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第2話 一緒に寝る

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「──ウィンと申します」

「そうか、俺はガルド。よろしくね。歳は?」

「17です」

 それから、無言で気まずい時間が続いていた。
 何か話しかけようとしたが、こうして異性と二人っきりになることなんて全くなかった俺。
 頭をひねっても考えが出ない。

 黒髪のツンツン頭で、身長はそれなりに高いが特にかっこいいわけでもない。
 容姿に優れているわけでもない俺に、いきなり会った女の子に気を利かせたりエスコートをしたりなどできるはずがないのだ。

 結局彼女とは何も話せなかった。
 雨の真っ暗な夜道をしばらく歩くと、木造で二階建ての建物。



「家だよ」

 階段を上がり、2階。一番奥にある部屋へ外開きのドアをキィィと開ける。

「入って、どうぞ」

 スッと手を差し伸べ、ウィンを部屋にあげてから、俺も部屋に入る。

 特に金目の物があるわけではない殺風景で、質素な部屋。引き出しからタオルを出してウィンの体をふく。

「あ、ありがとうございます……」

「いいっていいって」

 それから、俺の服を貸した。あのずぶ濡れの服じゃ、風邪ひいちゃうから。
 ぶかぶかになっちゃたけど、何とか着れた。明日、服を買いに行こう。

 荷物を片付けてから台所へ。持っている材料を駆使して何とか料理を作る。十数分ほどすると料理ができたので、机に置く。

「お腹すいたろ。こんなものでよかったら、食べていいよ」

 市場で安売りしていた、硬くて黒っぽいパンに、野菜スープ。

 スープといっても、お湯の中に塩を入れ、ニンジンと芋を入れた簡単なもの。
 昔であればもっといい物を出していたかもしれないが、今の稼ぎでは、これくらいの物しか用意できない。

 ごめんな……。
 ウィンは食い入るようなまなざしで、食事に視線を置く。そして、そっと指をさした。

「本当に、食べていいんですか?」

「食べていいよ。お腹、空いているんでしょ」

 ウィンはきょろきょろと周囲に視線を泳がせた後、気まずそうに頭を下げると、フォークでニンジンを口に入れる。

 それをもぐもぐと噛んでからはふはふとして飲みこんだ後、大きく安堵したかのように一息ついた。

 それから、スープが熱かったのかすぐに口を離し、ふーふーする。
 何度かスープを冷ました後、ゆっくりとスープを口に運んだ。

 味の方は大丈夫か、口にあっているのかと心配になりつつ俺もスープを飲み始める。
 口に合うといいのだが。

 だが、そんな心配は不要だった。

 ウィンがスープを一口入れた瞬間、ほうっとした表情になる。
 それからも、同じように、しかし早い動作ではふはふしてスープを飲み干す。

 そして、パンを一口かじる。
 やはりお腹が空いていたのだろう。そのパンをかじる動きが、早くなっていくのがわかる。

 あっという間にスープとパンを食べ終えてしまった。ウィンは安心しきっているのか、ほっと一息ついて安心した表情をしている。

 そして、両手を合わせて最後に一言。

「ご、ごちそうさまです」

「ずいぶん早いね……」

「数日間、何も食べていなかったので──」

 そ、そうだったのか。ボロボロなわけだ……。
 ウィンは食べ終わった食器を手に取ると、深々と頭を下げてきた。

「スープもパンも、今まで食べたことがないくらいおいしかったです。涙が出そうなくらいに……」

「そ、それはありがとう……」

 しゃべっているウィンの瞳が希望に満ちてキラキラしている。俺は料理が得意なわけじゃ無いし、高い食材を使っているというわけでもない。極限までお腹が空いた後の食べ物だから、美味しく感じられるのだろう。

 まあ、美味しいと言ってくれて何よりだ。

「あ、ありがとうございました。本当においしかったです」

 そう言って頭を下げてきた。
 その後、食器を洗ってまた何もない時間に。


 取りあえず、もう寝よう。俺はクエストがあるし、ウィンは何日も野ざらしで疲れ切っているだろう。
 早く休ませてあげないと。

 そして、タンスから夏用の掛布団を出す。

「じゃあ、もう寝ようか。ベッド、使いなよ」

 そう言ってベッドを軽くたたく。
 ウィンは俺のことをじっと見るとその意味を理解したのか、言葉を返す。

「一緒に、寝た方が──」

「いいや、まさかまさか。俺は床に布団敷いて寝るから」

 あわあわと手を振って床に寝っ転がり、布団をかぶる。

「でも、寝れないんじゃ……」

 切なそうな表情で話すウィン。恐らく、罪悪感を感じているのだろう。
 俺は作り笑いをして言葉を返す。

「大丈夫大丈夫。慣れてるから」

 流石に年頃の女の子と一緒のベッドで寝るわけにはいかない。
 出会ったばかりだし、明らかにそういう年齢じゃないし──。

 もしお楽しみになってしまい、それが周囲に知られてしまったら、俺は「幼い女の子に手を出したロリコン」と評判が街中に広まってしまい、この街にはいられなくなってしまうだろう。


 まあ、ダンジョンでは横になることも出来ず壁を背にして一夜を過ごしていたこともあった。
 それに比べれば、横になれて布団が一枚あるだけましだ。

「だから安心して、今日は布団でゆっくり休んで──」

 笑みを浮かべながらそう言うと、ウィンは納得してくれたのかコクリと頷いた。

「そ、それなんですけど。私、今日──」

「今日?」

 ウィンは何かいいずらいのか、コクリと黙り込んだ。
 そして、しばらくたった後、衝撃的な事を言い放った。

「一緒に寝てくれますか?」

 その言葉に心臓が止まりそうになった。
 待て待て、まずいだろ。

「私、パーティーを首になって、他の人たちからも追い出されて──。誰も頼れる人がいなくて」

 考えてみればそうだ、ウィンはずっと孤独だった。誰も頼れる人がいない。

「もう、一人なのは嫌なんです」

 そう言いながら、自らの体をぎゅっと抱きしめ、体を震わせている。
 細々とした声。

 ──仕方がないか。俺が、理性を総動員して間違いを起こさないようにすればいい。

「わかった。今日は一緒に寝よう」

「……ありがとうございます」

 その瞬間、暗かったウィンの表情に、少しだけ光がともったのを感じた。
 少しでも、ウィンの力になれればなと思う。


 そしてシャワーを浴びて、体を拭いてからベッドへ。就寝の時。明かりを消して、布団の中に2人。

「おやすみなさい」

「……おやすみ」

 そう言って俺に抱き着いてきた。

「待て、ウィン──」

 いくら何でもそれは不用心すぎる。そう言おうとした矢先にウィンに視線を向けると──。


 すぅ……すぅ……。

 すでに夢の中に入ってしまっていた。早いな……。

「でも、それだけつらかったんだろうな」

 ずっと住処もなく街の外で眠っていたのだ。
 体力も気力も、消耗しきっていてボロボロだったのだろう。今日くらいは、甘えさせてあげよう。

 そう思い、俺も瞼を閉じたのだが──。

「寝れるのかな、俺」

 俺に身体を密着させてくるウィンを見ながら、思わずつぶやく。
 ウィンは17歳に似合わないかなり大きい胸を持っている。見た目的に俺の手じゃ掴み切れないくらい。

 そんなたわわな胸を、俺に押し付けてくるのだ。プルンと柔らかい、マシュマロのような感触が俺の胸を包んでいる。

 たまったものではない。こんな状況で、一晩間違いを起こさずに過ごせるのだろうか。


 ──と思ったのだが。
 ウィンの身体から漂ってくる、女の子特有の甘いミルクのようなにおい。
 抱き心地も、天国かと思うくらい柔らかくて、気持ちいい。

 ウィンのボサボサで、明らかに手入れされていない髪を、優しくなでる。
「あ……」とか「いかないで」とか何かを求めるように寝言をつぶやいて、俺を体をぎゅっとつかんでいる。

 目からは、うっすらと涙がこぼれていた。

「辛かったんだろうな……」

 思わずつぶやく。そんな姿を見て、手を出す気にはならず俺もすぐに夢の中に入った。



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