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元勇者 再び異世界へ
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「ふざけるな、俺がこの世界を守るためどれだけ尽くしたと思っているんだ。なぜ追放されなけれなきゃいけないんだ!!」
俺は目の前にいる人物に、今まで感じた事のないような怒りをぶつけながら叫ぶ。
「すまんな勇者後藤陽平。残酷だがこれも必要なのだ。この世界のために尽くしてくれてありがとう。礼を言うぞ」
目の前にいる長身で、豪華な衣装をまとった男が囁く。感情の起伏のない平坦な口調。
そして俺の足元にある魔法陣が光り出す。
「お前だけは絶対に許さない!! ぶっ殺しても、ぶっ殺しても、ぶっ殺しても!!」
そう叫びながら俺の体は少しずつ消滅していく。考えた事もなかった。俺がこの世界で死線をさまよい敵と戦っている時、争いが起きぬよう必死でみんなを説得している時、こんな最後をこの異世界で迎えるなど──。
「夢か……」
俺は頭を上げ周囲を見回す。そこは通っている大学の講義の部屋。講師の人は演台で資料を片付け帰る支度をしている。周囲を見回すと、学生たちが友達としゃべりながら、この部屋を出ていく様子が視界に入る。
「講義、終わってるみたいだな──」
俺はだるそうに机の上に突っ伏して囁く。
退屈だった講義が終わり帰りの時間。駅へ行くバスは今、帰る学生で混雑しているから図書館で時間を潰してから帰ろうか……
しかしここであの時のトラウマを見ることになるとは──。
ある意味どんな夢より悪夢だ。
先ほど俺が見たトラウマは幻でも何でもない。俺、後藤陽平がこの前経験した事実だ。
実は俺はこの前まで、ファンタジー世界に自分が転移する通称異世界転移にあい3年ほど勇者として別の世界にいたのだ。
これは俺が妄想癖があるとかではない。真実だ。
今も記憶に残っている、3年前くらいの高校生の時。俺は平凡な少年だった。しかし夜寝ていると突然真っ暗な空間に移動し女神が現れ俺に別世界で勇者として活躍してほしいと迫られた。
ギルドで冒険者と出会っていろいろな人と出会った。猫耳やウサ耳を付けた亜人、ぶっきらぼうだが情に厚い冒険者仲間。
そして彼らとともにこの世界を侵略してきた魔王軍と必死に戦ったのだ。
確かに楽な事ばかりではなかった、彼らの世界にだって俺達の世界のような対立構造はある。仲間割れを起こしかけた事もあった、しかし最終的には一致団結して戦い、見事魔王軍を撃破し世界は一瞬だけ平和になった。
(ハァ──)
そしてその後の展開を思い出し思わずため息をつく俺。
あの頃の俺は純粋だった。人々に尽くせばそれだけ行ったことが自分に帰ってくると信じていた。
しかし現実は残酷だ。
魔王軍という共通の敵を失って以降自分以外に権威を持たせたくない国王から疎まれはじめた。
お前がいると貴族や冒険者が俺に従ってくれなくなる、だってよ。
そして立場を徐々に失っていきさっきの夢の通り国王からのわずかな手土産を手に、現代へ返されたのだった。
一応配慮があり、この世界に返してもらったのは転移した次の日ということにしてもらったが……。
世界を救った勇者に対してこの仕打ちかよ──。
女神も俺が魔王を倒した後、祝福の言葉を送っていこう全く現れない。
まあ、もう彼らと会う事はないし愚痴を言ったところでどうにもならない。いい勉強になったと考えよう。
俺はゆっくりと席をたつ。そしてカバンを手に取り図書館に足を運ぼうとしたその時……。
(ん……?)
つんつんと誰かが俺の肩をたたく。俺はその感触に反応し後ろを向いた。
その姿に俺は驚愕し言葉を失い、目を丸くする。
「ルシフェル──、何でここにいる??」
「久しぶりね。元勇者さん元勇者さん──」
彼女はにっこりと手を振って話す。発想にない、予想もつかなかった出来事に俺は言葉を失う。
身長は165cmくらい、上品な顔立ちで肩までかかったセミロングの髪、忘れもしない。俺は一端落ち着きを取り戻し彼女に言葉を返す。
「まさか元魔王と大学のキャンパスで顔を合わせる事になるとはね」
にっこりと笑っていて一件可愛い系の女性である、が簡単に言うとこいつの正体は魔王である。
向こうのファンタジー世界では、魔王軍の最高指導者として魔物たちや既存の体勢から見捨てられた人種などをまとめあげ、人類に立ち向かって来た。
最後の戦いでは互いに命を懸けボロボロになりながら死力を尽くして戦った。そして仲間たちの力も借り、ギリギリの戦いを制し紙一重で俺は勝利した事は強く思い出に残っている。
「どうした? 逆恨みにでも来たのか、それとも地位も名誉も失った俺を笑いに来たのか? 俺をこの世界では俺は魔法は使えない。じっくりコトコト煮込むなり荒挽きハンバーグにするなり好きにしろ」
皮肉混じりでそっけなく言葉を返す。当然だ、魔王と勇者、仲良く会話をするような間柄ではない。ましてや仲良くキャンパスライフなんて向こうの世界の奴らに知れたら晒し首になってもおかしくない。
おまけに今の魔法を使えない状態では彼女が襲ってきたら勝負にならない。一瞬で俺の体が素粒子レベルまで破壊し尽くされ消滅してしまう。
そんな俺の冷めた態度とは対照的に、彼女は微笑を浮かべ軽快なステップで俺の隣に立つ。まるでラノベの幼馴染キャラのように──。
そしてぎゅっと俺の肩をつかむ。
「お久しぶり、元気にしてた?」
「なんだよ、用があるなら手短に言え」
俺が冷めた態度をとってもルシフェルはにっこりとしている。そしてウィンクをして言葉を進めた。
「ちょっと2人っきりで話がしたいわ。いいかしら?」
「わかったよ──」
感情が無く素っ気ない返事。ルシフェルが強引に俺の手をつかむそして俺を講義室から連れ出していった。
講義室の外、ルシフェルは立ち止まり俺の手を離す。
「あなたが去った後の向こうの世界。興味無いの?」
「まあ、想像はつく。ろくなことになっていないだろうな」
そしてルシフェルは俺がいなくなった世界の惨状を淡々と語り始めた。
勇者というカリスマを失った向こうの世界、それは勇者が来る前の世界に戻っただけだった。魔王軍という共通の敵を失い仲間割れ。
国王や貴族達は国民の事など晩御飯のおかず以下の関心になり、国民そっちのけで政争争い。
冒険者達も勇者という絶対的な存在がいなくなり、地方や亜人ごとに派閥のような物を形成し争い合う関係になる。
また、亜人たちに対して不当に差別する様な政策を取り始め、弾圧する冒険者と彼らに立ち向かうレジスタンスで悲惨な内戦が各地で繰り広げられるようになった。
街にはスラム街が広がり、親を失ったストリートチルドレンが街に出現し始め悲惨な状況になったらしい。
俺は予想通りの展開にあきれ果てる。ラノベやアニメであれば魔王軍を倒せば物語は終わり。皆が幸せになったと一言書いてエンディングになる。
しかし現実は違う。彼らの生活はこれからも続く。そして強大な敵という団結する理由もなくなった今、彼らを団結させる理由はない。
「まあ、あっちは自分の意思で俺を追いだしたんだ。別に俺がどうこう言う事じゃないだろ」
そうだ、どんな理由があっても俺を追い出したのは奴らだ。自分たちで選択した判断。俺がどうこう言うことではない。
「ねえ」
「何だ?」
「もう一度あの世界で勇者になってみないと思ってる系?」
ルシフェルの言葉に俺はあきれ果てため息をつく。腰に手を当てながら冷めきった態度で言葉を返した。
「思わない系。というか、今までの俺の発言の中にそういう感情がどこにあると思っていたんだ?」
「けどこの世界にいたらあなた有名人になる事なんてないでしょ。一生平民として過ごすよりはいいと思わない?」
「そりゃ認められるのが悪いというわけじゃない。けど何度も死線をさまようような戦いをしたにもかかわらず権力者のいいように使われ用がすんだらポイ捨て。何でそんな事しなくちゃいけないんだ? 俺を聖人か何かと勘違いしているんじゃないのか?」
俺の心の底からの本音だ。
平和を作るにはただ悪い奴を倒せばいいというだけではない。欲と煩悩にまみれた彼らをうまくまとめなければいけないんだぞ?
第一俺が地方の貴族やギルドの権力者を説得するのにどれだけ苦労したと思ってる?
まず亜人や人間、生まれた土地も考えも違う冒険者達を一致団結させるのだって相当の苦労があった。それだけじゃない。貴族や権力者に弾圧されている人たちが魔王軍に寝返らないよう彼らへの配慮、弾圧をやめさせるための懇願。
歴史的に対立している亜人達をまとめるために何度も悩んだ。
もう一生分は頭を下げた。頭を下げ過ぎて頭が地面にのめり込むくらいに──。
その結果平和が訪れた後になって、その事を蒸し返され貴族達からも疎まれることになってしまった。
こんな皮肉、笑い話もいいところだ。
「俺だって人の役には立ちたいし、人のために戦って役に立ったと感じた時は元の世界では味わえないような喜びを感じた」
「やっぱり、それでこそゆう──」
「だが俺だって聖人ではない、何で俺をののしり罵詈雑言を吐き散らす奴らのために命をかけて戦わなきゃいけないんだ」
ルシフェルの言葉を遮りながら言い放つ。申し訳ないがそれが本音だ。
「私だってそうよ、けど見捨てられないわ。私の元配下だって内戦で被害を受けているもの」
やはりそうなのか。魔王のこいつを倒した後、俺は魔王軍の残党に過去の罪を咎めないから降伏するようにと必死に呼びかけた。
彼らの大半は少数民族の亜人などで自分たちを大国からの弾圧から身を守るために魔王軍を頼ったというところが大きい。つまり治安が良くなり平和が保証されれば敵ではなくなるということだった。
そして魔王という後ろ盾がいなくなり、再び弾圧を受けているのだろう。
「あんたがかつて共に戦った仲間だって、今あなたがいない穴を必死に埋めようとしているのよ」
「……そうか」
「それに私もお忍びであの世界に偵察に行って、声を聞いて口々にしているわ。あんたがいてくれればこんなことにはならなかった。時折聞くわ、勇者様なら何とかしてくれるって。彼が帰ってくればきっと平和を取り戻してくれるって。みんなあなたの帰還を待っているのよ」
俺が覚めた態度をとってもルシフェルは必死に食いついてくる。
こいつは確か魔王として人を引き付ける力もあり、どうすれば人が動いてくれるかも、熟知している。
そしてその言葉をきいてガクッと肩を落としため息をつく。俺は甘い奴だ。
「わかったよ、行けばいいんだろ」
「わぁ、ありがとう。私、信じていたわ、それでこそ勇者さんだわ」
その言葉にルシフェルははっと手を合わせてにっこりと笑う。どこかわざとらしい態度、こうやって人を乗せるのがうまいんだろうな、こいつは。
「じゃあ善は急げ、早速行きましょう。作戦は考えているわ、大人しく私の指示に従ってほしいの」
そう言ってルシフェルは俺の服の裾をつかみ移動する。移動したのはキャンパスの裏側、人気はない、いてもカップルがいちゃいちゃしているくらいにしか認識しないだろう。
「じゃあ、異世界に行くわよ」
「……もういくのかよ」
「うん、あなたの気が変わらないうちにね──。ちなみに異世界から返す時はこの時間に設定してあるわ」
そしてルシフェルは周囲に人がいないのを確認。再びピッと指をはじく、すると──。
シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。
俺とルシフェルの姿が光の粒子のようになって消えていく。二度目の異世界転移、今度はハッピーエンドにしよう。
そして元勇者と元魔王の壮大な物語が始まる。
俺は目の前にいる人物に、今まで感じた事のないような怒りをぶつけながら叫ぶ。
「すまんな勇者後藤陽平。残酷だがこれも必要なのだ。この世界のために尽くしてくれてありがとう。礼を言うぞ」
目の前にいる長身で、豪華な衣装をまとった男が囁く。感情の起伏のない平坦な口調。
そして俺の足元にある魔法陣が光り出す。
「お前だけは絶対に許さない!! ぶっ殺しても、ぶっ殺しても、ぶっ殺しても!!」
そう叫びながら俺の体は少しずつ消滅していく。考えた事もなかった。俺がこの世界で死線をさまよい敵と戦っている時、争いが起きぬよう必死でみんなを説得している時、こんな最後をこの異世界で迎えるなど──。
「夢か……」
俺は頭を上げ周囲を見回す。そこは通っている大学の講義の部屋。講師の人は演台で資料を片付け帰る支度をしている。周囲を見回すと、学生たちが友達としゃべりながら、この部屋を出ていく様子が視界に入る。
「講義、終わってるみたいだな──」
俺はだるそうに机の上に突っ伏して囁く。
退屈だった講義が終わり帰りの時間。駅へ行くバスは今、帰る学生で混雑しているから図書館で時間を潰してから帰ろうか……
しかしここであの時のトラウマを見ることになるとは──。
ある意味どんな夢より悪夢だ。
先ほど俺が見たトラウマは幻でも何でもない。俺、後藤陽平がこの前経験した事実だ。
実は俺はこの前まで、ファンタジー世界に自分が転移する通称異世界転移にあい3年ほど勇者として別の世界にいたのだ。
これは俺が妄想癖があるとかではない。真実だ。
今も記憶に残っている、3年前くらいの高校生の時。俺は平凡な少年だった。しかし夜寝ていると突然真っ暗な空間に移動し女神が現れ俺に別世界で勇者として活躍してほしいと迫られた。
ギルドで冒険者と出会っていろいろな人と出会った。猫耳やウサ耳を付けた亜人、ぶっきらぼうだが情に厚い冒険者仲間。
そして彼らとともにこの世界を侵略してきた魔王軍と必死に戦ったのだ。
確かに楽な事ばかりではなかった、彼らの世界にだって俺達の世界のような対立構造はある。仲間割れを起こしかけた事もあった、しかし最終的には一致団結して戦い、見事魔王軍を撃破し世界は一瞬だけ平和になった。
(ハァ──)
そしてその後の展開を思い出し思わずため息をつく俺。
あの頃の俺は純粋だった。人々に尽くせばそれだけ行ったことが自分に帰ってくると信じていた。
しかし現実は残酷だ。
魔王軍という共通の敵を失って以降自分以外に権威を持たせたくない国王から疎まれはじめた。
お前がいると貴族や冒険者が俺に従ってくれなくなる、だってよ。
そして立場を徐々に失っていきさっきの夢の通り国王からのわずかな手土産を手に、現代へ返されたのだった。
一応配慮があり、この世界に返してもらったのは転移した次の日ということにしてもらったが……。
世界を救った勇者に対してこの仕打ちかよ──。
女神も俺が魔王を倒した後、祝福の言葉を送っていこう全く現れない。
まあ、もう彼らと会う事はないし愚痴を言ったところでどうにもならない。いい勉強になったと考えよう。
俺はゆっくりと席をたつ。そしてカバンを手に取り図書館に足を運ぼうとしたその時……。
(ん……?)
つんつんと誰かが俺の肩をたたく。俺はその感触に反応し後ろを向いた。
その姿に俺は驚愕し言葉を失い、目を丸くする。
「ルシフェル──、何でここにいる??」
「久しぶりね。元勇者さん元勇者さん──」
彼女はにっこりと手を振って話す。発想にない、予想もつかなかった出来事に俺は言葉を失う。
身長は165cmくらい、上品な顔立ちで肩までかかったセミロングの髪、忘れもしない。俺は一端落ち着きを取り戻し彼女に言葉を返す。
「まさか元魔王と大学のキャンパスで顔を合わせる事になるとはね」
にっこりと笑っていて一件可愛い系の女性である、が簡単に言うとこいつの正体は魔王である。
向こうのファンタジー世界では、魔王軍の最高指導者として魔物たちや既存の体勢から見捨てられた人種などをまとめあげ、人類に立ち向かって来た。
最後の戦いでは互いに命を懸けボロボロになりながら死力を尽くして戦った。そして仲間たちの力も借り、ギリギリの戦いを制し紙一重で俺は勝利した事は強く思い出に残っている。
「どうした? 逆恨みにでも来たのか、それとも地位も名誉も失った俺を笑いに来たのか? 俺をこの世界では俺は魔法は使えない。じっくりコトコト煮込むなり荒挽きハンバーグにするなり好きにしろ」
皮肉混じりでそっけなく言葉を返す。当然だ、魔王と勇者、仲良く会話をするような間柄ではない。ましてや仲良くキャンパスライフなんて向こうの世界の奴らに知れたら晒し首になってもおかしくない。
おまけに今の魔法を使えない状態では彼女が襲ってきたら勝負にならない。一瞬で俺の体が素粒子レベルまで破壊し尽くされ消滅してしまう。
そんな俺の冷めた態度とは対照的に、彼女は微笑を浮かべ軽快なステップで俺の隣に立つ。まるでラノベの幼馴染キャラのように──。
そしてぎゅっと俺の肩をつかむ。
「お久しぶり、元気にしてた?」
「なんだよ、用があるなら手短に言え」
俺が冷めた態度をとってもルシフェルはにっこりとしている。そしてウィンクをして言葉を進めた。
「ちょっと2人っきりで話がしたいわ。いいかしら?」
「わかったよ──」
感情が無く素っ気ない返事。ルシフェルが強引に俺の手をつかむそして俺を講義室から連れ出していった。
講義室の外、ルシフェルは立ち止まり俺の手を離す。
「あなたが去った後の向こうの世界。興味無いの?」
「まあ、想像はつく。ろくなことになっていないだろうな」
そしてルシフェルは俺がいなくなった世界の惨状を淡々と語り始めた。
勇者というカリスマを失った向こうの世界、それは勇者が来る前の世界に戻っただけだった。魔王軍という共通の敵を失い仲間割れ。
国王や貴族達は国民の事など晩御飯のおかず以下の関心になり、国民そっちのけで政争争い。
冒険者達も勇者という絶対的な存在がいなくなり、地方や亜人ごとに派閥のような物を形成し争い合う関係になる。
また、亜人たちに対して不当に差別する様な政策を取り始め、弾圧する冒険者と彼らに立ち向かうレジスタンスで悲惨な内戦が各地で繰り広げられるようになった。
街にはスラム街が広がり、親を失ったストリートチルドレンが街に出現し始め悲惨な状況になったらしい。
俺は予想通りの展開にあきれ果てる。ラノベやアニメであれば魔王軍を倒せば物語は終わり。皆が幸せになったと一言書いてエンディングになる。
しかし現実は違う。彼らの生活はこれからも続く。そして強大な敵という団結する理由もなくなった今、彼らを団結させる理由はない。
「まあ、あっちは自分の意思で俺を追いだしたんだ。別に俺がどうこう言う事じゃないだろ」
そうだ、どんな理由があっても俺を追い出したのは奴らだ。自分たちで選択した判断。俺がどうこう言うことではない。
「ねえ」
「何だ?」
「もう一度あの世界で勇者になってみないと思ってる系?」
ルシフェルの言葉に俺はあきれ果てため息をつく。腰に手を当てながら冷めきった態度で言葉を返した。
「思わない系。というか、今までの俺の発言の中にそういう感情がどこにあると思っていたんだ?」
「けどこの世界にいたらあなた有名人になる事なんてないでしょ。一生平民として過ごすよりはいいと思わない?」
「そりゃ認められるのが悪いというわけじゃない。けど何度も死線をさまようような戦いをしたにもかかわらず権力者のいいように使われ用がすんだらポイ捨て。何でそんな事しなくちゃいけないんだ? 俺を聖人か何かと勘違いしているんじゃないのか?」
俺の心の底からの本音だ。
平和を作るにはただ悪い奴を倒せばいいというだけではない。欲と煩悩にまみれた彼らをうまくまとめなければいけないんだぞ?
第一俺が地方の貴族やギルドの権力者を説得するのにどれだけ苦労したと思ってる?
まず亜人や人間、生まれた土地も考えも違う冒険者達を一致団結させるのだって相当の苦労があった。それだけじゃない。貴族や権力者に弾圧されている人たちが魔王軍に寝返らないよう彼らへの配慮、弾圧をやめさせるための懇願。
歴史的に対立している亜人達をまとめるために何度も悩んだ。
もう一生分は頭を下げた。頭を下げ過ぎて頭が地面にのめり込むくらいに──。
その結果平和が訪れた後になって、その事を蒸し返され貴族達からも疎まれることになってしまった。
こんな皮肉、笑い話もいいところだ。
「俺だって人の役には立ちたいし、人のために戦って役に立ったと感じた時は元の世界では味わえないような喜びを感じた」
「やっぱり、それでこそゆう──」
「だが俺だって聖人ではない、何で俺をののしり罵詈雑言を吐き散らす奴らのために命をかけて戦わなきゃいけないんだ」
ルシフェルの言葉を遮りながら言い放つ。申し訳ないがそれが本音だ。
「私だってそうよ、けど見捨てられないわ。私の元配下だって内戦で被害を受けているもの」
やはりそうなのか。魔王のこいつを倒した後、俺は魔王軍の残党に過去の罪を咎めないから降伏するようにと必死に呼びかけた。
彼らの大半は少数民族の亜人などで自分たちを大国からの弾圧から身を守るために魔王軍を頼ったというところが大きい。つまり治安が良くなり平和が保証されれば敵ではなくなるということだった。
そして魔王という後ろ盾がいなくなり、再び弾圧を受けているのだろう。
「あんたがかつて共に戦った仲間だって、今あなたがいない穴を必死に埋めようとしているのよ」
「……そうか」
「それに私もお忍びであの世界に偵察に行って、声を聞いて口々にしているわ。あんたがいてくれればこんなことにはならなかった。時折聞くわ、勇者様なら何とかしてくれるって。彼が帰ってくればきっと平和を取り戻してくれるって。みんなあなたの帰還を待っているのよ」
俺が覚めた態度をとってもルシフェルは必死に食いついてくる。
こいつは確か魔王として人を引き付ける力もあり、どうすれば人が動いてくれるかも、熟知している。
そしてその言葉をきいてガクッと肩を落としため息をつく。俺は甘い奴だ。
「わかったよ、行けばいいんだろ」
「わぁ、ありがとう。私、信じていたわ、それでこそ勇者さんだわ」
その言葉にルシフェルははっと手を合わせてにっこりと笑う。どこかわざとらしい態度、こうやって人を乗せるのがうまいんだろうな、こいつは。
「じゃあ善は急げ、早速行きましょう。作戦は考えているわ、大人しく私の指示に従ってほしいの」
そう言ってルシフェルは俺の服の裾をつかみ移動する。移動したのはキャンパスの裏側、人気はない、いてもカップルがいちゃいちゃしているくらいにしか認識しないだろう。
「じゃあ、異世界に行くわよ」
「……もういくのかよ」
「うん、あなたの気が変わらないうちにね──。ちなみに異世界から返す時はこの時間に設定してあるわ」
そしてルシフェルは周囲に人がいないのを確認。再びピッと指をはじく、すると──。
シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。
俺とルシフェルの姿が光の粒子のようになって消えていく。二度目の異世界転移、今度はハッピーエンドにしよう。
そして元勇者と元魔王の壮大な物語が始まる。
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