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第38話 レーノがここに来た意味
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「わかりました。行ってきます」
ウィンが戸惑ったような表情をして、この場を去っていく。
確かにウィンのことを問い詰められることは想定していた。
しかしここまで速く、それもウィンのバイト先の人になんてまるで想定外だ。
動揺が止まらないが、あまり変な態度をとると余計に怪しまれそうだ。
平常心平常心──。
深呼吸をして、気を落ち着かせる。
そして、コンコンとノックの音。
そして扉が開くと、ウィンともう一人、同じ背丈位の女の人がいた。
ウィンが、その人に手を向け、紹介してきた。
「この人が、職場の先輩レーノさん」
「どうも」
黒髪でストレートな髪型。ウィンと背丈は同じくらいだが、冷めたような目つきや雰囲気からして同じ年ではないというのがわかる。
無表情で大人しそうな人だ。
「わ、私が──兄のガルドです。い、い、妹がいつもお世話になっております」
レーノはその言葉にため息をついて言葉を返す。
「そう。こちらもよろしくね」
レーノはじっと俺を見て言葉を返す。
最初はどんな人が来るかびくびくしていたが、まともそうな人が来てよかった。
「とりあえずこんな時間だし、ごちそうするよ」
「ありがとうございます」
そして会釈をすると、俺達は部屋の中へ。
それから、俺とウィンで手分けをして料理を作る。
料理自体はできた。ーーが急な来客だったため、野菜スープとライムギのパン、ソーセージの簡単なものしかない。
「これくらいしかないけれど、大丈夫?」
「大丈夫です。もてなしていただいて、ありがとうございます」
レーノはこっちを無表情で見てぺこりと返事をした。
そして食事をしながら色々と会話。
「ウィンの仕事ぶりは、どうですか?」
「覚えは早いし、お客さんのニーズにも良く答えようとしてくれて、とても優秀だわ」
「あ、ありがとうございます──」
「そ、そんな……私なんか──」
おどおどとするウィンに、レーノは冷静に言葉を返す。
「そんなことないわ。これからもがんばりなさい」
「あ、ありがとうございます」
「それでね、お兄さんにお願いがあるわ」
「なに?」
「ウィンのメイド服、見たでしょう。普通の服より刺激的なの」
「確かに、露出が高かったね……」
スカート丈は短く、太ももがかなり露出している。おまけに胸元が開けていて胸の谷間が露出してしまっている。
「ウィンに対して変な感情を持った人が現れる可能性があるわ。守ってほしいの」
確かに、あんな刺激的な服装。中にはウィンに対して劣情を抱くものが現れても不思議ではない。
「わかった。気を付けるよ」
「ありがとう」
レーノはそっけなく言葉を返した。ウィンから聞いた限り、これが目的だったはずなのだが、他にも目的があるのだろうか。
それからも、食事をとりながらいろいろなことを話す。
俺の普段のこととか、カフェのこととか……。
カフェの特殊性には、ちょっと驚いたが。
そして、今度はレーノが俺達に振ってきたのだが──。
「あなた達は、どうして一緒に暮らしているの?」
「えっ? ああ……それはね──」
その言葉に思わず視線が泳いでしまう。予想はしていたが、いざ本当に聞かれるとやはり戸惑う。
「私たち、故郷が遠い場所だったんです。それで……」
「タツワナ王国の生まれで、で、出稼ぎに来ているんだ。それで、少しでもお金を節約したいから──一緒に住んでるんだ」
おどおどと戸惑ってしまったが、何とか言葉を返せた。
レーノは、俺達の顔を交互に見ると一息つく。
「……なるのどね。なんとなくわかった」
ちょっと危なかったけど、何とか応えられてよかった。
それからも、色々な話題を話す。
兄妹に関することを聞かれると、ちょっと戸惑ってしまったが、何とか受け答えができた。
そんな事をしているうちに、夜も更けてきた。
「ガルド、ちょっと話があるわ。外、いい?」
手招きするそぶりを見せて、俺を外へと誘導。
ウィンに聞かれたくないことがあるようだ。
「わかった。ちょっと行ってくるよ」
すでに日は沈み、真っ暗な夜。どこかの家から、美味しそうな食べ物の香りが漂ってくるこの場所。夜風が当たって、涼しく感じる。
そんな中で俺とレーノが相対。レーノは無表情でじーっと俺を見つめていた。
