怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

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 店を閉めて駅へと向かう。空はすっかり暗くなっていた。雨が降っていたので、傘をさして雑談をしながら歩いていた。
「そういえば猫ちゃんってさ、お店に来ない時って何してるの?学校にはいってないんだよね?」
何気なく尋ねる私に翼ちゃんは言った。
「美術館とか宝石店回ってることが多いかなあ……」
「へえ、そうなんだ」相槌を打つと今度は翼ちゃんが聞いてきた。
「おじさんは暇なとき何やってるの?」
「私?私は特に何もしてないかなあ……うちで休んでるよ」
「ふーん……」
 何か考えている様子だが特に追及されることもなかったので、それ以上何も言わなかった。しばらく歩いていると駅に着いたので、翼ちゃんと別れることにした。
「じゃあまた明後日ね~」手を振る翼ちゃんに手を振り返して帰路に入った。明日は定休日だ。何をしようか考えながら家路についたのだった。

 次の日、私は朝から仕事着を着て家を出た。仕事着と言っても喫茶店の制服ではない。以前の仕事で着ていたスーツだ。
 喫茶店は休みだが情報収集をしようと思い立ったのだ。昨日はあれからいろいろと考えてみたものの、結局のところ情報が足りないという結論に至っただけだった。ならば直接話を聞くのが一番だろうと思い至り行動することにしたのである。
 喫茶店に着くとパソコンでネットショップを開く。そうだなあ……防犯カメラでいいか。商品検索欄に『防犯カメラ』と入力しエンターキーを押す。するとずらっと候補が出てきた。これらの商品説明と画像をコピーして保存。そしてフリーソフトで加工していく。完成したものをプリントアウト。これは私が前の職場でやっていた仕事の一つで、商品のチラシを作っているのだ。
 完成したチラシを薄っぺらい鞄に入れて、首から社員証を入れた吊り下げ名刺入れを掛ければ完成だ。これでどこからどう見ても真面目なサラリーマンに見えることだろう。何せ最近まで本当にやっていたんだから。
 何をしようとしてるのかと言うと、この辺りで起きたという最初の窃盗事件。それの聞き込み調査をしようとしてるのだ。実際前の職場でも商品の需要を知るために何度も似たようなことはしてきた。売らなくても良い分あの時より全然気が楽だ。よし、準備完了!さあ、聞き込み開始だ!
 気合を入れて喫茶店の外に出た。目指すはゲームセンター周りの雑居ビル。うまくいくといいけど。

 雑居ビルの裏通り、あのゲームセンターの入り口から奥に進んだところ、そこに小さな事務所や居酒屋などが軒を連ねている。普通の民家はあまりないのだけど、店と住居が一体化してるタイプの建物がそこそこある。そんな裏通りに足を踏み入れた。
 その中で小さな洋食屋に目を付けた。開店時間は11時からでまだ店は閉まっている。裏口のほうに回り込むと、ちょうどドアが開いてエプロン姿の女性が現れた。女性はこちらに気づくと声をかけてきた。
「あら、お客さんですか?すみません、今準備中でして」
「いえ、私、猫山防犯システムから来ました、長谷川と申します。本日は防犯についての意識調査を行っています」
そう言うと彼女は不思議そうな顔をした。
「はあ、そうですか」
「いくつか質問をさせていただいてよろしいでしょうか?」
「あー、すみません、ちょっと開店準備で忙しいので……」と言って女性は帰ろうとする。
「そうですか、失礼しました。お時間ありがとうございました!」
 そういって言って立ち去る。まあ、だいたいはこうやって断られるのもだ。こういうのはしつこくしてはいけない。悪印象を持たれないように断られても丁寧に対応して即座に撤退するのが鉄則だ。そうしていくつかの店を回った結果、ようやく話を聞いてくれる人に出会った。その人は40代くらいの主婦だった。

「そうなんですよ!最近この辺りで窃盗事件があって、もう、怖くて怖くて……主人にも防犯カメラの一つでもつけた方がいいんじゃないかって言ったんですけど、うちには必要が無いって取り合ってくれないんですよ。あ、ほら、そこの雑居ビルの四階!あそこの骨董品屋さんが被害にあったところで。ほら、もう、目と鼻の先でしょう?だから心配で心配で……」
 マシンガンのようにまくしたてて話す奥さんに、真剣な顔で相槌を打ちなが話を聞く。ありがたいことに話好きなようで聞く前から知りたい情報がどんどん出てきた。どうやらその雑居ビルには古い骨董品などを取り扱っている店があり、そこの金庫の中身を丸ごと盗まれたらしい。やはりあの場所。翼ちゃんが狙っていた場所だ。
「お話ありがとうございます。とても参考になりました」
 そう言って頭を下げると、彼女はニコニコしながら帰っていった。よし、怪しまれる前に現場から撤収だ。私は急いで喫茶店に戻った。

喫茶店に戻った私はパソコンであの雑貨ビルに入っている骨董品店を調べた。SNSをやっていたので簡単に情報が得られる。便利な世の中になったもんだ。
 調べてみるとこの骨董品店の店主は動画配信なども行っており、そこそこ有名なようだ。窃盗事件のことも動画にしていて、盗まれたのは現金数十万と、エメラルドのカメオペンダント。以前テレビの鑑定番組に持ち込んでおり、鑑定の結果7万円と惨敗だった品らしい。このカメオが翼ちゃんの狙っていた魔力が宿った品なのだろうか?今度聞いてみよう。
 幸いなことに骨董品店を閉めたのは、たまたま契約が切れる時期だっただけで盗難事件は関係ないとのこと。商売は順調で、今はもっと人通りの多い別の場所で営業してるらしい。
 さて、もう昼時だ。どこか適当なところで飯でも食べて帰るかな。
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