5 / 120
荒ぶる獣
1体目 荒獣
しおりを挟む
「ふー……」
灰色の空の下、重たい空気を纏った風がまとわりつくように吹き、通りを淀ませる。
割れたアスファルトの上で、埃が低く舞う。劣化した廃墟の一部が剥がれ落ち、上空から落ちていく。
落ちるコンクリートの欠片は、ビルの下層から空中に手を伸ばした植物に当たって砕け、バサバサと音を鳴らした。
そんな荒廃した摩天楼の中心で、一人の少女は周りに現れた自身の倍はあろうかという大きさの獣を前にして、呆れたようにため息をついた。
黒い獣は丸々とした姿からは想像もつかないほど血走った、身体の半分を占める巨大な目を見開き、同じく巨大な口からボタボタと涎を垂らしている。
それが五体。
「また『デイビーズ』か。時間取りも甚だしいな」
少女は長い黒髪を揺らし端正な顔立ちを更に引き締めながら獣を睨みつける。
『荒獣』が出たと聞いてやってきたが、ザコではないか……と。
一体人をなんだと思っているのか、などと愚痴を零しながらも自らの後ろに控える無力な住民の事を思い出し、漆黒のボディスーツを脱ぎ始める。
前に付いたファスナーを下ろし、光沢のある化学繊維をめくるとその白いながらにも健康的な肌色が顕になった。女性らしさを殊更に強調したような豊かな張りと締まりのある美貌が、スーツに包まれていた時よりも一層の輝きを持って獣の群れを誘惑する。
少女は「デイビーズ」と呼んだ異形へと近づく。すると、獣の方も彼女へゆったりとした動きで近づいた。まるで獲物を絡めとるように、嫌らしく。
その距離が至近となると、獣の身体に異変が訪れる。黒く長く伸びた硬い毛は短くなって殆どが皮膚の中へ収納され、同時に身体は円状から縦に細長く整形される。
目は小さくなり上部へ移動し二つに分かれ、鼻が突き出し皮膚の一部が横に裂けて唇となる。
時間にしてほんの一秒ほどで、獣は人の女の姿へと形を変えた。丁度よく膨らんだ胸が白い肌に乗り、スラリと伸びた肢体が滑らかに動く。
ただし、その股間には女に無いはずのものが備わっていた。女に変わった獣は全身白粉を塗りたくったような色をしていたが、そこだけは血が通っていることがハッキリと見て取れる。
ギリギリとふたなりをいきり立たせた五体の女は一人の少女に襲いかかった。少女は押し倒され、あらゆる方向から身体全体を責められる。
首筋を甘噛みされ、両胸をこねくり回され陰核を指の腹で押され、脚を舌先で舐められる。
熱が入った身体は赤い先端をピンと勃たせ膣内を濡らした。普通であれば腰をくねらせて喘ぎ、脱力して快感に身を任せていてもおかしくない。
だが、少女は薄らと自信に満ちた笑みを浮かべ自らに侵入してくる肉棒を難なく受け入れた。
「ふ、いいぞ。来い。私に、人では敵わぬ性獣の本能を見せてみろ。代わりに一体一度きりの絶頂を味あわせてやる……んはぁっ!」
ズンっと音を立てて肉のカーテンを押しのけてふたなりペニスが突き立てられて抽送が始まり、そこでようやく少女は言葉を止めて喘いだ。
『荒獣』は数十年前、突如として現れた。当初は人よりも小さい小型のものばかりで、銃火器で撃退できたため普通の獣として扱われていた。
しかし荒獣の大きさも数も飛躍的に増大していく。終いには、銃火器で撃退した側から新たな荒獣が現れる……という状況だった。
各国が死に物狂いで荒獣を研究した結果、大型の荒獣は「コア」と呼ばれる赤いガラス状の正六面体を持ち、再生するという事が判明した。
だが「コア」は既存の方法では破壊できない。そんな常識の元、各国はコアを破壊する方法を模索し続けた。
しかし転機は訪れる。
今は無き荒獣保護団体の女性が荒獣と愛を育もうと性交を行い、対象の荒獣を倒すことに成功した(当然彼女としては望まぬ結果だったのだが)という情報が流れ、それが各国の試験部隊によって明らかとなったのだ。
