怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

文字の大きさ
上 下
9 / 37

9

しおりを挟む
 二人は並んでカウンター席に座る。
「紅茶でいいかな?それともコーヒーにするかい?」と尋ねると、同時に答えが返ってきた。
「ミルクティーがいいな!」「あ、じゃあ私も同じものを」
「了解しました」二人のオーダーを聞いて早速作り始める。
 出来上がったミルクティーをそれぞれの目の前に置くとさっそく飲み始めた。一息ついたところで猫ちゃんが真っ白い布に包まれた四角い板のようなものを渡してきた。結構大きいな。なんだろう?
「はい、これおみやげ。店の適当なところに飾るといいよ」
 布を外してみると、中には絵が出てきた。立派な額縁に入った絵画だ。青い服みたいなものを腰に巻いた女性が小さな水瓶を持っている絵だ。
「これは……?」思わず質問すると翼ちゃんが答えた。
「フェルメールって人の絵だって。おじさん、知ってる?」
「いや、知らないな。それにしても綺麗な絵だね」
「でしょ~?」なぜか自慢げな猫ちゃん。
「ちなみにいくらくらいするものなんだ?」
 値段を聞いてみることにした。高いものなら貰うわけにもいかないしなあ……と思っていたのだが答えは予想の遥か上のものだった。
「60万ポンドだよ」
 さらっと答える猫ちゃん。思わず耳を疑った。
「……え?なんて?60万円?」
「違うって。だから、60万ポンドだよ」
 猫ちゃんは繰り返した。
「……え?ええっ?!」
 驚きのあまり声が裏返ってしまった。60万円じゃなくて60万ポンド?あれ、1ポンドって何円だ?たしか10円より高かったはず。
「ちなみに日本円に換算したらどれくらいになるのかな?」
  おそるおそる聞いてみると、猫ちゃんはあっさり教えてくれた。
「んー、まあ、だいたい約1億円かな?」
「い、いちおくぅ?!」
 あまりの金額に頭がくらくらする。そんな私の様子に気づいたのか、猫ちゃんはこう付け加えた。
「大丈夫だよ。本物じゃないから」
「え?どういうこと?」
「だって本物だったらそんなもんじゃないもの。十倍以上はするよ。これは贋作」
「贋作ってことは偽物だよね?それにしても1億円なんて大金すぎるだろ……そんなの貰えないよ……」
 頭を抱える私に翼ちゃんが説明してくれた。
「昨日、猫から聞いたよね?私には魔力が必要だって」
「ああ、聞いたね……」
「それでね、この絵画には魔力があったの。もう抜いたけどね」
「つまり、魔力はもう取ったから絵画の方は用済みってこと?」
「そういうことー!」
 元気よく答える猫ちゃんに私は呆れていた。なんというかスケールが違うというか……。そんな私の様子を見て猫ちゃんは不思議そうな顔で尋ねてきた。
「どうしたの?嬉しくないの?」
「嬉しいっていうか、びっくりしちゃって……」
「そっかぁ……喜んでもらえると思ったんだけどな……」
 残念そうに肩を落とす猫ちゃん。翼ちゃんも心配そうな顔でこちらを見ていた。ああ、これは断れない。これは受け取らざるを得ないやつだ。
「ごめんごめん、すごく嬉しかったよ。ありがとう!」気を取り直して礼を言うと、彼女は笑顔で答えた。
「どういたしまして!」
「そういえば、この絵ってどこで手に入れたんだい?」気になったので聞いてみた。
「ロンドンのオークションだよ。」
「ロンドン?じゃあ朝から二人が出かけてたのってロンドンに行ってきたってこと?」
「ううん、違うよ。さすがに日帰りで日本とロンドンは往復できないよ」
「じゃあ、どうやって買ったの?」
「代理落札だね。現地に行かなくても業者を通して買えるんだよ」
 なるほど……そういうものがあるのか……。
「ありがとう。飾らせてもらうよ」
  改めてお礼を言うと、彼女は笑顔で頷いた。

「そういえば、またあの刑事たちが店にきてたぞ」
 思い出したように伝えると猫ちゃんは嫌そうな顔をした。
「えー、また来てるのぉ?」
「なんか事件の調査をしてるようだけど、あの路地のやつかな?最初に猫ちゃんに会った時の」
「どうだろう。あの時って私、何も盗んでないんだよねえ……」
 首を傾げる猫ちゃん。翼ちゃんが口を挟む。
「そうそう、不発だったんだよねえ」
「うん、だから私たちは無関係だと思う……思うんだけど、ちょっと気になるよね……」
 考え込むような仕草をする猫ちゃんを見て翼ちゃんが言う。
「あんまり関わらない方がいいんじゃない?」
「うん、まあそうなんだけどね……」
 何か思うところがあるようだ。まあ、何なら私が探りを入れてみるのもいいかもしれない。次に刑事さんが来たらそれとなく聞いてみようか。そんなことを思いながら、ふと時計を見ると閉店時間から一時間も過ぎていた。
「おっと、外が暗くなる前に帰らないとね」慌てて二人に帰るように促す。
「そうだね!帰ろうか!」元気に返事をする猫ちゃん。「うん、じゃあね!おじさん」手を振る翼ちゃん。
「ああ、また明日ね」
 そうして、彼女たちは帰っていった。私も店の戸締りをして帰ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

コントな文学『カラダ目当ての女』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
会いたくなったから深夜でも・・・

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜

嶌田あき
青春
 高校生の澪は、天文部の唯一の部員。廃部が決まった矢先、亡き姉から暗号めいたメールを受け取る。その謎を解く中で、姉が6年前に飛ばした高高度気球が見つかった。卒業式に風船を飛ばすと、1番高く上がった生徒の願いが叶うというジンクスがあり、姉はその風船で何かを願ったらしい。  完璧な姉への憧れと、自分へのコンプレックスを抱える澪。澪が想いを寄せる羽合先生は、姉の恋人でもあったのだ。仲間との絆に支えられ、トラブルに立ち向かいながら、澪は前へ進む。父から知らされる姉の死因。澪は姉の叶えられなかった「宇宙の渚」に挑むことをついに決意した。  そして卒業式当日、亡き姉への想いを胸に『風船ガール』は、宇宙の渚を目指して気球を打ち上げたーー。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...