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チュートリアル

13 二つの通貨

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 目を開けると自分の部屋にいた。
 ヘッドセットを外して伸びをする。うーん、頭が重い。これがVR酔いってやつかな?
 時計を見ると、夜の8時半を少し回ったところだった。うちの夕飯は夜の9時間。もうすぐ時間だ。

 ちなみに夕食の支度はお母さんが1人でやっていて、私には手伝わせてくれない。
 以前、料理に興味があるって言ってみたことがあるけど、刃物を振り回すのは危ないからダメと言われてしまった。ちぇ。
 リビングに行くとお父さんがいた。ソファでビールを飲んでテレビを見ているようだ。お母さんはまだキッチンにいるみたい。

「あら、巧美。もう降りて来たの? まだご飯できてないわよ」
「うん、お腹すいた」

 お母さんが台所から顔を出して私に声をかける。私はテーブルに座ってお母さんを待つことにした。

「すぐ出来るから、もうちょっと待っててね」

 はーいと言って足をぶらぶらさせる私。暇だなあーと思っていると、お父さんがテーブルに座って話しかけてきた。

「そういえばお前、バーチャルリアルのゲームやってるんだって? どんなゲームなんだ?」
「えっとね、MMORPGっていうやつで、自分でキャラ作って、冒険したり、生産したりするゲームなの。面白いよ!」
「そうか。友達と一緒に遊んでるのか?」
「うん! 同じ学校の、中学からの友達!」

 ふーんと言いながら、私の頭をぐりぐり撫でるお父さん。痛いってば! 髪がぐちゃぐちゃになっちゃう!
 しばらくしてようやく手が離れたと思ったら、今度はほっぺをむにっと引っ張られた。いひゃいいひゃい! なんで? 普段こんなことしないよね?

「いいか、巧美。お前はなんでものめり込む癖があるからな。夢中になり過ぎて身体を壊すんじゃないぞ? 特に夜更かしは駄目だ」
「ふぁーい」

 やっと離してもらえたので返事をする。でも、急にどうしたんだろう? 仕事で何かあったのかな?

「はい、お待たせ。出来たわよ」

 ちょうどその時、お母さんが出来たてのお料理を運んできた。
 今日のメインはハンバーグ。デミグラスソースがかかった本格的なやつだ。
 お母さんの作るご飯はいつも美味しい。いただきますをして食べ始めると、お母さんが尋ねてきた。

「それで、あの機械は大丈夫だった?」
「ああ、VRギア? 凄く調子いいよ! ゆう兄に感謝だね!」
「良かった。あいつはあれだけが取り柄だからね。いつになったらまともに働くのかねえ……」

 お味噌汁を飲みながら愚痴を言うお母さん。でも、ゆう兄って確かリモートワークか何かやってなかったっけか?
 まあいいか。お味噌汁おいしいし。
 もぐもぐとご飯を食べていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。

「こんな時間に誰かしら? ちょっと見てくるわ」

 立ち上がって玄関に向かうお母さん。しばらくすると戻ってきてお父さんに声をかける。

「あなた。立花さんがいらしたわよ。すぐ来て欲しいって……」
「わかった、すぐ行く」

 残っていたご飯をかき込んで立ち上がるお父さん。何があったんだろ?

「すまんな、行ってくる。戸締りしっかりしておけよ?」
「はい、あなた。行ってらっしゃい」

 慌ただしく出かけるお父さんを見送って、私は残りのご飯を食べ始めた。


 お風呂から上がって部屋に戻ると、もう10時を過ぎていた。
 明日は休みだからじっくりとゲームが出来るね。楽しみだな~!
 あっと、その前に宿題やらなくちゃ。

 ノートを開いて数学の問題集を解く。教科書を見ながら問題を解いていると、スマホが振動していることに気付いた。
 あれ、メール来てる。相手は……、あ、はるちゃんからだ。何だろう?

『明日、何時集合にする?』

 明日の約束かぁ……。どうしよう? まだ街をじっくり見てないからゆっくり見て回りたいんだよねえ。
 午後からでもいいかなあ? そう返信すると、すぐに返事が返ってきた。

『了解。じゃあ、13時からね!』

 さて、これでよしと。じゃあ、宿題の続きをしようっと!


 翌日、土曜日。
 朝食を食べて部屋に戻り、VRギアを装着する。今日は何しようかなあ。まずは街の中を一通り歩いてみようか。
 ログインして目を開けると、そこは昨晩ログアウトした街の広場だった。
 よし、さっそく街を探検してみよう!

