怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

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 数日後、すっかり仕事に慣れた私は一人で喫茶店を任されるようになった。この喫茶店は大盛況ってわけじゃないが、全然人が来ないわけでもない。常連さんも何人かいてくれていて経営状態は良好である。程よくのんびり仕事ができる。それが私には合っていたようで、とても充実していた。

 そんなある日の閉店後。ついにもう一つの仕事がやって来た。
「さあ、おじさん、張り切っていこう!」
「え、まだ何かあるのかい?」
「もちろん!今日はもっと重要な仕事をしてもらいます!」
「そ、そうか」
 すっかり忘れていたけど、ついに怪盗としての仕事が始まるのか……私に務まるのだろうか?不安に思っていると、翼ちゃんが説明してくれた。
「これを調べて欲しいのです」
 雑誌を開いて見せてくれる。そこには大きなルビーの写真が載っていた。大きさは25カラットくらいでかなりのものだ。値段も相当なものになるだろうと思われる。そのページにはこう書かれていた。『宝石展覧会 近日開催予定!』と書かれている。どうやら有名な宝飾品メーカーが開催するイベントで展示されるらしい。これを盗み出すのか?いやいや、無理だろう!どう考えても素人じゃ無理だと思うんだが……そう思っていると、猫ちゃんが口を開いた。
「いつどこでやるのとか、原石がどこで取れたとか、その辺のことを知りたいんだよ」
 まあ調べるだけなら私でも出来るだろう。了承することにした。
「わかった。じゃあ調べてみるよ」
「よろしくお願いしますね~」

 それから閉店後は店の奥で毎日宝石を調べることになった。まずはネットで検索してみることにしよう。新品のパソコンでホームページを見ると展示会の情報が出てきたのでクリックしてみた。すると詳細が表示される。あの宝石はっと……あったこれだ!なになに……。
「えっ?!」
 そこに書かれている内容を見て思わず声が出てしまった。なんとあの宝石は日本円で30億もするらしい。ピジョン・ブラッドと呼ばれるもので希少価値が非常に高い。それを盗むだと……?いや、とてもじゃないが無理な話だと思うのだが……。
 開催は三週間後、場所は……ああ、あの有名な色々なショップやレストラン、ホテルやオフィスが入った高層ビルか。あそこなら人も大勢いるだろうし、警備も厳重だろうな。
「うーん、これはちょっと難しいんじゃないかなあ?」
 誰に言うでもなく呟いてしまう。そもそもどうやって侵入するんだ?屋上まで行ってそこからロープか何かを使って降りるとか?いやいや、危険すぎるだろ!とりあえず2人に相談してみよう。

 翌日、さっそく相談を持ちかけた。
「なあ、ちょっといいかな?」
「なんですか?」「どうしたの?」
「実は例の展覧会の情報を調べたんだが……これを見てほしい」
 情報をまとめたプリントを二人に見せると驚きの表情を見せた。
「ええー?!もうこんなに調べたの?」「すごーい。おじさんはやーい」
 二人が感心しているが問題はそこじゃないと思うぞ?と言うか、うら若い少女がおじさん早いとか言うな。
「それで何が問題なんです?」
「まず、会場に入るために招待状が必要みたいなんだ」
 それを聞いた二人は顔を見合わせて頷き合った後、私に言った。
「それなら問題ないですよ~」「うん、大丈夫!」
「そうなのかい?でも入場券がないと入れないみたいだよ?」
「だから、大丈夫ですって」「そうそう、任せて!」
 2人は自信満々の様子だが本当に大丈夫なのかな?
「でも一度現場を見てみたいかな?」「今度の定休日に三人で行きましょう~」
 こうして次の休みに件のビルに行くことが決定したのだった。

「ここが噂のビルだね」
 約束通り休みの日に3人でやってきた。猫ちゃんはいつものブレザーの制服。翼ちゃんはジーパンに白いシャツ、ピンクの……アウター?を着ていた。私は前の会社で着ていたよれよれのスーツだ。場違い感がすごい。
 見上げるほど高いビルだ。いったいどんな人たちが働いているんだろう?そんなことを考えつつ中に入った。すると、さまざまなファッション系のショップのテナントが両脇に並ぶ光景が目に入った。ショーウィンドウの中には煌びやかな服が飾ってある。中には高級そうなバッグなんかも置いてあるようだ。おお、凄いな……別世界だ。余裕が出来たら私も新しいスーツの一つも買おうかな?あ、でも喫茶店のマスターには必要ないか。向こうのエリアに並ぶのはイタリアンレストランかな?何か一店だけ和食の店が混ざってるな。なにゆえ?
 キョロキョロしながら歩いていると猫ちゃんが話しかけてきた。
「おじさん、こっちだよ」
 猫ちゃんに案内されてついていくとエレベーターの前にたどり着いた。どうやらこれで上に行くようだ。猫ちゃんがボタンを押すとすぐに扉が開いたので乗り込むと最上階のボタンを押した。

 しばらくすると扉が開く。そこは壁一面ガラス張りになっていて外の景色がよく見える。すごく高いな。何階だこれ?そう思ってエレベーターの数字を見てみると45階だった。高っ!すごい高さだな……落ちたら間違いなく死ぬだろう。そんなことを考えていると辺りを物色していた二人が戻ってきた。
「ここから出るのは無理そうだね」「そうだね~」
 何をいってるんだ?この子らは。当たり前だろう。普通の人間には無理だよな。普通じゃなくても無理に決まっている。
「それじゃあ、次は会場の上を見に行こうか。四階だっけ?」「そうだね~」
 そんなやり取りをしながらさっさとエレベーターに乗り込んでしまったので慌てて追いかける。まったく最近の若い子はせっかちだなあ……なんて思いつつ私も後に続いたのだった。
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