102 / 103
最終章 建国祭編
第102話 元勇者 エミールの願いをかなえる
しおりを挟む
「はぁ……、はぁ……」
下に視線を向けると、エミールが地面に倒れこんでいる。
すでに虫の息。勝負は、決した。
俺は、倒れこんでいるエミールのところに近づいて座り込む。そしてエミールを抱きかかえた。
「すげぇな、俺の負けだ」
「ああ、勝ったのは、俺だったな」
俺はとある事実に気付く。
彼女の肉体が、少しずつ、蒸発するように消滅していっているのだ。
そうか、そういうことか──。
俺は、残酷な事実に気付いてしまった。闇の力には、必ず代償がある。
魔王軍の力は、存在を知られることを防ぐため、敗者の肉体を消滅させるリスクを持っている。
彼女の肉体は、闇の力を使い、消耗しきっていた。そして、戦いに敗れた。
もっとも、エミールはそれを理解して使っている。だから今までのそこらの敵のような醜い命乞いなんてしない。
フッとかわいい微笑を浮かべて、じっと俺を見ている。
「なあ、約束があるんだけどいいか?」
残されたわずかな命で、彼女は最後の頼みを俺に囁いてくる。
「なんだ?」
「俺が死ぬのは構わねぇ。どんな理由があれ、闇の力を使い、無実の人々を傷つけたんだから。けど、故郷にいる生き残った仲間は別だ。あいつらには、俺なんかと誓って幸せに生きる権利がある。約束してくれ、彼らを、守り切るって……。俺みたいに、復讐に取りつかれたりしないって」
かすれたような声での囁き。最後の最後まで故郷のことを思いやるその気持ち。
エミールらしいとつくづく感心する。
俺が上半身が消えた彼女の瞳をじっと見ながら言葉を返す。
「当然だ。そんなことはさせない。約束する。彼らを、守り切ってみせる」
彼女の手を、ぎゅっと握る。女の子らしい、繊細で柔らかい手。
すでに弱った動きと化していたエミールを見ながら俺は悲しい表情になる。
こんな複雑な気持ちは今までなかった。ずっと戦ってきた戦友を失うという、悲しい気持ち。
そしてエミールは、笑みを見せる。
「勝者が悲しい顔をして、どうするんだ。俺がお前なら、涙は見せないぜ」
「本当は、お前だって、救いたかった」
そうだ。エミールの過去を知っている俺だからこそわかる。彼女は、本来こんなことをする奴じゃない。
まっすぐで、正義感のある少女だ。
それが、一部の貴族が彼女の故郷に対してひどい仕打ちをしたせいでこんなことになってしまったのだ。
彼女の罪を消すなんてできない。どんな理由であれ人殺しをし、罪もない人を傷つけたのだから。
しかし、どこかで道が違えばこんなことにはならなかっただろう。傷つける側ではなく、救う側になっていただろう。
そんなことを俺がエミールに告げると、エミールは安心したような笑みを浮かべ始めた。
「そういう所、好きだぜ。けど、それでも、俺に勝ったんだから、ちゃんと胸を張ってくれよ。じゃないと、俺が報われないよ」
「──わかった」
俺も、悲しいながらも笑みを見せ始める。すでに彼女の肉体はほとんど消えている。話せるのは、あと一言くらいだろう。
そして女神のような優しい微笑を見せながら、彼女は振り絞るように最後の言葉をつぶやく。
「じゃあな。その優しさ、この世界の、俺みたいに恵まれないやつのために、分けてくれよ」
そして彼女の肉体は消えていった。
この約束、絶対に守ろう。そして彼女が消滅した瞬間空に存在していた真黒な雲が蒸発するように消滅していき、空は雲一つない晴れ空になった。
晴れた空に視線を向けてつぶやく。
エミール、わかった。お前の約束、絶対叶えてやるからな。
俺の、新しい戦いがこれから始まるんだ。
「陽君!」
その声に俺は後ろを振り向く。ルシフェルとローザ、セフィラだ。
「陽君、あんた、すごいじゃない! 見てたわよ、最後の技。私感動しちゃった」
ルシフェルがウィンクをして話しかけてくる。次にローザだ。彼女はバッとお俺に抱き着いてくる。やめてくれよ……、俺だって体力を消耗しているんだから。
「陽君、すごーい。あんな強い敵に勝っちゃうなんて。でも、信じてたよ。さすがは陽君だね!」
最後にセフィラ、かしこまった態度で話しかけてきた。
「素晴らしかったです。感動しましたよ。陽平さんの戦い」
みんな、俺のことを信じていたんだな。すると……。
フラッ──。
両足から力が抜け、その場に経たりと倒れこんでしまう。あれだけすべてを出して全力を戦ったんだ。それにあの識の術式は全身を集中させなければいけないうえに、魔力や精神力の消耗が激しい。
だから使いすぎて体が限界を迎えてしまったのだろう。
倒れこんだ俺の体、右にローザ、左にルシフェルが肩を貸す形になり俺を起き上がらせる。
二人の体が振れ、一瞬ドキッとしてしまった。
そして俺たちは病院へと向かっていった。
その後俺は貴族たちに懇願した。
エミールの村のことを、守ってほしい。具体的に言うと、俺や信頼できる冒険者が彼らが圧制を受けていないか確認させてほしいということだ。
流石に圧制を強いてきたやつらがさらし首にされた光景は効果があったらしく、全員が首を縦に振ってくれた。
──とりあえず、エミールの約束は果たせそうだ。あんなことがあったけど、やっぱり一緒に戦った戦友との約束は果たしたかったからだ。
これについては、本当に良かった。まあ、すぐにその心を忘れて無実の人を傷つけるようなことがあるかもしれないので、これからも人々の声を聴き続得なければならないのだが。
下に視線を向けると、エミールが地面に倒れこんでいる。
すでに虫の息。勝負は、決した。
俺は、倒れこんでいるエミールのところに近づいて座り込む。そしてエミールを抱きかかえた。
「すげぇな、俺の負けだ」
「ああ、勝ったのは、俺だったな」
俺はとある事実に気付く。
彼女の肉体が、少しずつ、蒸発するように消滅していっているのだ。
そうか、そういうことか──。
俺は、残酷な事実に気付いてしまった。闇の力には、必ず代償がある。
魔王軍の力は、存在を知られることを防ぐため、敗者の肉体を消滅させるリスクを持っている。
彼女の肉体は、闇の力を使い、消耗しきっていた。そして、戦いに敗れた。
もっとも、エミールはそれを理解して使っている。だから今までのそこらの敵のような醜い命乞いなんてしない。
フッとかわいい微笑を浮かべて、じっと俺を見ている。
「なあ、約束があるんだけどいいか?」
残されたわずかな命で、彼女は最後の頼みを俺に囁いてくる。
「なんだ?」
「俺が死ぬのは構わねぇ。どんな理由があれ、闇の力を使い、無実の人々を傷つけたんだから。けど、故郷にいる生き残った仲間は別だ。あいつらには、俺なんかと誓って幸せに生きる権利がある。約束してくれ、彼らを、守り切るって……。俺みたいに、復讐に取りつかれたりしないって」
かすれたような声での囁き。最後の最後まで故郷のことを思いやるその気持ち。
エミールらしいとつくづく感心する。
俺が上半身が消えた彼女の瞳をじっと見ながら言葉を返す。
「当然だ。そんなことはさせない。約束する。彼らを、守り切ってみせる」
彼女の手を、ぎゅっと握る。女の子らしい、繊細で柔らかい手。
すでに弱った動きと化していたエミールを見ながら俺は悲しい表情になる。
こんな複雑な気持ちは今までなかった。ずっと戦ってきた戦友を失うという、悲しい気持ち。
そしてエミールは、笑みを見せる。
「勝者が悲しい顔をして、どうするんだ。俺がお前なら、涙は見せないぜ」
「本当は、お前だって、救いたかった」
そうだ。エミールの過去を知っている俺だからこそわかる。彼女は、本来こんなことをする奴じゃない。
まっすぐで、正義感のある少女だ。
それが、一部の貴族が彼女の故郷に対してひどい仕打ちをしたせいでこんなことになってしまったのだ。
彼女の罪を消すなんてできない。どんな理由であれ人殺しをし、罪もない人を傷つけたのだから。
しかし、どこかで道が違えばこんなことにはならなかっただろう。傷つける側ではなく、救う側になっていただろう。
そんなことを俺がエミールに告げると、エミールは安心したような笑みを浮かべ始めた。
「そういう所、好きだぜ。けど、それでも、俺に勝ったんだから、ちゃんと胸を張ってくれよ。じゃないと、俺が報われないよ」
「──わかった」
俺も、悲しいながらも笑みを見せ始める。すでに彼女の肉体はほとんど消えている。話せるのは、あと一言くらいだろう。
そして女神のような優しい微笑を見せながら、彼女は振り絞るように最後の言葉をつぶやく。
「じゃあな。その優しさ、この世界の、俺みたいに恵まれないやつのために、分けてくれよ」
そして彼女の肉体は消えていった。
この約束、絶対に守ろう。そして彼女が消滅した瞬間空に存在していた真黒な雲が蒸発するように消滅していき、空は雲一つない晴れ空になった。
晴れた空に視線を向けてつぶやく。
エミール、わかった。お前の約束、絶対叶えてやるからな。
俺の、新しい戦いがこれから始まるんだ。
「陽君!」
その声に俺は後ろを振り向く。ルシフェルとローザ、セフィラだ。
「陽君、あんた、すごいじゃない! 見てたわよ、最後の技。私感動しちゃった」
ルシフェルがウィンクをして話しかけてくる。次にローザだ。彼女はバッとお俺に抱き着いてくる。やめてくれよ……、俺だって体力を消耗しているんだから。
「陽君、すごーい。あんな強い敵に勝っちゃうなんて。でも、信じてたよ。さすがは陽君だね!」
最後にセフィラ、かしこまった態度で話しかけてきた。
「素晴らしかったです。感動しましたよ。陽平さんの戦い」
みんな、俺のことを信じていたんだな。すると……。
フラッ──。
両足から力が抜け、その場に経たりと倒れこんでしまう。あれだけすべてを出して全力を戦ったんだ。それにあの識の術式は全身を集中させなければいけないうえに、魔力や精神力の消耗が激しい。
だから使いすぎて体が限界を迎えてしまったのだろう。
倒れこんだ俺の体、右にローザ、左にルシフェルが肩を貸す形になり俺を起き上がらせる。
二人の体が振れ、一瞬ドキッとしてしまった。
そして俺たちは病院へと向かっていった。
その後俺は貴族たちに懇願した。
エミールの村のことを、守ってほしい。具体的に言うと、俺や信頼できる冒険者が彼らが圧制を受けていないか確認させてほしいということだ。
流石に圧制を強いてきたやつらがさらし首にされた光景は効果があったらしく、全員が首を縦に振ってくれた。
──とりあえず、エミールの約束は果たせそうだ。あんなことがあったけど、やっぱり一緒に戦った戦友との約束は果たしたかったからだ。
これについては、本当に良かった。まあ、すぐにその心を忘れて無実の人を傷つけるようなことがあるかもしれないので、これからも人々の声を聴き続得なければならないのだが。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる