7 / 37
7
しおりを挟む
昼前になると喫茶店に翼ちゃんが来た。「おじさん、こんにちは~」
「やあ、翼ちゃん」挨拶を返すと彼女はキョロキョロと辺りを見回す。
「あれ?猫ちゃんは?」
「ついさっき帰ったよ」
「そうなんだ。残念」そう言いながら彼女はカウンターの奥の部屋へと入っていった。この部屋には従業員用、というか翼ちゃん用の着替えロッカーが置いてある。翼ちゃんは私がこの喫茶店のマスターになってからも時折店員として入ってくれる。ありがたいことだ。一応、給料を払うつもりではいるのだけど。
そういえばこの子らって生活費はどうしてるんだろうか?小さいとはいえ喫茶店をポンとくれるくらいだからお金には困ってなさそうなんだけど……今度聞いてみようと思う。そんなことを考えながらいつも昼時にくるであろうお客様の為に準備をしていく。すると着替えを終えた彼女が部屋から出てきて話しかけてきた。
「ねえ、おじさん、今日の閉店後って暇かな?」
「ん?どうしたんだい?時間なら空いているけど……」
「ちょっと付き合ってほしい場所があるんだ」
「付き合うってどこへ?」そう聞くと彼女から意外な返事が返ってきた。
「私たちの住んでるところ」
「それはつまり、君たちの家に招待してくれるということかい?」私の質問に彼女は頷くことで肯定の意を示した。
閉店後、店の戸締りを済ませた私達は電車に乗って移動した。途中で地下鉄に乗り換えてさらに移動する。目的の駅に到着した頃にはすでに空は暗くなっていた。駅から高層ビル群の通りを歩くこと5,6分。翼ちゃんは一際大きなマンションの前で立ち止まった。いや、なんだここ?えっ、ここに住んでるの?まじで?
緑に囲まれた石造りのゲートを通ってエントランスに入る。中は超高級ホテルかと思うほどの立派な造りだった。大理石でできた床や天井、壁はピカピカに磨き上げられており、ところどころに設置されている間接照明によって柔らかい光を放っている。まるで中世のヨーロッパの貴族になった気分だ。
そんな光景を目にして驚いていると、隣に立っている翼ちゃんが話しかけてきた。
「おじさん、こっち来て」
「あ、ああ、わかった」
終始圧倒されながら言われるままついていくとエレベーターホールに着いた。どうやらこれで最上階まで行くようだ。ボタンを押すとすぐに扉が開いたので乗り込む。扉が閉まると同時に音もなく上昇し始めた。あっという間に最上部に到着し、扉が開くと目の前に廊下が現れた。その先には大きな扉が見える。恐らくあれが玄関だろう。二人でその扉の前まで歩いていき、扉を開ける。
中に入ると広いリビングルームが現れた。家具などは落ち着いた色合いで統一されており非常にセンスが良い。部屋の中を見渡しながら歩いているとキッチンの方から声がした。猫ちゃんの声だ。
「いらっしゃい、おじさん。そこの椅子に座って待ってて!」
「わかった……」
言われた通りに白い綺麗なテーブルの椅子に座る。隣に翼ちゃんも座った。
「いやあ……本当にこんな凄いところに女の子2人で住んでるの?」
「うん。と言っても住み始めてまだ半年も経ってないけどね~」
「実は資産家とか?」
「まあ、資産家と言えば資産家になるのかなあ?よくわかんない」
そんな感じで翼ちゃんと話していて、しばらくすると紅茶の良い香りが漂ってきた。準備が終わったようで、猫ちゃんはお盆にカップを三つ載せて運んできてくれた。テーブルの上に置くと、彼女も対面の椅子に座った。三人でテーブルを囲む形になる。一息ついたところで彼女たちが話し始めた。
「さて、どこから話そうかな……」猫ちゃんが呟く。
「まずは私たちのことから話すのがいいんじゃないかな?」翼ちゃんが提案する。
「そうだね。じゃあ私から」猫ちゃんが頷き、話を始めた。
「これから、ちょーっと突拍子も無いこというんだけど、信じてくれるかな?おじさんも怪盗ウイングキャットの一員ってことで、私たちのことを教えておきたいんだ」
「信じるも何も君たちのことは信用してるつもりだよ」私の答えを聞いて安心したのか、猫ちゃんは語り始めた。
「おじさんはさあ。異世界召喚って知ってる?ほら、アニメとか小説によくあるやつなんだけど」
「まあ、一応は知識として知ってるよ。ファンタジー世界に勇者を呼び出して魔王を倒してもらうとか、そんな感じのだよね?」
「そうそう、それそれ!でもってさあ、それって実は本当だったりするんだよね。私たちの世界では実際に行われてることだし」
「・・・・はい?」今なんて言った? 混乱している私をよそに話は続く。
「だ・か・ら!私たちは、そのファンタジー世界の人間なの!Do you understand?!」
「それは……マジでいってるの?」
「マジマジ、マジです!」真顔で即答された。横にいる翼ちゃんの顔を見ると真剣な顔で頷く。えー、マジか……。
「証拠を見せろと言われても困るんだけどね。別に私たちは魔法が使えるわけでも特別な能力を持ってるわけでもないし」
「まあ、じゃあ、とりあえず信じるとして。それじゃあ、どうやって異世界からこっちに来たんだ?」疑問をぶつけると猫ちゃんは少し考え込んだ後、口を開いた。
「あっちの世界で種族間の大きな戦争になってさ。私のいた国で勇者を召喚してなんとかしてもらおうってことになったの」
「ふむふむ」
「で、異世界から勇者を召喚するためには色々と代償が必要なわけ。ここまではOK?」
「まあ、なんとなくは……」
「その代償の一つが私たちなの」
「えっ?!どういうこと??」
「だから、勇者を召喚するための生贄だったの!私たちが!」衝撃の発言に私は言葉を失った。そんな私を気にする様子もなく猫ちゃんは淡々と説明を続ける。
「それでね。結局その勇者償還の儀式が成功したのか失敗したのかわからないんだけどね。気がついたら私と翼はこっちの世界にいたの」
「……ちょっと待ってくれ」頭が追い付かないんだが……どういうことだ?混乱する私に猫ちゃんはさらに畳み掛けてきた。
「それでね。私たち以外にもこの世界に来てる人がいるみたいなんだ」
「他にも……?一体誰が……?」
「それがわからないんだよねえ……私たち以外にも生贄がいたからその人かもしれないし……まあ、一人はわかるんだけど」腕を組んで唸る猫ちゃん。
「ちなみにだけど、その人たちの居場所はわかるのかい?」
「ううん、全然。どこに行ったのかもさっぱり」
「そうか……」
「で、ここからが本題なんだけど」
「え?」まだ何かあるのか?これ以上驚くようなことがあるのだろうか?
「やあ、翼ちゃん」挨拶を返すと彼女はキョロキョロと辺りを見回す。
「あれ?猫ちゃんは?」
「ついさっき帰ったよ」
「そうなんだ。残念」そう言いながら彼女はカウンターの奥の部屋へと入っていった。この部屋には従業員用、というか翼ちゃん用の着替えロッカーが置いてある。翼ちゃんは私がこの喫茶店のマスターになってからも時折店員として入ってくれる。ありがたいことだ。一応、給料を払うつもりではいるのだけど。
そういえばこの子らって生活費はどうしてるんだろうか?小さいとはいえ喫茶店をポンとくれるくらいだからお金には困ってなさそうなんだけど……今度聞いてみようと思う。そんなことを考えながらいつも昼時にくるであろうお客様の為に準備をしていく。すると着替えを終えた彼女が部屋から出てきて話しかけてきた。
「ねえ、おじさん、今日の閉店後って暇かな?」
「ん?どうしたんだい?時間なら空いているけど……」
「ちょっと付き合ってほしい場所があるんだ」
「付き合うってどこへ?」そう聞くと彼女から意外な返事が返ってきた。
「私たちの住んでるところ」
「それはつまり、君たちの家に招待してくれるということかい?」私の質問に彼女は頷くことで肯定の意を示した。
閉店後、店の戸締りを済ませた私達は電車に乗って移動した。途中で地下鉄に乗り換えてさらに移動する。目的の駅に到着した頃にはすでに空は暗くなっていた。駅から高層ビル群の通りを歩くこと5,6分。翼ちゃんは一際大きなマンションの前で立ち止まった。いや、なんだここ?えっ、ここに住んでるの?まじで?
