110 / 120
大洗港奪還作戦
101体目 大洗港奪還戦3
しおりを挟む
『緑さんの車は……ここから30mほどの場所にあります。霧の中に手を入れれば掴めそうな……僧帽さんの目の前です。それと、左前方に大きな熱反応。……女性が……宙に浮いて……? 空中にいる女性から熱が放射されています』
困惑を伴った声が無線機から発せられた。同時に砲塔がゆっくりと旋回し、霧の中の一点を見つめるようにピタリと止まった。
「俺の目の前? ……手だけ入れるならいけそうじゃないすか?」
「引き込まれたらどうす……隼、手を繋いで、何かあったら引っ張ってやれ」
「分かりました」
真っ先に空挺三人衆が動く。隼が僧帽の手を取り、僧帽は霧の中に半身を突っ込んだ。他のものはいつ何があるか分からず固唾を飲んで様子を見守る。
「ん、お……あれ? ……あった。おーい、緑さん大丈夫ですか? ……反応がねえな」
ガンガンと86の後ろを叩いて緑を呼んでみるが、予想通り返事はない。空挺三人衆は次の段階へと移る。
「ちょっと全身入ってもいいですか?」
「……俺は隼の手を持つ。早くしろよ?」
「あざす」
刀也が隼の手を繋ぐと僧帽は体勢を低くし、更に霧の深くへと入っていく。その様子を見て、菜々が心配そうに楽を見た。
「ねえ、あの三人何やってるの?」
「僕も分からない」
「車を引っ張り出すんじゃないでしょうか」
レモンが自分の考えを、自分でも半信半疑でありながら口に出す。
ロープでも持ってきていれば話は別だが、いくら軽量化の施された車とはいえ素手で掴んで引っ張り出すなど……。
「まさか」
「そんなわけが……」
「ありますわよ」
まるで、そうしないとは露ほどにも思っていませんといった様子の鈴谷に目を丸く見開いた顔が三つ向けられた瞬間だった。
「うんっ!」
タイヤというのは転がり出すと早いもので、僧帽が思い切り力を込めた瞬間86はゆっくりと動き出し、そのままの速度で霧の中から日の元へ戻ってきた。
運転席にはぐったりとした様子の緑が頭を垂れて座っている。
「緑っ!」
菜々が車に駆け寄り、ドアを開けて緑を引きずり出した。ズルズルと力の入っていない四肢がアスファルトの上に引き伸ばされる。
「緑! あんたしっかりしなさい!」
「……ぅ……ぁ……菜々……?」
揺さぶられて起きた緑が、若干掠れた声で菜々を呼ぶ。それから自分の手を頭に伸ばし、目の辺りを押さえて首を振った。まだ視界や意識がはっきりしていないようだ。
「……良かった。何があったの?」
「……はっ! そうだ! いきなり瞬間移動してだな! 海に落ちそうになって! そしたら奴らがぶわーっと」
「落ち着け!」
「いだい」
緑は飛び起きるも混乱が抜けていないのか訳の分からない説明をし始め、良太郎にゲンコツを食らうのだった。
「……というわけだ」
水を飲んで緑は落ち着き、改めて自分の陥った状況を皆に説明する。逃げようとしたが瞬間移動し、霧の荒獣に襲われたと。
話を聞いた全員が顔を見合わせしばらく固まっていたが、八雲だけはいち早く納得のいく答えを導き出せたようだ。
「うーん、そうだなぁ……緑くんが逃げようとした時、海がいきなり現れた。だけどその間、エンジン音や声は同じ場所から聞こえてきていた。救出した時も、すぐそこにいた。瞬間移動したという可能性は低い。思うに、緑くんは海と思わしきものを見た」
「しかし、一面アスファルトだ。そんなものは無いぞ」
刀也がすかさず反論を入れる。その反論を受けてなおも八雲は落ち着き払って話を進めた。
「……光というのは、屈折するんだ。蜃気楼がその代表例だね。あれは見えている物のある方向にしか現れないけど……もし、霧の粒が意図的に光を反射させたら、全く別の方向に鏡写しの風景を出現させる事だって可能だ。そう思わないかい?」
近未来的な技法を生物が実現化したという突拍子もない仮説。だがそれ以外に上手い説明もつかず、考えることを放棄した男衆はそうだと決めつけて話をすることにしたようだ。
「……はっ! 水滴を使った投影ってか! おもしれぇ、人間様の技術より発達した荒獣かよ!」
「タネが明かされたようだな。MCV、射撃準備だ。空中にいる荒獣を吹きとばせ」
『了解』
陸佐が命令すると、砲塔内から小さな金属音が漏れ始める。砲弾を装填しているのだ。
砲口の近くにいると吹き飛ばされかねないため、全員MCVの後ろへ下がるよう命令される。その際、刀也が何かを閃いて指を空に向けた。
「陸佐、霧を吹き飛ばすなら丁度いいやつを知ってますよ」
「上? ……ふむ、やって見るか」
男達は話についていけてないハンター達を尻目に、勝手に作戦を立て始める。少女たちはMCVの後方でウロウロとするばかり。こういう時ばかりは弱い。
「C-2、まだいるか? 地上の霧は見えるな? よし、低空飛行で吹き飛ばしてくれ。ああ、思い切りやっていい」
陸佐の許しを得た刀也が無線で輸送機を呼び出す。その横で、別に無線機を口に当てた陸佐がついに攻撃開始の命令を下した。
困惑を伴った声が無線機から発せられた。同時に砲塔がゆっくりと旋回し、霧の中の一点を見つめるようにピタリと止まった。
「俺の目の前? ……手だけ入れるならいけそうじゃないすか?」
「引き込まれたらどうす……隼、手を繋いで、何かあったら引っ張ってやれ」
「分かりました」
真っ先に空挺三人衆が動く。隼が僧帽の手を取り、僧帽は霧の中に半身を突っ込んだ。他のものはいつ何があるか分からず固唾を飲んで様子を見守る。
「ん、お……あれ? ……あった。おーい、緑さん大丈夫ですか? ……反応がねえな」
ガンガンと86の後ろを叩いて緑を呼んでみるが、予想通り返事はない。空挺三人衆は次の段階へと移る。
「ちょっと全身入ってもいいですか?」
「……俺は隼の手を持つ。早くしろよ?」
「あざす」
刀也が隼の手を繋ぐと僧帽は体勢を低くし、更に霧の深くへと入っていく。その様子を見て、菜々が心配そうに楽を見た。
「ねえ、あの三人何やってるの?」
「僕も分からない」
「車を引っ張り出すんじゃないでしょうか」
レモンが自分の考えを、自分でも半信半疑でありながら口に出す。
ロープでも持ってきていれば話は別だが、いくら軽量化の施された車とはいえ素手で掴んで引っ張り出すなど……。
「まさか」
「そんなわけが……」
「ありますわよ」
まるで、そうしないとは露ほどにも思っていませんといった様子の鈴谷に目を丸く見開いた顔が三つ向けられた瞬間だった。
「うんっ!」
タイヤというのは転がり出すと早いもので、僧帽が思い切り力を込めた瞬間86はゆっくりと動き出し、そのままの速度で霧の中から日の元へ戻ってきた。
運転席にはぐったりとした様子の緑が頭を垂れて座っている。
「緑っ!」
菜々が車に駆け寄り、ドアを開けて緑を引きずり出した。ズルズルと力の入っていない四肢がアスファルトの上に引き伸ばされる。
「緑! あんたしっかりしなさい!」
「……ぅ……ぁ……菜々……?」
揺さぶられて起きた緑が、若干掠れた声で菜々を呼ぶ。それから自分の手を頭に伸ばし、目の辺りを押さえて首を振った。まだ視界や意識がはっきりしていないようだ。
「……良かった。何があったの?」
「……はっ! そうだ! いきなり瞬間移動してだな! 海に落ちそうになって! そしたら奴らがぶわーっと」
「落ち着け!」
「いだい」
緑は飛び起きるも混乱が抜けていないのか訳の分からない説明をし始め、良太郎にゲンコツを食らうのだった。
「……というわけだ」
水を飲んで緑は落ち着き、改めて自分の陥った状況を皆に説明する。逃げようとしたが瞬間移動し、霧の荒獣に襲われたと。
話を聞いた全員が顔を見合わせしばらく固まっていたが、八雲だけはいち早く納得のいく答えを導き出せたようだ。
「うーん、そうだなぁ……緑くんが逃げようとした時、海がいきなり現れた。だけどその間、エンジン音や声は同じ場所から聞こえてきていた。救出した時も、すぐそこにいた。瞬間移動したという可能性は低い。思うに、緑くんは海と思わしきものを見た」
「しかし、一面アスファルトだ。そんなものは無いぞ」
刀也がすかさず反論を入れる。その反論を受けてなおも八雲は落ち着き払って話を進めた。
「……光というのは、屈折するんだ。蜃気楼がその代表例だね。あれは見えている物のある方向にしか現れないけど……もし、霧の粒が意図的に光を反射させたら、全く別の方向に鏡写しの風景を出現させる事だって可能だ。そう思わないかい?」
近未来的な技法を生物が実現化したという突拍子もない仮説。だがそれ以外に上手い説明もつかず、考えることを放棄した男衆はそうだと決めつけて話をすることにしたようだ。
「……はっ! 水滴を使った投影ってか! おもしれぇ、人間様の技術より発達した荒獣かよ!」
「タネが明かされたようだな。MCV、射撃準備だ。空中にいる荒獣を吹きとばせ」
『了解』
陸佐が命令すると、砲塔内から小さな金属音が漏れ始める。砲弾を装填しているのだ。
砲口の近くにいると吹き飛ばされかねないため、全員MCVの後ろへ下がるよう命令される。その際、刀也が何かを閃いて指を空に向けた。
「陸佐、霧を吹き飛ばすなら丁度いいやつを知ってますよ」
「上? ……ふむ、やって見るか」
男達は話についていけてないハンター達を尻目に、勝手に作戦を立て始める。少女たちはMCVの後方でウロウロとするばかり。こういう時ばかりは弱い。
「C-2、まだいるか? 地上の霧は見えるな? よし、低空飛行で吹き飛ばしてくれ。ああ、思い切りやっていい」
陸佐の許しを得た刀也が無線で輸送機を呼び出す。その横で、別に無線機を口に当てた陸佐がついに攻撃開始の命令を下した。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】アリスエロパロシリーズ
茉莉花
ファンタジー
家族旅行で訪れたロッジにて、深夜にウサギを追いかけて暖炉の中に落ちてしまう。
そこは不思議の国のアリスをモチーフにしているような、そうでもないような不思議の国。
その国で玩具だったり、道具だったり、男の人だったりと色んな相手にひたすらに喘がされ犯されちゃうエロはファンタジー!なお話。
ストーリー性は殆どありません。ひたすらえっちなことしてるだけです。
(メインで活動しているのはピクシブになります。こちらは同時投稿になります)
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界
レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。
毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、
お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。
そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。
お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。
でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。
でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる