怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

文字の大きさ
上 下
10 / 37

10

しおりを挟む
 数日後、今日も喫茶店は通常営業である。開店準備を終えてしばらくすると例の刑事二人組がやってきた。彼らはいつものようにブラックコーヒーを注文して奥の席に座った。
 私は彼らのテーブルにコーヒーを置くと、何気ない風を装って話しかけた。
「おはようございます。今日もお仕事ですか?」
「ああ、おはよう。まあ、そんなところだな」
 背の高い方が答える。
「大変ですね」
 当たり障りのない会話をしながら、それとなく探ることにした。
「ところで、この間の窃盗事件ってどうなりましたか?なにか進展ありました?」
「いや、それがさっぱりでね。犯人の目星すらついていないよ」長身の方の男が答えた。
「そうなんですか……早く捕まるといいですね」
「まったくだ」もう一人の男が頷く。
「やっぱりもう少し防犯対策とかした方がいいのですかね?昨日、ここのオーナーが絵画持ってきてくれたんですよ。なんでも有名な画家の作品の偽物らしいです。せっかくなので盗まれないようにしないといけませんからね」
「へえ、絵画ですか」小柄な方が言う。
「ええ、とりあえずカウンターのところに飾ってあるんですけど、やっぱり不安ですよねぇ……」
「どれ、少し拝見させてもらってもいいですかな?」
 小柄な方が興味を持ったようで話しかけてきたので快く了承した。彼はしげしげと絵を眺めていたがやがて言った。
「なるほど、確かに見事なものだ。これは牛乳を注ぐ女のアレンジですね。この深い青はおそらく本物のフェルメール・ブルーを使用してるのでしょう。偽物にしてはかなり精巧に描かれています」
「フェルメール・ブルーですか?確かにオーナーもそんな感じのこといってましたね」
「ええ、ラピスラズリという宝石を原料にした絵具なんですけど、画家のフェルメールが好んで使ったことからフェルメール・ブルーと呼ばれています。ウルトラマリンとも言いますね」
「へぇー詳しいんですね」
 素直に感心していると男は照れ臭そうに笑った。
「いやいや、それほどでもないですよ」
 謙遜しているが満更でもなさそうだ。そんな彼の様子を見た大柄な方の刑事が言った。
「おい、そろそろ行くぞ」「わかりました」
 二人は立ち上がり、店を出ようとした。
「ありがとうございました」
 そう言って彼らを見送る。

 彼らが出ていった後、改めて絵画を見た。フェルメール・ブルーねえ……宝石を絵具にするってすごい発想だな。そんな勿体ないことよく考えつくもんだなあ……などと考えながら眺めていて思いついた。
 もしかして、魔力って宝石に含まれてるのか?だとすると、宝石の絵具を使っている絵画に魔力があるのも頷ける。でも全ての宝石に魔力があるならわざわざ高い金出して絵画なんか買う必要なんかないだろう。おそらく宝石に魔力が宿る条件か何かがあるんだな。でもどんな条件で魔力が溜まるんだろう?あとでパソコンで調べてみようか。
 そんなことを考えながら仕事に戻ったのだった。

 午前11時頃、近所の主婦たちだろうか?常連の女性三人が来店した。いつものようにケーキセットを注文し、談笑していた。その最中、一人がこんな話題を持ち出した。
「そういえば最近、妙な噂を聞いたのよ」
「あら、なにかしら?」他の女性が聞き返すと、女性は話し始めた。
「この辺りで盗難事件があったらしいわよ」「盗難事件?」女性の一人が聞き返した。
「ええ、そうなのよ。そこの大通りの雑居ビルで金庫荒らしがあったらしくて、犯人はまだ捕まっていないんだって」「そうなんだ」「そういえば、佐藤さんのところも泥棒に入られたらしいわよ。貯めてたへそくりがごっそり持っていかれたって」「それって旦那さんじゃないの?」
 などと言いながら三人の話は続く。
 大通りの雑居ビル?それって翼ちゃんが狙っていたところでは?空振りだったっていってたけど……。
 しばらくした後、女性たちは会計を済ませて帰って行った。食器を片付けていると、ドアベルが鳴った。

「おじさん、おはよ~」翼ちゃんがやってきた。もうそんな時間か。そう思いながら挨拶を返す。
「翼ちゃん、おはよう。体調とかは大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。昨日魔力貰ったし、全然元気~」笑顔で答える彼女。
「それはよかった」
 翼ちゃんは着替えるためにロッカーのある部屋に入った。しばらくして出てきた翼ちゃんにまた刑事たちが来てたことと常連さんのことを話す。
「そうなんだ。やっぱり私たちは関係なかったんだね」
 ほっとする彼女に私は尋ねた。
「そういえば魔力のことなんだけど、宝石と絵画以外にも魔力が含まれてるものってあるんだっけか?」
「んーとね……壺とかにも少し含まれてる事あるよ。でも一番多いのはやっぱり宝石かな」
「そうか……思ったんだけどさ、絵画とか壺に含まれてる魔力って宝石を原料にした絵具が原因なんじゃないかな?」
 そう言うと彼女は首を傾げた。
「絵具に宝石を使うの?あんなに固いのに?」
 どうやら彼女も詳しいことは知らないようだ。
「刑事さんがいってたんだよ。青い色は宝石を原料にしてるとか?そんな感じのことを」
 すると彼女は納得したように頷いた。
「なるほど……そうかもね」
 それから彼女は思い出したように続けた。
「そういえば、今日はお昼過ぎから雨降るみたいだよ。天気予報では夕方からって言ってたけど、念のため早めに傘立て出したほうがいいかも」
 言われて窓の外を見る。すでに空は曇っていた。雨が降れば客足も鈍るだろうし、早めに準備しておこうかな?そう思って作業を再開した。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

コントな文学『カラダ目当ての女』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
会いたくなったから深夜でも・・・

残業で疲れたあなたのために

にのみや朱乃
大衆娯楽
(性的描写あり) 残業で会社に残っていた佐藤に、同じように残っていた田中が声をかける。 それは二人の秘密の合図だった。 誰にも話せない夜が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...