃ騒ぎ立ててんじゃねーぞ。本体が見えたんだ。こっからはてめえらの仕事だろ」

 熱気に煽られ、やれ肌が髪が焼けると大騒ぎする少女達に良太郎が活を飛ばした。

 見れば、晴れきった青空と和やかに漂う爽やかな青が目の前に広がる。潮の香りが鼻をくすぐる。
 青が水平線の向こうを超えて際限なく続き、横に縦に視界に収まらぬ範囲が水を湛え煌めいている。

 初めて間近で海を見た少女達。感じる微香は、これまで概念すら持たなかったもの。
 灰色のゴチャゴチャとした艦船と比べたそれは、彼女たちを強くひきつける。

 だが残念な事に、非常に残念な事に、綺麗で圧倒的な風景を楽しむ時間は誰からも与えられていないのであった。

 先程の攻撃で吹き飛ばされた荒獣は早くも再生を終わらせ、自らの分身すら生み出そうとしている。

「お前らの戦いは見てらんねーから、俺らは港の人間の誘導してくる。後は上手くやれ」

 良太郎は最後にそう言って、要塞の壁に向かって走っていった。
 壁の上から狙撃銃で援護するつもりなのだろう。背負った長いハードケースがユサユサと揺れて動きにくそうだが、そうとは感じさせない速度で駆けていく。

「……あの方、いつもあのように乱暴な物言いなのかしら。見ていられないとは酷い言い方ですわ」

 背中が遠くなっていくと、良太郎の言葉に不快感を表した鈴谷が荒獣に向かって歩き出しながら不満を口にする。

 その横で、楽は口を薄く開けて笑った。

「ふっ……」

「なんですの」

『清楚な女性達が乱れる姿はとても恥ずかしくて見ていられないし、あなた方も嫌でしょうから自分は別の仕事をしてきます。幸運を』

 スラスラと翻訳文が言葉となって流れ出る。そう、いつの間にか楽は誠一郎の教育によって良太郎語をマスターしていたのだ。

 実はVRで作戦経路をシュミレーションしている間に誠一郎の元へ訪問を繰り返していた楽。今や通訳として彼と彼女達の仲を取り持つことができるようになっている。

「……は?」

「良太郎さんは、通訳がいないとマトモに話せない人なんだ」

「……さっぱり、意味が分かりませんわ」

 しかし良太郎の事を何も知らない鈴谷は肩を竦め首を左右に振ると、敵を倒すため歩き出した。

 六人のハンターが服を脱ぎ捨て、代わりに潮風をまとって荒獣に近づく。荒獣は六体の分身を次々に作り出し、緑たちを迎え撃った。

 全員に緊張が走る。数で負けている上に、相手の力量は不明。だが緑の話によると一切攻撃は効かなかったようだ。質でも不利である可能性が高い。

 分身はそれぞれのハンターの目の前にフワリと着地すると、性闘を始めた。

 柔らかいというよりは、存在感の薄い舌がパシャパシャと口の中を水分で叩く。ソフトタッチとも言えない、水滴を付けられているような指圧が胸を押す。

 もどかしいが、最初はわざと責めさせて様子を見る。
 次いで、そこまでキツイ責めで無いことを確認するとこちらからも舌を絡ませ秘部を撫でていった。

「ん、んんっ!……ん……あ、あれ?なんだこいつ、攻撃が効く……?」

 各々が反撃に転じると責めが緩やかになり、分身達は感じ始める。
 風が吹くだけで掻き消えてしまう嬌声が方々で上がり、霧の体が一つ二つと空気中に溶けていく。

 それから約十分後、全ての分身が絶頂に達し、消えた。

「……何だったんだ、あれ」

 緑は最後の霧を自慢のペニスで突き上げて霧散させると、狸に化かされたような顔をして起き上がる。
 なぜこの程度の分身を用意したのだろうか。この程度しか用意できなかったのだろうか。

 バカにされたような感じがして怒りが湧いてくる。だから霧の荒獣を睨みつけて……。

 ふと、変化に気づいた。
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