怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

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「えっ?なにこれ?」
「これは?」
 二人は不思議そうにそのリストを見る。
「これもウイングキャットの痕跡だよ。ほら、二匹の猫と翼が描いてあるだろう?」
「いや、これは知らないよ!」「うん。知らない」
 やはりか……。まあ、そうだろうなとは思っていた。二人に見せたのは、怪盗ウイングキャットと思われる事件のリスト。先程と同じように、時間、場所、狙われていたものの写真がまとめられたものだ。ただし、先程のものとは少し異なるところがある。年代だ。
「これって、どういうことなの?だって、こんなのあるはずがないよ!」
 猫ちゃんが聞いてくるので私は答えた。
「多分、これ、翼ちゃんのお姉さんだよ。君たちと同じことをしてたんだよ。20年前にね」
「えっ?」「どういうこと?」
「まあ、順を追って話すよ」
 私は説明を始めた。

「君たちは勇者召喚のための生贄になったんだよね?どういう原理かわからないけど、それが原因でこの世界に来た。だったら、君たち以外の人もこっちに来てもおかしくないよね?でも、君たちは他の転移してきた人たちを見ていない。何故だと思う?」
「うーん……わかんない」「なんでだろう……」
「たぶん、みんな来てるんだと思う。ただし、それぞれ時間と場所が違うんだ」
 そう言うと、二人は驚いた顔でこちらを見た。
「その証拠がこのリストだよ。翼ちゃんのお姉さんは20年以上前のこの世界に飛ばされたんだ。そして君たちと同じように守り神をシンボルにした怪盗をして君たちを探そうとした。同じところで育った姉妹なら同じことを考えても不思議じゃないよね」
「ええっ?!」「うそっ?!」二人は驚くが、まだ話は終わらない。
「ただ、ある時を境に消息が途絶えてしまうんだ。活動してたのはほんの一年程度。その後の行方がわからない。もしかしたら、別の人生を歩んでいるかもしれない……それか……」
「そ、そんな……」「お姉ちゃん……」
 二人はショックを受けている。無理もないか……。だが、これだけは伝えておかなければならない。
「だから、君たちの知ってる容姿とは違うはずだ。君たちにとってはつい最近の事かもしれないけど、翼ちゃんのお姉さんにとっては20年の月日が流れている過去だ」
 それを聞いても彼女たちの表情は暗いままだ。きっとショックなのだろう。だが、これを知らないままだと絶対に見つけることは出来ないので教えない訳にはいかない。

「でもね、手掛かりが無いわけじゃないんだ」「「本当?」」
「これは私の想像なんだけど、雑居ビルの盗難事件、それと喫茶店に来た魔力の残滓の男。これって翼ちゃんのお姉さんがからんでるんじゃいないかな?」
 そう伝えると翼ちゃんが食いついてきた。
「それは私たちも思った。でも、おじさんはどうしてそう思うの?」
「うん、なんとなくなんだけど、例えば向こうが君たちと同じ世界からきたとして、君たちを探る理由ってなんだろうなあ?っておもったらさ、翼ちゃんのお姉さんだからってのが一番しっくりくるんだ」
「なるほど……」
「向こうがやってることって、魔力を集めてる人がここにも居るぞ!ってアピールしてるんだよね。それに、君たちにだけわかるように接触までして来てる。ということは、目的は君たちってことにならないかなあ?」
 そう説明しても猫ちゃんは納得してないようだった。
「うーん、そうかもしれないけど、確証は無いよ?」「うん、ただの推測だよね」
「まあ、そう言われるとその通りだ。でも可能性はあるよね。あとは君たちがどうしたいか?ってだけだよ」
 私の言葉を聞いて考え込む二人。しばらくして口を開いたのは猫ちゃんだった。
「私、会ってみたいかも……」
 それを聞いた翼ちゃんも続く。
「私も会いたいな……」
 そんな二人の言葉を聞き、私は微笑んだ。
「じゃあ、私の方で調べられることは調べておくよ。それで、もし見つかったら連絡する。それでいいかい?」
 私の言葉に二人は頷いた。

「それともう一つ。偽刑事の二人と、本橋って刑事さんの事なんだけど……君たちはどう思う?」
 私の質問に翼ちゃんが首を傾げて言う。
「私、その人たちの事、見てないんだよね。私が来る前の時間に来た人たちでしょう?」
「そうか……そうだよね」
「私は見たけど、本橋さんの言ってる事には説得力があったよね。ああいわれると、確かにあの二人はおかしいんじゃないかと思えてくる」と猫ちゃんが言う。
「猫ちゃんは何かほかに気になることは無かった?」
「うーん、特に無いかな?あ、でも、何か妙に固まってる気がする」
「固まる?」
「私たちがいるでしょ、雑居ビルの泥棒、偽刑事、時計泥棒、あと常連さんの友達もお金盗まれたんだっけ?ほら、こんなに泥棒が一か所に固まるってことある?しかもこの短期間に?」
「確かに言われてみればそうだね……魔力関連を1グループと数えても、私たちと偽刑事で最低三グループがいるってことになる……」

 猫ちゃんの意見を聞いて考える。そして、以前から違和感を覚えていたことをふと思い出した。
「おじさん、どうかした?」
 考え込んでいた私に翼ちゃんが声をかける。
「いや、ちょっと気になったことがあって……翼ちゃん、変な男が見張ってるって電話した時、あれは警察って言ったよね?」
「えーっと、言ったかなあ?ごめん、覚えてない」
「……いや、いいんだ。変なこと聞いてごめんね」
 そう言って話を打ち切った。本当に覚えていないのか、隠しているのかな……。どちらにせよ、今は関係ない事だしこの件は後でもいいか。

 話がひと段落したところで時計を見ると21時を少し過ぎていた。そろそろ帰らないと。そう思って立ち上がると、二人とも玄関まで見送りに来てくれた。
「おじさん、今日はありがとう」「またね~」
 そう言って手を振る二人に見送られながら私は自宅に戻った。
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