怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

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「あ、もしもし、翼ちゃん?ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今、大丈夫かな?」
『うん、大丈夫だよ』
 電話口から元気な声が聞こえてくる。
「実は今、店の外に変な人が来てるみたいでさ……どうも監視されてるみたいなんだ。警察呼んだ方がいいかな?」
 そう言うと彼女は少し間を置いて答えた。
『ううん、呼ばなくていいと思うよ。その人、警察の人だから』
「え、どういうこと?」
 予想していなかった答えに困惑する。翼ちゃんは淡々と説明し始めた。
『多分なんだけど、元々、刑事さんが聞き込みに来てたんでしょ?この辺りで盗難があったって。それに加えて、つい先日も時計屋でも盗難があった。それって連続窃盗事件になるよね。でもって、高級そうな絵画が飾ってある小さな喫茶店があったら、今度はそこに強盗にかもって思って張り込みしてもおかしくないんじゃないかな?』
「あー、なるほどね」
 確かに言われてみればその通りだ。でも、それなら警察から一言あってもいいんじゃないか?そんな疑問をぶつけてみる。
「だったらどうして警察から連絡がのかな?」
『うーん、多分だけど、これっておとり捜査になるんじゃないかな?向こうから協力してくれって言ってきて、もし何かあった場合、警察の責任になるからね。それと、私と猫とおじさんも犯人だと疑われてるとか?』
「あー、なるほど。でも逆にあの絵を狙ってる犯人って可能性もないかな?だってあの絵、結構な高額だよ?」
 そう質問してみると、彼女はこう返してきた。
『よほど絵心が無いと価値があるかどうかなんてわからないんじゃないかな。小さな喫茶店に飾ってあるような絵だよ?そんなの普通の泥棒が狙わないよ」
 ごもっともである。あの絵の価値は素人にはわかりにくいだろう。

「あれ……?」
 何かが引っかかる。喉元まで出かかっていたのに出てこない。今、何かに気付いたはずなのに頭に浮かんでこない。もどかしい気持ちになっていると、彼女が言った。
『どうかしたの?おじさん』
「いや、何でもない。とりあえず警察が張り付いてるってことなんだね?」
『うん、そういうこと』
「了解。それじゃ、今日はお店どうする?休むかい?」
『いや、いつも通りやるよ。大丈夫』
「そうかい、わかったよ。じゃあ、今日もよろしくね」
 そうして電話を切った。さて、じゃあ仕事に戻りますか……。

 そういえば絵画を見せた日から刑事さんたち来ないな。いつもこの時間に来てたのに。あの刑事さんたちが張り込みしてるのかな?そんなことを考えながらテーブルを拭いていると、カランコロンとドアベルが鳴った。お客さんだ。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
 挨拶をしながら顔を向けると、常連の女性三人が来店した。いつもの席に座ってメニューを開く。
「今日は、チーズケーキにしようかしら?」「あら、いいわね!私もそれにしようっと!」
「私はどうしようかなー……ショートケーキもいいなあ……」
 3人とも楽しそうにメニューを選んでいる。この3人は仲が良いようでよく昼前に一緒に来ているのだ。それにしても……みんな美人だな。まさかモデルなんてことはないよな?
 しばらくすると、注文を頼まれたのでオーダーを取りに行く。
「はい、お待たせしました。ご注文をお伺いします」
 女性達は顔を見合わせて頷くと、代表して一人が話し始めた。
「えっとですね、チーズケーキのセットを三つでお願いします。飲み物はアイスのミルクティー三つで」「はい、かしこまりました」
 注文書を取ってキッチンに戻る。その後、ミルクティーを入れ終わったのでチーズケーキと一緒に彼女達のテーブルに持っていった。
「お待たせいたしました。こちら、チーズケーキのセットでございます」
 三人分のケーキをそれぞれの目の前に置いてカウンターに戻ると、三人の会話が耳に入ってきた。
「ねえ、知ってる?この前、佐藤さんから聞いた話なんだけど……」「えー何それー!聞きたい!」
 どうやら誰かの噂話のようだ。
「それがね、あの人、最近ストーカー被害に遭ってるんだってさ!」「……え!?嘘!そうなの!?」
「ええ、なんでも元職場の同僚らしいんだけどね……」「うわー、それは怖いね……」
「そうなのよー、それでね……」
 その三人は会話に花を咲かせていたようだ。
 しばらくして、席を立ってレジにやってきた。
「ごちそうさまでしたー」「ありがとうございました」

 彼女たちを見送った後、片付けをしているとドアベルが鳴って翼ちゃんがやって来た。
「おじさん、おはよ~」
「おはよう、翼ちゃん」
 翼ちゃんが着替えるためにロッカーに行こうとして、隅の方に置いてあるビニール袋に入ったコーヒーカップに気が付いた。
「おじさん。これ、廃棄?」
「ああ、汚れがこびりついてどうしても落ちないから捨てようと思ってどけておいたんだ」
「そうなんだ~、じゃあ私が洗うよ」
 そう言って彼女は袋越しに汚れを確認しようとして固まった。そしてゆっくりとこちらを見ると聞いてきた。
「ねえ、これ、いつ汚れたかわかる?」
「多分一昨日の昼過ぎ以降かな?それ以前にはなかったはずだよ」
 それを聞いて彼女は大きくため息をついた。どうしたんだろうと不思議に思っていると、彼女はこう言ったのだった。
「おじさん、これ、魔力の残渣だよ」
「えっ?」
 翼ちゃんの言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。
「あっ!じゃあ、これってあの時の時計泥棒の?」
 ようやく思い当たった私は思わず声を上げる。
「そうだよ、間違いない」
 そう言って翼ちゃんは袋を開け、取っ手にこびりついた赤を眺めていた。
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