そうして荒獣への抵抗策と希望を得た人類は、遅きに失したものの各地に要塞都市を建設。荒獣の執拗な攻撃に対しては防御を固めつつ、世界の覇権を取り返すための反攻作戦を練っている。
ここ日本も例外ではなく、まずは世界最大規模を誇ったメガロポリス「東京」その全てを手中に収めようと動いていた。
……さてここで一つ、疑問が発生する。もしかすれば荒獣を仲間にできるのではないか、と。
未だ成功例は無いが共に闘える荒獣を求めて、また荒獣を確実に消し去る為、女性のみで構成された特殊部隊が各国で構成された。
その特殊部隊の呼び方は色々あるが、行政が分かりやすさとウケの良さを両立させようとした結果「狩猟者」が最も一般的な名前となっている。
どろりとした風も吹き止んだ頃。タンッタンッと軽快に乾いた音がコンクリートの狭間に響いていた。
5対1の数的不利にも関わらず少女は持てる武器の全てを使い、裸の彼女を見て人の女のような身体になったデイビーズのふたなりから精液を絞り出していた。
「んっ……ふぅ……はあっ!」
「ゥ……グアッ……デ、デル!」
「んあああっ!」
少女はドクリと熱い塊を注ぎ込まれ、頬を紅潮させて大きく喘ぐ。長い黒髪が透き通るような雪肌の上で小さな宝石となった汗に濡れて張り付き、卑猥さを強調していた。
少女が立ち上がると同時に最後のデイビーズの体が急速に萎んでいく。まるで身体の水分が物凄い勢いで蒸発しているようだ。後に残ったのは干からびたような死骸であった。
少女は荒い息を整えると、今日二度目のため息をつく。
股間は二種類の液体で濡れそぼり、未だ膣奥から白濁液が零れ落ちてくる。
弄られた乳蕾やクリトリスはまだ張りつめていたが、性交自体の気持ちよさは曖昧で股の辺りが気持ち悪い。すぐにパンツを履く気にはなれなかった。
だが、気のせいだろうか。最近は雑魚も手強くなってきているように感じていた。今までならこんなにも感じることなど無かったのに、と少女は悔しそうに歯を噛み締める。
……不意に、気配を感じた。
後ろを振り返ると、鉄筋コンクリートの柱の頂上に陣取る巨大な荒獣の姿が。灰色の空と灰色の地面に囲まれた視界の中で、圧倒的な存在感を示す白銀の毛並みを纏った強き獣。
「なるほど……コア持ち……『白狼』か。いいぞ、何度でも楽しませろ!」
デイビーズだけなわけが無いよな、と一人納得する少女。自分にしか分からないくらいに小さく緊張の唾を飲み込むと中位の荒獣に向かって堂々と、そして優雅に歩いていった。
三瓶緑━━先日一人で『白狼』を倒したと噂になっている少女だ。
長い黒髪と豊かなプロポーション。その美貌と常に自信を宿した不敵な姿で有名なトップクラスのハンターである。
曰く、彼女を気に入らなかった先輩ハンター五人を返り討ちにした。(当然、性技は1年でも長く鍛錬している方が有利なので、普通下克上は1vs1でも不可能と言われている)
荒獣討伐数100体・200体日本最速レコードを打ち立てた。
というか200体討伐は日本では彼女が初。
など、一部眉唾物の話を除いても確かな実績に裏打ちされた強さを誇り、ファンが多い。
サバサバして着飾らず化粧っ気が少ない(しても薄化粧で愛用の化粧品もさりげなさを主張したものばかり)事も、彼女の場合は周りに好印象を与えるようで、その点は特に男からの人気が高い。
志願して軍に入ってくる男の三分の一は彼女を一目見るためだという噂もある。
彼女は最初にその噂を聞いたとき笑い飛ばし、だが自信たっぷりに「まあ少なくはないだろうな」と言ったそうな。
さて緑が先日倒した白狼は中位荒獣と呼ばれる分類に入る。通常、中位荒獣は三人以上のチームで対処する。それができなければ装甲車などで一時的に破壊しておくのがセオリーだ。
