25 / 37
25
しおりを挟む
ある程度展覧会を見てまわり、不自然にならない程度時間を潰してから会場を後にする。
「凄かったね!」「綺麗だったね」と、口々に言いながら。いや、君らの演技の方が凄いよ。
外に出る頃にはもうお昼近かった。もうそんな時間かあと思っていると、二人に声をかけられた。
「お父さん、お腹すいた!」「ご飯行こうー」
ということで昼食をとることに決まった。二人が行きたいお店があるとのことなので案内してもらうことにした。
45階建てのメインタワー。そこのエレベーターでビルの四階に着くと、そこは大きなレストランになっていた。以前下見に来た時は一階のレストランだったので、ここに来るのは初めてだ。ここは確かイタリアンだったかな?
店内に入ると中は吹き抜けの三層になっていて、ここは真ん中の四階、下の三階にはピアノが置かれていていて、ピアニストだろうか?雰囲気のある曲を弾いていた。そこから離れたところにテーブルがあり、何人か座っている。四階はテーブル席、五階はカジュアルな席が用意されているようだ。
ここは既に三階に予約を取っていて、受付に行くと店員さんが席に案内してくれた。
案内された席に座ってメニューを見る。パスタ、ピザ、グラタン、サラダ……様々な料理が並んでいるが、どれも美味しそうで目移りしてしまう。ここは無難にミートソースのパスタでも……この赤いのミートソースだよな?聞いたことない名前だけど。そう思っていると、店員さんがやってきた。猫ちゃん達が呼んだようだ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「えっと……」
私が戸惑っていると、猫ちゃんと翼ちゃんがすかさず答えた。
「私、クリームパスタ!」「私はシェフのキノコパスタで」
「じゃ、じゃあ、私はこのベーコンのアマトリチャーナでお願いします」
「かしこまりました」
店員さんはメモを取ると去って行った。翼ちゃんがこちらを見て微笑む。
「おじ……お父さん、こういうお店は初めて?」
「う、うん……」
実はそうなのである。今まで仕事ばかりでこんなおしゃれなお店になんて縁がなかったのだ。しかし、どうしてわかったのだろうか?顔に出ていたのかな?
「翼ちゃん達はよく来るの?」
「うん、時々ね」
「翼ちゃんはセンスいいからねー」
「そんなことないよ」
照れているのか、翼ちゃんは顔を赤くしている。可愛いなあ。
「お待たせしました」
程なくして頼んだものが来た。私の前に置かれたものはトマトと使ったであろう赤いパスタ。上にベーコンが乗っている。これがアマトリチャーナか。翼ちゃんと猫ちゃんのパスタは白い。キノコが乗っていなければどっちが何なのかわからないところだ。
さっそく食べてみることにする。まずは一口……美味しい!濃厚な味わいの中にほのかな酸味があってとても美味しい。これはいいものだ。今度自分でも作ってみよう。
次にベーコンを食べてみることにする。これも美味しいなあ。ちょっと厚切りだから噛み応えもあって満足感がある。そしてまたパスタを食べる。うーん、どちらも美味しい。
ふと見ると、二人は黙々と食べていた。よほどお腹が空いていたのか、食べるスピードが早い気がする。あっという間に食べ終わってしまったようだ。
それからデザートも頼むと、しばらくして運ばれてきた。それはティラミスのようだった。表面にココアパウダーが振りかけられている。スプーンですくうと、中からエスプレッソの香りがした。口に運ぶとほろ苦い味がする。これは美味しいな。
デザートも食べ終わった頃、翼ちゃんが店員さんを呼んで何やら話している。店員さんは笑顔で頷くと戻っていった。
「何話してたの?」
「ん?ああ、ちょっと印象をつけるために目立とうかと思って」「目立つ?」
「うん、アリバイ作り的な」
アリバイ?どういうことだ?何をするつもりなんだろう?
「お待たせいたしました。こちらにどうぞ」
声に振り返ると、タキシードを着た男性が翼ちゃんに手を差し伸べている。これはあれか?噂に聞いた、エスコートってやつか?
「ありがとうございます」
そう言って翼ちゃんはその男性の手を取り立ち上がる。男性はそのまま翼ちゃんをピアノまで誘導すると、椅子を引いて座らせた。翼ちゃんはそのまま椅子に座り位置調整をする。男性は物陰へと下がっていった。
私は猫ちゃんに尋ねる。
「翼ちゃんって、ピアノ弾けるの?」
「うん。まあまあ上手いよ!」
翼ちゃんは何度かピアノの音を確かめると曲を奏で始めた。
ポロンポロンと静かに流れるような音色が流れると、翼ちゃんの手によって曲が始まった。有名なクラシックの曲で、題名は忘れたけど、聞いたことがあるような気がする。ゆったりとしたテンポで奏でられるその曲は、不思議と心に染み込んでくるようだった。
演奏が終わると、翼ちゃんは立ち上がって一礼した。観客からは拍手が沸き起こる。中には感動して泣いている人も居た。すごいなあ。
「ねえ、猫ちゃん。翼ちゃんって何者なの?」
私が小声で尋ねると、猫ちゃんも小さな声で答えてくれた。
「前に翼は神様に魔力を送ってるって言ったでしょ?これはその恩恵の一つだよ」
「そうなんだ」
なるほど、ちゃんとリターンもあるのか。まあ、魔力を送るだけじゃあんまり割に合わないもんな。それにしても、あんなに小さい子がここまで弾きこなせるのは凄いのを取り越して異様なぐらいだ。まあ、神だしなあ……。
男性にエスコートされた翼ちゃんが席に戻ってきて座った瞬間。突然電気が消えた。停電だろうか?周りの客達もざわついている。
「始まったね」
猫ちゃんが小さくつぶやいた。
「凄かったね!」「綺麗だったね」と、口々に言いながら。いや、君らの演技の方が凄いよ。
外に出る頃にはもうお昼近かった。もうそんな時間かあと思っていると、二人に声をかけられた。
「お父さん、お腹すいた!」「ご飯行こうー」
ということで昼食をとることに決まった。二人が行きたいお店があるとのことなので案内してもらうことにした。
45階建てのメインタワー。そこのエレベーターでビルの四階に着くと、そこは大きなレストランになっていた。以前下見に来た時は一階のレストランだったので、ここに来るのは初めてだ。ここは確かイタリアンだったかな?
店内に入ると中は吹き抜けの三層になっていて、ここは真ん中の四階、下の三階にはピアノが置かれていていて、ピアニストだろうか?雰囲気のある曲を弾いていた。そこから離れたところにテーブルがあり、何人か座っている。四階はテーブル席、五階はカジュアルな席が用意されているようだ。
ここは既に三階に予約を取っていて、受付に行くと店員さんが席に案内してくれた。
案内された席に座ってメニューを見る。パスタ、ピザ、グラタン、サラダ……様々な料理が並んでいるが、どれも美味しそうで目移りしてしまう。ここは無難にミートソースのパスタでも……この赤いのミートソースだよな?聞いたことない名前だけど。そう思っていると、店員さんがやってきた。猫ちゃん達が呼んだようだ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「えっと……」
私が戸惑っていると、猫ちゃんと翼ちゃんがすかさず答えた。
「私、クリームパスタ!」「私はシェフのキノコパスタで」
「じゃ、じゃあ、私はこのベーコンのアマトリチャーナでお願いします」
「かしこまりました」
店員さんはメモを取ると去って行った。翼ちゃんがこちらを見て微笑む。
「おじ……お父さん、こういうお店は初めて?」
「う、うん……」
実はそうなのである。今まで仕事ばかりでこんなおしゃれなお店になんて縁がなかったのだ。しかし、どうしてわかったのだろうか?顔に出ていたのかな?