 
 石畳の道を歩く。相変わらず人が多いなぁ。
 外から大門を通って真っすぐ行くと、時計台がある大きな広場に出る。ここは大勢のプレイヤー達で賑わっていた。
 突き当りには城壁がそびえ立ち、その先に大はきなお城が見える。先の方だけだけど。
 城壁沿いに左右に大通りがあり、左に行くと色々な店が立ち並ぶ商業エリアがあり、その先は冒険者ギルドがある噴水広場に続いている。
 右に行くと……。地図には工業エリアと書かれている。クラフトギルドがあるみたい。その先は兵士の訓練場に繋がっている。


 まずは左に進んでみよう。
 通りを歩いていくと、色んなお店があった。武器屋、防具屋、雑貨屋、酒場……、どれも中世ヨーロッパ風のファンタジーっぽい感じのお店ばかりだ。
 とりあえず、装備を見てみようかな? お金は無いけれど、見るだけなら無料だし。
 木で出来た扉を開けるとカン! という音が鳴ってドアが開いた。中に入ると、カウンターと壁一面に様々な武器が並んでいるのが見えた。外からの見た目に反して結構広い。

「いらっしゃいませ!」

 奥から店員さんが出てきた。恰幅の良いおじさんだ。

「こんにちは! あの、武器を見てもいいですか?」

「どうぞどうぞ! お好きなだけご覧になってください!」

 ファイター用の装備が掛かっている壁を見ると、片手剣や両手剣、槍や斧が装備レベル別に綺麗に並べられていた。
 試しに手近にあった片手剣を手に持ってみる。ずっしりとした重みを感じた後、ウィンドウが現れた。

『ブロンズソード 適正レベル1~9 STR+1』

 おお、武器を持つとウインドウが表示されるんだ! なるほど、こうやって武器の情報を確認できるんだね。
 ええっと、値段は……。150パンゲア?! 1パンゲアって確か1ドルと同じだったよね?
 1ドルだいたい140円としたら、えっと、14×15の100倍で……21000円?! 高っ!!

「お客さん、どういった物をお探しですか?」
「いえ、ただ見ていただけです。また来ますね!」
「そうですか。またのご利用お待ちしております」 

 店員のおじさんにお辞儀をして外に出る。そっか……。普通のゲームと違ってこのゲームはお金がかかるんだね。
 昔はガチャって言うの? お金を湯水のごとく使うゲームが流行ってたらしいけど、今はもう無いらしい。規制されたとかで。
 とてもじゃないけど一般学生が気軽に買えるもんじゃない。こういうところで社会人と差がついていくんだなあ……。
 仕方ないからパンゲア関連はきっぱり諦めよう。別にお金を使わなくても世界を見て回ることは出来るはず。
 そう割り切って、商業通りを引き返していった……。


 次は工業エリアに来た。
 ここは革細工ギルドと裁縫ギルド。それと革細工、裁縫の直営店がある。
 確か、クラフトギルドはどれか一つを選択して加入することが出来るとどこかに書いてあった気がする。
 まずはお店の方を見ていこう。

 革製品がたくさん並んでいる店のショーケースを眺める。ジャケットやズボン、ブーツなんかも置いてあるね。
 あ、これ可愛いかも! 黒いショートブーツだ! デザインはシンプルだけど履きやすそうでいいなー。
 値札を見ると5万ギルドポイントと書かれている。えっ、ギルドポイント?!

 ギルドポイントは確か、冒険者ギルドの依頼をクリアすると報酬で貰えると言っていた。
 冒険者ギルドとクラフトギルドって同じギルドポイントでいいんだ。
 ってことは、お金を使わなくても装備を手に入れることが出来るってことだよね?
 なんだ。ちゃんと救済措置が用意されていたんだ。よかったー!
 ところで5万ギルドポイントってどれくらい依頼クリアすれば手に入るんだろう?
 後で調べてみないとなあ。


 さて、お店の方は一通り見たので、今度はギルドの方を見てみよう。
 さっきの素敵なショートブーツは革細工ギルドで作られた商品だ。ここに入ったら、もしかしたら自分で作れちゃう?
 そんな期待をしながら扉を開く。なかは広い工房みたいなところで、何人かが作業していた。
 現場監督さんかな? きりっとしたお姉さんが立っていたので、声をかけてみた。

「こんにちはー! 少し見学してもいいですか?」
「あら、新人さんですね。いいですよ、こちらへどうぞ」

 お姉さんがギルド内を案内してくれる。茶色の髪をポニーテールにした活発そうな人だ。かっこいい!
 案内された先には、革がズラリと並んでいる棚があった。棚には番号が振られており、種類ごとに整理されている。

 「ここでは主に革製品の加工を行っています。モンスターの毛皮を革に加工して、断裁したり縫い合わせたりして革製品を作ります」

 へえ、そうなんだ。素材はモンスターのドロップアイテムなんだね。ということは……。

「あの、質問いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「モンスターの毛皮とかって、ここで売れたりしますか?」
「ええ、ギルドポイントで買い取りますよ。ただ、毛皮の状態だとあまり高く買い取れないんですけどね。革に加工すれば、それなりの値段で買い取りますよ」

 ふむふむ。つまり、冒険者ギルド以外にもギルドポイントを稼ぐ方法があるんだ。

「ありがとうございました! あともう一つ聞きたいんですけど、このに加入するにはどうすればいいんですか?」
「レベル10以上で他のクラフトギルドに登録されていなければ、登録可能ですよ。登録金として1000ギルドポイントが必要になります」

 なるほど。まずはレベルを上げないと駄目って事だね。
 それからギルドポイントを稼いで加入、と。

「わかりました。ありがとうございます!」
 
 革細工ギルドを出て、裁縫ギルドも見学した。
 私はどちらかと言うと革細工の方が好みかなあ。
 さて、そろそろお昼の時間だ。一旦ログアウトしようっと。
 ご飯食べたらみんなと合流だ。
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