ちょっと、きまずい雰囲気。
「話って、なんだ?」
レーノは大きく息を吐いて答えない。
そして、レーノがこっちを振り向いて、話しかけてきた。
「で? あんたとウィン。本当はどういう関係なわけ?」
その言葉に思わずピクリと体を震わせる。
「どういうって、兄妹って言ったじゃん」
「あんなでたらめが、私に通じると思っているの?」
予想もしなかった言葉に思わず腰が引けてしまう。まずい、どう説明すれば……。
「あんた、嘘をつくのが下手過ぎ。 視線はキョドキョドして、口調がおぼつかない。顔に『僕は今、嘘をついてます』って書いてあるような物よ」
レーノが俺の胸に指を当て言い放つ。
ダメだこれは……。言い逃れできる気がしない。
「わかった。本当のことを話すよ」
俺は、包み隠さずウィンとの出会いから、今までのことを打ち明ける。
当然、ウィンの元々の立場や素性も──。
レーノは、真顔で俺をじっと見て表情を崩さない。
しばらくたつと、言葉を返して来る。
「手、出してないでしょうね」
「大丈夫。出してない。それは約束する」
大きく息を吐いて、言葉を返して来る。
「──嘘はついてないようね。信じるわ」
「この事は、ウィンには言わないでおくわ」
「ありがとう──」
「全く、手を出すわけでもないのに、とんだお人好しなのね──」
レーノがため息をつく。
そういう雰囲気は読める人なのだろう。
「いろいろ心配なのよ。あの子。男受けがよさそうな顔つきとスタイル。おまけにおとなしそうでしょ? 変な虫を寄せ付けちゃうのよ」
「それは、俺も感じていた」
なんて言うか……その手の人には、たまらない体や顔つきだというのは分かる。
「俺も、心配だ」
「でしょ。だから、私もウィンの様子には気を付ける。あなたも、ウィンのことはしっかり気を配りなさいね」
「わかった」
「あの子、放っておけないのよ……。とても一生懸命で、とてもお客さん受けもいい。けれど……」
レーノさんの表情が、どこか怪しくなる。
「ちょっと、警戒が薄いのよね……」
「どういうこと?」
「例えば、男の人が変な目で見ている時とか。私や他のウェイターさんならそれを察知して、対応をとるけど、ウィンはね──あまり警戒しないのよ。例えば、お客さんが明らかにウィンに対して好意を持っている時でも、適当にあしらったりせずに接客してしまったり──」
「それは、心配だな──」
確かに、ウィンはまだ幼いし、心が純粋というか──人の悪意が理解できないところがあるように思う。
「一生懸命だけど、守ってあげなきゃって思うわ。放っておけないのよ」
「それは、わかる」
ウィンは、家にいるときも、いつも一生懸命だった。
俺も、そんな姿を見てウィンのことを心から応援したいと、強く思う。
「お願い。私もあの子のことはちゃんと見る。だから、あなたもしっかりとあの子のことを見てあげて」
「わかった」
コクリと返事をした。
そして俺達はもう一度部屋に戻る。
ウィンは食器の片付けをしていて、慌てて俺も手伝った。
その様子を見たレーノが、俺達を見て大きく息を吐く。
「じゃあ、私は帰るわ。二人とも、お幸せにね」
その言葉に、ほっと溜息をつく。緊張から、解放された気分だ。
「そうだな。夜も遅いし──送ってこうか?」
「あなた、そのままお持ち帰りする気? 浮気はダメよ」
「う、浮気?」
その言葉に驚く。ウィンは、目を点にして表情を失った。
「冗談冗談。ガルド、ウィンはあなたにとてもなついているわ。絶対に、大切にしなさい」
「わかったよ……」
そして、レーノは自分の家へと帰っていく。
家の扉が閉まり、レーノの姿が視界から消えた瞬間──。
「疲れた──」
「はい……」
緊張の糸が切れ、俺もウィンも思わずへたり込んでしまう。
「何とか、終わりました」
「ああ、生きた心地がしなかった」
嘘を指摘された時はドキッとしてしまったが、悪い人ではなさそうだ。
レーノさん。ウィンから聞いたところだと、しっかり者で頼れる先輩らしい。
最初、俺達の小芝居がばれていたことにはびっくりしたが、それでもウィンのことをよく考えてくれていた。
敵じゃないということがわかり、俺はほっとした。
あのカフェ、最初はウィンにとって大丈夫かと心配になったが、いい先輩がいてよかったと思う。
勘は鋭いし、面倒見もいい。ウィンも以前「レーノさんは私のことをいつも見ていてくれる」と言っていた。
後輩想いの、いい人なのだろう。
あの人がいるなら、大丈夫だ。俺もしっかりとウィンのことを守って、応援してあげよう。
ウィンが戸惑ったような表情をして、この場を去っていく。
確かにウィンのことを問い詰められることは想定していた。
しかしここまで速く、それもウィンのバイト先の人になんてまるで想定外だ。
動揺が止まらないが、あまり変な態度をとると余計に怪しまれそうだ。
平常心平常心──。
深呼吸をして、気を落ち着かせる。
そして、コンコンとノックの音。
そして扉が開くと、ウィンともう一人、同じ背丈位の女の人がいた。
ウィンが、その人に手を向け、紹介してきた。
「この人が、職場の先輩レーノさん」
「どうも」
黒髪でストレートな髪型。ウィンと背丈は同じくらいだが、冷めたような目つきや雰囲気からして同じ年ではないというのがわかる。
無表情で大人しそうな人だ。
「わ、私が──兄のガルドです。い、い、妹がいつもお世話になっております」
レーノはその言葉にため息をついて言葉を返す。
「そう。こちらもよろしくね」
レーノはじっと俺を見て言葉を返す。
最初はどんな人が来るかびくびくしていたが、まともそうな人が来てよかった。
「とりあえずこんな時間だし、ごちそうするよ」
「ありがとうございます」
そして会釈をすると、俺達は部屋の中へ。
それから、俺とウィンで手分けをして料理を作る。
料理自体はできた。ーーが急な来客だったため、野菜スープとライムギのパン、ソーセージの簡単なものしかない。
「これくらいしかないけれど、大丈夫?」
「大丈夫です。もてなしていただいて、ありがとうございます」
レーノはこっちを無表情で見てぺこりと返事をした。
そして食事をしながら色々と会話。
「ウィンの仕事ぶりは、どうですか?」
「覚えは早いし、お客さんのニーズにも良く答えようとしてくれて、とても優秀だわ」
「あ、ありがとうございます──」
「そ、そんな……私なんか──」
おどおどとするウィンに、レーノは冷静に言葉を返す。
「そんなことないわ。これからもがんばりなさい」
「あ、ありがとうございます」
「それでね、お兄さんにお願いがあるわ」
「なに?」
「ウィンのメイド服、見たでしょう。普通の服より刺激的なの」
「確かに、露出が高かったね……」
スカート丈は短く、太ももがかなり露出している。おまけに胸元が開けていて胸の谷間が露出してしまっている。
「ウィンに対して変な感情を持った人が現れる可能性があるわ。守ってほしいの」
確かに、あんな刺激的な服装。中にはウィンに対して劣情を抱くものが現れても不思議ではない。
「わかった。気を付けるよ」
「ありがとう」
レーノはそっけなく言葉を返した。ウィンから聞いた限り、これが目的だったはずなのだが、他にも目的があるのだろうか。
それからも、食事をとりながらいろいろなことを話す。
俺の普段のこととか、カフェのこととか……。
カフェの特殊性には、ちょっと驚いたが。
そして、今度はレーノが俺達に振ってきたのだが──。
「あなた達は、どうして一緒に暮らしているの?」
「えっ? ああ……それはね──」
その言葉に思わず視線が泳いでしまう。予想はしていたが、いざ本当に聞かれるとやはり戸惑う。
「私たち、故郷が遠い場所だったんです。それで……」
「タツワナ王国の生まれで、で、出稼ぎに来ているんだ。それで、少しでもお金を節約したいから──一緒に住んでるんだ」
おどおどと戸惑ってしまったが、何とか言葉を返せた。
レーノは、俺達の顔を交互に見ると一息つく。
「……なるのどね。なんとなくわかった」
ちょっと危なかったけど、何とか応えられてよかった。
それからも、色々な話題を話す。
兄妹に関することを聞かれると、ちょっと戸惑ってしまったが、何とか受け答えができた。
そんな事をしているうちに、夜も更けてきた。
「ガルド、ちょっと話があるわ。外、いい?」
手招きするそぶりを見せて、俺を外へと誘導。
ウィンに聞かれたくないことがあるようだ。
「わかった。ちょっと行ってくるよ」
すでに日は沈み、真っ暗な夜。どこかの家から、美味しそうな食べ物の香りが漂ってくるこの場所。夜風が当たって、涼しく感じる。
そんな中で俺とレーノが相対。レーノは無表情でじーっと俺を見つめていた。
ちょっと、きまずい雰囲気。
「話って、なんだ?」
レーノは大きく息を吐いて答えない。
そして、レーノがこっちを振り向いて、話しかけてきた。
「で? あんたとウィン。本当はどういう関係なわけ?」
その言葉に思わずピクリと体を震わせる。
「どういうって、兄妹って言ったじゃん」
「あんなでたらめが、私に通じると思っているの?」
予想もしなかった言葉に思わず腰が引けてしまう。まずい、どう説明すれば……。
「あんた、嘘をつくのが下手過ぎ。 視線はキョドキョドして、口調がおぼつかない。顔に『僕は今、嘘をついてます』って書いてあるような物よ」
レーノが俺の胸に指を当て言い放つ。
ダメだこれは……。言い逃れできる気がしない。
「わかった。本当のことを話すよ」
俺は、包み隠さずウィンとの出会いから、今までのことを打ち明ける。
当然、ウィンの元々の立場や素性も──。
レーノは、真顔で俺をじっと見て表情を崩さない。
しばらくたつと、言葉を返して来る。
「手、出してないでしょうね」
「大丈夫。出してない。それは約束する」
大きく息を吐いて、言葉を返して来る。
「──嘘はついてないようね。信じるわ」
「この事は、ウィンには言わないでおくわ」
「ありがとう──」
「全く、手を出すわけでもないのに、とんだお人好しなのね──」
レーノがため息をつく。
そういう雰囲気は読める人なのだろう。
「いろいろ心配なのよ。あの子。男受けがよさそうな顔つきとスタイル。おまけにおとなしそうでしょ? 変な虫を寄せ付けちゃうのよ」
「それは、俺も感じていた」
なんて言うか……その手の人には、たまらない体や顔つきだというのは分かる。
「俺も、心配だ」
「でしょ。だから、私もウィンの様子には気を付ける。あなたも、ウィンのことはしっかり気を配りなさいね」
「わかった」
「あの子、放っておけないのよ……。とても一生懸命で、とてもお客さん受けもいい。けれど……」
レーノさんの表情が、どこか怪しくなる。
「ちょっと、警戒が薄いのよね……」
「どういうこと?」
「例えば、男の人が変な目で見ている時とか。私や他のウェイターさんならそれを察知して、対応をとるけど、ウィンはね──あまり警戒しないのよ。例えば、お客さんが明らかにウィンに対して好意を持っている時でも、適当にあしらったりせずに接客してしまったり──」
「それは、心配だな──」
確かに、ウィンはまだ幼いし、心が純粋というか──人の悪意が理解できないところがあるように思う。
「一生懸命だけど、守ってあげなきゃって思うわ。放っておけないのよ」
「それは、わかる」
ウィンは、家にいるときも、いつも一生懸命だった。
俺も、そんな姿を見てウィンのことを心から応援したいと、強く思う。
「お願い。私もあの子のことはちゃんと見る。だから、あなたもしっかりとあの子のことを見てあげて」
「わかった」
コクリと返事をした。
そして俺達はもう一度部屋に戻る。
ウィンは食器の片付けをしていて、慌てて俺も手伝った。
その様子を見たレーノが、俺達を見て大きく息を吐く。
「じゃあ、私は帰るわ。二人とも、お幸せにね」
その言葉に、ほっと溜息をつく。緊張から、解放された気分だ。
「そうだな。夜も遅いし──送ってこうか?」
「あなた、そのままお持ち帰りする気? 浮気はダメよ」
「う、浮気?」
その言葉に驚く。ウィンは、目を点にして表情を失った。
「冗談冗談。ガルド、ウィンはあなたにとてもなついているわ。絶対に、大切にしなさい」
「わかったよ……」
そして、レーノは自分の家へと帰っていく。
家の扉が閉まり、レーノの姿が視界から消えた瞬間──。
「疲れた──」
「はい……」
緊張の糸が切れ、俺もウィンも思わずへたり込んでしまう。
「何とか、終わりました」
「ああ、生きた心地がしなかった」
嘘を指摘された時はドキッとしてしまったが、悪い人ではなさそうだ。
レーノさん。ウィンから聞いたところだと、しっかり者で頼れる先輩らしい。
最初、俺達の小芝居がばれていたことにはびっくりしたが、それでもウィンのことをよく考えてくれていた。
敵じゃないということがわかり、俺はほっとした。
あのカフェ、最初はウィンにとって大丈夫かと心配になったが、いい先輩がいてよかったと思う。
勘は鋭いし、面倒見もいい。ウィンも以前「レーノさんは私のことをいつも見ていてくれる」と言っていた。
後輩想いの、いい人なのだろう。
あの人がいるなら、大丈夫だ。俺もしっかりとウィンのことを守って、応援してあげよう。
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