上 下
100 / 150
2章

第99話 想い──

しおりを挟む
「だから、もうこっちはウィンに干渉したりはしないわ。必要があったら、助け舟は出すけれど──」

「お前だって、いろいろひどいことを言ってきた俺たちとはいたくはないだろう──」

 ウィンは、うつむいたまま何も返さない。いくら今取り繕っても今まで両親が浴びせてきた言葉は消えない。遅すぎたのだ。

 それでも、今までのような険悪な仲と比べると、かなり良くなった方だ。

「すまないとは、思っている」

「──はい」

 ウィンは、どう返せばいいか悩んでいるのだろう。迷っているような表情で、コクリと返事をした。

「そこまで言うなら、こっちも無理強いはしない。2人とも、好きに暮らしていいぞ」

「私たちのことは、忘れてもいいわ。これからは幸せに暮らすのよ、ウィン──」

 ウィンの表情がはっとなり、顔をほんのりと赤くする。
 俺もウィンも、その言葉をずっと待っていた。罵声ではない、ウィンを応戦する言葉。

「一応言っておく。仮にも俺達は両親なんだ。何かあったら、帰ってきても良い、話位は、聞いてよいぞ」

「何か悩みがあったら、話は聞いてあげるわ」

「は、はい!」

 返事をするウィンの表情が、依然と比べて明るい。やはり、両親に認めてもらったという事実が、ウィンの心の希望になっているのだろう。


 そして、話が終わると深々と頭を下げる。

「お父様、お母様、ありがとうございました」

 ようやく、ひとつの問題が解決した。
 こんな家族でも、ウィンにとって両親は彼らしかいない。俺がどれだけ必死にウィンのことを想っても、尽くしても代わりになんかなれない。


 ウィンの中の、心の重荷が、ひとつ取れたような気がした。
 最高の答えと言えばそうですとは言えないが、ウィンにとって良い結果となったのは間違いない。

 苦労はしたけれど、ウィンの安心したような表情を見ていると頑張ってよかったという気持ちになる。

 あとは、最後に挨拶をして帰るだけ。
 そんなことを考えて部屋を出て、自分たちの部屋へと戻ると、ウィンが話しかけてきた。

「この後、話があります。よろしいでしょうか?」




 夜。
 とうとう俺とウィンは、明日帰ることになった。
 夕食も、俺達をもてなす目的だったのか、高そうな柔らかいパンとおいしい肉のステーキ。


 それから、いったん家を出て庭へ。
 雲一つない透き通った空。こじんまりとした街なので照明が少なく、そのおかげで星々がとてもきれいに夜空に咲いている。
 涼しい夜風が頬に触れ、とても心地よい。

 そして、後ろを振り返ってウィンに話しける。

「で、話って何だ。ウィン」

 ここにいる理由。それは簡単。ウィンが呼び出したのだ。

 伝えたいことがあるから、ここに来てくださいと──。

 向かい合う俺とウィン。
 ウィンは、俺から目をそらして真剣な表情をしている。まるで、大切なことを伝えようとしているかのように。

 真剣な表情でごくりと息を呑んだ後、話し始める。

「ガルド様──」


 ウィンが俺の胸に飛び込んできた。
 そして、はっとした表情で俺の胸に飛び込んできた。

吸い込まれそうな綺麗な瞳で、俺の方をじっと見ている。


「伝えたいことが、あるんです」

 真剣な表情で俺のことをじっと見つめている。ほんの少し下を向いてもじもじとした後、再び俺に視線を向けてきた。

「今まで、私のことを大切にしてくれて、接してくれて──本当に嬉しかったです」

「それは、どうも」

「ガルド様のことが、とっても愛しいです。ずっと同じ屋根の下で済んでいて──わかったんです。私は、ガルド様のことが好きなんだって」
 好き──。その言葉に、心臓が止まりそうなくらいドキッとした。
 それが──今のウィンの気持ちなんだ。確かに俺はウィンを大切にしていた。絶対に悲しませまいと。

 けれど、ウィンが俺にそう言った感情を持っているとは思いもよらなかった。

 どう受け答えをすればいいかわからず、戸惑ってしまう。
 何せ初めてのことだ。言葉一つでウィンが傷ついてしまうと考えると、プレッシャーを感じてしまう。

 ウィンのことをじっと見て考え込んで──答えを出す。

「それって、告白ってことかな?」

「はい、告白です。私は、ガルド様のことが心の底から好きです」

「胸がどきどきして、いつもガルド様のことを意識してしまっていて──。私、ガルド様のことが好きなんだって、わかったんです」

 どこか遠い世界の出来事のような、夢であるかのようなふわふわした感覚だ。


 大切な人だとは思っていた。しかしそれはあくまで大切なパートナーというか、仲間というかそんな感じの人とであった。
 異性として、交際相手としてではなかった。

 どうすればいいか、戸惑う。

 しばらく時間が経った。考えて──迷って、答えは一つしかないってわかった。ずっとウィンとともに過ごして、ウィンは俺に尽くしてくれた。
 優しくて、いつも俺のことを想ってくれて。
 時にはハプニングみたいなこともあったけれど、とても楽しかった。ウィンも、心から笑ってくれた。

 そんなウィンが、俺に好意を抱いてくれた。

 それなら、答えは一つしかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

【書籍化進行中】魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化進行中です。  曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」  これが婚約者にもらった最後の言葉でした。  ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。  国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。  やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。  この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。  ※ハッピーエンド確定  ※多少、残酷なシーンがあります 2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2021/07/07 アルファポリス、HOT3位 2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位 2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位 【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676) 【完結】2021/10/10 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

新・俺と蛙さんの異世界放浪記

くずもち
ファンタジー
旧題:俺と蛙さんの異世界放浪記~外伝ってことらしい~ 俺と蛙さんの異世界放浪記~八百万ってたくさんって意味らしい~の外伝です。 太郎と愉快な仲間達が時に楽しく時にシリアスにドタバタするファンタジー作品です。

処理中です...