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翌日、朝7時45分。私は二人が住んでいるマンションの前に来ていた。呼び出そうと思って入り口に行くも、どうすればいいかわからず立ち往生している。すると後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには青いジャージ姿の猫ちゃんが立っていた。
「あれ、おじさん?何やってるの?」
「あ、いや、二人を呼ぼうかと思ったんだけど、何をすればいいかわからなくて……丁度よかったよ」
私の話を聞いた猫ちゃんは笑いながら言った。
「あはは、何かと思ったよー。電話すればよかったのに」
言われてみればその通りだ。なぜ思いつかなかったんだろう……?ちょっと恥ずかしくなってしまった。
「じゃあ、ここでもう少し待ってて。今、翼のこと連れてくるから」
そう言うと、猫ちゃんはマンションに入っていった。
30分ほど待っただろうか。中から翼ちゃんと猫ちゃんが出てきた。
「お待たせ!」「おはよー」
「おはよう、二人とも」
猫ちゃんはいつもの学生服。翼ちゃんは白いワンピース姿だ。相変わらずかわいい格好をしている。翼ちゃんが笑顔で言った。
「今日はよろしくね!」
「こちらこそよろしく」
私も二人に挨拶を返す。
「それじゃ、出発しようか」
「はーい」「はい」
そうして3人で歩き出した。目的地までは、ここから最寄り駅に行って地下鉄で数分。そこから歩いて10分程度だ。割と近い。まさか、会場に近いからここのマンションに住んでるんじゃないよね?なんてことを考えてしまうが、さすがにそこまではないだろう。きっと偶然だ。
3人で他愛もない話をしながら歩いていると、あっという間に駅に着いた。切符を買って改札を通りホームに入る。ちょうど電車が来たところだったようで、乗り込んだと同時にドアが閉まった。車内はそこそこ混んでいる。私は扉付近、暫く揺られていると、目的の駅に到着した。さて、ここから歩きだ。
メインの45階のタワーのに隣接する二つの建物、その縦長の建物の三階が宝石展覧会の会場だ。
時刻は8時30分を少し回ったところ。開店時間は11時からなので、当然ながら入り口は閉まっている。
「待ち合わせはどこだっけ?」
「えっとね、たしかあの店だったかな」
翼ちゃんが指差す方向を見ると、大きなカフェが建っていた。この辺りのお店はだいたい11時開店なのだが、ここは既に開店していた。『カフェテリアD and D』。有名TRPGみたいな名前だなあ。まあ、そんなことはどうでもいいか。
店内に入ると店員さんが声をかけてきた。
「いらっしゃいませー」「おはようございますー」「いらっしゃいませー」
それぞれ違う声が三つ重なるように聞こえてくる。見ると三人いる女性店員のうちの一人がこちらに向かってきた。
「いらっしゃいませ。お席に案内します」
そう言ってテーブル席に案内してくれようとしたのだが、すかさず猫ちゃんが私の腕に抱きついてきて言った。
「お父さん、私、窓際がいい!あそこの!」
「え、あ、ああ。すみません、あの席でお願いしてもよろしいですか?」
戸惑いつつも、店員さんに尋ねると、笑顔で了承してくれ、そのまま席まで誘導してくれる。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
そう言って離れていく店員さんを見送っていると、横から小さな声が聞こえてきた。
「おじさん、慌てすぎ。ちゃんと父親役やってよ」
翼ちゃんからダメ出しを食らってしまった。でも咄嗟なことだとどうしても戸惑ってしまう。そう。私は今、この二人の父親と言う設定なのだ。
「ごめん、つい……」
「まったくもう……」
翼ちゃんはあきれた様子でため息をついていた。私は苦笑いするしかない。
「まあまあ、いいじゃん、翼ちゃん。それよりも早く選ぼうよ!」
猫ちゃんはそう言うとメニューを開いて眺め始めた。翼ちゃんもそれを見て同じ様にメニューを見始める。二人とも楽しそうだ。よし、私も楽しもう。そう思ってメニューを見るが、どれも美味しそうで目移りしてしまう。どれにしようかな……。
結局、私は無難にコーヒーを頼むことにした。翼ちゃんはクロワッサンサンドと紅茶、猫ちゃんは同じくクロワッサンサンドと、クラフトコーラなるものをを頼んでいた。クラフトってことは手作りなのかな?
