11 / 37
11
しおりを挟む
それから数日が経った。今日も通常営業だ。いつものようにお昼から翼ちゃんが入っている。
15時頃、ドアベルが鳴りお客様が入ってきた。
「いらっしゃいませ」と声をかける。見ると黒いぼさぼさ髪で大学生くらいの中肉中背の男性だった。
初めて見るひとだ。彼は店内を見回した後、入り口に近い窓際の席についた。メニュー表を見ながら思案しているようだったのでこちらから話しかけることにした。
「ご注文は何になさいますか?」
すると彼は顔を上げてこちらを見た。目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らしたあと小さな声でいった。
「……カフェオレでお願いします」「かしこまりました」
と言ってキッチンに戻る。用意をしながら彼の様子を伺うと、何やら落ち着かない様子でそわそわとしていた。あまりこういったお店には来ないのだろうか?
彼が注文したカフェオレが出来上がったので持っていくことにした。
「お待たせしました。カフェオレです」
テーブルに置きながら説明する。
「砂糖とミルクはこちらに置いてありますので、お好みで入れてください」
説明を終えると彼は軽く会釈してカップを手に取った。そして一口飲むと驚いた顔をした。
「……おいしい」
思わずといった感じで呟く彼を見て嬉しくなる。そのまま立ち去ろうとしたのだが、彼に呼び止められた。
「あの、すみません……」
「はい、なんでしょう?」
「クレジットカード払いでも大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ではこれでお願いします」
そう言ってカードで会計を済ませると足早に店を出て行った。テーブルを片付けようとしていたら翼ちゃんが話しかけてきた。
「今の人、魔力の残滓みたいなのを感じた。私、ちょっと行ってくるね」
そういって店を飛び出していった。彼女が出ていった後、私は呆然と立ち尽くしていた。魔力の残滓……?なんだそれ?人間にも魔力が宿るのか?疑問を感じながらも仕事を再開することにした。
16時過ぎくらいになりようやく落ち着いてきた頃、翼ちゃんが戻ってきた。なにやら浮かない顔をしている。何かあったのか尋ねると、彼女は答えた。
「うーん……ちょっとまずいことになったかも……」
「どうしたの?」
気になって尋ねてみると彼女は言いづらそうにしながらも話してくれた。
「実はさ……さっきの人の後をつけてみたんだけど、もしかすると同業者かもしれない」
「同業者?喫茶店じゃないよね?それってつまり……」
嫌な予感しかしない。
「うん……多分、あの人も私たちと同じ泥棒。時計屋で高そうな腕時計盗んでいったんだ。しかも途中で見失った……ありえないよ。こっちは魔力の痕跡で追ってたのに、ふっと綺麗に消えちゃった。尾行がバレたのかもしれない」
悔しそうにいう彼女に、ふと気づいたことを聞いてみた。
「その人って向こうから来た人なんじゃないの?こっちの世界では魔力は宝石とか絵画にしか宿らないんだろう?」
そういうと彼女は首を振った。
「ううん、違うと思う。だって生贄になったのはみんな若い女性だけだもん」
「つまり、魔法なんて無いこちらの世界の人間が、向こうの世界から来た翼ちゃんより魔力の使い方が上手ってこと?」
「それも違うと思う……感じたのは大きな魔力じゃなくて、ごく小さい魔力。残滓なんだよね。だから魔導士でもない。何かの理由で残滓が残ってただけなんだと思う。それが消えちゃったってことは、あの人そのものがどこかに消えちゃったってことだよ。そんなのありえないでしょ?でも、そうじゃなければ私が見失うはずがないんだけど」
私は専門外だから何ともいえないけど、翼ちゃんがありえないと言うならありえないんだろう。
「もしかすると、刑事さんが言ってた窃盗事件の犯人もその人なんじゃないかな?こっちの手に負えないなら、もう警察にまかせちゃおうか?」
「うーん……でもなあ……」煮え切らない様子の彼女。
「どうかした?」
「私たちに飛び火してくるかもしれないから、警察には頼りたくないかな。もうすぐ仕事があるし。それに魔力の残滓が残ってたんだから、あの人が魔力の籠った何かを持ってる可能性が高い。警察に持っていかれたら回収が面倒になる」
なるほど、確かにそれはそうだ。
「ちなみに、魔力の籠ったものって、具体的にどんなものかわかるかい?」
聞いてみるが、翼ちゃんは首を横に振った。
「そこまではわからない……」
困ったな……結局、何もわからずじまいか。まあ、とりあえず今日はもう店を閉めよう。閉店時間だ。
「よし、この件は猫ちゃんに相談するとして、とりあえず店を閉めようか」
そう言って閉店の準備を始めた。
15時頃、ドアベルが鳴りお客様が入ってきた。
「いらっしゃいませ」と声をかける。見ると黒いぼさぼさ髪で大学生くらいの中肉中背の男性だった。
初めて見るひとだ。彼は店内を見回した後、入り口に近い窓際の席についた。メニュー表を見ながら思案しているようだったのでこちらから話しかけることにした。
「ご注文は何になさいますか?」
すると彼は顔を上げてこちらを見た。目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らしたあと小さな声でいった。
「……カフェオレでお願いします」「かしこまりました」
と言ってキッチンに戻る。用意をしながら彼の様子を伺うと、何やら落ち着かない様子でそわそわとしていた。あまりこういったお店には来ないのだろうか?
