怪盗ウイングキャット ～季節の花ジャムを添えて～

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「おじさん、これも調べてたんだね」
　翼ちゃんが感心したように言った。
「そりゃあそうだよ。お姉さんの手掛かりになるかもしれないだろ？」
　翼ちゃんの言葉に私は答える。彼女は嬉しそうな表情で私に言った。
「ありがとね、おじさん」
「どういたしまして」
　私は照れ臭さを隠すように頭をかいた。

　そんな話をしていると、今度は別のお客様が入ってきた。
「いらっしゃいませー」「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
　入ってきたのは、常連の30代くらいの男性。ついこの間、怪しい人が監視してると教えてくれた人だ。彼は私たちを見ると会釈しながら近付いてきた。私と翼ちゃんも頭を下げる。
「マスター、あれから大丈夫でしたか？」
「はい、おかげさまで。ありがとうございました。あの人は刑事さんでした」
「えっ、刑事だったんですか？てっきり変質者か何かかと……何かあったんですか？」
「詳しくはわからないのですが、窃盗事件の調査をしてるみたいです」
「なるほど……まあ、無事で何よりです」
　そう言って男性は笑った。いつもの席に座ったので翼ちゃんにメニューを持っていってもらう。
「ああ、カフェオレを貰おうかな」
「かしこまりました」
　私が準備していると、翼ちゃんが話しかけてきた。
「ちなみに、刑事さん、まだ監視してますよ」
「そうなんだ。まだ偽刑事見つかってないのかな」
　そういって出来上がったカフェオレをお盆にのせて翼ちゃんに渡す。
「どうだろう……」
　翼ちゃんはそう言うと、カフェオレをお客様のところに持って行った。

　その後も何人かのお客様が来たが、特に変わった様子はなかった。そして閉店時間が近づいてきた頃、ドアのベルが鳴った。猫ちゃんだ。
「こんにちは！」
「あー、猫。いらっしゃい」「こんにちは、猫ちゃん」
　ちょっと早いけど閉店しちゃおう。もうこの時間に来る人もいないだろうし。私はドアに掛かってるプレートをひっくり返してクローズにした。
「いよいよ明日だね！宝石展覧会！」「うん、そうだね。」
　そう、明日、ついに怪盗として宝石を盗み出す日なのだ。まあ、事前に打ち合わせした通りだと何の問題もなくすんなり終わるだろう。

「二人とも何か注文するかい？」
　翼ちゃんと猫ちゃんの分の飲み物を用意するために聞いてみる。
「あ、私、ホットミルクティーがいいなー」「私も」
「了解」
　私は頷くと、準備を始めた。しばらく経って二人のもとに持っていく。
「お待たせしました」
「わーい、ありがとー」「ありがとうございます」　
　二人は嬉しそうにカップを受け取った。私も自分用の紅茶を用意して飲み始める。三人でまったりしていると、不意に猫ちゃんが聞いてきた。
「そういえば、おじさん。あの偽刑事ってどうなったのかな？」
「うーん、まだ捕まってないみたいだね。今日も刑事さん張り込みしてたみたいだよ」
　それを聞いて翼ちゃんが言う。
「偽刑事が目的じゃないのかもしれないからね」
「そういえば翼ちゃん、私たちが犯人じゃないか疑われてるかもって言ってたよね？」
　私は翼ちゃんに尋ねた。
「私、そんな事言ったっけか？覚えてない……。でも、あれ以来偽刑事たちが来てないから、仲間だと疑われてるのかもしれないね……」
　自信無さげに翼ちゃんが答えた。「そうか……それは拙いかなあ……」
　私はため息をついた。そんな私たちの様子を見て、猫ちゃんが心配そうに言った。
「こんな関係ないところで疑われるのは勘弁してほしいよねえ……」「そうだよねえ……」私たちは同意するしかなかった。

「そうだ、猫ちゃん。例の時計泥棒の写真貰ったから見るかい？」
「見たい見たい！」
　食い気味に反応する猫ちゃん。やっぱりこの子も気になっていたようだ。私は写真を取り出して渡した。受け取った猫ちゃんはじっくりと見ている。
「あれ？この人、どこかで見たような……どこだったっけなあ……」
　そう言いながら考え込んでいる様子だ。
「私には見覚え無いよ？」
　翼ちゃんがそう言った。猫ちゃんが見ていて翼ちゃんが見ていないなら、猫ちゃんが単独で動いていた時に見たのだろう。だとすると私には面識が無い人かもしれない。実際、私には見覚えが無いし。
「うーん、思い出せないや……まあいいや」猫ちゃんは写真を返してきた。
「この人も探さなきゃいけないよね。翼ちゃんのお姉さんの手掛かりになるかもしれないし」
　私がそう言うと、二人が頷いた。ただ、探すといってもどうしたらいいのだろうか？今のところ、手がかりは皆無だ。闇雲に探しても見つからない気がする……。
「とりあえず、宝石展覧会が終わってから考えよう！まずは明日だよ！」
　猫ちゃんはそう言って話を打ち切った。まあ、そうだよね。明日に備えて休むことにしよう。
　洗い物を済ませて店を閉めて二人を見送った後、家路につくことにした。