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大洗港奪還作戦

101体目 大洗港奪還戦3

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『緑さんの車は……ここから30mほどの場所にあります。霧の中に手を入れれば掴めそうな……僧帽さんの目の前です。それと、左前方に大きな熱反応。……女性が……宙に浮いて……? 空中にいる女性から熱が放射されています』

 困惑を伴った声が無線機から発せられた。同時に砲塔がゆっくりと旋回し、霧の中の一点を見つめるようにピタリと止まった。

「俺の目の前? ……手だけ入れるならいけそうじゃないすか?」

「引き込まれたらどうす……隼、手を繋いで、何かあったら引っ張ってやれ」

「分かりました」

 真っ先に空挺三人衆が動く。隼が僧帽の手を取り、僧帽は霧の中に半身を突っ込んだ。他のものはいつ何があるか分からず固唾を飲んで様子を見守る。

「ん、お……あれ? ……あった。おーい、緑さん大丈夫ですか? ……反応がねえな」

 ガンガンと86の後ろを叩いて緑を呼んでみるが、予想通り返事はない。空挺三人衆は次の段階へと移る。

「ちょっと全身入ってもいいですか?」

「……俺は隼の手を持つ。早くしろよ?」

「あざす」

 刀也が隼の手を繋ぐと僧帽は体勢を低くし、更に霧の深くへと入っていく。その様子を見て、菜々が心配そうに楽を見た。

「ねえ、あの三人何やってるの?」

「僕も分からない」

「車を引っ張り出すんじゃないでしょうか」

 レモンが自分の考えを、自分でも半信半疑でありながら口に出す。
 ロープでも持ってきていれば話は別だが、いくら軽量化の施された車とはいえ素手で掴んで引っ張り出すなど……。

「まさか」

「そんなわけが……」

「ありますわよ」

 まるで、そうしないとは露ほどにも思っていませんといった様子の鈴谷に目を丸く見開いた顔が三つ向けられた瞬間だった。

「うんっ!」

 タイヤというのは転がり出すと早いもので、僧帽が思い切り力を込めた瞬間86はゆっくりと動き出し、そのままの速度で霧の中から日の元へ戻ってきた。

 運転席にはぐったりとした様子の緑が頭を垂れて座っている。

「緑っ!」

 菜々が車に駆け寄り、ドアを開けて緑を引きずり出した。ズルズルと力の入っていない四肢がアスファルトの上に引き伸ばされる。

「緑! あんたしっかりしなさい!」

「……ぅ……ぁ……菜々……?」

 揺さぶられて起きた緑が、若干掠れた声で菜々を呼ぶ。それから自分の手を頭に伸ばし、目の辺りを押さえて首を振った。まだ視界や意識がはっきりしていないようだ。

「……良かった。何があったの?」

「……はっ! そうだ! いきなり瞬間移動してだな! 海に落ちそうになって! そしたら奴らがぶわーっと」

「落ち着け!」

「いだい」

 緑は飛び起きるも混乱が抜けていないのか訳の分からない説明をし始め、良太郎にゲンコツを食らうのだった。




「……というわけだ」

 水を飲んで緑は落ち着き、改めて自分の陥った状況を皆に説明する。逃げようとしたが瞬間移動し、霧の荒獣に襲われたと。

 話を聞いた全員が顔を見合わせしばらく固まっていたが、八雲だけはいち早く納得のいく答えを導き出せたようだ。

「うーん、そうだなぁ……緑くんが逃げようとした時、海がいきなり現れた。だけどその間、エンジン音や声は同じ場所から聞こえてきていた。救出した時も、すぐそこにいた。瞬間移動したという可能性は低い。思うに、緑くんは海と思わしきものを見た」

「しかし、一面アスファルトだ。そんなものは無いぞ」

 刀也がすかさず反論を入れる。その反論を受けてなおも八雲は落ち着き払って話を進めた。

「……光というのは、屈折するんだ。蜃気楼しんきろうがその代表例だね。あれは見えている物のある方向にしか現れないけど……もし、霧の粒が意図的に光を反射させたら、全く別の方向に鏡写しの風景を出現させる事だって可能だ。そう思わないかい?」

 近未来的な技法を生物が実現化したという突拍子もない仮説。だがそれ以外に上手い説明もつかず、考えることを放棄した男衆はそうだと決めつけて話をすることにしたようだ。

「……はっ! 水滴を使った投影ってか! おもしれぇ、人間様の技術より発達した荒獣かよ!」

「タネが明かされたようだな。MCV、射撃準備だ。空中にいる荒獣を吹きとばせ」

『了解』

 陸佐が命令すると、砲塔内から小さな金属音が漏れ始める。砲弾を装填しているのだ。
 砲口の近くにいると吹き飛ばされかねないため、全員MCVの後ろへ下がるよう命令される。その際、刀也が何かを閃いて指を空に向けた。

「陸佐、霧を吹き飛ばすなら丁度いいやつを知ってますよ」

「上? ……ふむ、やって見るか」

 男達は話についていけてないハンター達を尻目に、勝手に作戦を立て始める。少女たちはMCVの後方でウロウロとするばかり。こういう時ばかりは弱い。

「C-2、まだいるか? 地上の霧は見えるな? よし、低空飛行で吹き飛ばしてくれ。ああ、思い切りやっていい」

 陸佐の許しを得た刀也が無線で輸送機を呼び出す。その横で、別に無線機を口に当てた陸佐がついに攻撃開始の命令を下した。
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