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第10章:禁断の地
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「さて……目的も果たしたし、戻るとするかの。」
ゼロが剣の感覚を確かめるように振っていると、ヨハネがそろそろ、と声をかけた。
「あ、あぁ……。」
「なんじゃ、魔剣に認められたのがそんなに信じられぬか?」
「いや、そうじゃねぇ……。」
何度も魔剣を振りながら、ゼロはこれまでの戦いを思い起こしていた。
(俺は……これまでの戦いでは魔剣に認められていなかったってことだよな?……自分の身を折られてまでも、その気持ちって重要だったのかな?折られる瞬間だけ、俺に力を貸してくれても……。)
魔剣は、これまでも剣としては抜群の性能を誇っていた。
だからこそ、ここまで戦ってこられたのである。
しかし、魔剣はまだ、これまでのゼロを本当の主として認めていなかった。
故に、ゼロは魔剣本来の力を引き出すことなく、リヒトに折られるに至ったのだ。
―――刀身が折られても、此処に戻ればまた戻る。多少の痛みを伴っても、ゼロ、お前には『主たる自覚』を持って欲しかったのだ―――
考え事をするゼロの頭の中に、直接魔剣の声が響く。
(え?話せるのか?)
―――祭壇を出れば、他の者にはもう俺の声は聞こえない。主であるお前との間でのみ、『念話』という形で会話は可能だ―――
(主たる自覚……って?)
「ゼロ!早くせぬか!置いていくぞ!!」
魔剣との会話に思わず立ち止まってしまったゼロに、ヨハネが大きな声で呼びかける。
「大丈夫ですか?体調、すぐれませんか……?」
そんなゼロを心配し、シエラが寄り添い声をかける。
「あぁ……大丈夫。実感できてなかっただけ。さぁ、行こう。」
ゼロはヨハネ、シエラの後に続き歩き出す。
(自覚って……俺は主として認められてたってことか?)
―――俺を振るえた時点で、主の資質はあった。よく思い出せ。お前以外の人間が魔剣を手にした時、どうなった?―――
(あ……。)
ゼロはローランドでのことを思い出した。
ゼロ以外の者が、魔剣を持ち上げることは出来なかったのだ。
―――お前は私の主の資質は持っていた。『あの男』の息子なのだからな。しかし……俺の力を完全に引き出すための自覚が足りなかった。己の身を折ることで、あの魔導士に俺をここまで運んでもらい、俺の力が最大限に発揮でき尚且つ魔の力の強い此処で、お前に自覚を叩きこもうと思ったのだ―――
(そこまで……考えていたのかよ……)
ゼロは、魔剣の思惑に絶句した。
「あ、でも……」
暗闇の中、ゼロは思わず声を上げ、
「……何じゃ?」
「どうしました?」
ヨハネとシエラがその声に反応する。
「あ、ワリィ、何でもねぇ……。」
ゼロは顔を赤らめ、念話に戻る。
(でも、なんで姉貴はアンタを持てたんだ?……あ、親父の娘だからか……)
―――あの娘に、『資質』は無かった。―――
(……え?)
―――だが、あの娘の覚悟と思いに、俺は正直、打たれた。だからこそ例外を認めた。その命を糧にすることを条件に、俺の主となることをな―――
(命を……あ。)
ゼロはエリシャ陥落の時を思い出した。
姉・アインは、死の間際に自分の生命力を全て注いでゼロに引き継いだ。
―――想いは時に、奇跡をも生む。ゼロ、そのことを忘れるな。いつでも強い心を―――
(あぁ。)
あれだけ不安だった暗い道が、今では何の不安もない。
それは、ゼロが得た自信からに他ならなかった。
深い闇の中から抜け出したゼロたち。
「眩しい……。」
村は夕方で日が傾きかけていたが、ずっと暗闇の中にいたゼロたちには、その薄暗さでさえ、眩しく感じた。
「ふぅ……今回は何事もなく済んで良かったの。」
ヨハネが大きな溜息を吐く。
「……どういう意味だよ。」
「そういう意味じゃ。弱っちいのが足を引っ張らなくて良かったわい。」
「何を……!!」
無事に戻れたことで、一行に心の余裕が生まれる。
憎まれ口を叩き合うゼロとヨハネ。それを諫めるシエラ。
その表情は一様に明るかった。
「さて……目的も済んだがもう夕刻じゃ。長老の家に1泊したらローランドに戻るぞ。」
ヨハネが言う。
悠長に構えている場合ではない。
こうしている間に、アガレス軍が何処でどのような準備をしているか、分からなかった。
アガレス軍に対抗する勢力で、今一番戦力を有するのがローランド王国。
その王国も、完全にアガレス軍の猛攻を凌げるかと言えば不安が残る。
「なぁ……ヨハネ。」
ふと、ヨハネにゼロが声をかける。
足はのんびりと、長老の家に向かっている、その途中。
「なんじゃ?」
「俺……もう足手まといにはならねぇからよ……、もっと俺のこと、戦場に出してくれ。次は、負けねぇ……。」
魔剣の真の所有者となったゼロが、ヨハネに真剣な表情で言う。
そんなゼロに、思わずヨハネは笑いだす。
「な……何がおかしいんだよ……。」
不満げな表情を見せたゼロの背を、ヨハネは力いっぱい叩く。
「いってぇ!!!」
その様子を楽し気に見ながら、ヨハネは……。
「……たわけが。妾はここまで一度たりともお前のことを足手まといだと思うたことは無いわ。剣の腕は……おそらく磨けば父をも凌ぐ。お前は経験を積む前に大きな敵に当たりすぎたのじゃ。しかし……死んではいない。それはお前の才能じゃ。」
……と、少しだけ背伸びをしてゼロの頭を撫でた。
「経験を積め。そして力をつけよ。いつかお前は……アガレス軍に抗する者たちの『柱』となる。シエラを支え、助ける剣となり、盾となれる。」
ゼロは、ヨハネの言葉に驚きを隠せない。
今まで、こんなに率直に自分のことを評価されたことが無かったから。
「……分かった。頑張るわ、俺。」
驚いた分、自分の立ち位置もよく分かった。
ヨハネと話している間に、少しだけ前を歩いていたシエラを見る。
「なんだかんだで助けられっぱなしだからな……。今度は俺が、助ける番だ……。」
華奢なシエラの背を見て、もう一度決意を固めるゼロだった。
ゼロが剣の感覚を確かめるように振っていると、ヨハネがそろそろ、と声をかけた。
「あ、あぁ……。」
「なんじゃ、魔剣に認められたのがそんなに信じられぬか?」
「いや、そうじゃねぇ……。」
何度も魔剣を振りながら、ゼロはこれまでの戦いを思い起こしていた。
(俺は……これまでの戦いでは魔剣に認められていなかったってことだよな?……自分の身を折られてまでも、その気持ちって重要だったのかな?折られる瞬間だけ、俺に力を貸してくれても……。)
魔剣は、これまでも剣としては抜群の性能を誇っていた。
だからこそ、ここまで戦ってこられたのである。
しかし、魔剣はまだ、これまでのゼロを本当の主として認めていなかった。
故に、ゼロは魔剣本来の力を引き出すことなく、リヒトに折られるに至ったのだ。
―――刀身が折られても、此処に戻ればまた戻る。多少の痛みを伴っても、ゼロ、お前には『主たる自覚』を持って欲しかったのだ―――
考え事をするゼロの頭の中に、直接魔剣の声が響く。
(え?話せるのか?)
―――祭壇を出れば、他の者にはもう俺の声は聞こえない。主であるお前との間でのみ、『念話』という形で会話は可能だ―――
(主たる自覚……って?)
「ゼロ!早くせぬか!置いていくぞ!!」
魔剣との会話に思わず立ち止まってしまったゼロに、ヨハネが大きな声で呼びかける。
「大丈夫ですか?体調、すぐれませんか……?」
そんなゼロを心配し、シエラが寄り添い声をかける。
「あぁ……大丈夫。実感できてなかっただけ。さぁ、行こう。」
ゼロはヨハネ、シエラの後に続き歩き出す。
(自覚って……俺は主として認められてたってことか?)
―――俺を振るえた時点で、主の資質はあった。よく思い出せ。お前以外の人間が魔剣を手にした時、どうなった?―――
(あ……。)
ゼロはローランドでのことを思い出した。
ゼロ以外の者が、魔剣を持ち上げることは出来なかったのだ。
―――お前は私の主の資質は持っていた。『あの男』の息子なのだからな。しかし……俺の力を完全に引き出すための自覚が足りなかった。己の身を折ることで、あの魔導士に俺をここまで運んでもらい、俺の力が最大限に発揮でき尚且つ魔の力の強い此処で、お前に自覚を叩きこもうと思ったのだ―――
(そこまで……考えていたのかよ……)
ゼロは、魔剣の思惑に絶句した。
「あ、でも……」
暗闇の中、ゼロは思わず声を上げ、
「……何じゃ?」
「どうしました?」
ヨハネとシエラがその声に反応する。
「あ、ワリィ、何でもねぇ……。」
ゼロは顔を赤らめ、念話に戻る。
(でも、なんで姉貴はアンタを持てたんだ?……あ、親父の娘だからか……)
―――あの娘に、『資質』は無かった。―――
(……え?)
―――だが、あの娘の覚悟と思いに、俺は正直、打たれた。だからこそ例外を認めた。その命を糧にすることを条件に、俺の主となることをな―――
(命を……あ。)
ゼロはエリシャ陥落の時を思い出した。
姉・アインは、死の間際に自分の生命力を全て注いでゼロに引き継いだ。
―――想いは時に、奇跡をも生む。ゼロ、そのことを忘れるな。いつでも強い心を―――
(あぁ。)
あれだけ不安だった暗い道が、今では何の不安もない。
それは、ゼロが得た自信からに他ならなかった。
深い闇の中から抜け出したゼロたち。
「眩しい……。」
村は夕方で日が傾きかけていたが、ずっと暗闇の中にいたゼロたちには、その薄暗さでさえ、眩しく感じた。
「ふぅ……今回は何事もなく済んで良かったの。」
ヨハネが大きな溜息を吐く。
「……どういう意味だよ。」
「そういう意味じゃ。弱っちいのが足を引っ張らなくて良かったわい。」
「何を……!!」
無事に戻れたことで、一行に心の余裕が生まれる。
憎まれ口を叩き合うゼロとヨハネ。それを諫めるシエラ。
その表情は一様に明るかった。
「さて……目的も済んだがもう夕刻じゃ。長老の家に1泊したらローランドに戻るぞ。」
ヨハネが言う。
悠長に構えている場合ではない。
こうしている間に、アガレス軍が何処でどのような準備をしているか、分からなかった。
アガレス軍に対抗する勢力で、今一番戦力を有するのがローランド王国。
その王国も、完全にアガレス軍の猛攻を凌げるかと言えば不安が残る。
「なぁ……ヨハネ。」
ふと、ヨハネにゼロが声をかける。
足はのんびりと、長老の家に向かっている、その途中。
「なんじゃ?」
「俺……もう足手まといにはならねぇからよ……、もっと俺のこと、戦場に出してくれ。次は、負けねぇ……。」
魔剣の真の所有者となったゼロが、ヨハネに真剣な表情で言う。
そんなゼロに、思わずヨハネは笑いだす。
「な……何がおかしいんだよ……。」
不満げな表情を見せたゼロの背を、ヨハネは力いっぱい叩く。
「いってぇ!!!」
その様子を楽し気に見ながら、ヨハネは……。
「……たわけが。妾はここまで一度たりともお前のことを足手まといだと思うたことは無いわ。剣の腕は……おそらく磨けば父をも凌ぐ。お前は経験を積む前に大きな敵に当たりすぎたのじゃ。しかし……死んではいない。それはお前の才能じゃ。」
……と、少しだけ背伸びをしてゼロの頭を撫でた。
「経験を積め。そして力をつけよ。いつかお前は……アガレス軍に抗する者たちの『柱』となる。シエラを支え、助ける剣となり、盾となれる。」
ゼロは、ヨハネの言葉に驚きを隠せない。
今まで、こんなに率直に自分のことを評価されたことが無かったから。
「……分かった。頑張るわ、俺。」
驚いた分、自分の立ち位置もよく分かった。
ヨハネと話している間に、少しだけ前を歩いていたシエラを見る。
「なんだかんだで助けられっぱなしだからな……。今度は俺が、助ける番だ……。」
華奢なシエラの背を見て、もう一度決意を固めるゼロだった。
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