上 下
90 / 150
2章

第89話 再び、両親の元へ

しおりを挟む

「良く分かってるじゃないか」

 この人たちは、ありとあらゆる知識を教え込まれたがゆえに知っているのだ。この国が、どんな状況に向かっているのかを。

 様々な状況に対応するために教養を身に着けたがゆえに、自分が何をしているのか、理解しているのだ。


 なるほど──。

 脳筋の軍人や、そこいらにいる冒険者とは違う。ただ暴力的で目の前の敵を殴ればいいというわけではない。

 教養豊かで、自分の脳で判断できる人。
 恐らく、この国でもトップクラスの知識人であるともいえる。


「この世界ってのはな、うまくいかないのが当たり前なんだ。最初っからうまくいくなんてことはめったにねぇ」

「それは、分かりますよ。私だって、政府で働いていて、その後色々ありましたから──」

 ウィンと出会う前のことを思い出してしまい、気持ちが後ろを向いてしまう。
 何度も苦しい思いをして戦い抜いたにもかかわらず、自分達の権威の邪魔になるという理由で首になった。

 身分の高い貴族たちからは、疎まれる日々。

「上手くいかない中でどうするか、どうやって大切な人も守っていくか。それが生きていくってことじゃないのか?」


 その言葉に、俺ははっとした。確かにそうだ。それでも、ウィンを守って行かなきゃいけない。尽くしていかなきゃいけない。

 どこか、肩の荷が取れた気分になった。

「──わかりました」

「頑張れよ」

 そっと、応援の言葉をもらったこと。その事実が、どこか嬉しい。

「ありがとうございます」

 そして俺はこの場を去っていく。
 レナートも、根っから悪い奴じゃないということは理解できた。

 行こう。逃げてばかりいても、問題は解決しない。
 行くしかない。両親のところへ。

 そして俺達はこの場を去って行った。
 絶対、ウィンを悲しませるような結果にはしない。そんな強い意志を持って、この場を去って行った。

 再びウィンの実家へと戻る。
 玄関で出会ったロックさんに、両親と再びウィンのことについて話したいということを告げる。

 ロックは、心配そうな表情をした。

「はい。どの道逃げることなんてできませんから。それなら、私がいる今やりたいと考えています」

 ロックが一度ウィンに視線を向けた。ウィンは俺の手をぎゅっと握ったまま、じっとロックを見つめている。
 ウィンの気持ちを、理解したのだろう。ロックはコクリと頷いた。

「──わかった」

 ロックは家の奥へ。俺達はいったん自分の部屋に戻り、気持ちを落ち着けているとコンコンとノックをしてきた。

 扉を開けると、そこにはロックの姿。

「準備はできた。そっちは?」

「大丈夫だ」

 ウィンの方に視線を向ける。真剣な表情で、コクリと頷いていた。

「行きましょう。──覚悟はできてます」

 目を見ればわかる。逃げずに行くという、意志と覚悟をそして俺達は再び応接室へ。

 応接室のソファーに腰を下ろしてしばらく。両親がやってきて反対側の席に腰を下ろす。
 どんよりとした雰囲気が、この場を包む。



「で、何で呼び出したんだい」

「当然、ウィンのことについてです。ウィンについて、両親であるあなた達に、お願いがあります」

 その言葉を言うなり、両親はウィンを強くにらみ始めた。ウィンは、一瞬だけピクリと体を動かすが、それ以上はなにも動じない。
 そして両親のにらみつけるような目線は、俺の方にも向き始めた。

「なんだウィン。大体、こんなどことも知らない男なんて連れてきて」

「そうだよ。なんだ、俺達の財産目当てか?」

 いつも、そうやって血縁関係を利用して自分たちの勢力を強くしていったんだっけ。
 だから、そんな発想が出るのだ。そんなことは当然ない。
 俺は立ちあがる。
 一瞬、言葉が詰まった。

 確かに、両親にとってはそうかもしれないからだ。けれど、それは違う。
 ウィンのことを真に考えている。だから、言うんだ。

「あなた達に、言いたいことがあります」

 これは、家族の問題だ。本来、俺が口を出すべきことではない。
 それでも──。ウィンがあんなに罵倒されて、涙を流して、悲しんで──。

 黙ってなんかいられない。

「ウィンは 一生懸命で、誰にでも優しくて。とっても素敵な人だと考えています」

「だから何だ」

「本当は、私が口を出すかどうか迷いました。でも、ウィンが悲しんでいる現実を見て、言わずにはいられなくなりました」

「両親として、決して言ってはならない言葉だと思います」

 本当なら、俺がウィンの親になってあげたい。


 悲しさだって、辛いことだって、全部背負って癒してあげたい。
 でも、それはできない。限界がある。
 でも、どれだけウィンのことを想っても、どれだけウィンに尽くしても、届かないって思う。

「だからあなた達両親が、ウィンが困っていたり、落ち込んでいたりしたときにウィンのそばにいてあげてほしいんです」

「しかし、ウィンは──」

「ウィンなら、必ずやり遂げられます。トラウマだって乗り越えられます。ずっと隣にいた俺だからわかります。ウィンは、両親が思っているよりもずっと芯が強い存在です。だから、考え直してください」

 そして俺は頭を下げた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...