聖戦記

桂木 京

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第11章:覇王アガレス

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蔵の外。
ゼロに制裁を加えようと勢いよく出ていった兵士たちと、その兵士たちの暴行の恐怖を知っているからこそ、ゼロの身を案じ飛び出した村人たち。


しかし、両者の思惑は思わぬ形で裏切られた。


「う、うぅ……。」


僅か数秒の出来事だった。
兵士たちが部下と共に一斉にゼロに飛び掛かった、その瞬間。
ゼロは兵士たちの攻撃を一切受けることなく、全員に打撃を与えていたのだ。


「……弱い。お前ら本当に『あの』ゼルドの部下か?もし本当なら、お前ら全員、ゼルドに殺されてるぜ?アイツ、弱い奴らは大っ嫌いだからな。」


地を這う兵士たちに、ゼロが呆れた様子で言う。


「そんな……、元帝国の兵士だって、こんなに強くなかったぞ……。」


兵士は、今起こっている現状が理解できていない様子。


「剣士様……あんなに強かったんですね?」

シエラを匿っていた村人たちも、その様子に驚きシエラに言う。


「えぇ……。彼はおそらく、私たち軍の中でいちばん強くなってくれる人。何度も破れ、挫折して……。でもそのたびにゼロは壁を乗り越えて強くなっていったのです。このくらいでは動じません!」

ゼロを信頼しているからこそ、蔵の奥で大人しくしているシエラ。
そのゼロの強さだけでなく、一時見せた弱さをも目の当たりにした彼女だからこそ、絶対的な信頼を置くことが出来た。


「貴様……ゼルド様の何を知っているというのだ……!!」


兵士たちも、一度倒されたくらいで黙ってはいない。
精一杯立ち上がり、ゼロを睨みつける。


「何を知ってるって……戦ったからな。めちゃくちゃ強かったし、死にかけたからよーーく覚えてるわ。」

「そうだろう!ゼルド様は常人では計り知れないほどの強さをお持ちなのだ!故に、死神……」

「……それが、違うんだよ。もういい加減認めろよ。お前がアガレス軍の者じゃないことぐらいよ……。」


嬉々として語る兵士の言葉を遮り、呆れた表情でゼロが言う。


「『死神』はゼルドじゃねぇんだよ。他の将軍のことだ。……お前、たまたまゼルドのことを聞いただけだろ?そうじゃなきゃ、そんなミスは犯さねぇよ。」

「……え?」

「さしずめ、お前たちはこの戦乱に乗じて好き勝手やってる野盗かなんかだろ。純粋な村人の心を踏みにじって、食料が大量に手に入ったから味を占めたんだろ?」


ゼロが自分の推理を兵士に披露する。
その推理が当たっていたらしく、兵士たちからみるみる血の気が引いていく。


「そうだったのか……!」

「酷い……私たちは、いったい今まで何のために……!!」


真実を知った村人の視線が、兵士たちに集まった。

「う……うるせぇ!!こうなったら、ここにいる人間、皆殺しにしてこの村を俺たちのものにしてやる!!」


兵士たちの眼に殺気が帯びていく。
これまでは、『痛めつけてやろう』そう思っていた兵士たちが、明確な殺意をむき出しにしてゼロ、そして村人たちに向き合う。


「う……」


その殺気に、これまで一度も殺し合いを経験したことのない村人たちは怯む。


しかし、ゼロは動じなかった。


「へぇ……口だけは達者だな。でもよ……。」


ゼロも、アガレス軍を相手に、何度も命のやり取りをしてきた剣士。
野盗ごときの殺気になど怯むはずもなく……。


「……それだけの口を叩くっていうことは、お前たちも覚悟してるんだろうな?……負けたら死ぬって覚悟をよ……!」


そして、今度は素手ではなく、魔剣を抜き兵士たちに向かい構える。
その黒く光る魔剣が、兵士たちの視線を釘付けにする。


「あ、兄貴……アイツ、本当に俺たちを殺す気じゃ……」

「は、ハッタリに決まってるだろう!!なんでこんな国境の小さな村に、命のやり取りをするような剣士がいるんだよ……。」


部下たちの怯えように、兵士もやや狼狽える。


「どうした?やるのかやらねぇのか?……俺は別に、どっちでもいいぜ?ただ、来るなら容赦はしねぇ。遺言のひとつも用意しておくんだな。」


ゼロの、射貫くような鋭い視線。
その視線に、『容赦』という文字は微塵も感じられなかった。


「お前ら……行くぞ。4人掛かりで一気に襲えば、いかに剣士と言えどもひとたまりもねぇ。腕は2本しかないんだからな……。」


兵士たちは、退くという選択肢を捨てた。
これまで『支配する側』だったプライドが、ここにきて逃げるという選択肢を消したのだ。


「……バカが。」


兵士たちがこちらに向き合う姿勢を見せたことで、ゼロは大きな溜息を吐く。
そして……。


「いいぜ。お前たちも男だ。向かってくるなら手加減なんて要らねぇよな?全力でやらせてもらう。」


神経を集中させ、4人の動きを待った。


「よし!!やっちまえ!!!」


兵士のその一言で、4人は一斉にゼロに向かって襲い掛かる。

「剣士様!!」

村人たちが思わず声を上げる。しかし……。


「大丈夫ですわ。ゼロは負けません。」

危機はもう去ったと表に出てきたシエラが、まるで心配する様子もなく、村人たちに言った。そして……。


瞬きするほどの瞬間だった。



「う……嘘、だろ……」

兵士たちはまさに一瞬で地を這う結果となった。


「……バァカ、遅いんだよ、動きが。この程度で俺を倒すだ?笑わせてくれるぜ……。」


「う、うぅっ……。」

「強い……強すぎる……。」


うめき声をあげながら、地を這う兵士たち。
その中心に、堂々と立つゼロ。


「俺が強いんじゃねぇよ。お前らが弱すぎるんだ。」

そして、魔剣を兵士のこめかみの上に構える。


「……な、何を……。」

兵士の顔から、血の気が引いていく。

「あ?……俺、言わなかったか?容赦なくやらせてもらう……ってよ。」


ゼロが兵士のこめかみの上で魔剣の角度を変えると、魔剣は反射して鈍く光る。


「ちょ……俺たち、もう負けてるじゃないか!!これ以上やる意味なんて……。」

ゼロを止めようと、必死に食い下がる部下たち。


「これ以上やる意味ならあるぜ。お前たちは、抵抗も出来ない村長を、これ以上やらなくてもいいくらいに痛めつけた。それに、今までもそうだったんだろ?女子供構わずに、お前らは税の代わりだと、さんざん暴力を振るったらしいじゃねぇか……。」

魔剣と兵士の頭の距離は、変わらない。
ゼロが少しでも力を抜けば、魔剣は容赦なく兵士のこめかみを貫くだろう。

「許してくれよ……頼むから……。」

ついには兵士も命乞いを始める。

「そうやって許しを乞うた村人たちに、お前たちはどれだけの暴力を重ねたんだ?」

魔剣を握るゼロの手が、怒りに震える。

「安心しろ。俺はそんなに馬鹿じゃねぇ。許しを乞うお前らを、何度もいたぶるような真似はしねぇよ。」

「じゃ、じゃぁ……!!」

「苦しまねぇように、一撃で仕留めてやる。」


そのゼロの眼光は鋭く、無機質でさえあった。
持っていた魔剣を一度大きく持ち上げ、力を込めて振り下ろす。

「や、やめ……て」


魔剣はまるで矢のように一直線に兵士の頭めがけ進み……。

部下も、村人たちでさえも皆、目を背けたその時に……。


……兵士の眼前の地面に突き立った。

「あ、あぁ……。」


恐怖とショックで放心状態の兵士。

「……そこのお前」

ゼロは、自分の背後の部下ひとりに声をかける。

「お前だけ、軽めに殴っておいた。命が惜しければ、こいつら全員さっさと連れていけ。もし、またお前たちがこの村にやってきて変な真似をしたことを俺が知ったら……。」


魔剣を鞘に収めながらも、その鋭い眼光はそのままに。


「……その時点で、お前たちの命は終わりだ。男に二言はねぇ。」


殺気を放ちながら、ゼロは言った。

「わか……分かりました!申し訳ございません……!!」

部下は顔面蒼白になりながら、腰を抜かし立つことも出来ないまま
必死に残りの仲間たちを引きずり、去っていった。

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