怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

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 ひとまず骨董品店のことは置いといて、次は時計屋での窃盗と魔力の残滓についてだ。魔力の残渣ってのがあの男の手に付いた塗料なら、翼ちゃんが見失ったのも説明がつく。問題は時計屋での窃盗だ。
「翼ちゃん、あの男が時計屋で腕時計を盗んだっていったでしょ?それって魔力のはあったのかい?」
 そう聞くと彼女は首を横に振る。
「無かったよ。そもそも時計屋の商品には魔力が籠ってるものは何も無かったし」
 それを聞いて少し考える。この時計屋での窃盗は魔力を狙ったものじゃないってことかな?そうすると何が目的なんだろう?考えていると猫ちゃんが口を挟んできた。
「その人って、骨董屋さんの犯人と別なんじゃないの?偶然この地域で窃盗があったってだけでさ」
「いや、そんな偶然あるかな?犯行が偶然この近所で、その男が偶然魔力の残渣があるものを持ってて、二件の犯行が偶然短期間のうちに行われてる」
 私がそう言うと猫ちゃんは肩をすくめた。その横で翼ちゃんが言う。
「偶然じゃないとしたら、もしかして、この店に来たのも偶然じゃないとか?」
「えっ?翼、それってどういうこと?」
「わかんないんだけど、何となくそう思ったの」
 そう言って黙り込む翼ちゃん。彼女の言いたいことはなんとなくわかる。おそらくだが、この店に来たのは偶然ではない。だとすれば、なぜこの店に来たのか?その理由は?
「多分だけど、向こうも翼ちゃんと猫ちゃんが同じ世界から来たと思ってるんじゃないかな?それで探りを入れようとしてるとか?」
「えっ!?そうなの!?」驚く猫ちゃん。
「いや、あくまで想像なんだけどね。腕時計は翼ちゃんにわかるようにわざと見せつけたんじゃないかな?自分たちも似たようなことをしているってメッセージを込めて」
「そうなのかなあ……」
 翼ちゃんは考え込んでいた。

 ふと思いついたことがあったので二人に聞いてみた。
「そういえば、生贄になった人たちの中で翼ちゃん以外に生きるために魔力を必要としてる人っていなかったの?」
 私の問いに二人が答える。
「うーん、いないんじゃないかなあ」「私も知らない」
「じゃあ、魔力を集める利点って何かあるかな?」
 その質問に二人は顔を見合わせるてこう言った。
「無いと思うよ?魔力を集めたところで魔導士でもない限り魔法は使えない。もし魔導士だったら、そもそも生贄にされてないよ」「魔力を取り出すことも出来ないんじゃないかなあ?翼みたいに神様に魔力を供給してるとかじゃない限り」
「そっか、じゃあ、向こうが魔力を集めてる理由はわからないってことだね」
 私はそう結論付ける。

 その後も色々話し合ったが結局答えは出なかった。
「あ、もうこんな時間か……ごめんね、二人とも、遅くまで付き合わせちゃって」
「いいよ、おじさん。また何かあったら教えてね」
「うん、おじさん、ありがとう」
 そう言って二人は帰っていった。二人が帰った後、奥の部屋のパソコンで少し調べることにした。

 まずは、カップの取っ手に付いていた赤い塗料。これが宝石を原料にしてるとしたら、なんなのだろうか?パソコンで検索してこれじゃないか?という候補を見つけた。辰砂(しんしゃ)だ。中国の辰州で多く獲れることからそう呼ばれているらしい。賢者の石とも呼ばれて、錬丹術なんかでよく使ってたとのこと。日本では古来から丹(に)と呼ばれてて、なんと、これにまつわる神様もいるらしい。
 神社の建物が赤いのは、この辰砂を使っているからだとか。あの子達って神社巡りとかしたことあるのかな?相当な数あると思うんだけど。とりあえず辰砂に深く関わりのありそうな丹生都比売神社の情報をまとめてプリントする。
 
 それからもう一つ気になったものを調べる。海外で起きたウインドキャットの痕跡、これの日時を全て抜き出してリストを作る。二人に見せて実際に怪盗として活動したかどうか確認するためだ。何の為にこんなことをするのかというと、先程二人には言ってない、一つの可能性を確かめる為だ。

 もし仮に、二人と同じ世界からきて、こちらを探っているのが翼ちゃんのお姉さんだとしたら。
 魔力が無いと命の危険がある妹の為に魔力の宿っている品をあつめてるのだとしたら。
 本当に自分の妹なのか確認しようとして私たちの周りでわざと痕跡を残しているのだとしたら。
 向こうも妹を探すために今まで世界中に痕跡を残しているのだとしたら。
 同じ村の神様であるウイングキャットを使っているのではないだろうか?そう考えたのだ。
 そうだったらいいなあ、と思う一方で、もし翼ちゃんのお姉さんだとしたら、尾行させた時に確認しているはずだ。なのに、何故接触してこないのだろう?と疑問に思った。

 リストを作っている内に妙なことに気付いた。これってどういうことなんだろう?私はウインドキャットの痕跡を二種類に分けてまとめることにした。
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