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2章

第60話 糸口

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 当然、部屋を見てもトランペソドロンはない。

「なんていうか、亜人の人ばかりですね」

 ニナの言葉通りだ。

 ここにいるのは亜人の人が大半だ。出稼ぎに来ているのだろうか──。特に、問題があるわけではないが。
 ニナが耳に手を当てひそひそと話しかけてくる。

「どうですか、先輩──。私には、ただの町工場で問題があるようには見えないのですが……」

「そうだね……」

 特におかしい所はない。取りあえず、これ以上の詮索は難しそうだ。

 それから、工場を少し歩いた後、おじさんから色々と説明を受けた。

「こんな感じです。どこかおかしいと思うのでしたら、どうぞ質問してください。答えますから」

「いや、大丈夫です」

 質問のしようがなかった。この人から、聞けることはないと思う。

「とりあえず、帰ろうか──」

 そして俺が踵を返して帰ろうとしたその時──。

「すみません、ちょっといいですか?」

「あ、すみません」

 毛耳をした亜人の男が話しかけてきた。

 大きな木箱を持っている男の人。通行の邪魔になっていたようで、ニナと一緒に隅っこに移動。

 木箱の中をよく見ると、ここで製造された服が、丁寧にたたんで木箱に入れられている。
 なんとなく、違和感がした。

 恐らく、ここから出荷するのだろう。
 取りあえず、俺もその後を追ってみる。

 廊下を出て外へ。
 そこには、木製の荷車の姿があった。
 持って来た他にも木箱が2つほど積まれている。大きめの荷車にしては、ややさみしい運送量といった所か。
 そして、男の人が荷車を押して歩こうとしたとき──。

「これで、全部ですか?」

 男の人の肩をたたいて、質問をする。

「そうですね。いつもは、もっと多いんですけどね……」

 俺は、木箱にある服を優しく触りながら話を聞く。
 いつもは、荷車一杯くらいの出荷量だが、たまにこんなことがあるらしい。

「どうか、されましたか?」

 触った瞬間、おじさんの人がこっちに来て聞いてくる。
 まるで、向こうに意識を向けてほしくないかのように──。

「い、い、いやぁ……。仮にも製品なんでね」

「ああ、すいません」

 取りあえず頭を下げるが、別に汚しているわけではないし、扱いが厳しい精密機械というわけでもない。

 そこまで、神経質になる必要があるのだろうか──。

 そして──。

「ずいぶんと、少ない数ですね」

「ま、こういう日もありますよ……なにせ、軍のお方の注文で仕事量が決まるもんですからねぇ……」

 男の人は、額を抑えながら質問に答える。

「それも、そうですね」

 ちょっと、戸惑っているような感じがした。何か、聞かれたら困ることでもあるのだろうか。
 カラカラと、衣服が乗っかった荷車を引いている。

「今日の製造、これだけ?」

 運搬の男の人は、何事もなく答える。

「はい、これだけです」

 態度から、よそよそしいと言った不審な様子はない。
 別に、嘘をついてるわけでもなさそうだ。

「わかりました。それなら大丈夫です」


 そして俺達は、事務所に戻った。

「とりあえず、調査は終わりました。えーと、名前は……」

「カルシナだ」

 カルシナ、か──。

「まあ、いろいろ分かりました。これで、失礼させていただきます。すみませんね、邪魔してしまって……」

「いいえいいえ」

 そして俺達はあいさつを済ませ、手を握って握手をした後この場を去る。
 賑やかな街並みを歩きながら、去り際に、ニナと会話をする。

「先輩、本当に手掛かりはなかったんですか?」

「いいや、なかったわけじゃ無い。ただ、不完全なんだ。もっと調べないと──」

「そ、そうだったんですか。それなら、良かったです。私、協力します」

 ニナがこぶしを強く握って言葉を返して来る。

「ありがとう。これからも、よろしくね」

「よろこんで!」

 そう言葉を返すニナの顔はほんのりと頬を赤くしていて、どこか嬉しそうだった。

 今日は、いろいろ分かったこともあった日だった。でも、ここだけ調べても、ダメだ──。
 別の場所を調べないと。







 ウィン視点。

「お兄ちゃん、ありがとう。また来てね」

「えへへ……また来るよ、レーノちゃん」

 甘えん坊の妹モードで最後のお客さんを見送る。ぺこりと頭を下げると、たゆんと胸が下がり胸元が丸見えになる。
 お客さんの視線が大きな胸にいってしまい恥ずかしい。
 そして、ドアを閉めて厨房へ。

「ふう、これで終わりね」

「は、はい」

 時間は夕方。夕日が店を照らしている。私達は更衣室へ。
 仕事が終わって、店が閉まった後──。

 そこそこ繁盛した日。疲れて大きく息を吐きながら普段着に着替え終わった所。

「お疲れ。今日、これから予定ある?」

「いいえ、特に何も──」

 隣で着替えていたレーノさんが話しかけてくる。

「じゃあ、いろいろ話をしたいんだけれどいい? 夕飯までには間に合う。そこまで時間はとらせないから」

「わ、わかりました」

 コクリと首を縦に振る。
 レーノさんは、普段は寡黙だけれど、とっても面倒見がよくって、私にとってあこがれる先輩だ。今回も、私に何か話しかけてくれるのだろう。

 荷物を持って、店内へと移動。

 普段はお客さんが私達のサービスをしている場所。夕日が当たる窓側の席に相対するように座る。

「コーヒー、よろしかったら飲んで」

「ありがとう、ございます」

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