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第0話:警視庁特務課
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警視庁署内の一番奥に、虎太郎と北条の『職場』があった。
『特務課』
そう書かれた表札のある扉を開けると、そこには通信センターのような設備が揃った部屋が広がっている。
「ただいまーー。」
まるで自分の部屋に帰るかのように、虎太郎が大きな声で挨拶をする。
「……お疲れ様。確保までの時間、早かったわね。」
帰署したふたりをいちばん最初に迎えたのは、20代半ばほどの女性だった。
制服をしっかりと着こなし、髪をきっちりとまとめ、表情には凛としたものをうかがわせる。
「お疲れっす、司さん。」
彼女が、特務指令課の司令官・新堂 司である。
警視庁きっての才媛で、未来の女性初の警視総監候補とも言われている彼女が、この特務課の発足を現在の警視総監に提案し、自らがその司令官として配属となったのだった。
新部署を発足させずとも、捜査一課に配属になっていれば、昇進の道も短かったのだが、司にはこの部署を立ち上げる理由があった。
司が感じたのは、各課の間に生じる『壁』であった。
もっと上手く各課の連携が取れていれば、解決できた事件はたくさんあったはず。
そう、司が手掛けた重要事件も、部署間の壁が邪魔をしたことにより犠牲者が出たのである。
この特務課は、『各方面のスペシャリストを集め、各課の境界にさえ踏み込める』組織なのである。
司にとっては、目先の地位よりもより犯罪を防ぎ、犯罪者を捕まえることの方が大切だと感じているのだ。
「はいはいお疲れ様……っと。司ちゃん、今度犯人を追跡する任務があったら、予め最短のルートを教えておいてよ……。」
虎太郎の入室から少し遅れて、北条が指令室内に入る。
「お疲れ様でした。犯人の行動が読めたら、随時お知らせすることにしますね。」
司の特技はプロファイリング。
臨床心理士顔負けの心理分析能力を持ち、犯人の些細な声の高さ、仕草等で犯人の心理を暴く。
「ふたりとも、お疲れ様でした。かっこよかったですよ!」
そして、司の背後からふたりに声をかける、線の細い美女が、オペレーターの皆川 志乃である。
彼女は道路交通情報センターからこの特務課に異動となった、将来有望な若手である。
様々な情報を的確に分析する能力に長けており、また情報処理能力も高い。
彼女の情報収集力の前では、いかに犯人が上手く逃げたとしても無駄である。
「お疲れ様。今回は犯人確保のタイムレコード、更新したかもね~」
そして、志乃の隣のデスクに座る、飄々とした青年が、浅川 悠真。司がスカウトしてきた元・ハッカーであるという事以外、経歴は不明である。
「あれ?辰川さんは?」
虎太郎が、辺りを見まわし『もうひとりのメンバー』を探す。
「あぁ……辰川さんはいま、奥の部屋よ。どうしても今回のレースは外せないんですって。」
司が笑いながら虎太郎の問いに答える。
「辰川さん……曲がりなりにも勤務中だろ?ギャンブルとかやってる場合じゃ……。」
「くっそーーーーー!!!馬の調整をしっかりやるのが調教師の仕事だろうが!!残り100メートルで失速しやがってーー!!!」
虎太郎が呆れ顔で奥の部屋を見た、その時だった。
奥の部屋から怒声が響き渡る。
「あちゃぁ……辰さん、またスッたねぇ……くくく……。」
北条が必死に笑いを堪えながら辰川と呼ばれる男の方を見る。
「……ったく、いまの日本の若者は根性が無くていけねぇや。人も馬もな……。」
ほどなくして、くわえたばこの男が奥の部屋から出てきた。
「やぁやぁ辰さん、まーーた負けたみたいだねぇ。」
「なんだよ北条……。勝ってもお前には絶対に奢らねぇからな!」
「まぁまぁ、そんなこと言わずにさぁ……。」
男の名は辰川 功。定年は過ぎたが、もと爆弾処理班のカリスマと呼ばれた爆弾・拳銃のスペシャリスト。
多岐にわたる爆発物の知識から、ひとつでも爆薬・火薬が使われた事件においてはその爆発物の入手ルートや効果などを瞬時に導き出し、犯人逮捕に繋げることが出来る実力の持ち主である。
また、辰川本人も爆弾に関する知識・技術が豊富で、簡単な爆弾であれば解除だけではなく作成まで出来てしまう。
「辰川さん……競馬は良いけど、指令室内は禁煙よ。それだけは守って頂戴って前から言っているわよね?」
北条と辰川のやり取りに、司が呆れ笑いを浮かべながら割って入る。
「おぉ……すまんすまん忘れてたわ……。どうしてもレース中は口が寂しくてな……。」
「だから、ガムが良いってこの前話したばかりじゃない……。」
「まぁまぁ、そんなにがみがみ言わんでくれ。美人が大なしだぞ?こんなにスタイルだって良いんだから、お淑やかにしていたら結婚相手だって……いてててて!!!」
注意されたことをのらりくらりとかわしていた辰川。
調子に乗って司の腰に伸ばした手を、司は易々と捻り上げた。
「辰川さん?今のご時世、こういう行動は即問題になるの。生まれた昭和の時代とは違うのよ?」
にこやかに辰川を諭す司。
しかしその目は、笑ってはいなかった……。
北条、虎太郎は現地捜査員として。
司は指令室の統括。
志乃は悠真と協力して情報収集とオペレーター業務を。
そして辰川は爆弾等の処理。
この6人が、警視庁が新たに発足させた組織『特務課』のメンバーである。
『特務課』
そう書かれた表札のある扉を開けると、そこには通信センターのような設備が揃った部屋が広がっている。
「ただいまーー。」
まるで自分の部屋に帰るかのように、虎太郎が大きな声で挨拶をする。
「……お疲れ様。確保までの時間、早かったわね。」
帰署したふたりをいちばん最初に迎えたのは、20代半ばほどの女性だった。
制服をしっかりと着こなし、髪をきっちりとまとめ、表情には凛としたものをうかがわせる。
「お疲れっす、司さん。」
彼女が、特務指令課の司令官・新堂 司である。
警視庁きっての才媛で、未来の女性初の警視総監候補とも言われている彼女が、この特務課の発足を現在の警視総監に提案し、自らがその司令官として配属となったのだった。
新部署を発足させずとも、捜査一課に配属になっていれば、昇進の道も短かったのだが、司にはこの部署を立ち上げる理由があった。
司が感じたのは、各課の間に生じる『壁』であった。
もっと上手く各課の連携が取れていれば、解決できた事件はたくさんあったはず。
そう、司が手掛けた重要事件も、部署間の壁が邪魔をしたことにより犠牲者が出たのである。
この特務課は、『各方面のスペシャリストを集め、各課の境界にさえ踏み込める』組織なのである。
司にとっては、目先の地位よりもより犯罪を防ぎ、犯罪者を捕まえることの方が大切だと感じているのだ。
「はいはいお疲れ様……っと。司ちゃん、今度犯人を追跡する任務があったら、予め最短のルートを教えておいてよ……。」
虎太郎の入室から少し遅れて、北条が指令室内に入る。
「お疲れ様でした。犯人の行動が読めたら、随時お知らせすることにしますね。」
司の特技はプロファイリング。
臨床心理士顔負けの心理分析能力を持ち、犯人の些細な声の高さ、仕草等で犯人の心理を暴く。
「ふたりとも、お疲れ様でした。かっこよかったですよ!」
そして、司の背後からふたりに声をかける、線の細い美女が、オペレーターの皆川 志乃である。
彼女は道路交通情報センターからこの特務課に異動となった、将来有望な若手である。
様々な情報を的確に分析する能力に長けており、また情報処理能力も高い。
彼女の情報収集力の前では、いかに犯人が上手く逃げたとしても無駄である。
「お疲れ様。今回は犯人確保のタイムレコード、更新したかもね~」
そして、志乃の隣のデスクに座る、飄々とした青年が、浅川 悠真。司がスカウトしてきた元・ハッカーであるという事以外、経歴は不明である。
「あれ?辰川さんは?」
虎太郎が、辺りを見まわし『もうひとりのメンバー』を探す。
「あぁ……辰川さんはいま、奥の部屋よ。どうしても今回のレースは外せないんですって。」
司が笑いながら虎太郎の問いに答える。
「辰川さん……曲がりなりにも勤務中だろ?ギャンブルとかやってる場合じゃ……。」
「くっそーーーーー!!!馬の調整をしっかりやるのが調教師の仕事だろうが!!残り100メートルで失速しやがってーー!!!」
虎太郎が呆れ顔で奥の部屋を見た、その時だった。
奥の部屋から怒声が響き渡る。
「あちゃぁ……辰さん、またスッたねぇ……くくく……。」
北条が必死に笑いを堪えながら辰川と呼ばれる男の方を見る。
「……ったく、いまの日本の若者は根性が無くていけねぇや。人も馬もな……。」
ほどなくして、くわえたばこの男が奥の部屋から出てきた。
「やぁやぁ辰さん、まーーた負けたみたいだねぇ。」
「なんだよ北条……。勝ってもお前には絶対に奢らねぇからな!」
「まぁまぁ、そんなこと言わずにさぁ……。」
男の名は辰川 功。定年は過ぎたが、もと爆弾処理班のカリスマと呼ばれた爆弾・拳銃のスペシャリスト。
多岐にわたる爆発物の知識から、ひとつでも爆薬・火薬が使われた事件においてはその爆発物の入手ルートや効果などを瞬時に導き出し、犯人逮捕に繋げることが出来る実力の持ち主である。
また、辰川本人も爆弾に関する知識・技術が豊富で、簡単な爆弾であれば解除だけではなく作成まで出来てしまう。
「辰川さん……競馬は良いけど、指令室内は禁煙よ。それだけは守って頂戴って前から言っているわよね?」
北条と辰川のやり取りに、司が呆れ笑いを浮かべながら割って入る。
「おぉ……すまんすまん忘れてたわ……。どうしてもレース中は口が寂しくてな……。」
「だから、ガムが良いってこの前話したばかりじゃない……。」
「まぁまぁ、そんなにがみがみ言わんでくれ。美人が大なしだぞ?こんなにスタイルだって良いんだから、お淑やかにしていたら結婚相手だって……いてててて!!!」
注意されたことをのらりくらりとかわしていた辰川。
調子に乗って司の腰に伸ばした手を、司は易々と捻り上げた。
「辰川さん?今のご時世、こういう行動は即問題になるの。生まれた昭和の時代とは違うのよ?」
にこやかに辰川を諭す司。
しかしその目は、笑ってはいなかった……。
北条、虎太郎は現地捜査員として。
司は指令室の統括。
志乃は悠真と協力して情報収集とオペレーター業務を。
そして辰川は爆弾等の処理。
この6人が、警視庁が新たに発足させた組織『特務課』のメンバーである。
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