怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

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 店を閉めて翼ちゃんを駅まで送った後、自宅へと帰る。
 家に入るとすぐにテレビをつけた。番組を変更して緊急特番をやるようだ。内容は当然のごとく、怪盗ウインドキャットについてである。
 なんだかイベントでもやってるみたいな感じだな。そんなことを考えながらぼんやりと眺める。
 防犯カメラには何も映っていなかったとか、不可能犯罪なのではないか?などという意見が飛び交っている中、専門家たちが意見を言い合っている。それによるとウインドキャットの正体は複数の男性なんじゃないか?ということらしい。
 私も以前調べた、海外のウインドキャットの事件例を挙げて、面白おかしく説明していた。
 コメンテーター達は好き勝手なことを言いながらも意見を交わしていく。まあ、だいぶ的外れだけど。
「でも、本当に全然わからないものなのかな?」
 少し疑問に思いつつ、私はテレビの電源を切った。
 
 翌朝、私は喫茶店に行くと開店の準備を終わらせると、買ってきた朝刊を読む。一面を飾っているのはやはり怪盗ウインドキャットの事だ。見出しには『怪盗の正体見たり!?!』とある。
 一通り目を通したのだが、ネットで調べられる海外の事例と目撃情報を元にしたでたらめな予想しか書いてなかった。昨日あたり現物が返却されていると思うのだけれど、記事にはなっていなかった。配達が遅れているのだろうか?
 
 ドアベルが鳴りお客様が来たのを知らせる。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
 笑顔で挨拶すると、入ってきたのは時計屋の店主だった。彼は店内を見渡した後、カウンター席に座った。
「コーヒーを頼む」
「かしこまりました」
 コーヒーを淹れ、彼の前にカップを置くと、彼は口を開いた。
「今日、時間はあるか?」
 唐突な質問だったが、何のことか察した私は頷く。どうやら男たちの雇い主に連絡が付いたようだ。
「ええ、大丈夫ですよ」
「なら、閉店後にうちの店に来てくれ」
 彼はそれだけ言うとコーヒーを飲み干して会計を済ませ去っていった。入れたばかりで結構熱いと思うんだけど平気なんだろうか……?
 とりあえず、一歩前進だ。これで翼ちゃんのお姉さんが見つかれば良いのだけれど、どうも向こうは翼ちゃん達に知られたくないらしい。何か事情があるのだろう……。
 その日は一日中落ち着かずそわそわとしていた。仕事にならないほどではないけど……。そんなことを考えていたらあっという間に時間が過ぎていった。

 閉店作業を終えて店を出る。外は少し暗くなっていたがまだ日は落ちていない。私はやや急ぎ足で時計店へと向かった。店の前に着くと、シャッターが閉まってて臨時休業と書かれた貼り紙が貼ってあった。
 これはどうしたものかと思案していると、背後から声をかけられた。振り向くとそこにいたのは時計泥棒……実際は泥棒ではないのだが、あの男だ。
「裏に回ってくれ」
 男はそう言って裏の方へと歩いて行った。私は男に言われた通りに店の裏口から中に入ると、物置のような部屋に案内された。段ボールが積まれていて、薄暗い部屋だった。
 狭い場所にテーブルと椅子が置かれ、そこに座るように促されたので座る。男は向かい合うように座って話し出した。
「それじゃあ、俺たちの雇い主と話してもらうが、ここで聞いたことは他言無用で頼むぞ」
「わかりました……」

 私が頷くと男は懐からスマホを取り出した。そして画面を操作してからテーブルの上に置く。スマホから女性の声が聞こえて来た。
『こんにちは』
「こ、こんにちは……」
『私と話したいということだけど、何か用かしら?』
 とても可愛らしい声だが、どこか威圧的な雰囲気を感じる話し方だった。
「貴方が異世界から来たと聞いたのですが……」
『そうよ』
 あっさりと肯定されてしまったことに驚いたが気を取り直して話を続けることにする。
『それがどうかしたのかしら?』
「同じく異世界から来た子がお姉さんを探しているのですが、貴方に妹はいますか?」
『……いないわ。私には姉も弟もいない』
「えっ、そうなんですか?てっきり翼ちゃんのお姉さんかと……」
 予想外の言葉に思わず聞き返してしまう私に対して彼女は続ける。
『やっぱり、あの子は私のいた世界から来たみたいね』
「そうですね……。他に異世界から来た人は知りませんか?」
『それは答えられないわ。こちらにも色々と事情があるので』
「そうですか……」
 うーん、困ったな。どうすればいいものかと考えていると彼女が口を開く。
『こちらからも聞きたいことがあるのだけれど。あなた達は何故魔力を集めているの?』
「翼ちゃん……異世界から来た子が巫女らしくて、神様に魔力を供給しているんですよね。それで魔力不足になると死んでしまうらしくて。それで集めています」
『なるほどね……』
 しばらく沈黙が続く。次に彼女が発した言葉は意外なものだった。
『もし異世界に帰れるとしたら、あなた達はこちらに協力してくれるかしら?」
「え……?」
 異世界に帰れる?翼ちゃんと猫ちゃんが?
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