「翼ちゃん達はよく来るの?」
「うん、時々ね」
「翼ちゃんはセンスいいからねー」
「そんなことないよ」
照れているのか、翼ちゃんは顔を赤くしている。可愛いなあ。
「お待たせしました」
程なくして頼んだものが来た。私の前に置かれたものはトマトと使ったであろう赤いパスタ。上にベーコンが乗っている。これがアマトリチャーナか。翼ちゃんと猫ちゃんのパスタは白い。キノコが乗っていなければどっちが何なのかわからないところだ。
さっそく食べてみることにする。まずは一口……美味しい!濃厚な味わいの中にほのかな酸味があってとても美味しい。これはいいものだ。今度自分でも作ってみよう。
次にベーコンを食べてみることにする。これも美味しいなあ。ちょっと厚切りだから噛み応えもあって満足感がある。そしてまたパスタを食べる。うーん、どちらも美味しい。
ふと見ると、二人は黙々と食べていた。よほどお腹が空いていたのか、食べるスピードが早い気がする。あっという間に食べ終わってしまったようだ。
それからデザートも頼むと、しばらくして運ばれてきた。それはティラミスのようだった。表面にココアパウダーが振りかけられている。スプーンですくうと、中からエスプレッソの香りがした。口に運ぶとほろ苦い味がする。これは美味しいな。
デザートも食べ終わった頃、翼ちゃんが店員さんを呼んで何やら話している。店員さんは笑顔で頷くと戻っていった。
「何話してたの?」
「ん?ああ、ちょっと印象をつけるために目立とうかと思って」「目立つ?」
「うん、アリバイ作り的な」
アリバイ?どういうことだ?何をするつもりなんだろう?
「お待たせいたしました。こちらにどうぞ」
声に振り返ると、タキシードを着た男性が翼ちゃんに手を差し伸べている。これはあれか?噂に聞いた、エスコートってやつか?
「ありがとうございます」
そう言って翼ちゃんはその男性の手を取り立ち上がる。男性はそのまま翼ちゃんをピアノまで誘導すると、椅子を引いて座らせた。翼ちゃんはそのまま椅子に座り位置調整をする。男性は物陰へと下がっていった。
私は猫ちゃんに尋ねる。
「翼ちゃんって、ピアノ弾けるの?」
「うん。まあまあ上手いよ!」
翼ちゃんは何度かピアノの音を確かめると曲を奏で始めた。
ポロンポロンと静かに流れるような音色が流れると、翼ちゃんの手によって曲が始まった。有名なクラシックの曲で、題名は忘れたけど、聞いたことがあるような気がする。ゆったりとしたテンポで奏でられるその曲は、不思議と心に染み込んでくるようだった。
演奏が終わると、翼ちゃんは立ち上がって一礼した。観客からは拍手が沸き起こる。中には感動して泣いている人も居た。すごいなあ。
「ねえ、猫ちゃん。翼ちゃんって何者なの?」
私が小声で尋ねると、猫ちゃんも小さな声で答えてくれた。
「前に翼は神様に魔力を送ってるって言ったでしょ?これはその恩恵の一つだよ」
「そうなんだ」
なるほど、ちゃんとリターンもあるのか。まあ、魔力を送るだけじゃあんまり割に合わないもんな。それにしても、あんなに小さい子がここまで弾きこなせるのは凄いのを取り越して異様なぐらいだ。まあ、神だしなあ……。
男性にエスコートされた翼ちゃんが席に戻ってきて座った瞬間。突然電気が消えた。停電だろうか?周りの客達もざわついている。
「始まったね」
猫ちゃんが小さくつぶやいた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜
嶌田あき
青春
高校生の澪は、天文部の唯一の部員。廃部が決まった矢先、亡き姉から暗号めいたメールを受け取る。その謎を解く中で、姉が6年前に飛ばした高高度気球が見つかった。卒業式に風船を飛ばすと、1番高く上がった生徒の願いが叶うというジンクスがあり、姉はその風船で何かを願ったらしい。
完璧な姉への憧れと、自分へのコンプレックスを抱える澪。澪が想いを寄せる羽合先生は、姉の恋人でもあったのだ。仲間との絆に支えられ、トラブルに立ち向かいながら、澪は前へ進む。父から知らされる姉の死因。澪は姉の叶えられなかった「宇宙の渚」に挑むことをついに決意した。
そして卒業式当日、亡き姉への想いを胸に『風船ガール』は、宇宙の渚を目指して気球を打ち上げたーー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる