【完結】~追放された「元勇者」がゆく2度目の異世界物語~ 素早さ102、600族、Sランクで再び無双するようです

静内燕

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最終章 建国祭編

第98話 元仲間 貴族たちに復讐する

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 その夜。

 街が深夜になり、みんなが寝静まったころ。
 雲が出ていて、星空は見えない。
 にぎやかだった日中とは対照的に、静寂な雰囲気が包む中、動き出している人物がいた。

 皆が寝静まった夜、漆黒のローブを羽織り、フードで顔を隠した人物だ。
 人差し指の先を魔法で光らせ、石造り暗い床をコツコツと鳴らして歩を進める。



 ここは上流階級の人たちが戦乱があった際に避難するためのシェルター。
 昼間に魔王軍が奇襲をしてきたと聞いて、とある名門貴族の一家が避難したのだ。

 そして、その人物は道の先にある扉の前へとたどり着く。
 ため息をつきながら扉の先の声を耳を澄まして聞いてみる。

「父さん、どうしてこんなところにいなきゃいけないんだよ。なんであんな奴らが攻めてくるんだよ」

「仕方ないだろ、国王も元勇者も使えないんだから。まあ、このシェルターがある限り俺たちは安泰」

「まあいい、元勇者が退治してくれるんだろ。それより女と女はどうだ、なんてたって建国祭だ。地方のいい女と酒があるはずだろ」

「へへっ、それはご安心を。最近は魔王軍の襲来により、仕事も身寄りも失った奴が出ています。そいつらの中にかわいい女がいまして、スカウトしてきました」

「おおっ、でかしたぞ。明日は久しぶりにお楽しみだな。褒美に貴様にも1人くれてやろう」

「それはありがたい。では、楽しみにさせてもらうぞ。だから早く出よう」

「だが、安全かどうかはわからん。例えば、強力な冒険者が護衛についてくれればいいのだが──」

 髭の濃い老年の家長グルワ、そして彼が連れてきた二人の息子。
 両方とも目つきが悪く、悪趣味でド派手な服を着ている。

 会話をしているのは、この王国の名門貴族のうちの一つグリモ家であった。
 彼らの評判は、控えめに言って最悪。

 国民たちが魔王軍の脅威にさらされている中、そんなことはお構いなしに話すことといえば酒と女。
 貧しい国民から重い税金を取り立てては、女を囲い、酒におぼれている最悪な評判。

 こいつらにとって国民とは自分たちの生活を肥えさせる道具としか思っていない。
 魔王軍の危機が迫る中、のんきにそんなことを話していると、裁きの時間は訪れた。

「本当に、お前たちは人間の屑だな」

 タッ──。

「だ、誰だ貴様」

 入口の方から声がした。貴族たちはするはずがない声に全員がその方向を向く。
 一番若い貴族の物がその人物の前に詰め寄った。

「何様のつもりだ。ここに一般人の貴様がのこのこと入っていいと思っているのか」

「やめろ、ブロン。そいつを刺激するな」

 突っかかろうとした息子の肩をグルワがつかみ、止める。

 十代くらいの年齢で、甘やかされて育った彼には理解できないのだ。その人物が持っている殺意や力というものが。

 そこには漆黒のローブを纏った人物。そして彼がフードを取り、その顔を見せる。

「なんだ、エミールか。何の用だ」

 フードの人物はエミール。家長は彼女をしていた。エミールは彼の領地の民で、彼女を冷遇してきたのが彼だっただから。

「エミール。こんな時だが、頼みがある。わしたちを助けてくれんか」

「──よく言うよ」

 エミールは無表情でグルワを見つめながら言葉を返す。当然だ。彼女のふるさとの村が消滅した原因が彼なのだから。

 彼女にとっては彼は最大の敵。しかし、だからといってグルワも引かなかった。

「村を消したのはすまなかった。だから約束してやる、私をこの街から助けてくれたら貴様の村を復活してやってもいい。生き残った住民たちは特別階級としてもてなしてやろう。俺の言葉が信用できないというのなら、息子を人質にとってもいい。だからここは矛を沈めて私たちを助けてくれないか」

 この期に及んで村を助けるという約束。口から出まかせという可能性があるが、エミールはそうは考えなかった。身を考えれば、自分のような存在と対立し、戦い続けるより特権階級の身分を与え、懐柔したほうが楽だからだ。

 特権階級が増えていくとしても、その分はほかの国民から税金という形で撮り絞ればいい。別にグルワの懐が痛むわけではない、だから助かりたいがためにこんなことを口にしたのだ。

 エミールの口元が三日月上にゆがむ。

「な、なるほどな──。悪くない案だ」

「いよ、よっしゃー」

 息子の一人が思わず声を出し、もう一人が安どの息をつく。
 それから静かな笑みを浮かべ、グルワがエミールに接近した。

「さすがはエミール。ただ感情に憑りつかれたサルではないな」

 にやりと笑い、彼は便を尽くす。気が変わられたら困る。彼女の強さを知っている彼は、早く脱出しようと彼女をせかした。

 そして──。

 ズバァァァァァァァァァッ──グシャッ、グシャッ!

「グハッ……、ぐがぁぁ、ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 エミールは右手を挙げ、地震の槍を出現させる。突然領主の前に、彼の鮮血が飛び散った。
 あまりの痛みに、叫びながら床をのたうち回るグルワと、それを恐怖にゆがんだ顔で父親を視線で追う2人の息子。

「おいおい静かにしろよ。夜だぞ。ほかの人たちが寝られないだろう?」

「エミール、なぜ貴様が我らを襲う。」

 2人の息子が、恐怖におびえながらエミールに問いただす。
 エミール、その表情に怒りも驚きもなく、穏やかとも呼べる表情でただ2人を見つめる。

 グシャッ──、グシャグシャッ──ズバッ!

「ゲホゲホッ」


 そして、そのやりは2人の肉体を串刺しにする。
 血反吐を吐き散らし、苦しみもがき倒れこむ2人。目をカッと見開き、悪魔のような笑みを見せた。

「もう、貴様たちの言葉など1文字も信用しない。俺が貴様たちに要求するものなどただ一つしかない。苦しみももがき、のたうち回りながら死ね!」

「ガハッ……。グホッ……、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 そして目をカッと見開き、悪魔のような笑いを見せる。

「気持ちよくて仕方ないぜ。お前たちがのたうち回る姿を見るのはよ! お前たちがもうすぐで死ぬってのはよぉ。」

 さらにエミールは、見ているだけでは飽き足らずに彼らを槍でなぶり始めた。虫の息になっても、かまわず、彼らによって犠牲になった人たちの分まで。



「じゃあな、地獄で、おらの仲間たちにたっぷり詫びてもらうぜ!」

 憎しみの言葉を続けるローブの下で、彼らはすでに事切れていた。

「これで復讐は済んだ。あとは、元勇者だけだ」

 そしてエミールは元来た道をもどっていく。
 かつてともに戦った友、そしてこの国を滅ぼすための最後の障壁を、粉々に破壊するために。
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