しばらくすると、店員さんが注文したものを持ってきてくれた。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」「ありがとうございまーす」
お礼を言うと、彼女はにっこりと微笑んで戻って行った。愛想の良い人だな。そんなことを考えながら早速一口飲んでみる。うん、美味しい。コーヒーの香りと苦みが口の中に広がる。なかなかいい豆を使ってるようだ。
「このサンド、すごくおいしい」「ほんと!すごいねこれ!今まで食べた中で一番かも!」
「へえ、そんなにうまいのか?」
「これはおじ……じゃない。お父さんも食べなきゃだめだよ。喫茶店のマスターとして」
翼ちゃんにそう言われてしまっては仕方がない。私は店員さんを呼んで追加注文をした。ついでに翼ちゃんと猫ちゃんもデザートを追加注文していた。
しばらくして頼んだものが運ばれてきた。猫ちゃんの前には小型のクロワッサンみたいにくるくるとしたクッキー、翼ちゃんの前には四角いマドレーヌのようなもの、そして私の前にクロワッサンサンドが置かれた。
「本当だ。美味しいね」
「でしょ?頼んでよかったね!」
確かに美味しかった。ハムとチーズが絶品だ。多分サンドの為に厳選したものを使っているのだろう。うちの店でこの味は出せないんじゃないかな?主に材料費の問題で。
そんなことを考えていると、猫ちゃんが小さくつぶやいた。
「来たみたいだよ」
「あれ、おじさん?何やってるの?」
「あ、いや、二人を呼ぼうかと思ったんだけど、何をすればいいかわからなくて……丁度よかったよ」
私の話を聞いた猫ちゃんは笑いながら言った。
「あはは、何かと思ったよー。電話すればよかったのに」
言われてみればその通りだ。なぜ思いつかなかったんだろう……?ちょっと恥ずかしくなってしまった。
「じゃあ、ここでもう少し待ってて。今、翼のこと連れてくるから」
そう言うと、猫ちゃんはマンションに入っていった。
30分ほど待っただろうか。中から翼ちゃんと猫ちゃんが出てきた。
「お待たせ!」「おはよー」
「おはよう、二人とも」
猫ちゃんはいつもの学生服。翼ちゃんは白いワンピース姿だ。相変わらずかわいい格好をしている。翼ちゃんが笑顔で言った。
「今日はよろしくね!」
「こちらこそよろしく」
私も二人に挨拶を返す。
「それじゃ、出発しようか」
「はーい」「はい」
そうして3人で歩き出した。目的地までは、ここから最寄り駅に行って地下鉄で数分。そこから歩いて10分程度だ。割と近い。まさか、会場に近いからここのマンションに住んでるんじゃないよね?なんてことを考えてしまうが、さすがにそこまではないだろう。きっと偶然だ。
3人で他愛もない話をしながら歩いていると、あっという間に駅に着いた。切符を買って改札を通りホームに入る。ちょうど電車が来たところだったようで、乗り込んだと同時にドアが閉まった。車内はそこそこ混んでいる。私は扉付近、暫く揺られていると、目的の駅に到着した。さて、ここから歩きだ。
メインの45階のタワーのに隣接する二つの建物、その縦長の建物の三階が宝石展覧会の会場だ。
時刻は8時30分を少し回ったところ。開店時間は11時からなので、当然ながら入り口は閉まっている。
「待ち合わせはどこだっけ?」
「えっとね、たしかあの店だったかな」
翼ちゃんが指差す方向を見ると、大きなカフェが建っていた。この辺りのお店はだいたい11時開店なのだが、ここは既に開店していた。『カフェテリアD and D』。有名TRPGみたいな名前だなあ。まあ、そんなことはどうでもいいか。
店内に入ると店員さんが声をかけてきた。
「いらっしゃいませー」「おはようございますー」「いらっしゃいませー」
それぞれ違う声が三つ重なるように聞こえてくる。見ると三人いる女性店員のうちの一人がこちらに向かってきた。
「いらっしゃいませ。お席に案内します」
そう言ってテーブル席に案内してくれようとしたのだが、すかさず猫ちゃんが私の腕に抱きついてきて言った。
「お父さん、私、窓際がいい!あそこの!」
「え、あ、ああ。すみません、あの席でお願いしてもよろしいですか?」
戸惑いつつも、店員さんに尋ねると、笑顔で了承してくれ、そのまま席まで誘導してくれる。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
そう言って離れていく店員さんを見送っていると、横から小さな声が聞こえてきた。
「おじさん、慌てすぎ。ちゃんと父親役やってよ」
翼ちゃんからダメ出しを食らってしまった。でも咄嗟なことだとどうしても戸惑ってしまう。そう。私は今、この二人の父親と言う設定なのだ。
「ごめん、つい……」
「まったくもう……」
翼ちゃんはあきれた様子でため息をついていた。私は苦笑いするしかない。
「まあまあ、いいじゃん、翼ちゃん。それよりも早く選ぼうよ!」
猫ちゃんはそう言うとメニューを開いて眺め始めた。翼ちゃんもそれを見て同じ様にメニューを見始める。二人とも楽しそうだ。よし、私も楽しもう。そう思ってメニューを見るが、どれも美味しそうで目移りしてしまう。どれにしようかな……。
結局、私は無難にコーヒーを頼むことにした。翼ちゃんはクロワッサンサンドと紅茶、猫ちゃんは同じくクロワッサンサンドと、クラフトコーラなるものをを頼んでいた。クラフトってことは手作りなのかな?
しばらくすると、店員さんが注文したものを持ってきてくれた。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」「ありがとうございまーす」
お礼を言うと、彼女はにっこりと微笑んで戻って行った。愛想の良い人だな。そんなことを考えながら早速一口飲んでみる。うん、美味しい。コーヒーの香りと苦みが口の中に広がる。なかなかいい豆を使ってるようだ。
「このサンド、すごくおいしい」「ほんと!すごいねこれ!今まで食べた中で一番かも!」
「へえ、そんなにうまいのか?」
「これはおじ……じゃない。お父さんも食べなきゃだめだよ。喫茶店のマスターとして」
翼ちゃんにそう言われてしまっては仕方がない。私は店員さんを呼んで追加注文をした。ついでに翼ちゃんと猫ちゃんもデザートを追加注文していた。
しばらくして頼んだものが運ばれてきた。猫ちゃんの前には小型のクロワッサンみたいにくるくるとしたクッキー、翼ちゃんの前には四角いマドレーヌのようなもの、そして私の前にクロワッサンサンドが置かれた。
「本当だ。美味しいね」
「でしょ?頼んでよかったね!」
確かに美味しかった。ハムとチーズが絶品だ。多分サンドの為に厳選したものを使っているのだろう。うちの店でこの味は出せないんじゃないかな?主に材料費の問題で。
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