怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

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 ある程度展覧会を見てまわり、不自然にならない程度時間を潰してから会場を後にする。
「凄かったね!」「綺麗だったね」と、口々に言いながら。いや、君らの演技の方が凄いよ。
 外に出る頃にはもうお昼近かった。もうそんな時間かあと思っていると、二人に声をかけられた。
「お父さん、お腹すいた!」「ご飯行こうー」
 ということで昼食をとることに決まった。二人が行きたいお店があるとのことなので案内してもらうことにした。

 45階建てのメインタワー。そこのエレベーターでビルの四階に着くと、そこは大きなレストランになっていた。以前下見に来た時は一階のレストランだったので、ここに来るのは初めてだ。ここは確かイタリアンだったかな?
 店内に入ると中は吹き抜けの三層になっていて、ここは真ん中の四階、下の三階にはピアノが置かれていていて、ピアニストだろうか?雰囲気のある曲を弾いていた。そこから離れたところにテーブルがあり、何人か座っている。四階はテーブル席、五階はカジュアルな席が用意されているようだ。
 ここは既に三階に予約を取っていて、受付に行くと店員さんが席に案内してくれた。
 案内された席に座ってメニューを見る。パスタ、ピザ、グラタン、サラダ……様々な料理が並んでいるが、どれも美味しそうで目移りしてしまう。ここは無難にミートソースのパスタでも……この赤いのミートソースだよな?聞いたことない名前だけど。そう思っていると、店員さんがやってきた。猫ちゃん達が呼んだようだ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「えっと……」
 私が戸惑っていると、猫ちゃんと翼ちゃんがすかさず答えた。
「私、クリームパスタ!」「私はシェフのキノコパスタで」
「じゃ、じゃあ、私はこのベーコンのアマトリチャーナでお願いします」
「かしこまりました」
 店員さんはメモを取ると去って行った。翼ちゃんがこちらを見て微笑む。
「おじ……お父さん、こういうお店は初めて?」
「う、うん……」
 実はそうなのである。今まで仕事ばかりでこんなおしゃれなお店になんて縁がなかったのだ。しかし、どうしてわかったのだろうか?顔に出ていたのかな?
「翼ちゃん達はよく来るの?」
「うん、時々ね」
「翼ちゃんはセンスいいからねー」
「そんなことないよ」
 照れているのか、翼ちゃんは顔を赤くしている。可愛いなあ。

「お待たせしました」
 程なくして頼んだものが来た。私の前に置かれたものはトマトと使ったであろう赤いパスタ。上にベーコンが乗っている。これがアマトリチャーナか。翼ちゃんと猫ちゃんのパスタは白い。キノコが乗っていなければどっちが何なのかわからないところだ。
 さっそく食べてみることにする。まずは一口……美味しい!濃厚な味わいの中にほのかな酸味があってとても美味しい。これはいいものだ。今度自分でも作ってみよう。
 次にベーコンを食べてみることにする。これも美味しいなあ。ちょっと厚切りだから噛み応えもあって満足感がある。そしてまたパスタを食べる。うーん、どちらも美味しい。
 ふと見ると、二人は黙々と食べていた。よほどお腹が空いていたのか、食べるスピードが早い気がする。あっという間に食べ終わってしまったようだ。
 それからデザートも頼むと、しばらくして運ばれてきた。それはティラミスのようだった。表面にココアパウダーが振りかけられている。スプーンですくうと、中からエスプレッソの香りがした。口に運ぶとほろ苦い味がする。これは美味しいな。
 デザートも食べ終わった頃、翼ちゃんが店員さんを呼んで何やら話している。店員さんは笑顔で頷くと戻っていった。
「何話してたの?」
「ん?ああ、ちょっと印象をつけるために目立とうかと思って」「目立つ?」
「うん、アリバイ作り的な」
 アリバイ?どういうことだ?何をするつもりなんだろう?

「お待たせいたしました。こちらにどうぞ」
 声に振り返ると、タキシードを着た男性が翼ちゃんに手を差し伸べている。これはあれか?噂に聞いた、エスコートってやつか?
「ありがとうございます」
 そう言って翼ちゃんはその男性の手を取り立ち上がる。男性はそのまま翼ちゃんをピアノまで誘導すると、椅子を引いて座らせた。翼ちゃんはそのまま椅子に座り位置調整をする。男性は物陰へと下がっていった。
 私は猫ちゃんに尋ねる。
「翼ちゃんって、ピアノ弾けるの?」
「うん。まあまあ上手いよ!」
 翼ちゃんは何度かピアノの音を確かめると曲を奏で始めた。

 ポロンポロンと静かに流れるような音色が流れると、翼ちゃんの手によって曲が始まった。有名なクラシックの曲で、題名は忘れたけど、聞いたことがあるような気がする。ゆったりとしたテンポで奏でられるその曲は、不思議と心に染み込んでくるようだった。
 演奏が終わると、翼ちゃんは立ち上がって一礼した。観客からは拍手が沸き起こる。中には感動して泣いている人も居た。すごいなあ。
「ねえ、猫ちゃん。翼ちゃんって何者なの?」
 私が小声で尋ねると、猫ちゃんも小さな声で答えてくれた。
「前に翼は神様に魔力を送ってるって言ったでしょ?これはその恩恵の一つだよ」
「そうなんだ」
 なるほど、ちゃんとリターンもあるのか。まあ、魔力を送るだけじゃあんまり割に合わないもんな。それにしても、あんなに小さい子がここまで弾きこなせるのは凄いのを取り越して異様なぐらいだ。まあ、神だしなあ……。

 男性にエスコートされた翼ちゃんが席に戻ってきて座った瞬間。突然電気が消えた。停電だろうか?周りの客達もざわついている。
「始まったね」
 猫ちゃんが小さくつぶやいた。
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