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猫ちゃんの言葉を聞いて一瞬何のことか分からず聞き返そうとしたとき、突然テーブルの上に小さい紙袋が置かれた。びっくりしてそちらを見ると、いつの間にか作業服姿の男性が立っていた。年齢は20代前半といったところだろうか。髪はぼさぼさであまり手入れされていないように見える。眠そうな目でこちらを見ていたが、やがて口を開いた。
「これを」
小さくつぶやくようにそれだけ言った。
その袋を受け取った翼ちゃんが猫ちゃんと顔を見合わせると、軽く頷く。猫ちゃんは持っていたポーチから同じく小さな紙袋を取り出してテーブルの上に置く。男性はそれを黙って受け取ると、何も言わずに去って行った。
「……これで終わり?なんだかあっけなかったな……」
私がそう言うと、翼ちゃんが答えてくれた。
「怪盗の裏側なんてこんなもんだよ。後は私たちのアリバイを作りながら、演出が上手くいくか確認するだけ」
「大丈夫だよ、おじさん。私たちがやることはもうほとんど無いから」
猫ちゃんが笑顔でそう言った。
そう、この怪盗の舞台裏、実は凄く単純なことなのだ。
まず、宝石展覧会のスタッフを買収して本物と偽物を入れ替える。偽物と言っても素材は全部本物だ。ピジョン・ブラッドと枠組みのプラチナを用意して、写真などを元にして精巧な模造品を作った。
次に、スタッフはそのすり替えた偽物を普通に展示する。偽物とはいえ、その道のプロが鑑定しなければ到底見分けがつかないレベルのものだ。来場客ではわからないだろう。
最後に、いかにも展覧会開催中に盗まれましたって感じに演出すれば、怪盗の出来上がりだ。この演出は現場にいる買収したスタッフや警備員が行うことになっている。
まあ、要するに金でごり押ししてるだけなのだ。総額20億ほど掛かったらしい。いや、とんでもないな。
「さて、私たちもそろそろ行こうか」「そうだね」
私たちは席を立つとカウンターに行に行き、支払いを済ませて店を出た。時刻は9時を回ったところ。
「それじゃあ一度帰りましょう」
猫ちゃんの言葉に頷くと、私たちは駅に向かって歩き出した。
マンションに戻ると、翼ちゃんは宝石の入った紙袋を持って部屋に入っていった。宝石に宿っている魔力を抜き取るためだ。
「魔力を抜き取るのってどれくらいかかるの?」
私は気になって聞いてみた。
「魔力の質と量によって違うかな?でも、あれくらいならそんなにかからないと思うよ」
「そうなんだ」
それなら良かった。待つ間にすることがないので、リビングでくつろぐことにする。
「そういえば、猫ちゃん。この間、店の裏口から出ていったのって何だったの?」
少し気になっていたことを聞いてみる。猫ちゃんは一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出したようで答えた。
「ああ、あれ?あれは、外で見張ってた刑事さんが離れていくから尾行したんだよ」
「尾行?なんで?」
「んー、なんとなく?」
疑問形で答える猫ちゃん。この子の行動原理がいまいち分からないなあ。まあいいか。
そうして暫く待っていると、翼ちゃんが戻ってきた。
「お待たせー」
「翼、どうだった?」
「バッチリ。ばっちり抜き取れたよー。これであと1年は持つんじゃないかな?」
「そっか、しばらくはゆっくりできそうだね!」猫ちゃんが笑顔で言った。
猫ちゃんが笑顔で言った。
二人の会話を聞くに、どうやら上手くいったようだ。私はほっと胸をなでおろす。
「おじさん、安心してるところ悪いけど、まだ終わりじゃないよ」
「え?」
「これから忙しくなるからね!」
「ええ?」
「さあ、宝石展覧会に戻るよ」
時刻は10時半。今から行けばちょうど開園時間に到着するはずだ。私たちは再び出かける準備を始めた。
宝石展覧会会場に着くと、既に大勢の客が来ていた。凄い人気だ。
「さすが宝石展覧会だね」
「うん、大盛況みたい」
私は二人と一緒に会場に入る。受付には受付の女性が座っていた。
「いらっしゃいませ。チケットはお持ちですか?」
言われた通りに見せると、店員さんは一瞬驚いたような顔をした後、笑顔になって対応してくれた。
「はい、確認しました。どうぞお楽しみください」
会場内に入ると、すでに多くの人が展示されている宝石を見て回っていた。やはりというかなんというか、女性が多い。男性の数も少ないように思える。まあ、そういう私も女性の連れなんだけどね。親子という設定だけど。二人は興味津々といった様子であちこち見て回っている。私はというと、特に興味も無いので彼女たちについて行くだけだ。
しばらく見ていると、猫ちゃんが何かを見つけたらしく、手招きしているのが見えた。行ってみると、そこにはショーケースに入った大きなルービーの宝石があった。宝石の邪魔にならない程度に枠が付いていて、宝石に詳しくない私が見ても素晴らしいものだとわかる。これがこの展覧会のメインを飾る宝石だ。
「凄いね、お父さん!」「綺麗ー」
