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数日後、今日も喫茶店は通常営業である。開店準備を終えてしばらくすると例の刑事二人組がやってきた。彼らはいつものようにブラックコーヒーを注文して奥の席に座った。
私は彼らのテーブルにコーヒーを置くと、何気ない風を装って話しかけた。
「おはようございます。今日もお仕事ですか?」
「ああ、おはよう。まあ、そんなところだな」
背の高い方が答える。
「大変ですね」
当たり障りのない会話をしながら、それとなく探ることにした。
「ところで、この間の窃盗事件ってどうなりましたか?なにか進展ありました?」
「いや、それがさっぱりでね。犯人の目星すらついていないよ」長身の方の男が答えた。
「そうなんですか……早く捕まるといいですね」
「まったくだ」もう一人の男が頷く。
「やっぱりもう少し防犯対策とかした方がいいのですかね?昨日、ここのオーナーが絵画持ってきてくれたんですよ。なんでも有名な画家の作品の偽物らしいです。せっかくなので盗まれないようにしないといけませんからね」
「へえ、絵画ですか」小柄な方が言う。
「ええ、とりあえずカウンターのところに飾ってあるんですけど、やっぱり不安ですよねぇ……」
「どれ、少し拝見させてもらってもいいですかな?」
小柄な方が興味を持ったようで話しかけてきたので快く了承した。彼はしげしげと絵を眺めていたがやがて言った。
「なるほど、確かに見事なものだ。これは牛乳を注ぐ女のアレンジですね。この深い青はおそらく本物のフェルメール・ブルーを使用してるのでしょう。偽物にしてはかなり精巧に描かれています」
「フェルメール・ブルーですか?確かにオーナーもそんな感じのこといってましたね」
「ええ、ラピスラズリという宝石を原料にした絵具なんですけど、画家のフェルメールが好んで使ったことからフェルメール・ブルーと呼ばれています。ウルトラマリンとも言いますね」
「へぇー詳しいんですね」
素直に感心していると男は照れ臭そうに笑った。
「いやいや、それほどでもないですよ」
謙遜しているが満更でもなさそうだ。そんな彼の様子を見た大柄な方の刑事が言った。
「おい、そろそろ行くぞ」「わかりました」
二人は立ち上がり、店を出ようとした。
「ありがとうございました」
そう言って彼らを見送る。
彼らが出ていった後、改めて絵画を見た。フェルメール・ブルーねえ……宝石を絵具にするってすごい発想だな。そんな勿体ないことよく考えつくもんだなあ……などと考えながら眺めていて思いついた。
もしかして、魔力って宝石に含まれてるのか?だとすると、宝石の絵具を使っている絵画に魔力があるのも頷ける。でも全ての宝石に魔力があるならわざわざ高い金出して絵画なんか買う必要なんかないだろう。おそらく宝石に魔力が宿る条件か何かがあるんだな。でもどんな条件で魔力が溜まるんだろう?あとでパソコンで調べてみようか。
そんなことを考えながら仕事に戻ったのだった。
午前11時頃、近所の主婦たちだろうか?常連の女性三人が来店した。いつものようにケーキセットを注文し、談笑していた。その最中、一人がこんな話題を持ち出した。
「そういえば最近、妙な噂を聞いたのよ」
「あら、なにかしら?」他の女性が聞き返すと、女性は話し始めた。
「この辺りで盗難事件があったらしいわよ」「盗難事件?」女性の一人が聞き返した。
「ええ、そうなのよ。そこの大通りの雑居ビルで金庫荒らしがあったらしくて、犯人はまだ捕まっていないんだって」「そうなんだ」「そういえば、佐藤さんのところも泥棒に入られたらしいわよ。貯めてたへそくりがごっそり持っていかれたって」「それって旦那さんじゃないの?」
などと言いながら三人の話は続く。
大通りの雑居ビル?それって翼ちゃんが狙っていたところでは?空振りだったっていってたけど……。
しばらくした後、女性たちは会計を済ませて帰って行った。食器を片付けていると、ドアベルが鳴った。
「おじさん、おはよ~」翼ちゃんがやってきた。もうそんな時間か。そう思いながら挨拶を返す。
「翼ちゃん、おはよう。体調とかは大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。昨日魔力貰ったし、全然元気~」笑顔で答える彼女。
「それはよかった」
翼ちゃんは着替えるためにロッカーのある部屋に入った。しばらくして出てきた翼ちゃんにまた刑事たちが来てたことと常連さんのことを話す。
「そうなんだ。やっぱり私たちは関係なかったんだね」
ほっとする彼女に私は尋ねた。
「そういえば魔力のことなんだけど、宝石と絵画以外にも魔力が含まれてるものってあるんだっけか?」
「んーとね……壺とかにも少し含まれてる事あるよ。でも一番多いのはやっぱり宝石かな」
「そうか……思ったんだけどさ、絵画とか壺に含まれてる魔力って宝石を原料にした絵具が原因なんじゃないかな?」
そう言うと彼女は首を傾げた。
「絵具に宝石を使うの?あんなに固いのに?」
どうやら彼女も詳しいことは知らないようだ。
「刑事さんがいってたんだよ。青い色は宝石を原料にしてるとか?そんな感じのことを」
すると彼女は納得したように頷いた。
「なるほど……そうかもね」
それから彼女は思い出したように続けた。
「そういえば、今日はお昼過ぎから雨降るみたいだよ。天気予報では夕方からって言ってたけど、念のため早めに傘立て出したほうがいいかも」
言われて窓の外を見る。すでに空は曇っていた。雨が降れば客足も鈍るだろうし、早めに準備しておこうかな?そう思って作業を再開した。
私は彼らのテーブルにコーヒーを置くと、何気ない風を装って話しかけた。
「おはようございます。今日もお仕事ですか?」
「ああ、おはよう。まあ、そんなところだな」
背の高い方が答える。
「大変ですね」
当たり障りのない会話をしながら、それとなく探ることにした。
「ところで、この間の窃盗事件ってどうなりましたか?なにか進展ありました?」
「いや、それがさっぱりでね。犯人の目星すらついていないよ」長身の方の男が答えた。
「そうなんですか……早く捕まるといいですね」
「まったくだ」もう一人の男が頷く。
「やっぱりもう少し防犯対策とかした方がいいのですかね?昨日、ここのオーナーが絵画持ってきてくれたんですよ。なんでも有名な画家の作品の偽物らしいです。せっかくなので盗まれないようにしないといけませんからね」
「へえ、絵画ですか」小柄な方が言う。
「ええ、とりあえずカウンターのところに飾ってあるんですけど、やっぱり不安ですよねぇ……」
「どれ、少し拝見させてもらってもいいですかな?」
小柄な方が興味を持ったようで話しかけてきたので快く了承した。彼はしげしげと絵を眺めていたがやがて言った。
「なるほど、確かに見事なものだ。これは牛乳を注ぐ女のアレンジですね。この深い青はおそらく本物のフェルメール・ブルーを使用してるのでしょう。偽物にしてはかなり精巧に描かれています」
「フェルメール・ブルーですか?確かにオーナーもそんな感じのこといってましたね」
「ええ、ラピスラズリという宝石を原料にした絵具なんですけど、画家のフェルメールが好んで使ったことからフェルメール・ブルーと呼ばれています。ウルトラマリンとも言いますね」
「へぇー詳しいんですね」
素直に感心していると男は照れ臭そうに笑った。
「いやいや、それほどでもないですよ」
謙遜しているが満更でもなさそうだ。そんな彼の様子を見た大柄な方の刑事が言った。
「おい、そろそろ行くぞ」「わかりました」
二人は立ち上がり、店を出ようとした。
「ありがとうございました」
そう言って彼らを見送る。
彼らが出ていった後、改めて絵画を見た。フェルメール・ブルーねえ……宝石を絵具にするってすごい発想だな。そんな勿体ないことよく考えつくもんだなあ……などと考えながら眺めていて思いついた。
もしかして、魔力って宝石に含まれてるのか?だとすると、宝石の絵具を使っている絵画に魔力があるのも頷ける。でも全ての宝石に魔力があるならわざわざ高い金出して絵画なんか買う必要なんかないだろう。おそらく宝石に魔力が宿る条件か何かがあるんだな。でもどんな条件で魔力が溜まるんだろう?あとでパソコンで調べてみようか。
そんなことを考えながら仕事に戻ったのだった。
午前11時頃、近所の主婦たちだろうか?常連の女性三人が来店した。いつものようにケーキセットを注文し、談笑していた。その最中、一人がこんな話題を持ち出した。
「そういえば最近、妙な噂を聞いたのよ」
「あら、なにかしら?」他の女性が聞き返すと、女性は話し始めた。
「この辺りで盗難事件があったらしいわよ」「盗難事件?」女性の一人が聞き返した。
「ええ、そうなのよ。そこの大通りの雑居ビルで金庫荒らしがあったらしくて、犯人はまだ捕まっていないんだって」「そうなんだ」「そういえば、佐藤さんのところも泥棒に入られたらしいわよ。貯めてたへそくりがごっそり持っていかれたって」「それって旦那さんじゃないの?」
などと言いながら三人の話は続く。
大通りの雑居ビル?それって翼ちゃんが狙っていたところでは?空振りだったっていってたけど……。
しばらくした後、女性たちは会計を済ませて帰って行った。食器を片付けていると、ドアベルが鳴った。
「おじさん、おはよ~」翼ちゃんがやってきた。もうそんな時間か。そう思いながら挨拶を返す。
「翼ちゃん、おはよう。体調とかは大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。昨日魔力貰ったし、全然元気~」笑顔で答える彼女。
「それはよかった」
翼ちゃんは着替えるためにロッカーのある部屋に入った。しばらくして出てきた翼ちゃんにまた刑事たちが来てたことと常連さんのことを話す。
「そうなんだ。やっぱり私たちは関係なかったんだね」
ほっとする彼女に私は尋ねた。
「そういえば魔力のことなんだけど、宝石と絵画以外にも魔力が含まれてるものってあるんだっけか?」
「んーとね……壺とかにも少し含まれてる事あるよ。でも一番多いのはやっぱり宝石かな」
「そうか……思ったんだけどさ、絵画とか壺に含まれてる魔力って宝石を原料にした絵具が原因なんじゃないかな?」
そう言うと彼女は首を傾げた。
「絵具に宝石を使うの?あんなに固いのに?」
どうやら彼女も詳しいことは知らないようだ。
「刑事さんがいってたんだよ。青い色は宝石を原料にしてるとか?そんな感じのことを」
すると彼女は納得したように頷いた。
「なるほど……そうかもね」
それから彼女は思い出したように続けた。
「そういえば、今日はお昼過ぎから雨降るみたいだよ。天気予報では夕方からって言ってたけど、念のため早めに傘立て出したほうがいいかも」
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