【完結】~追放された「元勇者」がゆく2度目の異世界物語~ 素早さ102、600族、Sランクで再び無双するようです

静内燕

文字の大きさ
上 下
99 / 103
最終章 建国祭編

第99話 元勇者 最後の敵と相対する

しおりを挟む
 翌日。

 本来であれば、建国祭り最終日だ。

 国王をはじめとした、身分の高い人がパレードを行い、街は全国から来た人で大盛り上がりになる──。

 はずだった。



 にぎやかなはずの街は、シーンとしている。
 そして今この街にいる国民たちは、かたずをのんで空を見ている。

 無理を言って予定を明日にしてもらったのだ。
 今日は、俺とエミールの決戦の日だからだ。

 地上では、街の人たちが俺の勝利を願って街の空をじっと見ている。
 ある修道院の服を着た人は祈りのポーズをとりながら。ある冒険者の人は一転に視線を集中させながら、誰もがかたずをのんで見守る。
 そして俺はおとといのハスタルとの戦いのときのように、ルシフェルの力を借り、空の上にいる。
 ここなら、彼女のほうも俺を見つけやすいからだ。


 みんなが俺とエミールの戦いを見守っている。真下では、ローザとルシフェルが攻撃が飛んでこないようにシールドを張っている。

「陽君。応援してるよ。負けないで」

「絶対勝ちなさいよ。負けたら、承知しないんだから!」



「陽平さん。私たち、信じてますから」

 セフィラは、剣を握っている。落ちてきた大きい物体を切り落とす役割なのだろう。

 3人が、街のみんなが応援している。絶対に勝たなきゃ。


 そして空に突如灰色の雲が出現し始める。雲は渦巻のようにぐるぐると回り始め、その中心が光始めると、大きな光の柱となり、その中に一人の人物のシルエットが見えてきた。

 それは地上にいる人たちからも認識できるようで──。

「なんだよあれ、見たことねぇぞ!」

「あれが、エミールなんじゃねぇか?」

 時折聞こえる冒険者の叫び声。それは、俺も理解できる。
 その人物から発せられるオーラ。ここまで強い魔力のオーラを発せられるのは、一人しかいない。

「エミール。ずいぶんド派手な登場シーンだな」

「ありがとな。俺の術式じゃ、どうしても派手な出方になっちまうみたいでよ!」

 俺も、エミールもわかっていた。特に言葉を交わす必要はない。戦って、どっちが強いか決める。
 どっちが勝つかでこの世界の命運が決まる。それだけだ。

「そういえば、聞いていないぞ。お前、俺に勝ってどうするつもりなんだ?」

 俺の質問に数秒の間だけ沈黙が起きる。そしてニヤリと笑ってエミールが答えた。

「──わかった。とりあえず、俺が勝ったらどうなるのかを分かりやすく教えてやる」


 そしてエミールがパッと手をかざす。
 するとその場所から3個ほどの物体が出てきた。
 それは宙に浮いていて、エミールが指をはじくと、地上の人たちにも見えるように大きくなった。

 その姿に俺は絶句する。

 エミールが見せびらかしたもの、それは首から上の姿だ。
 この3人、俺は見たことがある。

 視線を要人たちの方向に向ける。王族、貴族たちの顔は見る見るうちに青ざめ、腰を抜かし、恐怖に支配されていく。

 そう、貴族たちの首だ。
 俺はエミールをにらみつけ始め問いかける。

「な、なんでこんなことをした」


「こいつらは貴族たちの中でも特に腐敗がひどく、国民たちをないがしろにしていた奴らだ。そして俺たちの故郷を焼いた張本人でもある」


 確かこいつらはグリモ家。エミールの村を収めている貴族たちで、悪徳貴族だと評判だった奴だ。

「ここに首を持ってきたということは、何か理由があるんだろうな」

「ああ、最初はこいつらを殺して、放っておくつもりだったが。俺のこの世界に対する感情を表現する道具として、利用することにしたんだ」



 なるほどね。確かこいつらはエミールの村を見捨てていた。だから殺した。そしてエミールはそれに対していや、俺たちの世界そのものに対しての怒りを表現しているってことだ。

「大好きだぜ──その恐怖に震え上がった顔。安心しろ。こいつを倒して、この世界に脅威がなくなったらお前たちも同じようにしてやるからよ」

「今回はこいつらだけだったが、次は、だれになるかな?」

 にやりと笑いながら、エミールは周囲を見回す。
 周囲の人たちは、明らかに恐怖に震えていた。当然だ。見せしめの様に人の首を見せしめにしてさらし首にしたのだから。

 悪趣味なことをしている彼女に、俺は問いかける。

「なぜ見せびらかすように人の首を見せつける」

「恐怖で人を縛り付ける。これが1番なんだよ。俺たちに危害を加えるとどうなるか、この国の奴らに見せつけてやっているんだ」

 エミールの行動を、全てを否定しているわけじゃない。
 村を焼かれて、貴族たちに深い怒りを抱いている。それ自体は当たり前だ。彼らだって人々の住処を奪い、殺しているのだから、その報復にあたって文句を言う権利はない。

 散々人々を殺してきたやつらが、そいつに逆に命を奪われそうになって、「それはおかしい」と叫ぶのは俺だって違和感があるからだ。



 世の中、綺麗ごとだけじゃ回らないってのも、この世界で生きて来たからずっとわかる。


 けれど、エミールは感情に任せてしまったせいか、やってはいけないことを犯してしまった。

「お前は、決してやってはならないタブーを犯してしまった」

「そうだな。だからどうした?」

 平然と言い返す彼女。もはや引く気はないというのが態度からもわかる。

「1つは、魔王軍と組んだこと──。この時点で貴様は俺たちの敵になった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...