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本当に喫茶店の店長になってしまった……。
現在、喫茶店は改装中である。私が働くにあたって、店内をリニューアルするらしい。店を閉めてる間に喫茶店のノウハウを翼ちゃんから教わることになっている。
「立花のおじさんは簿記ってわかる?会計の知識はある?」
「ああ、分かるけど……一応、資格として持ってるぞ」
前の会社では人手不足でなんでもやらされた。経理も営業もなんでもござれだ。長年やってきたからそれなりに知識はあるつもりだ。
「そっか、よかった~。じゃあここのメニューのレシピ覚えてもらうからね」
そういってメモ帳とペンを渡してくる翼ちゃん。そこにはサンドイッチやケーキなどの名前が書かれていた。
「これを全部覚えるのかい?」
「そうだよ。料理くらいできるでしょ?頑張って」
「う、うん……」
まあ、できないことはないけどさ。そう思いながら、私は作業に取り掛かった。
「まずはサンドイッチから行こうか」
「了解」
それから私は黙々とサンドイッチを作り続けた。パンを切って具材を乗せるだけの簡単なものだと思っていたが意外と難しいものだった。
「そうそう、上手だよ」
一生懸命に作っていると、翼ちゃんが褒めてくれた。お世辞かもしれないが素直に嬉しかったので頑張った甲斐があったというものだ。それと何よりあのお気に入りのサンドイッチが自分の手で作れるようになるというのは感慨深いものがあるな。
翼ちゃんからOKが出たのでこれで完成ということになった。
「すごい。初めてとは思えない出来栄えだね。才能あるんじゃない?」
「そ、そうかな?レシピ通り作ればいいだけだし、大したことないよ」
実際、それほど難しいことをしたわけではないのだ。ただ、褒められたことが嬉しくてついつい謙遜してしまう自分がいる。今までそんなこと言われたことなかったからな……ちょっと照れくさいというかなんというか……。
「そんなことないよ。さすが怪盗ウイングキャットの一員だね」
「あっ!」
そうだ!願いが本当だとすると、怪盗も本当なのか?ごっこ遊びじゃなくて?!急に不安になってきた……。そんな私の心情を察したのか、翼ちゃんは優しく微笑んでくれた。
「大丈夫、安心して。怪盗と言っても被害は出ないよ。それに立花のおじさんはここで喫茶店しながら情報収集するだけ。何も知らないっていえば犯罪にならないでしょ?」
そうなのか?まあ、確かバレなければ幇助犯にならないかもしれないが……そんなうまい話があるだろうか?でも実際に喫茶店の経営を任されているわけだしなあ……ここは覚悟を決めたほうがいいのかもしれないな……よし!決めた!
「わかったよ、翼ちゃん。私は君たちに協力するよ」
私がそう言うと、翼ちゃんは嬉しそうに笑った後、頭を下げた。
「ありがとう、おじさん。これからもよろしくね~」
「ああ、こちらこそよろしく」私たちは握手を交わしたのだった。さて、どうなることやら……。
次の日から本格的に仕事の勉強が始まった。まず最初に教えられたのは接客の仕方だった。といっても挨拶の仕方やレジの使い方など基本的な事だけだったのだが、それでも大変勉強になった。他にもコーヒーの種類や作り方、調理器具の扱い方などを教わった。どれもこれも初めてのことばかりだったので新鮮だった。そうして1週間ほど経った頃、ようやく一通りの仕事を覚えることができたのだった。
そしていよいよ開店日がやってきた。初日ということもあり、緊張している私に対して、2人は余裕の表情だ。特に猫ちゃんはニコニコ笑っている。本当に大丈夫なのだろうか?不安にに思っていると猫ちゃんが話しかけてきた。
「どうしたんですか?緊張してるんですか?」
「そりゃ緊張もするだろう。だって喫茶店なんかやったこともないんだから……」
「大丈夫ですよ~フォローしますから~」翼ちゃんはそう言うがやはり心配なものは心配だ。とはいえ、もう後には引けない。やるしかないのだ!私は気合を入れなおした。
その後、開店時間を迎えたが客はまだ来ない。大丈夫かな?そう思っていると扉が開き、一人の女性が入ってきた。どうやらお客さんのようだ。……さて初仕事だ。しっかりしないと……そう思い、女性に話しかけた。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
