怪盗ウイングキャット ~季節の花ジャムを添えて~

モブ

文字の大きさ
上 下
3 / 37

3

しおりを挟む
 本当に喫茶店の店長になってしまった……。
 現在、喫茶店は改装中である。私が働くにあたって、店内をリニューアルするらしい。店を閉めてる間に喫茶店のノウハウを翼ちゃんから教わることになっている。
「立花のおじさんは簿記ってわかる?会計の知識はある?」
「ああ、分かるけど……一応、資格として持ってるぞ」
 前の会社では人手不足でなんでもやらされた。経理も営業もなんでもござれだ。長年やってきたからそれなりに知識はあるつもりだ。
「そっか、よかった~。じゃあここのメニューのレシピ覚えてもらうからね」
 そういってメモ帳とペンを渡してくる翼ちゃん。そこにはサンドイッチやケーキなどの名前が書かれていた。
「これを全部覚えるのかい?」
「そうだよ。料理くらいできるでしょ?頑張って」
「う、うん……」
 まあ、できないことはないけどさ。そう思いながら、私は作業に取り掛かった。
「まずはサンドイッチから行こうか」
「了解」
 それから私は黙々とサンドイッチを作り続けた。パンを切って具材を乗せるだけの簡単なものだと思っていたが意外と難しいものだった。
「そうそう、上手だよ」
 一生懸命に作っていると、翼ちゃんが褒めてくれた。お世辞かもしれないが素直に嬉しかったので頑張った甲斐があったというものだ。それと何よりあのお気に入りのサンドイッチが自分の手で作れるようになるというのは感慨深いものがあるな。
 翼ちゃんからOKが出たのでこれで完成ということになった。
「すごい。初めてとは思えない出来栄えだね。才能あるんじゃない?」
「そ、そうかな?レシピ通り作ればいいだけだし、大したことないよ」
 実際、それほど難しいことをしたわけではないのだ。ただ、褒められたことが嬉しくてついつい謙遜してしまう自分がいる。今までそんなこと言われたことなかったからな……ちょっと照れくさいというかなんというか……。
「そんなことないよ。さすが怪盗ウイングキャットの一員だね」
「あっ!」
 そうだ!願いが本当だとすると、怪盗も本当なのか?ごっこ遊びじゃなくて?!急に不安になってきた……。そんな私の心情を察したのか、翼ちゃんは優しく微笑んでくれた。
「大丈夫、安心して。怪盗と言っても被害は出ないよ。それに立花のおじさんはここで喫茶店しながら情報収集するだけ。何も知らないっていえば犯罪にならないでしょ?」
 そうなのか?まあ、確かバレなければ幇助犯にならないかもしれないが……そんなうまい話があるだろうか?でも実際に喫茶店の経営を任されているわけだしなあ……ここは覚悟を決めたほうがいいのかもしれないな……よし!決めた!
「わかったよ、翼ちゃん。私は君たちに協力するよ」
 私がそう言うと、翼ちゃんは嬉しそうに笑った後、頭を下げた。
「ありがとう、おじさん。これからもよろしくね~」
「ああ、こちらこそよろしく」私たちは握手を交わしたのだった。さて、どうなることやら……。

 次の日から本格的に仕事の勉強が始まった。まず最初に教えられたのは接客の仕方だった。といっても挨拶の仕方やレジの使い方など基本的な事だけだったのだが、それでも大変勉強になった。他にもコーヒーの種類や作り方、調理器具の扱い方などを教わった。どれもこれも初めてのことばかりだったので新鮮だった。そうして1週間ほど経った頃、ようやく一通りの仕事を覚えることができたのだった。

 そしていよいよ開店日がやってきた。初日ということもあり、緊張している私に対して、2人は余裕の表情だ。特に猫ちゃんはニコニコ笑っている。本当に大丈夫なのだろうか?不安にに思っていると猫ちゃんが話しかけてきた。
「どうしたんですか?緊張してるんですか?」
「そりゃ緊張もするだろう。だって喫茶店なんかやったこともないんだから……」
「大丈夫ですよ~フォローしますから~」翼ちゃんはそう言うがやはり心配なものは心配だ。とはいえ、もう後には引けない。やるしかないのだ!私は気合を入れなおした。

 その後、開店時間を迎えたが客はまだ来ない。大丈夫かな?そう思っていると扉が開き、一人の女性が入ってきた。どうやらお客さんのようだ。……さて初仕事だ。しっかりしないと……そう思い、女性に話しかけた。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
 そう言って空いている席に案内する。彼女は私にお礼を言うと窓際の席へと座った。メニューを手に取り、どれにするか悩んでいるようだ。その様子を見ながら注文が決まったころを見計らって再び声をかける。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
 そう言ってその場を離れようとすると声をかけられた。
「あの、すみません」
「はい、なんでしょう?」
「おすすめってありますか?」
「そうですね、当店のオススメはこのサンドイッチです」
「じゃあ、それと、あと紅茶もお願いします」
「かしこまりました」
私は頭を下げてカウンターに戻り、サンドイッチを作り始めた。その様子を猫ちゃんと翼ちゃんが興味深そうに見ている。
「なかなか様になってるね!何かこう、渋いおじ様って感じで!」猫ちゃんが言う。
「うんうん、かっこいいよ~」翼ちゃんも同意しているようだ。なんだか照れるな……。

 それからもぽつりぽつりとお客さんが来てくれた。仕事に慣れてくると段々楽しくなってくるもので、いつの間にか不安なんかどこかに吹き飛んでしまった。我ながら現金だと思うがそれだけ楽しかったということだろう。やりがいのある仕事だと思った。

 その後も仕事を続け、夕方になって閉店の時間となった。片付けをして、今日の仕事は終わりとなる。ふうっと息を吐いていると翼ちゃんと猫ちゃんが声をかけてきた。
「お疲れ様でした~」
「お疲れさま!」
 2人とも疲れた様子はないな。若さの違いというやつなんだろうか?少し羨ましく思う。
「どうだった?仕事してみて」猫ちゃんが聞いてきたので正直に答えることにした。
「大変だったけど面白かったよ。こんな体験は初めてだ」
「そっか、それは良かったよ!」猫ちゃんは満足そうに頷いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

コントな文学『カラダ目当ての女』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
会いたくなったから深夜でも・・・

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜

嶌田あき
青春
 高校生の澪は、天文部の唯一の部員。廃部が決まった矢先、亡き姉から暗号めいたメールを受け取る。その謎を解く中で、姉が6年前に飛ばした高高度気球が見つかった。卒業式に風船を飛ばすと、1番高く上がった生徒の願いが叶うというジンクスがあり、姉はその風船で何かを願ったらしい。  完璧な姉への憧れと、自分へのコンプレックスを抱える澪。澪が想いを寄せる羽合先生は、姉の恋人でもあったのだ。仲間との絆に支えられ、トラブルに立ち向かいながら、澪は前へ進む。父から知らされる姉の死因。澪は姉の叶えられなかった「宇宙の渚」に挑むことをついに決意した。  そして卒業式当日、亡き姉への想いを胸に『風船ガール』は、宇宙の渚を目指して気球を打ち上げたーー。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...