翼ちゃんと猫ちゃんは目をキラキラさせて眺めている。私も思わず見とれてしまった。それほどまでに美しいのだ。そう、これが今朝がた手に入れた宝石の模造品なのだ。誰もこれが偽物だなんて思いもしないだろう。
「これを」
小さくつぶやくようにそれだけ言った。
その袋を受け取った翼ちゃんが猫ちゃんと顔を見合わせると、軽く頷く。猫ちゃんは持っていたポーチから同じく小さな紙袋を取り出してテーブルの上に置く。男性はそれを黙って受け取ると、何も言わずに去って行った。
「……これで終わり?なんだかあっけなかったな……」
私がそう言うと、翼ちゃんが答えてくれた。
「怪盗の裏側なんてこんなもんだよ。後は私たちのアリバイを作りながら、演出が上手くいくか確認するだけ」
「大丈夫だよ、おじさん。私たちがやることはもうほとんど無いから」
猫ちゃんが笑顔でそう言った。
そう、この怪盗の舞台裏、実は凄く単純なことなのだ。
まず、宝石展覧会のスタッフを買収して本物と偽物を入れ替える。偽物と言っても素材は全部本物だ。ピジョン・ブラッドと枠組みのプラチナを用意して、写真などを元にして精巧な模造品を作った。
次に、スタッフはそのすり替えた偽物を普通に展示する。偽物とはいえ、その道のプロが鑑定しなければ到底見分けがつかないレベルのものだ。来場客ではわからないだろう。
最後に、いかにも展覧会開催中に盗まれましたって感じに演出すれば、怪盗の出来上がりだ。この演出は現場にいる買収したスタッフや警備員が行うことになっている。
まあ、要するに金でごり押ししてるだけなのだ。総額20億ほど掛かったらしい。いや、とんでもないな。
「さて、私たちもそろそろ行こうか」「そうだね」
私たちは席を立つとカウンターに行に行き、支払いを済ませて店を出た。時刻は9時を回ったところ。
「それじゃあ一度帰りましょう」
猫ちゃんの言葉に頷くと、私たちは駅に向かって歩き出した。
マンションに戻ると、翼ちゃんは宝石の入った紙袋を持って部屋に入っていった。宝石に宿っている魔力を抜き取るためだ。
「魔力を抜き取るのってどれくらいかかるの?」
私は気になって聞いてみた。
「魔力の質と量によって違うかな?でも、あれくらいならそんなにかからないと思うよ」
「そうなんだ」
それなら良かった。待つ間にすることがないので、リビングでくつろぐことにする。
「そういえば、猫ちゃん。この間、店の裏口から出ていったのって何だったの?」
少し気になっていたことを聞いてみる。猫ちゃんは一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出したようで答えた。
「ああ、あれ?あれは、外で見張ってた刑事さんが離れていくから尾行したんだよ」
「尾行?なんで?」
「んー、なんとなく?」
疑問形で答える猫ちゃん。この子の行動原理がいまいち分からないなあ。まあいいか。
そうして暫く待っていると、翼ちゃんが戻ってきた。
「お待たせー」
「翼、どうだった?」
「バッチリ。ばっちり抜き取れたよー。これであと1年は持つんじゃないかな?」
「そっか、しばらくはゆっくりできそうだね!」猫ちゃんが笑顔で言った。
猫ちゃんが笑顔で言った。
二人の会話を聞くに、どうやら上手くいったようだ。私はほっと胸をなでおろす。
「おじさん、安心してるところ悪いけど、まだ終わりじゃないよ」
「え?」
「これから忙しくなるからね!」
「ええ?」
「さあ、宝石展覧会に戻るよ」
時刻は10時半。今から行けばちょうど開園時間に到着するはずだ。私たちは再び出かける準備を始めた。
宝石展覧会会場に着くと、既に大勢の客が来ていた。凄い人気だ。
「さすが宝石展覧会だね」
「うん、大盛況みたい」
私は二人と一緒に会場に入る。受付には受付の女性が座っていた。
「いらっしゃいませ。チケットはお持ちですか?」
言われた通りに見せると、店員さんは一瞬驚いたような顔をした後、笑顔になって対応してくれた。
「はい、確認しました。どうぞお楽しみください」
会場内に入ると、すでに多くの人が展示されている宝石を見て回っていた。やはりというかなんというか、女性が多い。男性の数も少ないように思える。まあ、そういう私も女性の連れなんだけどね。親子という設定だけど。二人は興味津々といった様子であちこち見て回っている。私はというと、特に興味も無いので彼女たちについて行くだけだ。
しばらく見ていると、猫ちゃんが何かを見つけたらしく、手招きしているのが見えた。行ってみると、そこにはショーケースに入った大きなルービーの宝石があった。宝石の邪魔にならない程度に枠が付いていて、宝石に詳しくない私が見ても素晴らしいものだとわかる。これがこの展覧会のメインを飾る宝石だ。
「凄いね、お父さん!」「綺麗ー」
翼ちゃんと猫ちゃんは目をキラキラさせて眺めている。私も思わず見とれてしまった。それほどまでに美しいのだ。そう、これが今朝がた手に入れた宝石の模造品なのだ。誰もこれが偽物だなんて思いもしないだろう。
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