冒険者育成学園の日常 

モブ

文字の大きさ
上 下
21 / 40

20

しおりを挟む
 昼休みが終わって教室に戻ると河童が席に座っていた。机に大きな紙を広げてなにやらぶつぶつ呟いている。何かを見ているようだ。気になったので声をかけてみることにした。
「おーい、何やってんだー?」その声に反応してこちらを向いた河童は真剣な顔をして手招きをした。
 なんだろうと思いながら近づくと机の上に広げられた紙を見せてきた。それは新聞のようだった。見出しには『さざ波ギルド、獄炎ギルドにバトルを挑む!』と書かれている。
「なんだよこれ……まるで見世物じゃないか」呆れ気味に言うと彼は頷いた。
「ああ、そうだ。賭けもやってるぞ。予想オッズは圧倒的に獄炎優勢。まあ賭けにならんだろうな」
 それを聞いて思わず聞き返す。
「え……じゃあ、さざ波には全く勝ち目はないの?」すると彼は肩をすくめて答える。
「勝てるわけがないだろう。王同士の実力が均等していても兵の数が違う」
 確かにその通りだと思った。そもそも人数も装備も向こうの方が上なのだ。まともに戦っても負けてしまう可能性が高い。
「実は……僕、さざ波ギルドなんだ。その……きみはどこかのギルドに入ってたりするの?」
 恐る恐る尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「俺はどこにも入ってない」
「え、そうなの?!」
「お前の言いたいこともわかっている。俺をさざ波ギルドに勧誘したいのだろ?」
 その言葉に僕は頷く。しかし、すぐに首を横に振った。
「いや、いいよ。負けるのが確定してるなら入る意味がない。負けたらギルドマスターの彩先輩が引き抜かれてギルドが保てなくなってしまう」
 僕がそう告げると、河童はため息をついた後、こう言った。
「俺が何も知らないとでも思ってるのか?このギルドバトルには俺にも関わる資格があるはずだ。むしろこの俺が中心といってもいい」
 その言葉に僕は驚いた。「……お前、どこまで知ってるんだ?」おそるおそる尋ねる僕に河童は答えた。
「俺はなんでもお見通しだ。俺が助けたあの二人のことも!獄炎に捕らわれたことも!さざ波と獄炎のギルドバトルにあの二人が賭かっていることも!全てな!」
 そう言い切った河童の表情は真剣そのもので、とても嘘をついているようには見えなかった。僕は彼に尋ねた。
「お前はいったい何者なんだ?」河童は即答する。
「――俺は神(ジン)。名は体を表すと言うだろ?つまり俺は神(かみ)だ!俺も参加するぞ。やつらに神がいかなるものか見せてやる!」

――放課後、僕たちはさざ波ギルドに集まった。彩先輩、セバス先輩、それに僕と河童。ついにギルドの最低人数をクリアしたんだ。
 さて、ギルドバトルについて話し合おうとしたところ、突然部室の扉が開かれた。そこには険しい表情をした獄炎ギルドのギルマスと火野くんがいた。獄炎のギルマスはズカズカと中に入ってくるなり言った。
「おい、お前らどういうつもりだ!あの女どもはどこに隠した?!なぜギルドバトルに執行部が関与してくる!!」
 どうやら怒っているようだ。だが、それに構わず火野くんは挑発的に言う。
「おいおい、俺たちはあんた達に頼まれて仕方なくギルドバトルを受けてやったんだぜ?それなのにこれはねえだろ?」
「えっ?ちょっとどういうこと?何が何だかさっぱりわからないのだけど……」混乱する僕たちをよそに獄炎のギルマスが吠える。
「とぼけるな!貴様らがあの女どもを攫ったんだろ?!神聖なギルドバトルを汚す気か!!」ますます意味がわからなかった。困惑していると、今まで黙っていた彩先輩が口を開いた。
「つまり、あなた達が攫って捕えていた女の子たちがいなくなったってことかしら?」その問いに対して火野くんは呆れたように言う。
「だからそう言ってるじゃねえか。しかも執行部からギルドバトルの無効するって命令が来た!お前らが裏でこそこそ手をまわしたんだろうが!」
 それに対して彩先輩が言う。
「私たちがそんなことするわけないでしょ!」
「お前たちしかいないだろうが!ギルドバトルしても負けが決まってるからと姑息な真似をしやがって!恥を知れ!」
「ちょっと、落ち着いてくださいよ……」僕は興奮するギルマスの二人を宥めるように言うが、まったく効果はない。それどころか余計にヒートアップしてしまったようで怒鳴り散らし始めた。
「いいか、よく聞け!俺たち獄炎ギルドを嵌めたこと後悔させてやるからな!絶対に潰してやる!!覚悟しておけ!」
 そう言い放つと二人は帰っていった。
 去り際に一瞬、火野君が河童に目配せをして河童が微かに頷いたように見えた。今のなんだろう?

 ずっと沈黙していた河童がつぶやく。
「なるほど……だいたいわかった」そして立ち上がると、静かに告げた。
「執行部にいくぞ。ついてこい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。

タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

銀河英雄戦艦アトランテスノヴァ

マサノブ
SF
日本が地球の盟主となった世界に 宇宙から強力な侵略者が攻めてきた、 此は一隻の宇宙戦艦がやがて銀河の英雄戦艦と 呼ばれる迄の奇跡の物語である。

怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ
大衆娯楽
ある日突然、氷河期世代のおじさんが会社から解雇されてしまった。 雀の涙ほどの退職金と失業手当を頼りにハロワに通う毎日。 そんなある日、不思議な少女に出会って……。 この小説はAIのべりすとを補助につかっております。 ※ この小説は『フィクション』です。作品中の登場人物、地名、建物、あとなんだろう?とにかくすべてフィクションなので、実在の人物とは何ら関係ありません。○○と同じだ!と思われても、それは単なる偶然。だってこの話は『フィクション』なのだから。 4/19 変換が面倒なので登場人物の名前を変更しました。 音子 → 猫。読み方は同じです。 4/23 タイトル一部変更しました。 フラワー → 花。  4/26 22:50 第10話に問題が発生したため修正しました。 5/23 完結しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

刑務所地球

ドルドレオン
SF
小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...