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第2章 友のために奏でる旋律

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少し街中から外れたところにある、大きな屋敷。

そこからやや離れた門のインターホンを鳴らす。
「はい、二宮……」

インターホンの美しい声が話終わる前に、
「ただいま!!!」
遮るように大きな声で言う少女。

「まぁ、奏お嬢様……お早いお帰りで……」
「いいから早く開けて!」
「かしこまりました……」

これがいつものやり取りなのだろう。多少大きな声を出されても、インターホンの声は動じることなく返答する。

やがて、電子音と共に門が開くと、開ききる前に少女は中へと走る。


大きな屋敷には、『二宮』の立派な表札。

扉に近づくと、使用人がふたり、少女を出迎えた。
「おかえりなさいませ」
深々と頭を下げる使用人。

「ピアノ室、暖めておいて!着替えたら練習するわ!」

と、無造作にコートと鞄を使用人に放るように渡す。これもいつもの事なのか、手早くコートをたたみながら、
「かしこまりました」
と頭を下げた。

長い廊下を小走りで進み、リビングに入ると、初老の男性が声をかけてくる。
「おぉ、奏お帰り。美味しいケーキを買ってきたんだ。良かったらお茶にし……」
「れんしゅう!!!!」

初老の男は、少女に話を遮られ、一瞥もされず、そして立ち去られる。

「お、おぉ……頑張ってな! でも……ほどほどにな。たまには構ってくれい」

面目丸つぶれのこの男性、日本経済界では言わずと知れた重鎮、二宮  源次(にのみや  げんじ)その人であるのだが……ここではこの辺りにしておこう。
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