緑に囲まれた石造りのゲートを通ってエントランスに入る。中は超高級ホテルかと思うほどの立派な造りだった。大理石でできた床や天井、壁はピカピカに磨き上げられており、ところどころに設置されている間接照明によって柔らかい光を放っている。まるで中世のヨーロッパの貴族になった気分だ。
そんな光景を目にして驚いていると、隣に立っている翼ちゃんが話しかけてきた。
「おじさん、こっち来て」
「あ、ああ、わかった」
終始圧倒されながら言われるままついていくとエレベーターホールに着いた。どうやらこれで最上階まで行くようだ。ボタンを押すとすぐに扉が開いたので乗り込む。扉が閉まると同時に音もなく上昇し始めた。あっという間に最上部に到着し、扉が開くと目の前に廊下が現れた。その先には大きな扉が見える。恐らくあれが玄関だろう。二人でその扉の前まで歩いていき、扉を開ける。
中に入ると広いリビングルームが現れた。家具などは落ち着いた色合いで統一されており非常にセンスが良い。部屋の中を見渡しながら歩いているとキッチンの方から声がした。猫ちゃんの声だ。
「いらっしゃい、おじさん。そこの椅子に座って待ってて!」
「わかった……」
言われた通りに白い綺麗なテーブルの椅子に座る。隣に翼ちゃんも座った。
「いやあ……本当にこんな凄いところに女の子2人で住んでるの?」
「うん。と言っても住み始めてまだ半年も経ってないけどね~」
「実は資産家とか?」
「まあ、資産家と言えば資産家になるのかなあ?よくわかんない」
そんな感じで翼ちゃんと話していて、しばらくすると紅茶の良い香りが漂ってきた。準備が終わったようで、猫ちゃんはお盆にカップを三つ載せて運んできてくれた。テーブルの上に置くと、彼女も対面の椅子に座った。三人でテーブルを囲む形になる。一息ついたところで彼女たちが話し始めた。
「さて、どこから話そうかな……」猫ちゃんが呟く。
「まずは私たちのことから話すのがいいんじゃないかな?」翼ちゃんが提案する。
「そうだね。じゃあ私から」猫ちゃんが頷き、話を始めた。
「これから、ちょーっと突拍子も無いこというんだけど、信じてくれるかな?おじさんも怪盗ウイングキャットの一員ってことで、私たちのことを教えておきたいんだ」
「信じるも何も君たちのことは信用してるつもりだよ」私の答えを聞いて安心したのか、猫ちゃんは語り始めた。
「おじさんはさあ。異世界召喚って知ってる?ほら、アニメとか小説によくあるやつなんだけど」
「まあ、一応は知識として知ってるよ。ファンタジー世界に勇者を呼び出して魔王を倒してもらうとか、そんな感じのだよね?」
「そうそう、それそれ!でもってさあ、それって実は本当だったりするんだよね。私たちの世界では実際に行われてることだし」
「・・・・はい?」今なんて言った? 混乱している私をよそに話は続く。
「だ・か・ら!私たちは、そのファンタジー世界の人間なの!Do you understand?!」
「それは……マジでいってるの?」
「マジマジ、マジです!」真顔で即答された。横にいる翼ちゃんの顔を見ると真剣な顔で頷く。えー、マジか……。
「証拠を見せろと言われても困るんだけどね。別に私たちは魔法が使えるわけでも特別な能力を持ってるわけでもないし」
「まあ、じゃあ、とりあえず信じるとして。それじゃあ、どうやって異世界からこっちに来たんだ?」疑問をぶつけると猫ちゃんは少し考え込んだ後、口を開いた。
「あっちの世界で種族間の大きな戦争になってさ。私のいた国で勇者を召喚してなんとかしてもらおうってことになったの」
「ふむふむ」
「で、異世界から勇者を召喚するためには色々と代償が必要なわけ。ここまではOK?」
「まあ、なんとなくは……」
「その代償の一つが私たちなの」
「えっ?!どういうこと??」
「だから、勇者を召喚するための生贄だったの!私たちが!」衝撃の発言に私は言葉を失った。そんな私を気にする様子もなく猫ちゃんは淡々と説明を続ける。
「それでね。結局その勇者償還の儀式が成功したのか失敗したのかわからないんだけどね。気がついたら私と翼はこっちの世界にいたの」
「……ちょっと待ってくれ」頭が追い付かないんだが……どういうことだ?混乱する私に猫ちゃんはさらに畳み掛けてきた。
「それでね。私たち以外にもこの世界に来てる人がいるみたいなんだ」
「他にも……?一体誰が……?」
「それがわからないんだよねえ……私たち以外にも生贄がいたからその人かもしれないし……まあ、一人はわかるんだけど」腕を組んで唸る猫ちゃん。
「ちなみにだけど、その人たちの居場所はわかるのかい?」
「ううん、全然。どこに行ったのかもさっぱり」
「そうか……」
「で、ここからが本題なんだけど」
「え?」まだ何かあるのか?これ以上驚くようなことがあるのだろうか?
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜
嶌田あき
青春
高校生の澪は、天文部の唯一の部員。廃部が決まった矢先、亡き姉から暗号めいたメールを受け取る。その謎を解く中で、姉が6年前に飛ばした高高度気球が見つかった。卒業式に風船を飛ばすと、1番高く上がった生徒の願いが叶うというジンクスがあり、姉はその風船で何かを願ったらしい。
完璧な姉への憧れと、自分へのコンプレックスを抱える澪。澪が想いを寄せる羽合先生は、姉の恋人でもあったのだ。仲間との絆に支えられ、トラブルに立ち向かいながら、澪は前へ進む。父から知らされる姉の死因。澪は姉の叶えられなかった「宇宙の渚」に挑むことをついに決意した。
そして卒業式当日、亡き姉への想いを胸に『風船ガール』は、宇宙の渚を目指して気球を打ち上げたーー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる