上 下
24 / 150

第24話 新たなクエスト。しかし──

しおりを挟む


「よーし皆行くぞ」

 リーダーの言葉に、みんなが足を進める。
 街の門をくぐった草原の道。俺達冒険者の集団がゆっくりと歩を進めていく。

 歩いていると、うりうりといわんばかりにエリアが肘を当てながら話かけてきた。

「久しぶりの遠征。大丈夫なんかい?」

「大丈夫だ。変なミスなんてしない。安心しろ」

 そう、今日はかなり久しぶりの遠征だ。数日間、家には帰れない。
 隣国との街道沿いに、新しいダンジョンが発見されたらしい。そしてダンジョンから出た魔物が街道沿いに現れ、物資の輸送馬車に被害が出ているだとか。


 本当はウィンがいる手前、参加したくはなかったが、この街道の安全が確保できなければ王都への輸送網は途絶え、物資の貧窮が深刻になってしまうだろう。

 やむを得ず、参加することとなった。

 事情をすると、ウィンはコクリと首を縦に振ってくれた。

「しょうがないですよ。私、待ってますから……」

「ありがとう、ウィン。仕事の方、うまくいくといいね……」

 絶対に、ウィンに何かしてあげよう。
 ちなみに今回、輸送網に被害が出ているだけあってかなり大規模な遠征だ。

 政府が「あの無駄飯ぐらいが役に立つチャンスだ。一刻でも早くあの邪魔者を始末して来い!」と激怒し俺達を派遣させただとか。

 その数、百人ほど。それくらい、政府にとっても重要な大事らしい。


 王都を出て丸二日。事前に与えられた地図によると、そろそろ目的地にたどり着くころ。
 左手側の沼沢地が少しずつ浅くなっていて、途切れた。

 雑木林が広がっている小高い山。
 だだっ広い草原、ところどころ起伏があって、小波のようにうねって見える。

 所々に転がっている大きな石。
 藪に覆われた廃屋。以前は人が住んでいたのだろうか……。

 うっそうとした雑木林の向こうには、低い山並みが連なっている。
 そして、その雑木林の先の山にダンジョンはある。

「とりあえず、目的地にはついた。いったん休憩を取ろう」

 案内役の人が周囲にそう伝えると、みんなこの場所に座り込んで休みだした。
 気の抜けたような雰囲気がこの場に広がる。

 だるそうに座り込んだり、プライベートなことを話したりしている。

 だらけ切った様子を見ていると、耳元でささやいて来た奴が一人。

「これ、大丈夫かね~~」

「警戒した方がいいな、エリア。統率が、全く取れていない」

 エリアだ。彼女もこのクエストに参加していた。

 そしてエリアも、全く同じ懸念を示していた。確かに長旅で疲れていたのは分かる。
 けれど、ダンジョンが近くて敵が襲ってくる可能性があるのに、見張りも立てずに全員気を抜くっていうのは今まででもなかった。

 ちょっと、心配になってしまう。
 そんなときに、1人の人物が手を上げてこっちに来た。

「ガルド先輩。また一緒でしたね」

 ニナだ。明るい表情で、ニッコリと話しかけてくる。

「そうだね」

 ニナは俺の気まずそうな表情に気付いたようで、不思議そうな顔で言葉を返す。

「何で、気まずそうな顔してるんですか?」

 その言葉に俺はさっきまで悩んでいたことをすべて話した。
 ニナは、人差し指を口元に当てて考え込み、言葉を返す。

「ん~~。でも大丈夫じゃないですか? だって、こんなに大人数なんですよ」

「いや。クエストにしては、人が多すぎる。逆に、まとめきれるのか不安だ」

 その言葉に、ニナの表情がキョトンとなる。

「人が多い方がいいんじゃないんですか? それだけ戦力が充実してるってことでしょう?」

 ニナの言葉に、特に違和感は感じない。戦場というものをよく知らない人はそう考えてしまいがちだから──。とにかく人を集めればいいと──。

「人数が多いというのは、いいことばかりではないんだ」

「どういう、ことですか?」

 キョトンとした表情のニナに、俺が答える。

「人数が増えれば、確かに戦力は上がるが──同時に統率がとりにくくなる。バラバラで身勝手な行動が増え、敵に気付かれやすくなったり、場合によっては人質に利用されてしまったりすることもあるからだ」

「そ、そうなんですか……」

 あわわと両手で口を覆うニナ。するとエリアがさらに話す。

「それだけじゃないわ。あの指揮官、問題だらけなのよ……」

 エリアは前方に視線を向ける。俺とニナも同じ方向を見ると、この作戦の指揮官パウルスの姿があった。茶色っぽい軍服を着た、サングラスをかけている中年くらいの男の人。

 部下や冒険者達を気遣ったり、周囲の情報を聞いたりする動きなどなく、葉巻を吸いながら石の上にふんぞり返って座っていた。

「確か、パウルス──だっけ」

「そうよ」

 あくびをして、退屈そうに空を見ている。
 周囲に気を配ったり、話しかけたりするそぶりはない。

 大丈夫なのかと心配していると、エリアが話しかけてきた。

「あいつの評判、聞いた事ある?」

「ない。名前くらいしか、聞いた事がないな」

 確か、国家魔術師の一人だった。恐らく、大事だったので国から魔術師を派遣して彼に指揮権を渡したのだろう。

「最悪よ。お父さんが兵士団でもそれなりに身分があったから、そのコネで地位を手に入れた。賄賂や不正取引の噂は絶えないし、周囲への人望もない。権力をかさに女や酒に浸ってばかりの存在よ」

「うぅ……なんだか不安になってきました」

 ニナの言う通りだ。人数が増えれば増えるほど、統率が取れなくなったりまとめきれなくなったりする場面が増えてくる。だからこそ優秀な指揮官が必要なのだが。

 よりによってこんな親の七光りしか取り柄がないやつだとは……。
 ──どうにもならないことを嘆いても仕方がない。指揮官が無能だということを頭に入れておいて行動をとろう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...