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最終章 建国祭編
第79話 元勇者 再び国王の元へ
しおりを挟む俺たちはパトラさんとの仕事を終えて、王都に帰還。
その日は長旅の疲労からか、ホテルに着いたとたんベッドに横になり眠り込んでしまう。
そして翌日、ギルドへと出向く。
受付へ。 金髪で腰までかかったロングヘアに上品な顔つきフィーナさんがそこにいた。
「おかえりなさい、陽平さん。長旅の方ご苦労様です」
「いえいえ。疲れはしましたが、楽しいこともありましたよ」
すると、フィーナさんがポケットから1枚の封筒を取り出し、俺に渡してくる。
「それで、お疲れのところ申し訳ありませんが、先日国王様から陽平さんがここに来たら渡してほしいと頼まれまして──」
その言葉を聞いて俺はその封筒を受け取る。またあいつかよ。自分の名誉のために人様を追放しておいて、今度は俺を頼ってくるだと? どんだけ都合がいい頭の構造をしているんだこいつは。
封筒を片手に取り、悩んでいると、ルシフェルが助言してきた。
「行ってみたら? どうせあなたの力が必要な事に変わりはないんだし。やることなんてないんだし」
「まあ、断る理由は無いけどよ……」
腑に落ちない気持ちを抱えながら俺は首を縦に振る。
そしてどこか煮え切らない態度でフィーナさんにその意思を告げた。
「わかりました。国王の所に行って、話してきます」
「──ありがとうございます」
フィーナさんのがどこか表情を引きつらせながら頭を下げる。やっぱり、国王のこと、不信に思っているんだな。
そして俺たちは街並みを歩き、宮殿へ。
門番の兵士に詰め寄られるが、俺は国王からの手紙を彼らに見せる。
手紙には国王自筆のサインが書いてあり、それを見た兵士が「わかりました」と言って通してくれた。
それから、宮殿に入る。赤絨毯の道を進み、階段を上がり、王室の前へ。
先日国王の所へ行った時とは違うこと。それは3人で行くということだ。だから口論になってもルシフェルとローザが援護してくれる可能性が高い。
追放される心配はない。
「じゃあ行くわよ」
そしてルシフェルが入り口のドアが開く。
さあ、まいっているのは何なのか。
ドアを開けると、窓の外から王都を眺めている国王の姿があった。
「お久しぶりです国王様。私達を呼び出したのは、どのようなご用件で?」
国王はマグカップに入っているコーヒーを一口飲むとこっちを振り向く。
「そうだな、元勇者よ。理解しているな、この後行われる建国祭の事」
「ええ」
「建国祭についてだが、たくさんの人が来ることも予想される。同時にそれに合わせて要人を狙うやつらもたくさん混じっていると予想している」
「つまり、その敵から俺を守ってくれということですか?」
その言葉に俺はあきれ果てる
こいつ、物忘れが激しい性格なのか? この世界のために死に物狂いで戦ってきた俺を追放してきて、今更守ってくれだと? 図々しいにもほどがあるぞ。開き直りだけは世界一だなこいつは。悪人? 自己紹介でもしているのか。
「私ではない。街を守ってほしいということだ」
「街? 街の警護をしてほしいということですか。それならわざわざ呼び出さなくとも、ギルドに依頼すればいいだけのことでしょう」
俺が顔を引きつらせていると、さらに話を進める。
「──最近になって、周囲の貴族たちが魔王軍とひそかに接近しているという話がある。そこまで魔王軍は迫っている。それを直接言いたかった」
「ど、どういうことです?」
その言葉にローザが反応する。
「つまり、いつも以上に警戒しないと国民に多大な被害が出てしまうということだ」
なるほどな。ただギルドで頼んだだけじゃ、どうしても警戒感が緩みがちになってしまう。直接呼び出したのは、それくらい危機感を持ってほしいということだ。
「勘違いするな、貴様を味方にしたわけではないし。味方になってくれるとも思ってもいない」
また変な言い回し。言いたいことがあるんならストレートに言えよこの野郎。
「だが貴様は信用できる。この国ではありえないくらい高い倫理観を持っていて、欲望や権力欲のために罪もないものを裏切ったり傷つけたりしない」
「つまり一般の兵士や冒険者では敵のスパイが紛れ込んでいたり裏金つかまされて寝返ったりした経験があり信用できない。そのせいで身の危機を感じたり周囲が危険な目にあわされたりした。まあ、そんなところだろうよ。違うか?」
すると国王はコーヒーを飲み干し窓の外に視線を向ける。まあ図星なんだろう。
「さて。貴様が元の世界に帰ってから3年、建国祭はろくなことに合わなかった」
(お前が強制的に返したの間違いだろ……)
そりゃそうだ、建国祭は国を挙げてのイベント。何か起きれば当然その内容は全国に伝わるためいつも以上になのも起こらないように警備に気を引き締めなければならない。
だから俺だって目立たないけど無事に終わらせるためにいろいろ動いていた。いろいろな人から情報をかき集めて怪しい動きをしている集団が無いか聞きまわったり、建国祭の間は寝る間を惜しんで夜遅くまで人気が無いところなどを見回りしたりしていた。
確か1回兵士達が大量に魔王軍に寝返っていた時があったんだ。
「さすがにこのような事態を毎年の恒例にするわけにはいかない。そこで貴様達に警備を頼みたい。当然報酬は弾む。国民たちを守るために、協力をお願いしたい」
国民のためか。仕方がないな──。
「わかりましたよ。協力すればいいんでしょ。すれば」
そう言うと国王は安心して窓の外の城下町に視線を置く。こんなやつでも、国民のことを考えているということか。
するとルシフェルがやれやれというポーズをし始めた。
「まあ、それが陽君よね。予想はできていたわ」
「そうそう。私もそう思っていたよ!」
「ありがとな、ローザ……」
そして国王が最後の言葉をかける。
「共通の敵がいる。だから手を組んだ、敵の敵は味方。それ以上でもそれ以下でもない、かつて俺達が魔王という共通の敵の前に手を組んだ時のようにな──」
プライドが高そうな物言いだな。ま、俺もこいつを心から信用なんてできない。今年も大変な建国祭になりそうだ。
そして俺たちは警備の契約を国王と結ぶ。
「とりあえず、契約書に不備はないわね」
ルシフェルも契約書をよく見て、トラップがないことを確認。報奨金も、十分にある。
「了解しました。では、これで帰らせていただきますよ」
そして俺たちは王室を出る。大変な建国祭になりそうだなあ。
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