しかし緑はたった一人で白狼に挑み、勝ったという。そんな噂が流れれば、良い意味で驚かれるのは当然と言えた。
……当の本人を除いて。
(一人で白狼を撃破した、か……)
実際には白狼のスピーディな腰使いに翻弄され、最後は何度もアクメを決めながら白狼の自爆待ちという無残なものだった。
自分の身体と膣内に二度三度とかけられる精液の中に、六度目の射精でようやく赤く光るコアを見つけた時はどれほど安心したものか。
その上、コアを失って全身の水分を失いカラカラに萎びて死に絶える白狼を見て、緊張感の緩みから気絶までしてしまったのだ。
近くに待機していた装甲車が回収してくれなければ、別の荒獣に連れ去られていただろう。それほどまでに無様な勝ち方だった。
それでも一人は一人と、軍は戦意高揚のために都合の良い話だけを切り取って流す。となれば、緑が白狼を翻弄し搾精した、などと性欲の権化のように語られるのは目に見えていた。
(まあ、ここは一つお上の意向に乗っておこう)
誤解を解くだのうじうじと悩むだのといったことはせず、素直に開き直っておく。
ただ、こんな噂が流れれば突っかかってくる者も当然現れるわけで。
「ちょっと! アンタ白狼倒したからって、いい気になってんじゃないわよ!」
年は緑と同じくらいか。赤髪を黒いビスケット型の髪留めでツインテールにした少女が廊下の向こうからズカズカとやってきた。
「なななか」
「誰がなななよ! ちゃんとした名前があるのよ!」
「サラダ」
「サラダでも無いわよ!」
現れて早々弄られているのは紅菜菜々。な(菜)が三つ続くという非常に変わった名前のため、ななな、野菜、サラダなど不憫な愛称を付けられている。
顔は童顔だし体型もスレンダーで背も低いが、背景に溶け込むことなどない絶対のアイデンティティである紅色の髪を二分に伸ばし、堂々と歩く自信家。
気も強く、周りの嫉妬や悪口は全てねじ伏せてきた。
服装や化粧に関しても緑とは反対で、自分を魅せるような飾り方をする。嫌味にならないぎりぎりの線を狙うレベルだ。
特に洋服は大好きでブランド問わず気に入ったものを集めている。
それは華奢な体型のせいで周りにバカにされ押しつぶされないための、彼女なりの防衛なのだろうか。
ハンターとしてはもちろんトップクラスで、緑があらゆる戦闘に対応するエキスパートなら菜々は一点集中型のプロフェッショナルだ。
「で、どうした」
「どうしたじゃないわよ! アンタが白狼を倒したって話、本当なの!?」
菜々がやけに上からものを言っていたのはそういう事かと、緑は噴き出しそうになった。
菜々と緑の成績は同程度。緑自身はあまり気にしていないが皇都内で一、二位を争うライバルの関係である。
成績が近いだけに、緑が白狼を討ち取った事が気に入らないのだろう。その事にイチャモンを付けに来た、本当にただそれだけの事なのだ。
これは殊勝な事だ。からかってやらねばなるまい…。
「ああ、本当だ」
「!」
菜々は目を見開き、小さな口を固く閉じて怒りを顕にする。余程悔しいに違いない。
「あの程度、私の胸だけで充分だったよ。けど、白狼が物欲しそうにしていたからな。少し付き合ってやったのさ」
緑が少し煽ると菜々はキッと睨む。特に、緑が強調した胸を睨みつけているようだった。無いものを言葉でも行動でも強調され、腹が立ったのだろう。
更に緑がわざと、その巨乳を揺らしながら菜々の小さな膨らみに押し付けると額に青筋が浮かんだ。
バチバチと空中に火花が散る。
「……そう。なら、私だって、できるわ。アナタより、上だもの」
菜々は必死に怒りを抑えながら、一つ一つ言葉を区切る。そして足早に歩き出した。……外門の方へ。
「お、おい。菜々?」
「手出し無用よ。一人で白狼を倒す」
「待て、本当に一人だけじゃ危なすぎる……」
