怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

文字の大きさ
上 下
30 / 37

30

しおりを挟む
 喫茶店のカギを開けて中に入り電気を付ける。男をカウンター席に案内してから私はカウンターの中に入った。
「カフェオレでよろしかったですか?」 
「ああ。というか、あんた、ここのマスターだったのか。気付かなかった……」
「そうですね。よくモブ顔だって言われます。」
 私は苦笑しながら答えた。
「それで、話ってなんだよ?」
 男が切り出してきた。私は彼に向き直ると単刀直入に言った。
「貴方、異世界から来た人に心当たりはありませんか?」
「なっ!?」
 男は驚きのあまり椅子からずり落ちそうになる。
「な、なにを言っているんだ?そんなわけ無いだろ!」
 慌てた様子の彼に対して私はさらに畳みかけるように言った。
「いえいえ、貴方、以前この店に来た時に、魔力の籠ったものを持っていましたよね?魔力はこの世界の人間では感じることが出来ない。つまり貴方は異世界人、または異世界人と何らかの関りがあるということになりますよね?」
「そ、それは……」
 言い淀む男に私は続けて言った。
「それと時計店の件、あれもちょっとおかしいんですよね……。もしかして時計店の店長もあなたの仲間なんじゃありませんか?」
「……」

 黙り込んでしまった男の様子を見ていると図星だったようだ。ならばもう少し揺さぶってみることにしよう。
「私が思うに、あなたは異世界の女性に指定したものを持ってこいと言われたり、この喫茶店を探って来いと言われたりしてるんじゃないですかねえ?」
「何でそこまでわかるんだよ……?お前の言うとおりだよ。俺たちはある女性に命令されて動いているだけだ」
「その人は何者なんですか?」
「さあな……それは俺たちも詳しくは知らない。それより何で時計店のやつが仲間だとわかったんだ?」
 男の目つきが鋭くなった気がした。警戒されてしまっただろうか?
「いえね、あなたが翼ちゃんを誘い出した時に、時計店で窃盗したように見せかけたでしょう?あれって実際は盗んでないですよね」
「……どうしてそう思う?」
「実際あの店を見てきましたからね。ケースに入ってるんだから店側の協力が無ければこっそり盗めませんよ。それにあの店主も不自然でしたし。それと被害届けもですね」
「被害届け……?」
 不思議そうな顔をする男に向かって私は続ける。
「ええ、店で何か盗まれたのなら、警察を呼ぶんですよ。だって店が被害現場なのですから。電話一本でしょう?こちらから警察に出向きますかね?この店から結構遠いですよ?何より貴方がまだ現場近くにいるのがおかしいですよ。あのコンビニもこの店も時計店の近くですし。本当に盗んでたら当分の間は近寄らないんじゃないですかねえ」
「……なるほど」
 男は納得したようだった。私は更に続ける。
「そしてもう一つ、本当ならあの時、あなたは翼ちゃんをおびき出して接触する予定だったんじゃないですか?わかりやすく尾行されようとしたけど、何故か途中で追跡が途切れてしまった」
「ああ、その通りだよ」
 観念したかのように男は認めた。
「だが、何故そう思ったんだ?」
「おそらく翼ちゃんは魔力だけを頼りに追跡してたんです。姿を直接見ないようにしてね。彼女、視線でバレると思ったんですよ。自分がわかるから」
「そういうことか……じゃあ、あの時、手を洗ったのが不味かったのか……」
 男は自分の手を見ながらつぶやくようにそう言った。

 私は彼の様子を見ながら核心に迫る質問をすることにした。
「それで、あなたたちは何を企んでいるのですか?」
 そう聞くと男はしばらく黙り込んだ後、話し始めた。
「俺たちは、異世界から来たと言っている人に雇われているんだ。目的は、魔力を集めることと、ある人物を探すこと」
「ある人物とは?」
「俺達にはわからない。あの時、雇い主が確認することになってたんだ」
「ふむ……何故、その雇い主は直接この店に来ないんですかね?翼ちゃんなら大抵はいるでしょうに」
「探してはいるが、会いたくはないらしい。俺も詳しくはわからない」
「そうなんですね……」

 これは困ったことになったぞ。どうすればいいんだ?私は考えを巡らせるが、良い案が浮かばない。
「わかりました、ありがとうございます。それでは、そろそろ帰りますので、今日のところはこれで終了としますか」
 私は頭を下げると、席を立つ。
「ちょっと待ってくれ!あんた、俺たちのことをあの子達に話すつもりか?!」
 焦った様子の男に呼び止められる。おっと、これはチャンスかな?丁度いいので便乗してみようか。
「話されたくないなら話しませんよ。ただ、いくつかお願いしたいことがありますね」
「なんだ?俺たちに出来ることなのか?」
「私を、その雇い主の方に会わせてくれませんか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

残業で疲れたあなたのために

にのみや朱乃
大衆娯楽
(性的描写あり) 残業で会社に残っていた佐藤に、同じように残っていた田中が声をかける。 それは二人の秘密の合図だった。 誰にも話せない夜が始まる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

処理中です...