彼が注文したカフェオレが出来上がったので持っていくことにした。
「お待たせしました。カフェオレです」
テーブルに置きながら説明する。
「砂糖とミルクはこちらに置いてありますので、お好みで入れてください」
説明を終えると彼は軽く会釈してカップを手に取った。そして一口飲むと驚いた顔をした。
「……おいしい」
思わずといった感じで呟く彼を見て嬉しくなる。そのまま立ち去ろうとしたのだが、彼に呼び止められた。
「あの、すみません……」
「はい、なんでしょう?」
「クレジットカード払いでも大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ではこれでお願いします」
そう言ってカードで会計を済ませると足早に店を出て行った。テーブルを片付けようとしていたら翼ちゃんが話しかけてきた。
「今の人、魔力の残滓みたいなのを感じた。私、ちょっと行ってくるね」
そういって店を飛び出していった。彼女が出ていった後、私は呆然と立ち尽くしていた。魔力の残滓……?なんだそれ?人間にも魔力が宿るのか?疑問を感じながらも仕事を再開することにした。
16時過ぎくらいになりようやく落ち着いてきた頃、翼ちゃんが戻ってきた。なにやら浮かない顔をしている。何かあったのか尋ねると、彼女は答えた。
「うーん……ちょっとまずいことになったかも……」
「どうしたの?」
気になって尋ねてみると彼女は言いづらそうにしながらも話してくれた。
「実はさ……さっきの人の後をつけてみたんだけど、もしかすると同業者かもしれない」
「同業者?喫茶店じゃないよね?それってつまり……」
嫌な予感しかしない。
「うん……多分、あの人も私たちと同じ泥棒。時計屋で高そうな腕時計盗んでいったんだ。しかも途中で見失った……ありえないよ。こっちは魔力の痕跡で追ってたのに、ふっと綺麗に消えちゃった。尾行がバレたのかもしれない」
悔しそうにいう彼女に、ふと気づいたことを聞いてみた。
「その人って向こうから来た人なんじゃないの?こっちの世界では魔力は宝石とか絵画にしか宿らないんだろう?」
そういうと彼女は首を振った。
「ううん、違うと思う。だって生贄になったのはみんな若い女性だけだもん」
「つまり、魔法なんて無いこちらの世界の人間が、向こうの世界から来た翼ちゃんより魔力の使い方が上手ってこと?」
「それも違うと思う……感じたのは大きな魔力じゃなくて、ごく小さい魔力。残滓なんだよね。だから魔導士でもない。何かの理由で残滓が残ってただけなんだと思う。それが消えちゃったってことは、あの人そのものがどこかに消えちゃったってことだよ。そんなのありえないでしょ?でも、そうじゃなければ私が見失うはずがないんだけど」
私は専門外だから何ともいえないけど、翼ちゃんがありえないと言うならありえないんだろう。
「もしかすると、刑事さんが言ってた窃盗事件の犯人もその人なんじゃないかな?こっちの手に負えないなら、もう警察にまかせちゃおうか?」
「うーん……でもなあ……」煮え切らない様子の彼女。
「どうかした?」
「私たちに飛び火してくるかもしれないから、警察には頼りたくないかな。もうすぐ仕事があるし。それに魔力の残滓が残ってたんだから、あの人が魔力の籠った何かを持ってる可能性が高い。警察に持っていかれたら回収が面倒になる」
なるほど、確かにそれはそうだ。
「ちなみに、魔力の籠ったものって、具体的にどんなものかわかるかい?」
聞いてみるが、翼ちゃんは首を横に振った。
「そこまではわからない……」
困ったな……結局、何もわからずじまいか。まあ、とりあえず今日はもう店を閉めよう。閉店時間だ。
「よし、この件は猫ちゃんに相談するとして、とりあえず店を閉めようか」
そう言って閉店の準備を始めた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜
嶌田あき
青春
高校生の澪は、天文部の唯一の部員。廃部が決まった矢先、亡き姉から暗号めいたメールを受け取る。その謎を解く中で、姉が6年前に飛ばした高高度気球が見つかった。卒業式に風船を飛ばすと、1番高く上がった生徒の願いが叶うというジンクスがあり、姉はその風船で何かを願ったらしい。
完璧な姉への憧れと、自分へのコンプレックスを抱える澪。澪が想いを寄せる羽合先生は、姉の恋人でもあったのだ。仲間との絆に支えられ、トラブルに立ち向かいながら、澪は前へ進む。父から知らされる姉の死因。澪は姉の叶えられなかった「宇宙の渚」に挑むことをついに決意した。
そして卒業式当日、亡き姉への想いを胸に『風船ガール』は、宇宙の渚を目指して気球を打ち上げたーー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる