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「えっ、解雇ですか?何故突然?!」
「いや、別に急ではない。前から言おうと思っていたんだが、なかなか言えなくてな」
「でも、私、会社に貢献できるよう今まで頑張って務めてきたのですよ!」
「いやいや、十分役に立ってくれている。だが、新社長の方針でな。大学を卒業していない低学歴は雇わないことになったんだ」
「そんな……」
目の前が真っ暗になった。やっとの思いで就職した会社だった。なのに、こんな仕打ちを受けるとは……
「まあ、そう落ち込むなよ。またいい会社見つかるさ」
「私、もうすぐ50になるのですが……」「大丈夫だって!まだまだ若いんだからよ!」
励ましてくれる上司の言葉が虚しく聞こえる。
もうこの会社に居続けることは出来ないだろう。私は、静かに退社届けを提出した。
私は立花雄介(たちばな ゆうすけ)という。49歳のサラリーマン……いや、元サラリーマンだ。いまやニートの仲間入り。あれ?そういえばニートって年齢制限あったっけか?
ごく平凡な生まれ育ち、そこそこの大学に行こうと思っていたが、バブル崩壊の煽りを受けて親父の会社が倒産。それどころではなくなってしまった。
何とか高校だけは卒業してそのまま就職活動を始めた。100を優に超える企業に面接に行くもなしのつぶて。なんとか滑り込んだ会社はブラック企業。それでも何とか耐えて頑張ったのに、あっさりと解雇されてしまった。そして、雀の涙ほどの退職金と失業保険を受け取り、今はハローワーク通いの日々である。
そんなわけで今日もハローワークに向かうべく家を出たのだが、4月半ばだというのに外が暑い。まだ5分も歩いていないのに汗が噴き出してくる。そういえば今日は気温が上がるって言ってたな。まったく、春はどこに行ったんだよ……
愚痴りながらも歩いていると、喫茶店が見えた。
そういえば、朝食を取っていなかったことを思い出す。丁度良い、ここで食事を取り、ついでにしばらく涼んでいこう。
店の中に入るとエアコンが効いていて涼しい。ありがたい。私はカウンターにいる店員をしている少女に注文すると、空いている席に座り一息ついた。さて、この後どうするかな……
そんなことを考えているうちに、店員の少女が注文した品を持ってやってきた。私が頼んだのはサンドイッチのセット。この店ではよくあるメニューの一つだ。
「お待たせしました」
そう言ってテーブルの上に置かれたのは、ベーコンエッグサンドとアイスコーヒー。私は早速食べ始めた。うん、うまい。朝からこんなに美味いものを食べることが出来るなんて幸せだなあ……。そんなことを思いながら食べていると、隣の席から話し声が聞こえてきた。どうやら学生らしきカップルのようだ。
「ねえ、今日のデートどこ行く?」
「うーん、映画観たいかな。ほら、名探偵のやつ!」
「じゃあ、その後、水族館行かない?ビルの屋上にあるやつ」
「いいね!あそこ、最近リニューアルして新しいペンギンショーが始まったらしいよ!」
「へえ、そうなんだ!楽しみだね!」
楽しそうな会話だな。羨ましい限りだ。私も昔はあんな会話をしていたのだろうか?いや、ひたすら勉強してた思い出しかない。ベビーブームで同世代の人数がやたら多くて物心ついたときから周りと競争を強いられていた気がする。
しかし、こうやって見てみると、みんな生き生きとしているように見える。私みたいに死んだ目をしてるやつはいないし、希望に満ち溢れているようにさえ見える。ああ、なんで私だけこうなってしまったんだろう……。
そんなことを考えながら食事を済ませ、しばらく涼んでから店を出た。これからどうしようか。今日はもうハローワークに行く気分ではなくなってしまった。
仕方ない、どこかで暇でも潰そうか。そう思ったとき、ゲームセンター特有の音が聞こえてきた。そうだ、久しぶりにゲームでもやろうかな。そう思って音がする路地裏に向かった。
大通りの裏側。そこは薄暗く、怪しい雰囲気が漂っている場所だった。ゲームセンターのにぎやかな音が聞こえてなければ絶対に足を踏み入れない場所だ。
そのゲームセンターの一口の先。立ち並ぶビルの上の方を見つめる一人の少女がいた。歳は16,7といったところだろうか。顔立ちはかなり整っている美少女だ。服装はどこかの学校の制服。平日の昼近い時間にこんなところで何をやっているのだろう?まあ、私には関係ないことだ。
そう思い立ち去ろうとしたそのとき、少女と目が合った。少女は慌てて逃げだした。私のことを犯罪者か変質者とでも思ったのだろうか?
ちょっと傷つくなあ。確かにこんなところに女子校生がいるとは思わなかったけど、別にやましい気持ちがあったわけではないのだ。少し悲しい気分になりながら、私はゲームセンターに入った。
店内に入ると、店内の大部分がUFOキャッチャーで占められていた。三角くじが大量に入ってるものや、鍵の入ったカプセルが入ったものなど様々だ。私が学生の頃に行ってたゲームセンターとはだいぶ違う。今はこんな感じなのか……と店内を物色しながら歩いた。時代は変わったんだなあ。
ゲームセンターが思っていたものと違っていたので何もせず帰ることにした。ふとさっき少女がいた場所を見る。もう誰もいない。さっきあのは少女は何を見ていたのだろう?なんとなく気になったのでその場所に行き、少女が見上げていた辺りを見た。ビルの上の方。窓が並ぶテナントが見える。特に何かがあるとは思えないが……。
「ん?」
よく見ると窓に人影が見えた。薄暗くてよく見えないが、誰かがいるようだ。目を凝らしていると、その人物は突然窓から飛び降りた。まさか自殺?!驚いていると、その人は音もたてずに着地した。どうやら無事だったようだ。一体なんだったんだ?そう思っていると、さっき落ちて来た、パーカーを着てフードを深く被った人物と目が合う。そいつは私の姿を見るなり一目散に逃げだした。間違いない、さっきの少女だ。
これはどういうことだ?彼女は一体何者なんだ?疑問に思いつつも、追いかける体力もない私はその場に立ち尽くすしかなかった。
「いや、別に急ではない。前から言おうと思っていたんだが、なかなか言えなくてな」
「でも、私、会社に貢献できるよう今まで頑張って務めてきたのですよ!」
「いやいや、十分役に立ってくれている。だが、新社長の方針でな。大学を卒業していない低学歴は雇わないことになったんだ」
「そんな……」
目の前が真っ暗になった。やっとの思いで就職した会社だった。なのに、こんな仕打ちを受けるとは……
「まあ、そう落ち込むなよ。またいい会社見つかるさ」
「私、もうすぐ50になるのですが……」「大丈夫だって!まだまだ若いんだからよ!」
励ましてくれる上司の言葉が虚しく聞こえる。
もうこの会社に居続けることは出来ないだろう。私は、静かに退社届けを提出した。
私は立花雄介(たちばな ゆうすけ)という。49歳のサラリーマン……いや、元サラリーマンだ。いまやニートの仲間入り。あれ?そういえばニートって年齢制限あったっけか?
ごく平凡な生まれ育ち、そこそこの大学に行こうと思っていたが、バブル崩壊の煽りを受けて親父の会社が倒産。それどころではなくなってしまった。
何とか高校だけは卒業してそのまま就職活動を始めた。100を優に超える企業に面接に行くもなしのつぶて。なんとか滑り込んだ会社はブラック企業。それでも何とか耐えて頑張ったのに、あっさりと解雇されてしまった。そして、雀の涙ほどの退職金と失業保険を受け取り、今はハローワーク通いの日々である。
そんなわけで今日もハローワークに向かうべく家を出たのだが、4月半ばだというのに外が暑い。まだ5分も歩いていないのに汗が噴き出してくる。そういえば今日は気温が上がるって言ってたな。まったく、春はどこに行ったんだよ……
愚痴りながらも歩いていると、喫茶店が見えた。
そういえば、朝食を取っていなかったことを思い出す。丁度良い、ここで食事を取り、ついでにしばらく涼んでいこう。
店の中に入るとエアコンが効いていて涼しい。ありがたい。私はカウンターにいる店員をしている少女に注文すると、空いている席に座り一息ついた。さて、この後どうするかな……
そんなことを考えているうちに、店員の少女が注文した品を持ってやってきた。私が頼んだのはサンドイッチのセット。この店ではよくあるメニューの一つだ。
「お待たせしました」
そう言ってテーブルの上に置かれたのは、ベーコンエッグサンドとアイスコーヒー。私は早速食べ始めた。うん、うまい。朝からこんなに美味いものを食べることが出来るなんて幸せだなあ……。そんなことを思いながら食べていると、隣の席から話し声が聞こえてきた。どうやら学生らしきカップルのようだ。
「ねえ、今日のデートどこ行く?」
「うーん、映画観たいかな。ほら、名探偵のやつ!」
「じゃあ、その後、水族館行かない?ビルの屋上にあるやつ」
「いいね!あそこ、最近リニューアルして新しいペンギンショーが始まったらしいよ!」
「へえ、そうなんだ!楽しみだね!」
楽しそうな会話だな。羨ましい限りだ。私も昔はあんな会話をしていたのだろうか?いや、ひたすら勉強してた思い出しかない。ベビーブームで同世代の人数がやたら多くて物心ついたときから周りと競争を強いられていた気がする。
しかし、こうやって見てみると、みんな生き生きとしているように見える。私みたいに死んだ目をしてるやつはいないし、希望に満ち溢れているようにさえ見える。ああ、なんで私だけこうなってしまったんだろう……。
そんなことを考えながら食事を済ませ、しばらく涼んでから店を出た。これからどうしようか。今日はもうハローワークに行く気分ではなくなってしまった。
仕方ない、どこかで暇でも潰そうか。そう思ったとき、ゲームセンター特有の音が聞こえてきた。そうだ、久しぶりにゲームでもやろうかな。そう思って音がする路地裏に向かった。
大通りの裏側。そこは薄暗く、怪しい雰囲気が漂っている場所だった。ゲームセンターのにぎやかな音が聞こえてなければ絶対に足を踏み入れない場所だ。
そのゲームセンターの一口の先。立ち並ぶビルの上の方を見つめる一人の少女がいた。歳は16,7といったところだろうか。顔立ちはかなり整っている美少女だ。服装はどこかの学校の制服。平日の昼近い時間にこんなところで何をやっているのだろう?まあ、私には関係ないことだ。
そう思い立ち去ろうとしたそのとき、少女と目が合った。少女は慌てて逃げだした。私のことを犯罪者か変質者とでも思ったのだろうか?
ちょっと傷つくなあ。確かにこんなところに女子校生がいるとは思わなかったけど、別にやましい気持ちがあったわけではないのだ。少し悲しい気分になりながら、私はゲームセンターに入った。
店内に入ると、店内の大部分がUFOキャッチャーで占められていた。三角くじが大量に入ってるものや、鍵の入ったカプセルが入ったものなど様々だ。私が学生の頃に行ってたゲームセンターとはだいぶ違う。今はこんな感じなのか……と店内を物色しながら歩いた。時代は変わったんだなあ。
ゲームセンターが思っていたものと違っていたので何もせず帰ることにした。ふとさっき少女がいた場所を見る。もう誰もいない。さっきあのは少女は何を見ていたのだろう?なんとなく気になったのでその場所に行き、少女が見上げていた辺りを見た。ビルの上の方。窓が並ぶテナントが見える。特に何かがあるとは思えないが……。
「ん?」
よく見ると窓に人影が見えた。薄暗くてよく見えないが、誰かがいるようだ。目を凝らしていると、その人物は突然窓から飛び降りた。まさか自殺?!驚いていると、その人は音もたてずに着地した。どうやら無事だったようだ。一体なんだったんだ?そう思っていると、さっき落ちて来た、パーカーを着てフードを深く被った人物と目が合う。そいつは私の姿を見るなり一目散に逃げだした。間違いない、さっきの少女だ。
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