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第8話:東京の最も長い1日
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一方、北条は解放された人質3人の後を追っていた。
(ここまで探しても、大山さんは居なかった……。考えられる可能性は、油断した人質達を狙う、出口までの道筋……!)
上へ、上へと大山の捜索をしていた北条だったが、人質が解放された時点でそれが間違いだということに気づいた。
(これまでずっと静かに娘さんの帰りを信じていた、忍耐強い人だ。短絡的な犯行なんていちばん可能性の低い方法だった。僕の読みが甘かった……。)
北条は、自分の読みの甘さを反省すると共に、大山の行動に不安を感じた。
(待って、待って待ち続けた娘が殺されていることを知り、それでも耐えて今まで接触していない大山さん……。彼らを見たらどうなってしまうんだろう……。)
娘を信じて待つという気持ちが無惨にも壊され、残ったのは犯人たちに対する怒り、恨み……。
「大山さん、ダメだよ……あなたの手が血に染まること、きっと娘さんは望んでないよ……!」
大山がどの位置で3人と接触するのか、皆目見当がつかない。
あらゆる状況を想定し、北条は3人から目を離さない。
そうこうしているうちに、大山と接触をしないまま、2階へとたどり着いた。
エレベーターで1階へも行けるが、3人は別の逃走経路から逃げようとしたのか、非常階段を2階まで下りたところでホールに出て走り出す。
(馬鹿な……正面玄関以外は犯人グループが全て押さえていることを知らないのか……?)
このとき、北条は3人が引き返してくるであろう方向を予測した。
しかし…………。
「娘を……返せ!」
大山は、そんな3人に引き返すことを許さなかった。
「大山さん!?」
どこから大山が出てきたのか、北条は慌てて周囲を見回す。
「!!」
その視線の先には、メンテナンス業者が使うための点検口が、口を開いたまま開け放たれていた。
「くっ……!盲点だった!……大山さん、やめるんだ!あなたまで血に染まる必要はないよ!」
必死に大山を止めようと走る北条。
それでも、半歩届かなかった。
大山の振り下ろした千枚通しが、無慈悲にも男のひとりをとらえる。
「あぁぁぁ!!」
千枚通しは男ひとりの太股に深々と突き刺さり、その男は地面に転がり、大きな悲鳴をあげる。
「何てことを……!!」
慌てて北条が取り押さえに入るも、大山は普段の性格からは考えられないような暴れようで、北条を振り払う。
「返せ!娘を返せ~ーー!!」
千枚通しを取り上げようにも、大山の握力が強すぎて手から離れない。
(くっ……虎だったらすぐに組伏せられるところなんだろうけど……厳しいな……。)
既に怪我人が出ている状況。
北条が珍しく、焦りの色を見せた。
北条を引きずるように、少しずつ男たちに近づいていく大山。
「大山さん!落ち着くんだ!いま、感情に任せて彼らを傷つけても、あなたのためにならない!」
「みさきが……娘が帰ってこないなら、もう私に失うものはないんです!それなら……いっそこの3人の息の根を止めてやる……!どれほど娘が苦しみ、辛い思いをしてきたか、身をもって、命をもって味わうがいい……!」
食いしばった歯が欠け、口からは血が流れる。
それでも大山は、3人に向かっていった。
「ひぃぃ……やめろ……死にたくない……!」
「許してくれ!金なら払う!」
口々に命乞いをする男たち。
しかし、大山は止まらない。
「お前たちも、嫌がるみさきを辱しめたんだろう!やめてというみさきを……!」
「頼む!なんでも言うことを聞くから……!」
男達のひとりが言った言葉に、大山の動きが止まった。
「なんでも……?」
「あぁ!なんでも言ってくれ!それで罪滅ぼしになるなら!」
「わかった……。」
大山の身体から、力が抜ける。
北条も、ようやく落ち着いたか、と安堵した。
しかし……。
「じゃぁ、あの世で3人、みさきに土下座して謝ってくれ……。」
ゆっくりと男たちに近づいた大山は、そのまま2度、3度と千枚通しを振るった。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「やめて!痛い……!!」
心臓を狙い振り下ろされる千枚通しは、防御しようとする男の腕を、掌を貫いていく。
(これじゃ、時間の問題だ……!)
このまま制止していても大山は止まらない。
そう感じた北条は、大山を背負い投げすると、そのまま拘束した。
「大山さん!落ち着いて!あなたまで殺人に手を染めることはない!みさきさんは、そんなことは望まない!!」
大きな声で諭すように、北条は大山に言う。
そして、大山の動きは完全に止まる……。
「あの日……」
少しの間。
大山は、溢れる涙もそのままに、当時のことを離す。
「あの日は、私の誕生日だったんです……。娘は……みさきは夕食は豪華なものを作るねって買い物に行って……そのまま……。怖かっただろう、辛かっただろう……!」
ついにはその場に突っ伏し、声をあげて泣いた。
「う、うぅ……助かった……!」
「刑事さん、早く救急車……!」
「早く帰りたい……!」
一方、九死に一生を得た3人の男たちは、安堵の声を漏らす。
「救急車は必要ない。これから君達には警視庁に来て貰う。全員逮捕だ。」
そんな3人に、北条は冷たい視線を向けた。
「君たちのやったことは、決して許されることではない……。絶対に逃がさないよ。人生を棒に振ってでも、償って貰う。」
「そ、そんな……」
項垂れる男たち。
(こんなやるせない気持ちは久し振りだ。……許さないよ、F……!)
こんな下らないゲームは、即刻終わらせてやる。
北条は、そう決意した。
(ここまで探しても、大山さんは居なかった……。考えられる可能性は、油断した人質達を狙う、出口までの道筋……!)
上へ、上へと大山の捜索をしていた北条だったが、人質が解放された時点でそれが間違いだということに気づいた。
(これまでずっと静かに娘さんの帰りを信じていた、忍耐強い人だ。短絡的な犯行なんていちばん可能性の低い方法だった。僕の読みが甘かった……。)
北条は、自分の読みの甘さを反省すると共に、大山の行動に不安を感じた。
(待って、待って待ち続けた娘が殺されていることを知り、それでも耐えて今まで接触していない大山さん……。彼らを見たらどうなってしまうんだろう……。)
娘を信じて待つという気持ちが無惨にも壊され、残ったのは犯人たちに対する怒り、恨み……。
「大山さん、ダメだよ……あなたの手が血に染まること、きっと娘さんは望んでないよ……!」
大山がどの位置で3人と接触するのか、皆目見当がつかない。
あらゆる状況を想定し、北条は3人から目を離さない。
そうこうしているうちに、大山と接触をしないまま、2階へとたどり着いた。
エレベーターで1階へも行けるが、3人は別の逃走経路から逃げようとしたのか、非常階段を2階まで下りたところでホールに出て走り出す。
(馬鹿な……正面玄関以外は犯人グループが全て押さえていることを知らないのか……?)
このとき、北条は3人が引き返してくるであろう方向を予測した。
しかし…………。
「娘を……返せ!」
大山は、そんな3人に引き返すことを許さなかった。
「大山さん!?」
どこから大山が出てきたのか、北条は慌てて周囲を見回す。
「!!」
その視線の先には、メンテナンス業者が使うための点検口が、口を開いたまま開け放たれていた。
「くっ……!盲点だった!……大山さん、やめるんだ!あなたまで血に染まる必要はないよ!」
必死に大山を止めようと走る北条。
それでも、半歩届かなかった。
大山の振り下ろした千枚通しが、無慈悲にも男のひとりをとらえる。
「あぁぁぁ!!」
千枚通しは男ひとりの太股に深々と突き刺さり、その男は地面に転がり、大きな悲鳴をあげる。
「何てことを……!!」
慌てて北条が取り押さえに入るも、大山は普段の性格からは考えられないような暴れようで、北条を振り払う。
「返せ!娘を返せ~ーー!!」
千枚通しを取り上げようにも、大山の握力が強すぎて手から離れない。
(くっ……虎だったらすぐに組伏せられるところなんだろうけど……厳しいな……。)
既に怪我人が出ている状況。
北条が珍しく、焦りの色を見せた。
北条を引きずるように、少しずつ男たちに近づいていく大山。
「大山さん!落ち着くんだ!いま、感情に任せて彼らを傷つけても、あなたのためにならない!」
「みさきが……娘が帰ってこないなら、もう私に失うものはないんです!それなら……いっそこの3人の息の根を止めてやる……!どれほど娘が苦しみ、辛い思いをしてきたか、身をもって、命をもって味わうがいい……!」
食いしばった歯が欠け、口からは血が流れる。
それでも大山は、3人に向かっていった。
「ひぃぃ……やめろ……死にたくない……!」
「許してくれ!金なら払う!」
口々に命乞いをする男たち。
しかし、大山は止まらない。
「お前たちも、嫌がるみさきを辱しめたんだろう!やめてというみさきを……!」
「頼む!なんでも言うことを聞くから……!」
男達のひとりが言った言葉に、大山の動きが止まった。
「なんでも……?」
「あぁ!なんでも言ってくれ!それで罪滅ぼしになるなら!」
「わかった……。」
大山の身体から、力が抜ける。
北条も、ようやく落ち着いたか、と安堵した。
しかし……。
「じゃぁ、あの世で3人、みさきに土下座して謝ってくれ……。」
ゆっくりと男たちに近づいた大山は、そのまま2度、3度と千枚通しを振るった。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「やめて!痛い……!!」
心臓を狙い振り下ろされる千枚通しは、防御しようとする男の腕を、掌を貫いていく。
(これじゃ、時間の問題だ……!)
このまま制止していても大山は止まらない。
そう感じた北条は、大山を背負い投げすると、そのまま拘束した。
「大山さん!落ち着いて!あなたまで殺人に手を染めることはない!みさきさんは、そんなことは望まない!!」
大きな声で諭すように、北条は大山に言う。
そして、大山の動きは完全に止まる……。
「あの日……」
少しの間。
大山は、溢れる涙もそのままに、当時のことを離す。
「あの日は、私の誕生日だったんです……。娘は……みさきは夕食は豪華なものを作るねって買い物に行って……そのまま……。怖かっただろう、辛かっただろう……!」
ついにはその場に突っ伏し、声をあげて泣いた。
「う、うぅ……助かった……!」
「刑事さん、早く救急車……!」
「早く帰りたい……!」
一方、九死に一生を得た3人の男たちは、安堵の声を漏らす。
「救急車は必要ない。これから君達には警視庁に来て貰う。全員逮捕だ。」
そんな3人に、北条は冷たい視線を向けた。
「君たちのやったことは、決して許されることではない……。絶対に逃がさないよ。人生を棒に振ってでも、償って貰う。」
「そ、そんな……」
項垂れる男たち。
(こんなやるせない気持ちは久し振りだ。……許さないよ、F……!)
こんな下らないゲームは、即刻終わらせてやる。
北条は、そう決意した。
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