菜々は緑の言葉は聞き入れない。二人は基地の外へ出ていく。二台の公用車がスラム街のような町を覆うコンクリートの門を潜り、荒廃した都市へと走っていく。
無限に広がる鉄筋コンクリートの群れ。そのほとんどが、明るく輝いていたガラスを失いうつろな目で退廃の進む大都市を見つめている。
最近は、その不気味な姿も地面を割り這って勢力を伸ばす植物の緑で彩られつつあった。
かつての大通りの端で陥没が起きて池ができ、小川が流れる。その周囲に苔まで生える。
植樹された無数の木が大樹へと成長していく。桜の木がとある建物を呑み込む。
ビルの屋上からツル植物が地上めがけて手を伸ばす。それどころか、室外機の上に堂々と根城を構える低木すら現れる始末だ。
かと思えば、未だ植物に侵食されず真っ黒な地面に白と黄色の直線を残す道路も残っている。ただ、その景色が草に覆われるのは時間の問題だろう。
灰色と緑色が共存するかつてのメガロポリスを、青い空だけが変わらずに照らしている。
倒壊寸前のビルが立ち並ぶ今の東京。人が住んでいるのは、皇居を取り囲むように建てられた城壁の中「日本国第一城塞都市東京」、通称「皇都」だった。
灰色の空の下、重たい空気を纏った風がまとわりつくように吹き、通りを淀ませる。
割れたアスファルトの上で、埃が低く舞う。劣化した廃墟の一部が剥がれ落ち、上空から落ちていく。
落ちるコンクリートの欠片は、ビルの下層から空中に手を伸ばした植物に当たって砕け、バサバサと音を鳴らした。
そんな荒廃した摩天楼の中心で、一人の少女は周りに現れた自身の倍はあろうかという大きさの獣を前にして、呆れたようにため息をついた。
黒い獣は丸々とした姿からは想像もつかないほど血走った、身体の半分を占める巨大な目を見開き、同じく巨大な口からボタボタと涎を垂らしている。
それが五体。
「また『デイビーズ』か。時間取りも甚だしいな」
少女は長い黒髪を揺らし端正な顔立ちを更に引き締めながら獣を睨みつける。
『荒獣』が出たと聞いてやってきたが、ザコではないか……と。
一体人をなんだと思っているのか、などと愚痴を零しながらも自らの後ろに控える無力な住民の事を思い出し、漆黒のボディスーツを脱ぎ始める。
前に付いたファスナーを下ろし、光沢のある化学繊維をめくるとその白いながらにも健康的な肌色が顕になった。女性らしさを殊更に強調したような豊かな張りと締まりのある美貌が、スーツに包まれていた時よりも一層の輝きを持って獣の群れを誘惑する。
少女は「デイビーズ」と呼んだ異形へと近づく。すると、獣の方も彼女へゆったりとした動きで近づいた。まるで獲物を絡めとるように、嫌らしく。
その距離が至近となると、獣の身体に異変が訪れる。黒く長く伸びた硬い毛は短くなって殆どが皮膚の中へ収納され、同時に身体は円状から縦に細長く整形される。
目は小さくなり上部へ移動し二つに分かれ、鼻が突き出し皮膚の一部が横に裂けて唇となる。
時間にしてほんの一秒ほどで、獣は人の女の姿へと形を変えた。丁度よく膨らんだ胸が白い肌に乗り、スラリと伸びた肢体が滑らかに動く。
ただし、その股間には女に無いはずのものが備わっていた。女に変わった獣は全身白粉を塗りたくったような色をしていたが、そこだけは血が通っていることがハッキリと見て取れる。
ギリギリとふたなりをいきり立たせた五体の女は一人の少女に襲いかかった。少女は押し倒され、あらゆる方向から身体全体を責められる。
首筋を甘噛みされ、両胸をこねくり回され陰核を指の腹で押され、脚を舌先で舐められる。
熱が入った身体は赤い先端をピンと勃たせ膣内を濡らした。普通であれば腰をくねらせて喘ぎ、脱力して快感に身を任せていてもおかしくない。
だが、少女は薄らと自信に満ちた笑みを浮かべ自らに侵入してくる肉棒を難なく受け入れた。
「ふ、いいぞ。来い。私に、人では敵わぬ性獣の本能を見せてみろ。代わりに一体一度きりの絶頂を味あわせてやる……んはぁっ!」
ズンっと音を立てて肉のカーテンを押しのけてふたなりペニスが突き立てられて抽送が始まり、そこでようやく少女は言葉を止めて喘いだ。
『荒獣』は数十年前、突如として現れた。当初は人よりも小さい小型のものばかりで、銃火器で撃退できたため普通の獣として扱われていた。
しかし荒獣の大きさも数も飛躍的に増大していく。終いには、銃火器で撃退した側から新たな荒獣が現れる……という状況だった。
各国が死に物狂いで荒獣を研究した結果、大型の荒獣は「コア」と呼ばれる赤いガラス状の正六面体を持ち、再生するという事が判明した。
だが「コア」は既存の方法では破壊できない。そんな常識の元、各国はコアを破壊する方法を模索し続けた。
しかし転機は訪れる。
今は無き荒獣保護団体の女性が荒獣と愛を育もうと性交を行い、対象の荒獣を倒すことに成功した(当然彼女としては望まぬ結果だったのだが)という情報が流れ、それが各国の試験部隊によって明らかとなったのだ。
そうして荒獣への抵抗策と希望を得た人類は、遅きに失したものの各地に要塞都市を建設。荒獣の執拗な攻撃に対しては防御を固めつつ、世界の覇権を取り返すための反攻作戦を練っている。
ここ日本も例外ではなく、まずは世界最大規模を誇ったメガロポリス「東京」その全てを手中に収めようと動いていた。
……さてここで一つ、疑問が発生する。もしかすれば荒獣を仲間にできるのではないか、と。
未だ成功例は無いが共に闘える荒獣を求めて、また荒獣を確実に消し去る為、女性のみで構成された特殊部隊が各国で構成された。
その特殊部隊の呼び方は色々あるが、行政が分かりやすさとウケの良さを両立させようとした結果「狩猟者」が最も一般的な名前となっている。
どろりとした風も吹き止んだ頃。タンッタンッと軽快に乾いた音がコンクリートの狭間に響いていた。
5対1の数的不利にも関わらず少女は持てる武器の全てを使い、裸の彼女を見て人の女のような身体になったデイビーズのふたなりから精液を絞り出していた。
「んっ……ふぅ……はあっ!」
「ゥ……グアッ……デ、デル!」
「んあああっ!」
少女はドクリと熱い塊を注ぎ込まれ、頬を紅潮させて大きく喘ぐ。長い黒髪が透き通るような雪肌の上で小さな宝石となった汗に濡れて張り付き、卑猥さを強調していた。
少女が立ち上がると同時に最後のデイビーズの体が急速に萎んでいく。まるで身体の水分が物凄い勢いで蒸発しているようだ。後に残ったのは干からびたような死骸であった。
少女は荒い息を整えると、今日二度目のため息をつく。
股間は二種類の液体で濡れそぼり、未だ膣奥から白濁液が零れ落ちてくる。
弄られた乳蕾やクリトリスはまだ張りつめていたが、性交自体の気持ちよさは曖昧で股の辺りが気持ち悪い。すぐにパンツを履く気にはなれなかった。
だが、気のせいだろうか。最近は雑魚も手強くなってきているように感じていた。今までならこんなにも感じることなど無かったのに、と少女は悔しそうに歯を噛み締める。
……不意に、気配を感じた。
後ろを振り返ると、鉄筋コンクリートの柱の頂上に陣取る巨大な荒獣の姿が。灰色の空と灰色の地面に囲まれた視界の中で、圧倒的な存在感を示す白銀の毛並みを纏った強き獣。
「なるほど……コア持ち……『白狼』か。いいぞ、何度でも楽しませろ!」
デイビーズだけなわけが無いよな、と一人納得する少女。自分にしか分からないくらいに小さく緊張の唾を飲み込むと中位の荒獣に向かって堂々と、そして優雅に歩いていった。
三瓶緑━━先日一人で『白狼』を倒したと噂になっている少女だ。
