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スピードガールズ

89体目 好きの確認6

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(なぁっ!?)

 気づいたら、怒りが深すぎて無感情になった目がすぐ隣で自分を見ていた。その引き絞られた瞳孔は、血の海があるとすればそれの底のよう。
 赤く、それでいて全ての色を飲み込むほど暗い。深い。

 左手を首から頭まで一周するように回され、上半身をベッドに落とされる。
 左手によるロックはすぐに解除されたが、入れ替わるように右手が押さえつけ、左手は別のところへ回されていた。

(こんな体力どこに! あの一瞬で上半身を起こし、私の頭を掴んだというのか!?)

 突如の反撃に驚く事しかできない。混乱するが、頭を押さえつけられ視界が取れない事で、刺激には敏感だった。

(う……何する気だ……まさか、そこは……)

 菜々の左手は背筋をなぞり、臀部に到達する。狙いは間違いなく、アナルであった。神経を直接なで回されている様なくすぐったい感覚が背骨の中を動き回る。

「……」

「まっ……!」

 冷徹に緑を見下ろす菜々の左手、その中指が愛液を掬うとアナルにあてがわれる。
 緑のアナルは多少の抵抗……締め付けを除いて、中指を完全に受け入れてしまった。筋肉のドーナッツはゆっくりと押し広げられ、閉じる気配はない。

「ぁ……」

 これからされる事に恐怖し、顔を歪ませ、期待で秘部を濡らし陰茎をパンパンに腫らす。

 緑のひきつったような短い呼吸が続く。

 菜々は動かない。

「……?」

 不思議に思った緑が身体を捻ろうとするが、未だ右手が頭を押さえつけており、身動きできない。

(なんだ? なぜ動かない。何をしているんだ菜々。早く……じゃないと、これマズい……)

 期待に膨れ上がった陰茎からはカウパーが漏れ出していた。欲求のシロップがトクトクと甘い空気の中を滴り落ちていく。

 それを上から見下ろす菜々の目は、しかし無表情のままである。

(カウパー……予想通り、焦らしに耐えられなくなってきてる。後はタイミング……)

 一切の感情を排除した機械的思考の結果、緑を焦らすことに決めた菜々は、まるで釣りのさなか水面の浮きが引っ張られるのを待つが如く、腸壁の蠢きと締め付けを待っていた。
 快楽の欲求。そこにあるのに届かぬもどかしさは身体を掻きむしらんばかり。シーツと髪を巻き込んで握りしめられた拳がブルブルと震える。

(なっ、菜々っ! 早く……も、もう無理だっ!)

(動く……必ず動く……もう少し……きた)

 ほんの僅かな変化を菜々は見逃さなかった。指にまとわりついた腸壁のごく一部がせり上がるように中指をつつき、快感を催促する。
 焦らしは十分。応えてやらない手……いや指はない。

 中指でアナルを素早く擦る。肉と肉の触れ合いで熱を帯びる。
 即座には快感に繋がらない愛撫の気持ちよさは、時間差で津波のように押し寄せる。

 それは、緑に負けを認めさせるに十分な一撃となった。

「ああああっ!? ……あ……へあ……やああああああああ! おあああああっ! おおおおああああああああああああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 ありえないほど的確に、タイミングと弱点を測った指先の淫撃は理性や意識といったものを根こそぎ押し流した。
 絶対的な一撃が緑を襲う。全身を埋め尽くす濁流に溺れる。
 肉のスポンジが締まり、指の形をより一層意識させられて白目を剥く。精子と愛液を飛び散らせ、右手の押さえつけを破って身をよじり喘ぐ。
 唾液と涙で濡れたその顔は、まさに敗者のものだった。

「おごおぉ……あひっ………………ま、まへ……まへです……ひぃぎゃあああっ!? 菜々!? 待って……まっ……おおおおおおっっっ!」

 プライドより生存本能が勝り、屈辱を口にする。しかし、菜々の機械的思考は止まらなかった。
 熱の収まらない肉の洞窟に突っ込んだ指を動かし続ける。鋭敏になったアナルを刺激され、下半身だけを高く上げて舌を出しベッドの上でもがく。
 ボタボタと白い体液がまき散らされ、落ちた。

(絶頂確認。この隙に二撃目を叩き込む。再起不能まで追いやる)

「まっでぇええええええええええええ! む゛り゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛イ゛ク゛イ゛ク゛イ゛ク゛イ゛ク゛ッッッッッ!」

 快楽の浸水が止まらない。全身を包み、もみくちゃに揺さぶる絶頂の波が身体の中を埋め立てて行く。
 勢いよく雌の汁がだらしなくぶちまけられた。下半身が水濡れになる。すえた香りが鼻を突く。
 甲高い嬌声が部屋に鳴り響く。

(連続絶頂。まだ体力はある。反撃の芽を摘む)

「だずげっ! ゆるじで……やだぁああ……やだああああああああああああああああ!」

(三連続。完全に叩きのめすまで終わらない)

「ああああああああああーーーーーーーーっっっ! 許してっ! 許じでええええーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 快感の暴力が頭の中を白く染めていく。一心不乱に弱点を責め続ける指に涙を流して許しを請う。
 乱れた髪はやけに綺麗に広がっていて、水の上に浮いたよう。しかし快苦に白い身体がくねると合わせてゆらゆらと淫靡に泳ぐ。
 思考は混濁している。熱湯の濁流に飲まれて何も考えられない。強烈な対流に踊り狂わされるよう。甘い熱さで気が狂いそうになる。

(怒ってるのか!? なんなんだ! いやだ……いやだこれ以上イキたくない! いやっ! いや、いや……いやああっ!)

「た、耐えっ……あぎっ……ああああああああああっっっ! 無理ぃいいいいいいいいいっ! ごんなの゛む゛り゛いいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 どうやっても息苦しいほどの圧迫感から解放されない絶望に顔を歪ませる。いつも端正なその顔は、今や涙と涎で見る影もない。
 尻穴が焼けるように熱をはらむ。身体が熱いのか冷たいのかよくわからない。甘い感覚が急流になって脳に流れ込む。波紋が重なって高波になる。
 陰唇の奥から、肉棒の中から出てくる淫液は壊れた蛇口から出る水のように。テカる皮膚はピンク色を帯びたガラスのようで。
 五感の何もかもが正常に動いてない。

 白いスパークが視界を埋め尽くす。ただベッドのシーツと見分けがつかない。
 この甲高い音は耳鳴りなのか、はたまた自分の声帯から出ているのか。多分後者なのだろう。
 愛液が流れすぎてしょっぱい香りがした。そんな香りがしたか。
 舌が甘い。味蕾がぱっくりと開いている。
 全身の皮膚は感じているのかもわからない。空気の流れも液体の伝う様も訴えては来るが。

 意味が、分からなくなって、ただカラメルのような感覚が自分の意識に入って溢れる。

 一度支配されたら、戻れないような気がした。

(四連続。まだ……)

(菜々に壊されるっ……)

「菜々ぁあああああああああああぁぁぁ!」

 緑は遠のきかける意識の中で最後の力を振り絞り、菜々の名前を叫んだ。絶叫は果たして、届いたようだ。

(まだ………………緑っ!?)

 名前を呼ばれ正気に戻る菜々。緑は……相当に振り乱したであろう黒髪をシーツの上に滅茶苦茶に伸ばし、涙を流して必死に短い呼吸を繰り返していた。四肢に至っては潰れたカエルのようだ。

「やだっ! うそ……緑! 緑大丈夫!?」

「ひっ、はひっ、はひっ……」

 意識が飛びかけているのか虚ろな目をして舌を小さく出し、呼吸に混じって嗚咽のような喘ぎ声を出している。
 菜々は刺激しないようゆっくりと指を抜き、何もできないながらに心配して手を握る。

「緑……ごめんなさい、やりすぎたわ……」

「はあっ、はあっ……」

 菜々は緑の額に謝罪の意を込めて口付けすると、向き合うように自分も寝転がった。
 その内に緑の意識が回復し、周りが見えるようになる。

「はー……はー……は……ぁ……菜々……?」

「大丈夫? 緑……」

 菜々はこめかみから後頭部へと髪を梳くように頭を撫でる。その安心感と心地よさに緑は目を細めた。

「……ああ、まあな……また負けてしまったのは悔しいが……」

「一対一が強いって取り柄くらいは残してほしいのよ。じゃないと、私あなたの下位互換になるじゃない」

 安否を確認してホッとすると、今度は緑をフォローする。

「そんな事はないだろうが……まあ、今はそういう事にしておく」

「ありがと。……少し、眠りましょう? 凄く疲れたわ」

「誰のせいだ、誰の……」

「あなたよ」

 やりあって、勝ったら今度は睡眠とは勝手なものだと緑は疲れた様子で溜息を吐く。そこに飄々と言い張る菜々。

「なに? バトルと言い出したのは菜々だ……」

「文句あって? 二回戦目をやっても良いのよ?」

「ぅ……勘弁してくれ」

 緑はつないだ手に力を入れて反抗した。しかし菜々にそれ以上の力で握られ、更に脅されて手の力を抜く。

「ふふ、怖じ気付いたわね」

「……」

「冗談じゃない。嫌そうな顔しないでよ、ね? ……ん」

 つまらなそうに口を尖らせる緑に、菜々は唇の先端を付けて離す。された緑は驚いて肩を震わせた。

「ん! ……恥ずかしいぞ、菜々」

「何が恥ずかしいのよ。……ね、緑。こうやって腰に手を回して抱き合って、脚を絡ませるの。凄くあったかいわ。こうして寝ましょう?」

「甘えすぎだ……全く」

(甘えてるのはどっちかしら。抱きしめるのも絡ませるのも緑の方が強くて深いのに……ま、いいわ)

 面倒な思案は引っ込め、菜々は頭を緑の胸に押し付けて気だるげにこう言う。

「おやすみなさい、緑……」

 緑の方も眠気が強くなってきたのか、菜々の頭に自分の頭を乗せるようにして、囁いた。

「おやすみ、菜々……」

 二人の少女は身体を重ねて夢の世界へと落ちていく。
 どんな夢を見ているのか。きっと、二人とも同じような夢を見ているのだろう。

 天使のように柔らかな笑みが二つ、寄り添って穏やかな寝息を立てていた。
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