そう言って空いている席に案内する。彼女は私にお礼を言うと窓際の席へと座った。メニューを手に取り、どれにするか悩んでいるようだ。その様子を見ながら注文が決まったころを見計らって再び声をかける。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
そう言ってその場を離れようとすると声をかけられた。
「あの、すみません」
「はい、なんでしょう?」
「おすすめってありますか?」
「そうですね、当店のオススメはこのサンドイッチです」
「じゃあ、それと、あと紅茶もお願いします」
「かしこまりました」
私は頭を下げてカウンターに戻り、サンドイッチを作り始めた。その様子を猫ちゃんと翼ちゃんが興味深そうに見ている。
「なかなか様になってるね!何かこう、渋いおじ様って感じで!」猫ちゃんが言う。
「うんうん、かっこいいよ~」翼ちゃんも同意しているようだ。なんだか照れるな……。
それからもぽつりぽつりとお客さんが来てくれた。仕事に慣れてくると段々楽しくなってくるもので、いつの間にか不安なんかどこかに吹き飛んでしまった。我ながら現金だと思うがそれだけ楽しかったということだろう。やりがいのある仕事だと思った。
その後も仕事を続け、夕方になって閉店の時間となった。片付けをして、今日の仕事は終わりとなる。ふうっと息を吐いていると翼ちゃんと猫ちゃんが声をかけてきた。
「お疲れ様でした~」
「お疲れさま!」
2人とも疲れた様子はないな。若さの違いというやつなんだろうか?少し羨ましく思う。
「どうだった?仕事してみて」猫ちゃんが聞いてきたので正直に答えることにした。
「大変だったけど面白かったよ。こんな体験は初めてだ」
「そっか、それは良かったよ!」猫ちゃんは満足そうに頷いたのだった。
現在、喫茶店は改装中である。私が働くにあたって、店内をリニューアルするらしい。店を閉めてる間に喫茶店のノウハウを翼ちゃんから教わることになっている。
「立花のおじさんは簿記ってわかる?会計の知識はある?」
「ああ、分かるけど……一応、資格として持ってるぞ」
前の会社では人手不足でなんでもやらされた。経理も営業もなんでもござれだ。長年やってきたからそれなりに知識はあるつもりだ。
「そっか、よかった~。じゃあここのメニューのレシピ覚えてもらうからね」
そういってメモ帳とペンを渡してくる翼ちゃん。そこにはサンドイッチやケーキなどの名前が書かれていた。
「これを全部覚えるのかい?」
「そうだよ。料理くらいできるでしょ?頑張って」
「う、うん……」
まあ、できないことはないけどさ。そう思いながら、私は作業に取り掛かった。
「まずはサンドイッチから行こうか」
「了解」
それから私は黙々とサンドイッチを作り続けた。パンを切って具材を乗せるだけの簡単なものだと思っていたが意外と難しいものだった。
「そうそう、上手だよ」
一生懸命に作っていると、翼ちゃんが褒めてくれた。お世辞かもしれないが素直に嬉しかったので頑張った甲斐があったというものだ。それと何よりあのお気に入りのサンドイッチが自分の手で作れるようになるというのは感慨深いものがあるな。
翼ちゃんからOKが出たのでこれで完成ということになった。
「すごい。初めてとは思えない出来栄えだね。才能あるんじゃない?」
「そ、そうかな?レシピ通り作ればいいだけだし、大したことないよ」
実際、それほど難しいことをしたわけではないのだ。ただ、褒められたことが嬉しくてついつい謙遜してしまう自分がいる。今までそんなこと言われたことなかったからな……ちょっと照れくさいというかなんというか……。
「そんなことないよ。さすが怪盗ウイングキャットの一員だね」
「あっ!」
そうだ!願いが本当だとすると、怪盗も本当なのか?ごっこ遊びじゃなくて?!急に不安になってきた……。そんな私の心情を察したのか、翼ちゃんは優しく微笑んでくれた。
「大丈夫、安心して。怪盗と言っても被害は出ないよ。それに立花のおじさんはここで喫茶店しながら情報収集するだけ。何も知らないっていえば犯罪にならないでしょ?」
そうなのか?まあ、確かバレなければ幇助犯にならないかもしれないが……そんなうまい話があるだろうか?でも実際に喫茶店の経営を任されているわけだしなあ……ここは覚悟を決めたほうがいいのかもしれないな……よし!決めた!
「わかったよ、翼ちゃん。私は君たちに協力するよ」
私がそう言うと、翼ちゃんは嬉しそうに笑った後、頭を下げた。
「ありがとう、おじさん。これからもよろしくね~」
「ああ、こちらこそよろしく」私たちは握手を交わしたのだった。さて、どうなることやら……。
次の日から本格的に仕事の勉強が始まった。まず最初に教えられたのは接客の仕方だった。といっても挨拶の仕方やレジの使い方など基本的な事だけだったのだが、それでも大変勉強になった。他にもコーヒーの種類や作り方、調理器具の扱い方などを教わった。どれもこれも初めてのことばかりだったので新鮮だった。そうして1週間ほど経った頃、ようやく一通りの仕事を覚えることができたのだった。
そしていよいよ開店日がやってきた。初日ということもあり、緊張している私に対して、2人は余裕の表情だ。特に猫ちゃんはニコニコ笑っている。本当に大丈夫なのだろうか?不安にに思っていると猫ちゃんが話しかけてきた。
「どうしたんですか?緊張してるんですか?」
「そりゃ緊張もするだろう。だって喫茶店なんかやったこともないんだから……」
「大丈夫ですよ~フォローしますから~」翼ちゃんはそう言うがやはり心配なものは心配だ。とはいえ、もう後には引けない。やるしかないのだ!私は気合を入れなおした。
その後、開店時間を迎えたが客はまだ来ない。大丈夫かな?そう思っていると扉が開き、一人の女性が入ってきた。どうやらお客さんのようだ。……さて初仕事だ。しっかりしないと……そう思い、女性に話しかけた。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
そう言って空いている席に案内する。彼女は私にお礼を言うと窓際の席へと座った。メニューを手に取り、どれにするか悩んでいるようだ。その様子を見ながら注文が決まったころを見計らって再び声をかける。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
そう言ってその場を離れようとすると声をかけられた。
「あの、すみません」
「はい、なんでしょう?」
「おすすめってありますか?」
「そうですね、当店のオススメはこのサンドイッチです」
「じゃあ、それと、あと紅茶もお願いします」
「かしこまりました」
私は頭を下げてカウンターに戻り、サンドイッチを作り始めた。その様子を猫ちゃんと翼ちゃんが興味深そうに見ている。
「なかなか様になってるね!何かこう、渋いおじ様って感じで!」猫ちゃんが言う。
「うんうん、かっこいいよ~」翼ちゃんも同意しているようだ。なんだか照れるな……。
それからもぽつりぽつりとお客さんが来てくれた。仕事に慣れてくると段々楽しくなってくるもので、いつの間にか不安なんかどこかに吹き飛んでしまった。我ながら現金だと思うがそれだけ楽しかったということだろう。やりがいのある仕事だと思った。
その後も仕事を続け、夕方になって閉店の時間となった。片付けをして、今日の仕事は終わりとなる。ふうっと息を吐いていると翼ちゃんと猫ちゃんが声をかけてきた。
「お疲れ様でした~」
「お疲れさま!」
2人とも疲れた様子はないな。若さの違いというやつなんだろうか?少し羨ましく思う。
「どうだった?仕事してみて」猫ちゃんが聞いてきたので正直に答えることにした。
「大変だったけど面白かったよ。こんな体験は初めてだ」
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