長い黒髪と豊かなプロポーション。その美貌と常に自信を宿した不敵な姿で有名なトップクラスのハンターである。
曰く、彼女を気に入らなかった先輩ハンター五人を返り討ちにした。(当然、性技は1年でも長く鍛錬している方が有利なので、普通下克上は1vs1でも不可能と言われている)
荒獣討伐数100体・200体日本最速レコードを打ち立てた。
というか200体討伐は日本では彼女が初。
など、一部眉唾物の話を除いても確かな実績に裏打ちされた強さを誇り、ファンが多い。
サバサバして着飾らず化粧っ気が少ない(しても薄化粧で愛用の化粧品もさりげなさを主張したものばかり)事も、彼女の場合は周りに好印象を与えるようで、その点は特に男からの人気が高い。
志願して軍に入ってくる男の三分の一は彼女を一目見るためだという噂もある。
彼女は最初にその噂を聞いたとき笑い飛ばし、だが自信たっぷりに「まあ少なくはないだろうな」と言ったそうな。
さて緑が先日倒した白狼は中位荒獣と呼ばれる分類に入る。通常、中位荒獣は三人以上のチームで対処する。それができなければ装甲車などで一時的に破壊しておくのがセオリーだ。
しかし緑はたった一人で白狼に挑み、勝ったという。そんな噂が流れれば、良い意味で驚かれるのは当然と言えた。
……当の本人を除いて。
(一人で白狼を撃破した、か……)
実際には白狼のスピーディな腰使いに翻弄され、最後は何度もアクメを決めながら白狼の自爆待ちという無残なものだった。
自分の身体と膣内に二度三度とかけられる精液の中に、六度目の射精でようやく赤く光るコアを見つけた時はどれほど安心したものか。
その上、コアを失って全身の水分を失いカラカラに萎びて死に絶える白狼を見て、緊張感の緩みから気絶までしてしまったのだ。
近くに待機していた装甲車が回収してくれなければ、別の荒獣に連れ去られていただろう。それほどまでに無様な勝ち方だった。
それでも一人は一人と、軍は戦意高揚のために都合の良い話だけを切り取って流す。となれば、緑が白狼を翻弄し搾精した、などと性欲の権化のように語られるのは目に見えていた。
(まあ、ここは一つお上の意向に乗っておこう)
誤解を解くだのうじうじと悩むだのといったことはせず、素直に開き直っておく。
ただ、こんな噂が流れれば突っかかってくる者も当然現れるわけで。
「ちょっと! アンタ白狼倒したからって、いい気になってんじゃないわよ!」
年は緑と同じくらいか。赤髪を黒いビスケット型の髪留めでツインテールにした少女が廊下の向こうからズカズカとやってきた。
「なななか」
「誰がなななよ! ちゃんとした名前があるのよ!」
「サラダ」
「サラダでも無いわよ!」
現れて早々弄られているのは紅菜菜々。な(菜)が三つ続くという非常に変わった名前のため、ななな、野菜、サラダなど不憫な愛称を付けられている。
顔は童顔だし体型もスレンダーで背も低いが、背景に溶け込むことなどない絶対のアイデンティティである紅色の髪を二分に伸ばし、堂々と歩く自信家。
気も強く、周りの嫉妬や悪口は全てねじ伏せてきた。
服装や化粧に関しても緑とは反対で、自分を魅せるような飾り方をする。嫌味にならないぎりぎりの線を狙うレベルだ。
特に洋服は大好きでブランド問わず気に入ったものを集めている。
それは華奢な体型のせいで周りにバカにされ押しつぶされないための、彼女なりの防衛なのだろうか。
ハンターとしてはもちろんトップクラスで、緑があらゆる戦闘に対応するエキスパートなら菜々は一点集中型のプロフェッショナルだ。
「で、どうした」
「どうしたじゃないわよ! アンタが白狼を倒したって話、本当なの!?」
菜々がやけに上からものを言っていたのはそういう事かと、緑は噴き出しそうになった。
菜々と緑の成績は同程度。緑自身はあまり気にしていないが皇都内で一、二位を争うライバルの関係である。
成績が近いだけに、緑が白狼を討ち取った事が気に入らないのだろう。その事にイチャモンを付けに来た、本当にただそれだけの事なのだ。
これは殊勝な事だ。からかってやらねばなるまい…。
「ああ、本当だ」
「!」
菜々は目を見開き、小さな口を固く閉じて怒りを顕にする。余程悔しいに違いない。
「あの程度、私の胸だけで充分だったよ。けど、白狼が物欲しそうにしていたからな。少し付き合ってやったのさ」
緑が少し煽ると菜々はキッと睨む。特に、緑が強調した胸を睨みつけているようだった。無いものを言葉でも行動でも強調され、腹が立ったのだろう。
更に緑がわざと、その巨乳を揺らしながら菜々の小さな膨らみに押し付けると額に青筋が浮かんだ。
バチバチと空中に火花が散る。
「……そう。なら、私だって、できるわ。アナタより、上だもの」
菜々は必死に怒りを抑えながら、一つ一つ言葉を区切る。そして足早に歩き出した。……外門の方へ。
「お、おい。菜々?」
「手出し無用よ。一人で白狼を倒す」
「待て、本当に一人だけじゃ危なすぎる……」
菜々は緑の言葉は聞き入れない。二人は基地の外へ出ていく。二台の公用車がスラム街のような町を覆うコンクリートの門を潜り、荒廃した都市へと走っていく。
無限に広がる鉄筋コンクリートの群れ。そのほとんどが、明るく輝いていたガラスを失いうつろな目で退廃の進む大都市を見つめている。
最近は、その不気味な姿も地面を割り這って勢力を伸ばす植物の緑で彩られつつあった。
かつての大通りの端で陥没が起きて池ができ、小川が流れる。その周囲に苔まで生える。
植樹された無数の木が大樹へと成長していく。桜の木がとある建物を呑み込む。
ビルの屋上からツル植物が地上めがけて手を伸ばす。それどころか、室外機の上に堂々と根城を構える低木すら現れる始末だ。
かと思えば、未だ植物に侵食されず真っ黒な地面に白と黄色の直線を残す道路も残っている。ただ、その景色が草に覆われるのは時間の問題だろう。
灰色と緑色が共存するかつてのメガロポリスを、青い空だけが変わらずに照らしている。
倒壊寸前のビルが立ち並ぶ今の東京。人が住んでいるのは、皇居を取り囲むように建てられた城壁の中「日本国第一城塞都市東京」、通称「皇都」だった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
魔法少女ピュアハメ淫らに堕つ~原理主義オタクの催眠調教~
猪熊夜離(いのくま よが)
ファンタジー
魔法少女ピュアハメは愛と正義の魔法少女である。他者からの愛を受け取って戦う彼女のエネルギーは、愛する者の精液。今日も幼馴染と近所の公園で青姦もといエネルギー補給に勤しんでいたはずが、全ては敵の催眠が見せる幻だった!
「幼女の憧れ魔法少女が膣内射精大好き変態女のはずがない。偽物め!」と歪んだ義憤を撒き散らして怪人化した男(元ピュアハメ大好きオタクくん)に捕まり、催眠で身体の自由を奪われ何度もアヘらされる魔法少女の明日はどっちだ!
【R18】アリスエロパロシリーズ
茉莉花
ファンタジー
家族旅行で訪れたロッジにて、深夜にウサギを追いかけて暖炉の中に落ちてしまう。
そこは不思議の国のアリスをモチーフにしているような、そうでもないような不思議の国。
その国で玩具だったり、道具だったり、男の人だったりと色んな相手にひたすらに喘がされ犯されちゃうエロはファンタジー!なお話。
ストーリー性は殆どありません。ひたすらえっちなことしてるだけです。
(メインで活動しているのはピクシブになります。こちらは同時投稿になります)
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる