聖戦記

桂木 京

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第4章:日、出づる国の動乱

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「あら……戻ってきていたのですね。」



謁見を終え、城門まで出てきたシエラとジェイコフを、ゼロとヨハネが待っていた。

「おう……んで?これから何をすればいいんだ?」


柱に寄りかかりながら、ふたりに声をかけるゼロ。
シエラはそんなゼロが、数刻前と明らかに『変わった』のを察した。


「魔法……使えるようになりました?微弱ながら魔力を感じます。」


そんなシエラの言葉に、ヨハネがほう……と声を漏らす。



「さすがは聖王ジークハルトの子よの。気付いたか。」


ゼロの横で不敵に笑う女、ヨハネ。


「あ、失礼いたしました。私、シエラと申します。こちらがジェイコフ。旅人です。」


シエラはヨハネに恭しく頭を下げる、が……。


「……あら、どうして私がジークハルトの娘だと……?」


ヨハネの言葉の違和感に気づき、問う。



「まぁ良い。妾はヨハネ。大魔導士じゃ。」

別にそんな問いは些細なことだろうと、ヨハネは自分の名だけふたりに告げる。

「……『大』は外さねぇのな。ぶれねぇな、アンタも。」

そんなヨハネに悪態をつくゼロ。


「この人、お前の親父と俺の親父、共通の戦友らしいぜ?こう見えてもうババ……」


ゼロの言葉が終わるより早く、その身体が消え去る。


「……言うたはずじゃ。歳のことは伏せよ、と。」


ゼロは城門の柱の上、国旗が掲げられているその先端にまで飛ばされていた。
まるで吊るされたような格好になったゼロを見て、にやりと笑うヨハネ。


「下ろせ!!……わかった!もう言わねぇよ!!」

ゼロも、現状ヨハネには敵わないことを理解しているので、最後には結局折れる。


(この方……凄い魔力。詠唱もせずに転移魔法を……。)

シエラは、ゼロとヨハネのやり取りはもちろん、転移魔法という高度な魔法を詠唱なしで発動したヨハネの技量に驚いた。



通常、魔法は精霊の力を借りて発動するため、『詠唱』という形で精霊に力を借りることを承諾させる。
その詠唱の長さは、術者の技量・魔力量により変わる。
シエラは比較的、上級魔導士より短い詠唱で魔法を発動させることが出来る才能の持ち主。

それでも、下級魔法を含め、『無詠唱』で使える魔法は多くない。


「ヨハネ様、貴女が『大魔導士』であること、納得いたしましたわ。」

そんなシエラの言葉に、

「そなたとは、『会話』が出来そうじゃの。」

と笑うヨハネだった。


「とりあえず、『黒の軍勢』の要求を断ります。」


これからの動き。
ざっくりと概要を口にしたシエラの言葉に、ゼロとヨハネは目を丸くした。


「そなたたちが、黒の軍勢の要求を蹴る、と言うことかの?」

ヨハネの問い。シエラは静かに首を振り、言葉を続ける。



「国王陛下に御協力を求めました。次の交渉は2日後とのこと。それまでに私達で王妃様の幽閉場所と交渉材料の『石』の場所を割り出します。そして、王妃様を救出してから、対等な交渉に移ります。」


今のままでは交渉と言うより『勧告』であるアズマの現状。
まずはそこから梃子を入れようとシエラは考えたのだ。


「まずは同じ土俵に立て、と言うことかの……。しかし、相手は王妃を誘拐するほどのほどの者ぞ。交渉のみで穏便に事は進むかの?」


海域封鎖を、かつての英雄であるアズマが解けないのは、ただ王妃が誘拐されているからではないのだろう。
仮に王妃をアズマ自身が救い出したとして、相手は次の手、また次の手と策を弄して『アズマ国自体を』危機にさらすであろう。

『黒の軍勢』とは、そこまでも『戦争に慣れている』集団なのだ。



しかし、シエラは変わらない口調で言葉を続ける。


「その時のための、私達だと思っています。アズマ国に属さない、いわば『旅行者』扱いの私たちが、『勝手に首を突っ込む』。これなら陛下にも迷惑はかかりませんわ。」


そう言って微笑むシエラ。


(なるほど……ただ肝が据わっているだけではなさそうじゃの……。)


そんなシエラの様子に、ヨハネの不安は自信へと変わっていく。


「うむ。ただの旅人に今回の騒動は荷が勝ちすぎるの……」


ヨハネはわざと、神妙な面持ちで告げる。


「そんなことねぇよ。俺達、こう見えても強いんだぜ?」


対抗するように胸を張るゼロ。
そんなゼロの肩に手を置くと、

「剣士ふたりに魔法剣士がひとり。敵が魔導師中心だとしたら、些か戦力不足じゃ。……策を授けよう。」


不適な笑みを浮かべながら、ヨハネはゼロの前に立ち、自身の胸を指さす。



「最強の魔導師を仲間に引き入れれば良いのじゃ。……此処におろう?『大魔導師』がの。」


ヨハネはたった3人の『光』に力を貸すことを決めた。


それは、これまで『見届ける者』として生きてきたヨハネが、ここでようやく立ち上がった瞬間だった。

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